シンガポールでアジアのエンジニアと一緒にソフトウエア開発をして日々感じること、アジャイル開発、.NET、SaaS、 Cloud computing について書きます。

シンガポールで働く外国人 (Employment Pass)

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 私は4年前に、Employment Passを取得してシンガポールで働く権利を得た。少なくとも最初は、「しぶしぶ」この国で落ち着くことにしたのは事実だ。4年前、諸所の事情により、英語圏で仕事を探す必要があっていろいろ探したのだが、他の国ではどうしても就職先が見つからず、最終的にシンガポールに決めたのだ。

 4年前の英語圏での仕事探しの旅だが、最初は昔駐在した経験のある英国に職を求めた。結局、分かったことは、それがとてつもなく難しいということだけだった。英国で外国人がwork permitを得るためには、当然だがまず就職先を見つけなければならない。

 ところが、外国人を採用する雇用主は、その仕事が英国人にはできないということを証明しなければならない。外国人を雇用することによって、英国人の雇用がなくなることがあってはならないという原則を遵守するためだ。実は、最初はその点は日本人が多く住む英国なら、日本人向けのサービスなど、日本人でないとできない仕事も多いはずで、難しかろうが何とかクリアできると思ったのだが、実際はそんなに容易ではなかった。

 今でもそうだが、4年前の2006年ごろ。日本企業は英国からの撤退モードだったことが影響しているかもしれない。もちろん、英国には普通の開発の仕事、つまり日本人である必要のない仕事なら山のようにある。しかし、そういう仕事に外国人が就くことは、非常に難しいのだ。

 英国には、ある一定以上の収入のある外国人に英国での定住を許可するHighly Skilled Migrant Programme(HSMP)という制度がある。この制度を利用できれば、上記の「英国人の職を奪ってはならない」という条件は取り払われる。しかし、必要な年収が少しだけ足りず、その手も諦めざるを得なかった。ところで、私はこの時、1ポンドが200円の時に年収不足に泣いたわけだが、今は1ポンドが130円。もし今でも、ポンドベースで決められる閾値が変わっていなければ、求められる日本での年収は35%程度低くなっているはずで、今なら普通レベルの給与をもらっている日本人エンジニアにもチャンスがあるかもしれない。英国に就職をチャレンジしてみたいと思うエンジニアは、調べてみる価値があると思う。

 次に考えたのは、昔駐在したことのある米国。こちらは実は最初から諦めるしかなかった。というのは、外国人が米国の会社に就職して雇用される場合に必要なビザはH-1B VISAだが、これは1年間のビザ発給数そのものが厳密に決められており、リーマンショック前の米国ではその制限発給数が、毎年1年に一度の発給開始日から数日で制限を越えてしまうことが普通という状態だったのだ。米国の労働ビザを取得するのは、並大抵のことではないということだ。

 次に考慮したのがカナダ。こちらは、申請者の学歴などの客観的な条件をカウントし、その点数がある一定の点数以上の時、移民が許可される制度がある。これも、残念ながら私の点数があともう少しだけ足らず、諦めざるをえなかった。このときばかりは、大学院に進学しなかったことを悔やんだ。

 そして最後にたどり着いたのが、ここシンガポールだ。この国は、専門技術を持つ外国人を「Foreign talent」と呼び、歓迎する国だ。もちろん、完全に平等ではないが、外国人とシンガポール人をある程度平等に競争させることを良しとする、世界でも稀有な国だ。その結果、外国人の雇用がかなり簡単にできるようになっている。完全な平等ではないと書いたが、それは、例えば「外国人は従業員全体の25%以下でなくてはならない」などの制限ぐらいで、普通の企業ならそれほど大きな障害にはならない。つまり「25%以下」の条件さえクリアできれば、雇用主は他の国と比較して、はるかに簡単なイミグレーションの手続きを経るだけで、外国人を雇用することができるのだ。

 実際に私を雇用した企業の人事担当者の手続きがどういうものだったのかは、具体的には知らないが、その会社では私が初めてのEmployment Passで雇用する社員だったにもかかわらず、実にあっけなく申請ができたと聞いている。どうやら、ほとんどの処理はインターネット上の手続きだけだったらしい。もちろん、他の国ならありそうな、イミグレーション専門の法律家を使う必要など一切なかったとのことだ。

 私側が準備した書類は、日本で取得した大学の英文卒業証明書。これは、私がその昔に米国駐在時に米国イミグレーションに提出した申請書類の中にあったので、それをそのまま利用した。そして、妻のビザ申請をするための婚姻を証明する書類。日本の場合は戸籍謄本で、それは翻訳しなければならなかったので、5000円程度の費用がかかった。

 申請後、2週間程度で承認が出たのだが、私は承認の約1週間前には、シンガポールにSocial Visit Pass、つまりツーリストビザで入国していたので、残された処理はシンガポールの国内でそのpassをEmployment Passに切り替えるだけだった。

 シンガポールのEmployment Passについてはここ、シンガポール政府のMOM(Ministry of Manpower:日本の労働書に相当)に詳しい情報があるので、興味がある人は研究してみるといいかと思う。このページから各種オンライン申請のページに飛ぶリンクがあり、各種手続きがオンライン申請できるようになっている。こういうものを見ると、シンガポール政府のIT利用率が世界一であることが納得できる。ちなみに、具体的なEmployment Passを取得できる条件はここにある。普通のITエンジニアが、シンガポールで仕事に就く時に期待してよい報酬を考えると、これはほぼ自動的にクリアできる数字だ。つまり、ITエンジニアなら誰でもシンガポールで仕事に就くことができるということになる。

 外国人が、出身国以外の国で雇用に就くということに関して、総括すると次のようなことが言えるのではないかと思う。

 米国以外の国について言えることは、どこの国でも雇用する企業さえ見つけることができれば、専門職の外国人が職に就くことはそれほど難しいことではない。難しいのは、その雇用する企業を見つけることだ。外国人を雇用することに伴うペーパーワークの量が膨大だったり、膨大な期間が必要な制度を持つ国の雇用主は、どうしても外国人の雇用を敬遠することになる。結果的に仕事を見つけられる外国人は、極端に高度な能力を持つ人か特殊な能力を持つ人に限られることになる。シンガポールはその点がクリアされており、普通の外国人ITエンジニアが普通に仕事に就ける国だと言える。

 かなり下がったとはいえ、まだ、日本のITエンジニアの報酬は、シンガポールのエンジニアの平均的報酬より高い。しかし、そこで考えてほしい。日本の外資系企業に働く日本人の報酬はかなり高い。彼らと、日本の普通のエンジニアの違いは、単に英語ができるか否かであることが多い。

 そこで、英語のできない日本のITエンジニアの皆さん。

 「英語ができないから仕方がない」と諦めるのではなく、英語を修行するために、少しの間の報酬ダウンを我慢して、シンガポールで働き、英語をマスターするというのはどうだろうか。英語をマスターした後、日本に帰国し、その能力を使って日本で外資系へ転職というキャリアパス。悪くはないと思うが?

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