シンガポールでアジアのエンジニアと一緒にソフトウエア開発をして日々感じること、アジャイル開発、.NET、SaaS、 Cloud computing について書きます。

シンガポールでは、人の能力は英語のアクセントで判定される?

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 シンガポールに来て3年になる日本人ソフトウエアエンジニア、48歳です。

 48歳ですが、ソフトウエア開発を職業とするようになってからは10年程なので、35歳程度のエンジニアと考えてもらってけっこうだと思います。実際、そう考えてもらいたい。

 ソフトウエア開発の技術発展のテンポはすごく早く、35歳ぐらいの人がおそらく一番この早い技術進歩についていけている年代だと思うので。

 さて、シンガポールのとあるベンチャー企業で、システムの開発のリーダーを任されていた時期がある。エンジニアの採用から、トレーニング、評価とリーダとしての仕事は多々ある。人を採用すると決めた後、インターネット上に広告を出すなどして、募集活動を始めた。

 広告を出すとシンガポール国内、そしてその周辺の国から応募者が殺到……と言いたいところだが、そこまではいかず、実際は10件程度。時期は2006~2007年ごろ、シンガポールの景気は絶好調のころだったので、このぐらいだろう。とりあえず、応募してきた10人すべてと面接することにした。その中のめぼしい人を思い出す範囲で、書いてみる。

 ある応募者、シンガポール一の名門大学であるシンガポール大学を出て、1年ほど社会人を経験した後の応募。世界の大学ランキングによると、シンガポール大学は2009年には30位。東大でも22位にしかなりえないランキング表。つまり、このランキングだけを見れば東大の卒業生に匹敵する人材。実際会ってみて思うのは、確かに優秀だとは思うが、東大生と比較するのは「???」という感じではあった。このランキング、英語圏で認識されている成果を基にした判断であり、授業がすべて日本語で行われ、論文も大部分が日本語の日本の大学が不利になることは明らかで、われわれ日本人がそれほど気にする必要がないということだろう。何はともあれNUSはシンガポール、そしてたぶん東南アジア圏で一番優秀な大学であることは確か。

 さて、面接では今までやってきた開発、そのときの役割等について質問。その時の開発は口頭ベースのコミュニケーション重視。できるだけ文書によるコミニケーションを排除して、とにかく実際の実装作業だけを没頭して行うことができる方法をとっていた。そのため、口頭でのコミュニケーション能力。特にわたしの日本語訛りの英語を理解できる人であることが大切だった。それを確認するため、わたしが日本の給与計算のシステムを説明して、その理解度を測るようなことを行った。面接の短い時間内に、実際の仕事をシミュレーションしてみたということである。その応募者はさすがに申し分なく優秀。しかも、応募者の話す英語もわたしにとって良くわかった。採用を決めて、オファーを出した。しかし結局他に良いところが見つかったらしく、辞退された。

 ある人は、ミャンマーからやってきた若い女性。ミャンマーのトップ大学、ヤンゴン大学の卒業生。大学を卒業して1年ほど、プログラマとしてパートタイムで働いてきた経験があるという。在学中のインターンを含めて、約1年半の経験だという。ここで、そのインターンというものの解説を1つ。

 こちらの大学では、4年間のうち半年ぐらいの期間、企業の実際の現場に出向いて働く仕組みがある。それをインターンと言う。実際、わたしのプロジェクトにもNTS(Nannyang Technology University)という優秀な大学(日本でいうと、さしずめ東京工業大学だろうか)からインターンがやってきて手伝ってくれていたことがある。そのインターン、結局使いものにならず、6カ月でできたことは限られてしまったが、彼にとってこの6カ月は無駄でなかったと思う。そのインターン、そのの経験の後、プログラマをキャリアとして選ぶことはあきらめて、別の道に進むことを決めたらしい。

 卒業して、プログラマとして仕事を始めた後に挫折して、別の道に進むようになるよりは、はるかに、キャリアのやり直しによるダメージは少ない。そんなことを考えると、なかなか良い制度かもしれない。ただ、個人的意見としては、大学は職業訓練校ではなく、アカデミックな学問を習得する場だと思う。限られた4年間、そして大学院に進むものは大学院の2年間は、できる限りアカデミックな学問のみを習得することに費やすべきだと思う。この考え、あまりに理想論過ぎるのかもしれない。常に現実路線をとることを旨とするシンガポールでは、そんな理想論など、無用ということなのだろう。

 さて話を戻して、ミャンマーからやってきた応募者の話。1年半の経験なら、優秀な人ならそれなりの能力を身に付けているはずで、先に説明した日本の給与計算の仕組みを説明して、その理解度を測るテストを試したみたところ、結果は必要な能力不足と判定。不合格。

 ある応募者。スリランカ出身のエンジニア。経験6、7年の一人前のエンジニア。話す英語もほとんど訛りがなく、非常に分かりやすい。わたしの給与計算システムの説明も申し分なく理解してくれる。他の応募者に出すオファーの額より一段階高い金額でオファーを出す。しかし、別の企業で、貿易関連のシステム開発ができるところからオファーを受けたらしく、結局辞退された

 フィリピンからの応募者。シンガポールには来れないということで、スカイプを使ったテレフォン面接。電話では、給与計算の説明による理解力のテストができないので、よっぽど優秀と判定できない限りオファーは出せないと思って、面接をする。結局英語も訛りが強いし、技術もそれほど強くなさそう。不合格。

 別のフィリピン人の応募者。経験は6、7年。応募者の話す英語はほとんど意味不明。20~30%しか分からない。しかし、わたしの話す英語は理解できる。給与計算の説明をすんなりと理解してくれた。彼が話す英語を理解できないのは、もしかしたら困るかもしれないと思ったが、ほかに有望な人がおらずオファーを出す。結局この人が、入社してくれることになった。

 後に、ある巨大銀行でシステム開発の仕事を請け負っていた頃。銀行内の、日本では社内SEと言われる人たちと付き合ったときに感じたことは、例外なく、彼らの話す英語が分かりやすいということだ。こちらの社内SEはプログラムもある程度こなす。仕事は、協力会社のベンダ管理だけではない。つまり、人を管理するだけが彼らの仕事ではないのだ。純粋なプログラム作業もかなりやるようだ。しかし、英語に変なアクセントがないということが、採用されるときの大きなファクターになっているのは事実だと思う。巨大銀行の社内SEという、われわれ職種のなかで、誰もが勝ち取りたいポジションを、並み居る競争相手を蹴落として勝ち取った人たちである。シンガポールで優秀とされている人たちだ。

 そんなこんなで、シンガポールでは英語力、それも話す英語に訛りがあるか否かが、非常に重要な能力判定の基準になっているのではないかと思う。先に書いた、入社を決めてくれたフィリピン人、英語のひどい訛り以外は、オファーを出して断られた人と比較して、遜色があるわけではない。入社を決めてくれたのは、ほかに応募した企業では、英語のきついアクセントゆえ、高い評価を得られなかったのだろう。入社した後のプログラマとしての働きは抜群であった。

 日本でもコミュニケーション能力が大事だと、就職、転職の記事に繰り返し書かれている。しかし、そのコミュニケーション能力は、自分が言いたいことを相手に的確に伝えることができることだけでなく、相手が言っていることを理解できること。ストレスのかかったときにも冷静にコミュニケーションが取れること。さらに正しく的確に、日本語を書けることなど、もっと総合的な能力だと思うが、ここシンガポールでは、応募者の話す英語のアクセントが突出して重要視される能力になっている気がする。

 話せば10秒でわかる能力である。それだけで人の能力を測るのはいかがなものかと思ったりする。しかし、そのおかげで、入社後に強力な戦力として働いてくれたフィリピン人エンジニアを確保することができたのだから、良かったということだろう。

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