インターネットの神様
悪夢の続き-悪意の増幅回路
(このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)
「僕、インターネットはもっといいものだと思っていました。」
Dさんがぽつりと言った。ログの解析は三日目になり、ツールを使ってもなかなか進まず、A課長とB部長は北京に出張し、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)室には疲れた雰囲気が漂っていた。
「誰もが自由に情報発信できて、世界の人々と自由にコミュニケーションできて、誰ともつながる平和な世界ができるんだと思っていました。」
「だけど実際いま僕たちがしているのは、インターネットの向こうにある悪意や攻撃を前提とした仕事で、それは実際に悪意も攻撃もあるから仕方がないんだけど。」
「きれいな花壇を前にして、その花の根元に落ちている虫の死がいばかりを見ていたら、気が滅入るよ。」
「なんだか最近、そういうことばかりが気になるんですよ。質問掲示板を見ると、質問者を責めたり貶めたりするような、回答ともいえないような書き込みがあったり、他の場でもネットでは、相手が目の前にいたら絶対言えないようなことを、書き込む人がいたり、なんだかとても気が滅入るんですよ。」
「わかる気がする。残酷な動画や、攻撃や報復や、怒りや、底なしの悪意が表出される場になっているものね。」
「どうしてこんな風に、攻撃しあったり、争いあったりするんだろう。」
「去年、Facebookの情動感染実験ってちょっと問題になったよね。」
「ポジティブなコンテンツにさらされると自分もポジティブな書き込みをするようになり、ネガティブなコンテンツにさらされると自分もネガティブな書き込みをするようになるっていう実験結果ですよね。結果はいかにもだけど、知らない間にネガティブなコンテンツにさらされていたってなんか気持ち悪いですよね。」
「攻撃的なコンテンツにさらされていると自分も攻撃的になるっていうことはあるんじゃないの。」
「ニュースフィードのアルゴリズムを操作すれば、戦争だって起こせるんじゃない?」
「CIA(Central Intelligence Agency)の陰謀とか?いやNSA(National Security Agency)か。」
「でもさ、質問掲示板だって、ちゃんと答えている人のほうが多いし、IBC(ice bucket challenge)だって、いろいろ言われたけど、難病の人の役に立ったことは確かだよね。少しさ、インターネットを見ない時間を作ってさ、気分転換したほうがいいんじゃない。」
「今日はちょっと早く帰ろうか。」
「沈む夕日をしみじみ見たり、公園で遊ぶ子供たちを眺めたりしたら、この世界もそんなに悪いもんじゃないって思えるかもよ。」
「あやしいおじさんだと思われそうですよ。」
笑いが部屋の空気を少し軽くした。
怖いです
イスラム国の人質事件とか、フランスのテロ事件とか、最近インターネットもテレビも怖いです。誰かが殺されようとしている事実や、それを傍観するしかできない現実が怖いです。
人種や宗教にかかわりなくお互いがそれぞれの価値観を尊重し多様性を認め合う社会は、絵空事なのだろうかと思うと怖いです。
多分自分自身が脆弱性の塊なので、ポートを閉じて必要最低限の通信しか通さないようにしたほうがいいのかもしれません。でも、こういう苦しさや痛みを感じているのは私だけではないとも思い、書いています。
攻撃しあう世界は怖いです。
お読みいただき、ありがとうございました。