年の初めに
深夜の電話
暗闇の中で黒電話がなっている。
「リリーン、リリーン」
夜中の電話は悪い知らせに決まっている。耳に懐かしいけれども不吉な響き。私はその音から逃れるように布団の中に顔を埋めた。けれどもその音は執拗になり続けている。ついに布団から顔を出し、そして思い出した。会社関係の電話の着信音を黒電話に設定したんだった。私は手を伸ばして携帯電話をとり、送信元を確認した。A課長の携帯電話だ。
「はい。」とだけ答えた。
「もしもし、こんな時間にすみません。中国の販売会社のサイトがハッキングされたので、関係者にいろいろ確認して情報収集をしているところなんです。」
私は起き上がってベッドの上に座った。A課長は昨年移動してきたばかりで情報セキュリティについてあまり詳しくはない。それなのにこんな事件に当たってしまって、お気の毒としかいうほかない。
「どういう事実が確認されているんですか。」
「中国子会社の販売現地法人のサイトが改ざんされました。それと、客先とみられる個人情報が掲示板に公開されています。」
やられた。
「決済情報はないですよね。」
「クレジットカードの番号らしきものはないです。サイトは現在メンテナンス中にしてあります。中国の販売会社は、IT部門の人間が少ないので、この問題の対応は本社主導ですることになります。このサイトに対して行った脆弱性検査の結果などを確認したいので、申し訳ないのですが、本社の会議に出てもらえませんか?」
できれば断りたいが理由が浮かばない。
「会議の前に過去の検査結果やサイトの概要を確認したいので、それより前に少し時間が必要ですね。会議は何時からですか。」
「7時です。」
「わかりました。それでは6時に出社して確認します。」
口にしたとたんに後悔し始めた。
「ありがとう。よろしくお願いします。」
私は電話を切って、今の時刻を確認した。家を出るまでにまだ時間がある。今のうちに少しでも寝ておこう。
目が覚めるともうあたりが明るくなっていた。私はあわてて携帯電話の着信履歴を確認した。ない。昨夜からの着信履歴が全然ない。夢だったのか。あぁなんという夢だったんだろう。
仕事始め
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
新年早々から悪夢で始めてしまいました。年が明けると、北朝鮮のサイバーテロはどうやら国家の安全保障問題になりそうな気配だったり、戦後70周年の国威発揚がらみで何か起こるかもしれない感じがしたり、今年も情報セキュリティ市場は成長しそうです。
石川や 浜の真砂は 尽くるとも 世に盗人の 種は尽くまじ
新たな脆弱性、新たな脅威、今年もハッキングの種は尽きそうにありません。
今年もゆるゆると仕事していこうと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。