シンガポールで働く外国人 (Permanent resident)
Permanent resident(PR:永住権)は、専門職としてEmployment pass(EP)で2年程度働いた後、申請することが王道とされている。私はその王道をたどり、2年前このPRを取得した。申請自体は心配することもなく、一発で承認された。その時の事務手続きの簡単さに、さすがシンガポールと感心したのを覚えている。
思い出す範囲で手続きを書いてみる。
EPは雇用主が申請するものだが、PRは本人が申請する。また、審査を担当するシンガポール政府の役所も、EPはMinistory of Manpower(MOM)が担当するが、PRはICA(Immigration Check Point Authority)が担当というように異なる。私が準備した申請用書類は、2年間税金を払ったことの証明書、雇用主に書いてもらった雇用証明書、日本の大学の卒業証明書、そして職務経歴書のような自分の経歴を書いた書類だった。申請書類を準備した後、ICAのサイトのここで書類提出のための予約を入れた。この時、2カ月先まで予約が詰まっていたので、実際に書類を提出できたのは2カ月後だった。
予約した日に、ICAのオフィスに出向いて書類を提出したが、ここでは、書類の不備がないかどうかのチェックを窓口で受けるだけだった。その後1カ月ぐらい後に、審査の結果が郵送されてきた。承認だったので、再びここで、PR取得手続きのための予約を入れた。この時はそれほど混雑していなくて、数週間後ぐらいの予約を入れられた。
PR取得手続きを待っている間に、近くの病院で健康診断を受ける必要があった。追加的に提出する必要のある書類に健康診断の証明書があったからだ。この健康診断はHIVと結核でないことを確認するためのもののようだ。
PRの取得手続きのICAのフロアは意外にもかなり込んでおり、かなり時間がかかった。この時、少し抵抗を感じた手続きの1つに、PRカードのバイオ認証のための指紋データ採取があったことを記しておく。どういう歴史的経緯があったからなのか、自分でも分からないことが不思議なのだが、日本人の私の頭の中には「指紋を採取するのは、犯罪者だけ」という考えが刷り込まれているようだ。
すべての手続きが終了した後、数十人の同時にPRが発行された人が小さな部屋に集められた。“Congratulations! You are PR of Singapore from today”と言い渡され、同時に各種書類とPRのカードを手渡された。
私のように、ある程度の期間、専門職の経験を積んだ人が、EPとして入国して、しばらくシンガポールで働いた後にPRになるというのが普通のPR取得の方法だが、その他に、シンガポールの大学を卒業して自動的にPRになる方法や、外国の大学を卒業したばかりの新卒が1年程度のコンピュータの専門学校、これはシンガポール国立大学(NUS)の中に設けられた学校なのだが、それを卒業することで自動的にPRになる方法などもあるようだ。私の元スタッフのミャンマー人が、その方法でPRになった1人だった。この方法が特定の国や特定の大学出身者だけなのか、そのあたりはよく知らない。
ところで、一般に外国人に発行する滞在許可は、どこの国でもそうだが、その外国人がその国に対して貢献してくれることを期待するから発行されるものだ。Work permitはシンガポール人がやりたがらない仕事に従事してくれる外国人に発行するし、Employment passはシンガポールに不足する専門的技能を持っているということで、許可が出るわけだ。この点はPRも同じだ。しかし、PRの場合は、申請する個人に期待するだけでなく、その子供、そしてさらにその子供と、将来にわたって延々と続く子孫による貢献にも期待する。
シンガポールは日本より低い出生率の国で、放っておけば現在の日本と同じように人口がどんどん減っていく国だが、この小さな国で人口が減るということは、日本で考えるよりもはるかに深刻で、その問題の解決策として、移民、そしてその移民がシンガポールで生んでくれる子供は大いに期待されている。
そういうことがあり、PRになるための選択基準に、若いカップルで小さな子供がいたり、これから子供を生んでくれそうなカップルに、かなり高い優先順位が与えられる傾向がある。そもそも、PRになれる可能性のあるカップルである。彼らは両方大学卒であることが多い。夫婦ともども大学卒のカップルが、世界一と誉れ高いシンガポールの教育環境で子どもを育てるのだ、かなりの確率で優秀な子孫が誕生することが期待されているのだろう。
ところで、PRとCitizen、つまりシンガポール国籍を持つ人の違いだが、一番大きな違いはCitizenは無条件に死ぬまでシンガポールに住む権利を有すること。それに対して、PRは、「P」、つまりPermanentという英語はついてはいるが、住む権利は条件付だということだ。例えば、米国のグリーンカードほど厳しくないが、やはり国外に長く滞在しすぎると権利を剥奪される。PRと常に一緒に保持しておく必要があるRe-entry permit(再入国許可)が5年ごとの更新で、その時に更新審査を経なければならないなどの制限もある。技術的にはRe-entry permitがなくとも国の外に出ない限り、住み続けることは可能だが、この小さな国から一生出ないということは考えづらく、実質的には5年ごとの更新審査があるということになる。
それ以外の差だが、これがあまりないようだ。もちろん、PRには参政権も選挙権もない。しかし、現在のシンガポールの政治状況を見ていると、選挙権はあまり意味がなさそうだ。わずかだが、政府のサービス受けるときに必要な金額には少し差があようだ。例えば、HDBを購入する時、PRは新築を購入できないとか、PRは庭付きの家を購入できないとか、子どもの学費がPRの方が少し高いなどである。
このように、PRとCitizenの違いがそれほどないことに対して、最近、国民の不満が高まっている。それを受けて、最近の政府の方針として、徐々にPRとCitizenの間で、国から受けることのできるサービス内容の差を広げようとしている。
Citizenに課せられた最も大きな負担はやはり徴兵だ。すべての男性は18歳になると2年間の軍事訓練を受けなくてはならないし、その後も40歳になるまで、予備役として年に2週間程度訓練を受けなくてはならない。これに対して、少なくとも第1世代のPRには徴兵の義務は免除される。こういう事実を突きつけられると、シンガポール人の持つ不公平感は納得できる。シンガポールの大学を卒業したばかりの若いシンガポール人の気持ちは、複雑なのではないだろうか。同じ学校で勉強し、一緒にシンガポールで社会人になった仲間でも、外国人の学友は徴兵免除。自分は2年間ジャングルで訓練させられた上に、毎年数週間程度、継続訓練を受けさせられる。彼らはどういう風に思っているのだろうか?
コメント
Miho
>シンガポールの大学を卒業して自動的にPRになる方法
とありますがシンガポール大学を卒業した人を3人知っていますが上記のようなことは無い様です。以前はどうか分かりませんが今2012年現在はありません。
ちなみに彼らの国籍は中国人、インドネシア人です。