第3回 顧客の信用を得るための“2つの視点”
プロジェクトを通して、顧客との折衝はつきもの。定例会議や報告だけでなく、日々のメールや電話など、そのやりとりは意外と多く、プロジェクトを完遂するには不可欠な要素でもあります。
しかし、このやり取りを苦手と感じているエンジニアは多いようです。場合によっては、顧客への報告が原因でトラブルに拍車がかかることも。
ということで、今回からは2回に分けて、顧客とのコミュニケーションにおける失敗と原因、その解決策についてお話します。
― うまく伝えるコツは「準備」にあり ~おしゃべりが苦手でも構わない
エンジニアに顧客とのコミュニケーションにおける悩みを聞くと、「提案の意図が伝わらない」「突っ込まれた質問に答えられない」など、いろんな声が出てきます。ではどうすべきと思うか更に聞くと、そもそもしゃべるのが苦手なので……と悩む声も。
しかしこれは大きな誤解です。「意図が伝わらない」「反論や質問への答えに詰まる」などの原因は、いかにその場の雰囲気を読んで話すかという“おしゃべり”の能力とはあまり関係ありません。これらの悩みのほとんどは、2つの“視点”を持った事前準備を行えば解決することが多いからです。
― エンジニアに足りない2つの“視点”
「失礼な、もちろん準備はして臨んでいる」と思う方もいるでしょうが、今一度、2つのポイントに基づいて、自身のコミュニケーションを見直してみましょう。
(1) 顧客視点 ~「自分が伝えたいこと」より「顧客が知りたいこと」
「顧客視点」とはよく言われる言葉ですが、この視点が欠けた報告現場に良く出くわします。
例えば提案時、あるエンジニアは、システムへ仕様する新技術のメリットを熱弁。障害報告や故障報告の際には、その原因とリカバリ策のスケジュールを報告。説明すべき事項は十分説明したとエンジニアは満足げでも、本当に顧客の知りたいことは、実は何も伝わっておらず、逆に信用を得られず事態が前に進まない……なんてこともよくある話です。
そもそも、顧客はなぜシステム導入をしたいのでしょうか? 顧客は、サービスの質を向上させるために システムを導入します。日々のビジネスへの影響を俯瞰したうえでシステムを語るのが、顧客視点なのです。
提案時、顧客はどんな最新技術を使っているかよりも、システムの導入・進化に伴い、サービスがどれだけ効率化するか、発展するかを気にします。他社と比べてどこが優れているのかも気になるところでしょう。トラブル時は、そのトラブルによって他部署やスケジュールはもちろん、ビジネス全体にどんなインパクトがどの程度発生するか、知りたいのです。
と書いてみると「なんだそんなことか」という感じですが、エンジニアはどうしても「開発者視点」で、“システムの完成”をゴールとして話しがちです。
この視点のズレを理解し、「顧客が一番懸念していることは」「報告先の担当者が、上長に報告をあげる際、どんな情報が必要だろう」など、顧客の不安や知りたい点を押さえた情報を事前準備できれば、顧客が納得できない姿に慌てることも、質問に詰まることも、ぐっと減るはずです。
(2) リスクマネジメントの視点
開発の現場にいると、仕様の変更やスケジュールの遅れなど、トラブルへの直面が避けられないこともしばしば。
もちろん何のトラブルもなくプロジェクトが完遂されるよう、開発当初からあらゆるリスクを想定し、マネジメントすることが理想。とはいえトラブルが起きた際は、原因とリカバリ策を顧客に納得してもらえるコミュニケーションが必須となります。
ところが、慌ててトラブルの原因と対応を報告しに行ったものの、顧客に質問攻めにされ激怒されむしろ事態が悪化……というケースも目立ちます。
こういった原因の1つには、前述した「顧客視点」に立っていないゆえに、顧客が知りたい情報を提供できていないことも考えられますが、もう1つ、トラブル後の対処について、リスクマネジメント視点が足りていないことも挙げられます。
ビジネスにおいて「100%計画通りに実施できる」ことはないと考えるのが基本です(もちろん100%できるよう最大限努力はしますが……)。
ところが顧客への報告時には、多くのエンジニアがリカバリ策を「100%実施できる」前提でお話している。顧客としては、もともとうまくいくと思っていた開発にトラブルが起き、そのリカバリ策も100%うまくいくと説明されても、納得できませんよね。
ですから、リカバリ策を説明する際は、プランにリスクがいかに少ないか、またトラブルが発生しても対応可能であるのかを事前に考え、説明する必要があります。特に配慮してほしいと感じるリスクマネジメントのポイントを、2点にまとめました。
a.工数を具体的に見積もる
どれくらいのコスト(お金、人員、時間)が最大かかるのか、顧客が納得できる具体的な見積もりを出し、プランの正当性を説明できるようにしましょう。複数視点からのシミュレーションを出すのも効果的です。
b.スケジュールに余裕を持つ
私が聞いてもギリギリのスケジュール設定だなと感じるスケジュールを提案する人もいます。ですが、スケジュールは遅れこそすれ、早まらないのが常。スケジュール設定の際、遅延リスクを想定したバッファを加えた計画を立てることで、顧客からの「本当にそのスケジュールで出来るの?」という疑いはなくなります。
トラブル時は兎角焦りがちで、すぐにリカバリしたいという気持ちがはやりますが、顧客としては、確実なリカバリ策を聞きたいものです。今後のリスクも考慮したリカバリ策を提示することが、顧客からの信頼回復にもつながります。
プレゼンテーションも報告も、準備が8割。コミュニケーションでは“うまくしゃべろう”という意識が先行しがちですが、特にビジネスにおいては、必要な情報さえ用意しておければ、伝え方は二の次。2つの視点に基づいた準備で、顧客の信用をつかみましょう!
“顧客とのコミュニケーション”前半は、「しゃべる」ビジネススキルではなく「事前準備の視点」に絞ったものでしたが、後半では、日々の顧客折衝で必要となる「しゃべり」のコツをお伝えしていきたいと思います。