ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

ハローサマー、グッドバイ(28) もう少し あと少し...

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 「防御態勢」柿本少尉は小声で命じた。「サンキスト、アックス、エスカレーターだ。キトンはそっちの階段を警戒しろ。ブラウンアイズはわかってるな?」

 全員が素早く動いた。柿本少尉とサンキスト、アックスは、立方体のソファをエスカレーターを塞ぐような位置に移動させ、その隙間から下を見た。同時に、D 型の咆吼が聞こえた。

 「エントランスにいる」サンキストが囁いた。

 「サンキスト、10 メートルまで引きつけたら撃て」柿本少尉は自分も狙いをつけながら囁き返した。「ヘッドショットに自信がないなら、下半身を狙え」

 「あとどれぐらいかかる?」ブラウンアイズがぼくの肩に触れて訊いた。

 ぼくはモニタを見た。まだ、make は完了していない。無事に完了してくれればいいが、もしどこかで失敗したら、原因を調査して再開しなければならない。make test を実行するとしたら、さらに時間がかかるだろう。

 「少し手順をスキップする」

 make test は実行しないことに決めた。不安は残るが仕方がない。ぼくは改めてモニタを眺めた。進行状況がスクロールしている。make の実行速度は、CPU リソースに依存する。スクロール速度を見る限り、このノートPC のCPU はかなり高速なようだが、configure にかかった時間から推測すると、少なくとも10 分かそこらはかかりそうだ。

Make_2

 「たぶん、あと10 分かそこらだと思う」

 「10 分か」ブラウンアイズは唇を噛んだ。「途中で脱出することになるかも」

 make 自体はネットに接続されている必要はないから、脱出しながらでも処理は続行できる。ただ、足りないライブラリなどがあるかもしれないことを考えると、できればネット接続できる環境で、make が完了するところまでは確認しておきたい。

 またD 型の叫び声が届いた。そのすぐ後に、聞き覚えのあるうなり声が続く。ぼくは臨時のバリケードの隙間から、エスカレーターの下を覗いてみた。1 体のD 型が1 階のエントランスを駆け回っているのが見えた。汚れたユニフォーム姿だ。続いて、もう1 体、やはりユニフォームを着たD 型が現れ、それに付き従うように10 体以上のR 型がぞろぞろと入ってきた。

 「やばいな」アックスが呟いた。

 まるでその声が耳に届いたかのように、2 体のD 型はピタリと足を止め、揃って上に顔を向けた。人間の匂いを嗅ぐように、鼻をクンクンやっている。と、2 体は目標を定めたように叫ぶと、まっすぐエスカレーターを駆け上がってきた。

 「ロックンロール」柿本少尉は、もはや声をひそめようとしなかった。「サンキスト、判断して撃て。アックス、お前は実弾を準備。突破されそうなら撃て」

 2 体のD 型は、重なり合うように昇りのエスカレーターを駆け上がってくる。あっという間に彼我の距離が縮まっていく。悪夢のような光景だったが、サンキストは冷静に狙いを定め、距離10 メートルで引き金を絞った。

 ラバーショット弾といえども、これほどの至近距離から発射されれば、その威力は絶大だ。顔面を直撃された先頭のD 型は、開放された運動エネルギーをまともに食らい、回転しながら派手に吹っ飛んだ。その後ろに続いていた2 体目のD 型を巻き込んでくれればよかったのだが、そう都合良くはいかない。偶然か、意図的か、転がってくる仲間をよけて、エスカレーターをドカドカと駆け上がってくる。

 サンキストは続けて発砲した。今度は胸のど真ん中に命中したが、D 型は少しよろめいただけで、威嚇の絶叫とともに突進してくる。

 「アックス!」

 アックスは素早くサンキストと位置を代わり、間を置かずに発砲した。サプレッサーで減音されていても、明らかにレスリーサル弾とは異なる荒々しい発射音と共に、D 型の頭部がスイカのように弾けた。粘性のある黒い液体が飛び散る。

 「監視員のおっさんがいなくてよかったな」サンキストが歯を剥き出して笑い、銃を構えた。「来るぞ」

 最初に撃たれたD 型は、1 階付近まで転がり落ちていたが、ガバッと跳ね起きると、再び駆け上ってきた。そのすぐ後ろには、R 型が何体も続いている。しかも、エントランスには、外にいたZが陸続と入ってくる。付近のZを呼び寄せるベルを鳴らしてしまったようだ。

 「これじゃ弾が足りませんよ」アックスが訴えた。

 「足りなきゃ手でも足でも使え」柿本少尉は答えた。「でなきゃ歯でも何でもいい。時間を稼げ。鳴海さん、まだか?」

 「まだです」

 「急いでくれ」柿本少尉は冷静な口調で言うと、狙いをつけて発砲した。

 「こっちからも来ます!」階段を見張っていたキトンが叫んだ。「5、6 体が上がってきます」

 言い終える前に、キトンは発砲を始めていた。柿本少尉はサンキストとアックスに何か囁いてから、急ぎ足で階段に向かった。

 ぼくは焦燥感に駆られてモニタを見た。まだ、make が続いていて、コンパイル状況が目にも留まらない速さでスクロールしている。進行状況のパーセンテージが表示されるわけではないので、終了予測ができない。モニタを揺さぶってやりたい衝動に駆られたが、何とか自制した。

 スマートフォンに目をやったぼくは、ふと思いついてブラウンアイズの腕を叩いた。

 「どこかに救援を求められないかな」

 「どこに?」ブラウンアイズはエスカレーターから目を離さず答えた。「JSPKF 隊員のアドレスは暗号化必須だし、公式HP の問合せフォームは週に1度チェックするかしないかよ。書き込み少ないからね」

 「そうか......」

 Twitter やLINE やFacebook などのSNS は、サービス自体が不安定なことと、電力不足でPC やスマートフォンの使用自体が控えられ気味なこともあって、あてにはならない。

 「たぶん、こっちに何かあったことぐらいは、基地の方もわかってるわよ。ただ、分隊長も言ってたけど、救援部隊を編成するには時間がかかる。こっちが脱出する方が早いわよ。それより急いで」

 そう言われても、人間の手でmake の実行速度を速めることはできない。ぼくはスマートフォンのブラウザで、JSPKF の公式HP を検索した。

 「一応、問合せフォームに入力しておいていいかな?」

 「好きにして」ブラウンアイズは素っ気なく言ったが、思い直したように付け加えた。「本文の最初と最後に、ジャバウォックと書いておいて。JSPKF の人間からだってわかるから」

 「ジャバウォックね」

 JSKPF のHP はグレイと黒を基調としたシンプルなデザインだ。ブルーに白い翼のマークが鮮やかなワンポイントになっている。ぼくはメニューから「お問い合わせはこちら」を選び、タイトルに「緊急!」、本文に、「オペレーションMM、指揮車両破壊、1 人死亡」と入力し、ジャバウォックで囲った。送信ボタンを押すと、10 秒ほど待たされた後、完了画面が出た。

 不意にブラウンアイズが身体を伸ばすと、エスカレーターの方に発砲した。バリケードを1 体のZが乗り越えようとしていたのだ。Zは肩を強打されたように後方へ転がっていった。

 「わりい!」サンキストが叫んだ。「そろそろ限界だ」

 「リローディング!」アックスが言い、UTS-15J のマガジンを交換した。「残り1 個だ」

 柿本少尉が戻ってきて、1 階に視線を投げた。1階のエスカレーター乗り口は、後から後から入り込んでくるZがひしめいている。押し合いへし合いで整然と昇ってこないのが幸いしているが、その数だけでも十分な脅威と言える。さっきブラウンアイズが言っていた、10 体以上に囲まれたら、お祈りするぐらいしかできない、という言葉を思い出し、ぼくは背筋が冷たくなった。

 「ここから降りるのは無理だな」柿本少尉はそう言いながら、タクティカルベストのポーチから、マガジンを出してサンキストとアックスに渡した。「ほら、1 個ずつだ。ムダにするな。鳴海さん、そっちは?」

 「もう少しかかりそうです」同じことしか言えないのが悔しい。

 「終わり次第、脱出する。あっちの階段から降りるぞ。キトン、アックス、サンキストで突破する。オレは後詰めにつく。ブラウンアイズ、鳴海さんから離れるな」

 ブラウンアイズが頷いた。ぼくが早く終わってくれ、と焦燥感からノートPC を見つめたとき、祈りが通じたかのようにスクロールが止まった。エラーは出ていない。

 「終わった」ぼくは叫んだ。「終わりました!」

 「出るぞ」柿本少尉は命じた。「サンキスト、アックス、行くぞ」

 呼ばれた2 人は、バリケード代わりのソファを蹴り落とすと、階段の方へ走った。ぼくはノートPC を閉じるとリュックに放り込み、スマートフォンをポケットにしまって立ち上がった。忘れていた脇腹の痛みがうずいたが、気にしてはいられない。

 「行くわよ」ブラウンアイズがぼくを押しやった。「あたしから離れないで」

 階段は正方形に折れ曲がって1 階まで続いている。すでにキトン、アックス、サンキストが途中まで降りていた。ブラウンアイズに続いて最初のステップに足を下ろしながら振り返ると、柿本少尉がこちらに背を向けて、UTS-15J を構えている。銃口の先では、エスカレーターを昇り切ったZが何体もロビーに足を踏み入れ、のろのろと向かって来るのが見えた。

 「行け!」柿本少尉は素早く発砲しながら叫んだ。「少し時間を稼ぐ。待たずに脱出しろ」

 ぼくは思わず立ち止まったが、ブラウンアイズは有無を言わせずぼくの背中を押した。

 「あんたにはあんたの仕事があるでしょ」

 階段の方からもZは上がってきていたが、大多数がエスカレーター側に集中している分、その数は少ない。先を行く3 人のバンド隊員たちは、手際よくZを蹴散らし、1 階までの脱出路を確保した。

 「いいぞ」サンキストが囁いた。「少尉を呼べ」

 ブラウンアイズが頷いたとき、聞き覚えのある咆吼が聞こえてきた。D 型の威嚇の声だ。

 ぼくはロビーの方を振り向いた。飛び出してきたD 型に柿本少尉が銃撃を浴びせている。D 型は身体の中心部に被弾し、エスカレーター脇の手すりに激突して倒れた。柿本少尉は後退したが、その間に数体のZが距離を詰めていた。

 「少尉!」

 ブラウンアイズが叫び、階段の陰から連射した。2 体が頭と足を撃たれて吹っ飛ぶ。柿本少尉も残りのZを撃ったが、エスカレーターからは、さらにZが上がってきていた。きりがないと見てとったか、柿本少尉はこちらに背中を向けたままエスカレーターから離れだした。接近してくるZを効率よく選定して撃ち倒しながら、顔を半分こちらに向けて叫ぶ。

 「命令だ、早く降りろ!」

 撃ち倒されたD 型が、怒りの叫び声と共に身体を起こしかけている。柿本少尉は銃口を向けたが、そのときエスカレーターから、3 体目のユニフォームを着たD 型が飛び出してきた。柿本少尉は銃をぐるりと回したが、D 型が振り回した腕に銃身を弾かれた。とっさに身体をのけぞらして、襲いかかってくるD 型をかわし、銃床で相手の側頭部を強打する。D 型は床に叩きつけられたが、柿本少尉もバランスを崩して片手をついた。そこに、さっきのD 型が飛びかかる。柿本少尉は身体を起こす動作を中断し、床に身体を投げてD 型の突進をかわした。仰向けになった体勢で、銃口をD 型に向け、至近距離から発砲する。D 型の腹部の右半分が破裂し、どす黒く変質した血液が床に飛び散った。

 奮戦はそこまでだった。

 3 体目のD 型が後ろから飛びかかり、柿本少尉の首筋に容赦なく歯を立てた。苦痛の叫びとともに鮮血が噴き出す。

 ブラウンアイズが何か叫んだ。

 柿本少尉は肘をD 型のみぞおちに叩き込み、強引に引きはがした。左手で首の咬傷を押さえ、右手で銃を持ち上げたが、一瞬早く、ブラウンアイズが放った銃弾が、D 型の頭部を破壊した。

 全てがほんの数秒間のことだった。

 柿本少尉は銃を床に捨てると、右手を床について身体を起こした。苦痛に顔を歪めながら、片膝をつく。ブラウンアイズが駆け寄ろうとしたが、柿本少尉は右手を振って制止した。

 「行け」血がにじんでいるようなかすれ声だ。「早く」

 エスカレーターからは、Zがうなり声を発しながら上がってきている。柿本少尉はそちらを見ながら、床のUTS-15J を掴むと、こちらに滑らせた。タクティカルベストから最後のマガジンを抜き出すと、それもこちらに寄こす。自分はホルスターからハンドガンを抜き、震える手で慎重に狙いをつけ、先頭のZの頭部を撃ち抜いた。続いて別のZに発砲する。だがロビーにあふれ出したZの数は、明らかにハンドガンの残弾数より多く......

 ブラウンアイズは顔を歪めながら、柿本少尉のUTS-15J と、マガジンを回収した。そして踵を返すと、硬直してしまったぼくを強引に押すように階段を降り始めた。ちらりと見えたその表情は、言い尽くせない怒りと悲しみに満ちていた。

 みなとみらいセンタービルの周辺は、Zでいっぱいだった。インシデントZ前にニュースで見た国会前のデモのようだ。それでもZの大多数はエスカレーターのあるエントランス付近に集中していたので、ぼくたちはそれほど危険に遭遇することもなく、ビルを脱出することができた。

 来るときに入ってきた西側はZでいっぱいなので、ぼくたちはみなとみらいホール交差点側のドアから外に出た。そのまま北西に進み、立体駐車場の入り口に駆け込んで一息ついた。周辺にZの姿は少なく、ここに入るのを見られた様子はない。

 キトンはアックスと小声で相談してから、ぼくたちに向き直った。

 「少し遠回りになるけど、けいゆう病院の交差点まで行こうと思う」そう言ってサンキストを見た。「あんたが先任だよな?」

 「そうなるな」サンキストは沈んだ表情で答えた。「よし、それで行こう。キトン、ポイントマンを頼む。アックスはシックスチェックだ」

 11 時30 分過ぎ。ぼくは空を見上げた。今日も雲ひとつない晴天で猛暑日になるだろう。喉が渇いたな、と思ったとき、サンキストがペットボトルを差し出した。災害備蓄用の5 年保存水だ。

 「さっき上のオフィスで見つけた。半分ほど飲んでおいてくれ」

 ぼくは礼を言うのももどかしくキャップをひねり、無味無臭の水を喉に流し込んだ。焦ってむせそうになったが、死ぬほどうまく感じた。半分飲んだところで口を離して、大きく息をついた。

 「残りはリュックに入れておけよ。よし、行くぞ。キトン、頼む」

 キトンはZ歩行でゆっくりと進み出た。道路の反対側は、何かの商業施設が、建設中のまま放置されていた。その先に交番があり、けいゆう病院が隣接している。キトンは周囲をチェックした後、ぼくたちに進むよう合図し、そのまま先行していった。

 少し進んだとき、キトンが頭の位置に上げた片手でグーを作った。全員が足を止め、ぼくもブラウンアイズに肩をつかまれて止まった。

 キトンは何かを探るように、交番のあたりを注視していて、なかなか移動を再開しようとしない。ぼくもそちらを見たが、無人の交番があるだけだ。サンキストはキトンとハンドサインでやり取りしていたが、やがて囁いた。

 「あっちでZではない何かが見えたらしいんだが、はっきりしない」

 「見て来るか?」アックスが訊いたが、サンキストは首を横に振った。

 「もう少し様子を見よう」

 数分後、キトンはようやく手を下ろして、ゆっくりと進み始めた。サンキストは、ホッとしたように笑うと、ぼくたちに前進の合図をした。

 次の瞬間、キトンが転倒した。

 呆気に取られたとき、鋭い風切り音と共に、近くの路面が弾けた。ぼくの首筋をブラウンアイズがつかんで街路樹の陰に引きずり込む。同時にアックスが肩を押さえて倒れた。

 銃撃だ、と気付いたとき、すでにサンキストは路面に伏せ、交番のあたりに反撃していた。

 「立駐へ戻れ!」サンキストは撃ちながら叫んだ。「アックス、立てるか?」

 アックスは肩から血を流しながら立ち上がりかけたが、すぐに転倒した。それでも、何とか銃をつかみ、這うように移動して、街路樹に背中をつけた。その間に、ぼくはブラウンアイズに引きずられるように、立体駐車場の建物に戻った。

 「何が......」

 「ヘッドハンターたちね」ブラウンアイズは冷静に言った。「ここで待ち伏せしてたのね」

 「なんで、ここが......」

 「偶然か」ブラウンアイズはファイバースコープでそっと外を確認した。「でなきゃ知ってたか。ここにいて。すぐ戻る」

 言うなりブラウンアイズは身体を低くして飛び出した。すぐに銃弾が飛来したが、ブラウンアイズは意に介さず走ると、アックスの元に到達した。

 「サンキスト、バックアップ!」

 そう叫ぶと、ブラウンアイズはアックスに肩を貸して立ち上がらせた。サンキストが道路の反対側に応戦する隙に、その小柄な体格からは想像もできない力でアックスを連れて走り出す。それを見たサンキストも立ち上がり、身体を折り曲げて低い姿勢になり、銃を撃ちながら戻ってきた。

 ブラウンアイズとアックスは道路の反対側からは死角となる位置に飛び込んだ。続いてサンキストが滑り込んでくる。その後を追うように銃撃が壁を叩いたが、すぐに止んだ。

 「アックスは?」サンキストが外を警戒しながら訊いた。

 ブラウンアイズはすでにアックスのベストを脱がせ、ナイフで都市迷彩服を切り裂いていた。アックスは左肩を被弾していて、左手はほとんど動かせない状態だ。ブラウンアイズは顔をしかめ、ベストから応急セットを出した。

 「ちょっと痛いけど我慢しなよ」

 そう言うと、アックスの返事も待たずに、傷口に何かをスプレーした。アックスは歯を食いしばり、無事な右手でブラウンアイズの腕を掴んだが、何とか苦痛に耐えていた。

 「キトンは?」ガーゼとテープを出しながら、ブラウンアイズは訊いた。

 「わからん」サンキストは苦い顔で答えた。「少なくとも動いてはいない。そろそろ防弾ベストを標準装備に入れるべきだな」

 「次回からの教訓になるわね。次回があれば、だけど」

 ブラウンアイズは、使い捨てのマイクロバブル注射器をアックスの肩に押し当ててから、傷口をガーゼで覆い、手際よくテープで固定した。

 「動けるか?」サンキストが訊いた。

 「動くしかないだろうが」アックスはうなった。「銃を撃つのは無理だがな」

 「よし、まずキトンの......」

 サンキストの言葉は、近くで発生したゴトンという音で中断された。ブラウンアイズとサンキストは素早く銃を構えたが、すぐに降ろした。

 「何か投げられたな」

 2 人は10 秒ほど待ってから動いた。ブラウンアイズがファイバースコープで左右を確認した後、外に足を一歩踏み出す。サンキストが援護する中、近くに落ちていた何かを拾って身を翻した。床に放り出したのは、ナイロンメッシュ製のポーチだった。アンテナのような突起物が飛び出している。

 「爆発物じゃないようだな」サンキストは注意深く観察した後、そう結論づけた。「開けて見ろ」

 「違ってたらどうするの?リモート操作爆弾とか」

 「謝る」

 ブラウンアイズは肩をすくめてポーチのマジックテープを剥がした。中に入っていたのは、小型のトランシーバーだった。バンド隊員たちが使っていたものよりも一回り小さいが、遙かに頑丈そうだ。

 『おい』スピーカーから声が聞こえた。『聞こえるか?』

 サンキストはブラウンアイズと顔を見合わせた後、トランシーバーを掴んで、送信ボタンを押した。

 「誰だ」

 『誰でもいい』割れた声が答えた。『お前らの斥候はまだ生きてるぞ。助けたいか?』

 サンキストはブラウンアイズに合図した。ブラウンアイズはファイバースコープで外を確認したが、すぐに首を横に振った。

 「ダメ。わからない」

 サンキストはトランシーバーに言った。

 「何が望みだ」サンキストは訊いた。「藤田っていうお前らの仲間か?」

 『あんな奴、好きにしろ』声に嘲笑が混じった。『お前らが持ってるノーパソとスマホだ。そっちのプログラマーに持って来させろ』

 「何だと?」サンキストは困惑して、ぼくの顔を見た。

 『聞こえただろう。5 分待ってやる。ノーパソとスマホをプログラマーに持たせて交番まで来させろ。そうすれば、他の奴は素直に帰してやる。邪魔はしない。こっちとしちゃあ、このまま銃弾の数でケリつけてもいいんだぞ。5 分過ぎたら、問答無用でそうするからな。じゃあカウントスタートだ』

(続)

Comment(17)

コメント

CS

柿本少尉!
プラトーンでエリアスが死ねシーンの音楽が聞こえた。
合掌。

tako

なんとここで柿本少尉が・・・!
生き残ると思ったのに、残念。

ヘッドハンターがスマホの存在を知ってるということは、内通者がいるということですな。虫はどいつだろう?

ボリスと思いきや、これまで全く活躍(?)してない小清水大佐に一票w

SIG

オペレーションMMの概要くらいまで知っていれば、
みなとみらい地区のめぼしい施設に
一通り隠しカメラや盗聴器を仕掛けておくとかの手もないことはないので、
必ずしも現在のメンバーに内通者が存在するとは限らない……

おけら

柿本少尉もZ化して襲ってくるのか

p

うええ良キャラがどんどん死んでく悲しい
しかしプログラマー=サンの命狙われすぎてて怖い
どんだけ不都合な事実があるんだよと

ナンジャノ

スマホがあることが分かったのは、今朝の話。盗聴器をセキチュウ内に仕掛けて置いた可能性もあるが、マイクロマシンを使いこなしているところを見ると、藤田かボリスなどの誰かにマイクロマシンを植え付けて、情報を引き出している可能性もある。よほどソリストを復活させたくないのか、プログラマを殺したがっているのか?
あれ?ヘッドハンターから奪ったスマホは、重視しないのか?
ゾンビモノは、悪党と男女ぐらいしか残らないのがお約束… 嫌だなぁ。

F

ああ、そうか…
ナルミンには生きていてもらわなくてはいけないが、
その一方で任務を無事終了して帰ってきてもらってもまずい…という線かな。
ソリストも頭のネジがまだ足りてないようだし…

それはそれとして、東側からさほど危険無く出られる程度の頭数で思い出される国会前デモ中継って最近あったような無かったような(笑)

とんかつうどん

もうこんな悪徳企業と糞ソフトとは手を切って
胡桃沢さんリーダー鳴海さんリードエンジニアにして
新たにソフトウェアを開発したほうがいいよね。

tako

ではサードアイに発注でw

d

前回の話で,configure が完了したのが11 時5 分前。
脱出後,外を見上げたのが10 時15 分過ぎ なので時間がおかしいような...

d さん、ありがとうございます。
時間、おかしいですね。

柿本大尉

ああ...これから誰を頼ればいいんだ

F

>ナンジャノさん
>>藤田かボリスなどの誰かにマイクロマシンを植え付けて
そういう描写、ありましたよね(ニヤリ)。
導き出される結論はなかなかシャレになりませんが。

ナナシ

東海林さんあたりがすぱぱーんと出てきて夢想したりして?
あ、でも年代が…。

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> 外にいたZが陸続と
僅か数分で数十のZに使うには大げさな表現ですが誤用とまでは言えないかな

オレンジ

指揮車両が炎上したあたりからZ版ブラックホークダウンみたいになるのかなーと見てたけどなぶり殺しの貧乏クジは柿本少尉だったか

しかし活字にすると絶望感が半端ないですね

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