大学卒業後、バーテンダーを経てIT業界へ。現在はインテリジェンス ビジネスソリューションズにて、PMとして数多くのプロジェクトに携わる。

第4回 顧客との“すれ違い“をなくす、日々のコミュニケーション術

»

 前回は、顧客目線にたった事前準備がコミュニケーションの質を決める、というお話をしました。しかし日々の仕事では、わざわざ事前準備をして臨む場以外にも、急に先方から電話が来たり、すぐに細かい要件についての確認を取りたいなど、日々さまざまな顧客とのやりとりが発生します。そしてこの何気ない日々のやりとりが、大きなトラブルに発展する、という事例も、意外と多いのです。

 ということで今回は、エンジニアに良く見る事例を見ながら、顧客との日々のやりとりがうまくいくコツを整理したいと思います。

■ケース1

仕様について顧客に確認の電話を入れたところ、当初の要件定義では出ていなかったAという機能を追加してほしいと要望があった。そこで追加開発を行い、追加開発費も請求したところ、費用発生の話は聞いていないので支払いはできないと言われ、トラブルに発展。

 今回のケースは金銭トラブルに発展していますが、そこまで至らずとも、こういった顧客との“すれ違い”トラブルは意外と多いものです。こういったケースを見ると、一番共通して言えるのは、つい顧客の要望に「イエスマン」になってしまうことが多いこと。

 もちろん、顧客の要望にすべて「ノー」と言えということではありません。顧客も、ほしいものを最初からすべて言葉にできているわけではありません。度重なるコミュニケーションから、新しい要望や意見が出てくるのは自然なことで、そこに可能な限り対応していくことは必要でしょう。しかしこれらにその場でイエスかノーかお答えするのは、プロジェクトマネージャですら難しいこと。このようなケースでは「一度確認します」と一息つくことが大切です。

■その場で判断せず「一度確認」を言える勇気を

 「イエス」となぜ言ったのかという原因を聞くと「判断ができないはずのことを判断してしまった」「どう断ればよいかが分からず、断りきれなかった」といった理由が聞かれます。

 「判断ができないはずのことを判断してしまう」というのは、どれくらいの費用や時間がかかり、他への影響が分からなかったりするタイミングで、見込みでOKを出してしまうということ。しかし、その後いざプロジェクトマネージャに報告したら、コストの面でNGだったことが分かった…ということが発覚する可能性もあります。「どう断ればよいかが分からず、断りきれない」というのも、検討すべき論点を整理すれば、おのずと要望を受けられるかどうか、明確な理由が出てきます。

 顧客の要望にすぐ応えたいという気持ちや、その場で解決したいという意欲は分かりますが、まず「一度確認します」といってコミュニケーションを中断させる勇気を持ちましょう。そのうえで、まずはマネージャと相談(第1回を参照)して、一息ついてから顧客に返答をしましょう。一見回り道ですが、手戻りが少なく、双方ともにストレスのないコミュニケーションが取れるはずです。

■ケース2

要件定義後、何度か顧客に連絡したものの「お任せします」と任せてくれる様子だったので、開発を進め、納品のタイミングで顧客に報告。すると「思っていたものと違う」とトラブルに発展。こちらで費用負担し、作り直すことに。

 顧客とのコミュニケーション不足は、システム開発においては一番の問題。エンジニアのモノづくりは、芸術家が自分の表現したいものを自分で作るのとは違い、顧客の要望を実現して、初めて価値を発揮できるものです。要件定義後はほぼ任せていただけたり、あまりエンジニアと話す機会を持たない顧客はいらっしゃいますが、それでも最終決定者は顧客。細かい疑問も自分で判断せずに、都度、確認しながら進めることが重要です。

■コミュニケーションの質を左右する“ツール”の使いこなし方

 その中でぜひ身に付けてほしいのは、電話やメールの上手な使いこなし方です。このツールを場面でうまく使い分けられる人は、顧客とのコミュニケーションも円滑に行えている人が多いと感じます。

 すべて履歴を残したから、とすべてメールでやりとりする人もいますし、メールをいちいち作る時間がもったいない、直接話した方がお互い言いたいことが伝わりやすいと電話を好む人もいます。どちらも一理あります。まずは特性をきちんと見極めましょう。

 メールは、履歴が残ること、論点が可視化され整理できることはメリットです。一方、メールは見落される可能性もありますし、こちらの感情がうまく伝わらない書き方で、誤解を招く恐れもあります。

 電話は、直接話せる分、お互いの主張が理解しやすく、話がスムーズに進みます。一方で履歴が残らないため「言った」「言わない」論争に発展しやすいことや、直接話している分、お互い気軽に「OK」を出してしまいやすく、後でトラブルになる恐れもあります。

■まず電話、メールは議事録代わりに

 私はまずは電話、可能であれば直接お話することをオススメしています。メールでは強固に見えていた主張も、電話すると意外と思いつき程度で言っただけだった…ということもあります。できれば長文メールの往復にならないよう、初期のうちは電話で話し合うようにしましょう。

 次に、顧客の要望や、こちらから顧客に検討してほしいことがまとまり始めたら、電話のあとにメールで簡単な議事をメモして送りましょう。特に長文でなくても、すでに電話しているので、伝わるはずです。これで、長文メールを打つ手間も省けますし、「言った」「言わない」問題も防ぐことができます。

 コミュニケーションにまつわる、良く起きるトラブルやその解決ポイントについて、2回にわたりお話してきました。若いときに顧客とのコミュニケーションがトラウマになってしまったり、30代になって急に顧客との折衝が多くなり、一気に仕事が憂うつになった…という話など、コミュニケーションについての悩みは尽きない問題です。

 しかしこれまで書いてきたように、顧客とのコミュニケーションは、その場での会話力よりも、事前準備や論点整理、ツールの使い分けなど、基本的なポイントを押さえることでずいぶん円滑に行えます。顧客とのコミュニケーションが得意と自負するエンジニアは、ごくわずか(若手の人は特に)。気楽に、うまくポイントを押さえたコミュニケーションで経験値をあげていくことで、あなたのエンジニアとしての強みが、また1つ増えるはずです。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する