メメント・モリ
悪夢の続き-行軍の果ての・・・
(このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)
「三年たつんだよ。」
その日の夜、会議室には私とCさんだけだった。Cさんは窓の外を眺めて固まっていた。
CSIRT活動4日目が終わり、他のメンバーは帰宅していた。私も帰ろうとして、Cさんがまだいるのに気が付いた。
「何かあるんですか?」
窓の外はもう暗く、外に何か見えるのかと私はCさんの隣に立った。
そのとき、Cさんがそう口を開いた。
「彼が、いなくなってから三年たつんだよ。」
Cさんは、窓の向こうの誰かに話すようにまっすぐ前を向いたまま言葉を続けた。
「私は、何もできなかった。彼を助けることができなかった。何もしてやれなかった。」
「関わることを避けていたと、思われても仕方ない。彼が、以前の彼ではなくなっていったのを感じていたのに。」
「そっとしておいたほうがいいのかもしれない、と自分に言い聞かせていたのかもしれない。私は、向き合うことから逃げていた。」
「彼は、あのプロジェクトの仲間だったんだ。あのシステムはいろいろ問題があって結局日の目を見ることはなかった。」
「彼は、いなくなって何日かして、海に浮いているところを見つかった。彼が最後にどこにいて何を思ったのか、誰にもわからない。」
「よく明け方に目が覚めて、彼のことを考える。どうして、いなくなったのか。どうして話してくれなかったのか。彼は壁を作ってその中で一人で苦しんでいた。その壁の中に入って助けてやりたかった。彼がいなくなって、その後、広報に訃報が出て、そうして日々の業務は前に前に進んでいく。彼がいなくなった世界で、何もなかったかのようにまた相変わらず仕事している。」
「時間を元に戻して、あいつの肩をつかんで、叫ぶんだ。生きろ。そして浅い夢が覚める。」
窓の外は暗い海のようだった。私は、何を言ったらいいかわからなくて、ただ立っていた。
春です
桜が咲きましたね。今年も桜を見ることができて良かったと、思います。仕事がどんなに忙しくても、つまらなくても、つらくても、あるいは他に何があろうと、桜を見ることができて、良かったと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。