株式会社ジーワンシステムの代表取締役。 新しいものを生み出して世の中をあっといわせたい。イノベーションってやつ起こせたらいいな。

下駄を履いて身の丈以上の仕事をするということ

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 高田善教氏の常駐SEはつらいよ!というコラムを拝見して(まぁ、違法性については時効ということで)、「下駄を履いて身の丈以上の仕事をする」ということについて書いてみます。

 わたしは特に下駄を履くこともなくこの業界に潜り込みましたが、潜り込んでからは下請けですけれど、元請けの大手の名刺で活動していたのですから、下駄を履いていたのも同じなのかな。

 人手不足だったので、身の丈以上の仕事が割り当てられましたが、わたしはチャンスを貰ったと思って、何とか振り落とされないようにがんばってきて(たいしたことはないけれど)、今があります。

 その経験から、身の丈以上の仕事について考えてみたいと思います。

 わたしは上海に1年ほど赴任していたことがあります。ちょうど1995年です。何がちょうどかというと、1ドル80円前後という空前の円高で、ヤオハンが日経新聞に出ない日はないぐらい勢いがあり、中国が注目され始めたころです。

 日本はバブルがはじけて不況に突入していったころですが、円高の時期に海外に行くと、滅茶苦茶強いわけですね。わたしはロスジェネど真ん中ですけれど、運良く美味しいとこ取りをしてきたとつくづく思います(もちろん、狙って美味しいところに行ってます)。

 ガキンチョだったわたしは、上海では仕事らしい仕事は何もしていないのですけれど、いろんな経験ができました。

 例えば、赴任している間に、現地の合同就職説明会みたいなものがあり、求人を出しました。

 中国語で面接ができるわけでもないのに、わたしも会場に見に行きました。当時、日本企業は大変なステータスがありましたから、かなりの応募があり、「わたしは日本語ができる」「わたしを雇わないと損するよ」って人が、たくさん訪れていたのです。

 わたしは会社の制服(つまり作業着です)を着ていたので、まさか日本人とは誰も思わなかったようです。名刺を渡して「じゃあ、日本語で自己紹介してみて」っていうと、相手はタジタジになって逃げ出す。「下駄の履き方が半端じゃないよな~」と思う半面、本当にハングリーで「1%のチャンスでも逃してなるものか!」という意気込みに感心しました。

 当時、わたしは24歳で、工場に1人で住んでいました。他には、日本から工場の技術指導に来ていただいていた方たちがいました。皆さん50代以上で、ホテル住まいでした。

 もちろん、日本から技術指導にいらしている方たちのホテルに行くこともあって、そこでコーヒー(ネスカフェゴールドブレンドで、メニューにも雀巣珈琲と書いてある)を飲んだり、食事を取ったりすることはありました。そこでも、基本的にわたしは会社の制服(つまり作業着です)で、せめて挨拶ぐらいはと覚えた下手糞な上海語(北京語とはかなり違う)をしゃべっていたのです。

 そのホテルに滞在している日本人は常に10~20人は居ましたが、スーツを着ていなくても、高そうなモノを着ていたり、持っていることが多いし、皆さん40歳以上、平均50歳ぐらいだったためか、ホテルに泊まることもしなかったからか、わたしは日本人には見えなかったようです。ホテルの従業員たちはわたしのことを中国の地方から出てきた通訳と思っていたらしい。

 「上海語なんか使っても、わたしたちはあんたなんか相手にしないわよ!」という雰囲気でした。これは東京から大阪に来て、無理に大阪弁をしゃべっている人に対する大阪人の反応に似ています(笑)。

 ところが2カ月ほど過ぎて、日本から技術指導に来ている方が、わたしのことを「日本人で、自分たちが毎日通っている公司(会社)の総経理助理(社長秘書みたいな肩書きになるのかな)」と紹介してしまいました。月給20万円ほどで社長秘書もあったものじゃないのですけれど、おかげでホテルの若い女性たち(みんなかなりの美人)の態度が一変することになります。

 上海といってもはずれの方でかなり田舎だったので、周りに独身で20代の外国人男性はわたし1人でしたし、彼女たちは割と貰っている方でしたが、月収9000円ぐらいだったのですから、もう大変です。日本語を勉強しているというベッピンさんに、ハートになった目ではっきりと言われましたものね。

 「WaOh~! 日本人だったの~! あなたはとってもハンサムになりましたヨ!」って。

 それは文法の間違いにしてはあまりにもリアルで、苦笑しか出ませんでした。今でこそ、腹も出て頭も薄くなった立派なオッサンですが、当時はジャニーズ系(弊社調べ)だったんですけどね……。

 「彼女たちには絶対に手を出さない」と心に誓うきっかけになりました。青臭いガキだったな~。

 それはさておき、日本に生まれたということだけで突然ハンサムになったわたしは、身をもって分かったわけです。

 「日本に生まれたことはラッキーだけど、それは能力じゃない」と。

 現在、否応なしに、中国やインドの会社と競争しなければならない状況になってきました。会社だけでなく「技術者も」です。

 想像してみてください。

 中国やインドの技術者たちが、もし3年も下駄を履かせられて(履かせてもらって)現場に入ったとしましょう。

 当然、自分の身の丈よりも高いスキルを要求されますが、「なんてブラックな会社だ!」と思うでしょうか? おそらく「大ラッキー!」と思うのではないかな。特に、海外に目を向けているIT業界の彼らは、「できるわけがない」と自分の能力を低く見積もるようなことはまずないです。

 もちろん、日本人でもチャンスと捉える人もいるでしょうが、そういう人はどんどん数が減っているように思うのです。

 ハングリーでアグレッシブで、能力の高い海外の人との競争は、気付かないうちに始まっていますが、彼らのように多少の苦労はチャンスと捉えて向かってくる人たちに、日本の若者は勝てるわけがない。

 会社が不正に下駄を履かせることを肯定しているのではないですし、ただの根性論ですが、「3年も下駄を履かせてなんてブラックな……」と思う人はメンタリティで完全に負けています。

 「ブラックな……」と思う人は、ぜひ、「日本人であることは能力である」と勘違いしていないか、最近増えてきた中国やインドの技術者を見て考えてみてください。

 ラッキーであることを利用することは全然問題ないのですが、能力と勘違いするということは危険です。わたしもときどき「日本人であることは能力である」という思いが出てしまうので、自戒も込めて書いてみました。

●おまけ(書かなきゃいいのにホンネです)

 まだ実績のないプロ野球選手が代打で出たとします。そのとき、「相手はエースなのに、俺には無理だよ、監督は何を考えているんだ?」って思う人は、プロ野球の世界では生きていけないでしょう。

 「このエースから打てたら明日の一面は俺のモノ! 監督ありがとう!!」って思って結果を出す人だけが生き残るのです。

 経歴詐称を肯定しているわけではないのですが、一応、社長かつ、技術者の立場でお話しすると、仮に下駄を履かせて派遣するということは、派遣された技術者よりも、会社の方が割に合わない大きなリスクを負うことになります。

 実績のない選手を代打に送って、凡退だったら、選手よりも監督が猛烈に責められる、といえば分かるでしょうか?

 会社は、大きなリスクを承知の上でそのリスクを背負っても、下駄を履かせた技術者に期待を掛けて、「チャンスをモノにして欲しい」と思って送り出すわけです。その下駄とは経歴詐称には限らず、いろんな方法があります。最近では「2カ月ぐらいタダでいいから経験を積ませて」というのもありますよ。会社がリスクを負って無理めの仕事を与え、早い成長を期待するわけです。

 しかし、上にも書いてきましたが、受け取る側の技術者は「チャンスを貰った」と思うタイプと、「ブラックなことに巻き込まれた」と思うタイプとに分かれます。ハングリーな人には前者が多い。ただ、今の若い日本人はハングリーなわりに圧倒的に後者が多く、わたしには理解できません。

 それはさておき、下駄を履かせて派遣した結果、スキルが足らずにうまくいかなかったとします。

 会社は技術者以上に痛手を被ります。

 しかし、「チャンスを貰った」と思うタイプは、「×××はできなかったけれど、△△△までは習得してきました。次は頑張りますから、もう1回チャンスをください」と言えます。

 「ブラックなことに巻き込まれた」と思うタイプは……文句を言って辞めていくのでしょう。

 性格の問題もあるし、そんなブラックな会社が悪いと思うのは勝手です。しかし、これからドンドン競争相手が海外の技術者になっていきますよ。すると実績もない、自分で成長もできない人には、本当に仕事が回らなくなります。

 自分は中国人でも、インド人でもないから、嫌な仕事をガツガツする必要もないと、どこかで思ってないですか?

 つまり、「日本人であることは能力だ」と勘違いしているのではないでしょうか?

 もちろん、嫌な仕事を無理してやることもないのですけどね。

 IT業界は若い業界ですから、他の業界に比べればまだ下克上が通用します。裏を返せば、無理めの仕事も回ってくるし、不安定な業界なのです。安定しているというのは、序列が固定しているということですから下克上はありません。つまり、下っ端はずっと下っ端です。

 「ブラックなことに巻き込まれた」と思うタイプの人は、IT業界に何を求めて来るのでしょう。

 わたしは下克上を求めて来たので、ついつい、みんな下克上を求めていると思ってしまいます。

 「俺と社長を代われ!」くらい言ってくる若者が出てきてもいいのにな~、と思っているわけです。

 本当はブラックでもなんでもないのに、業界に入る前にネットで知識を仕入れてくるから、妙に身構えて結局スキルが付かない、という人もよく見かけます。

 ツライことは当然ありますけれど、この業界に限ったことではないのです。

Comment(6)

コメント

はじめまして、ネタにさせていただいた高田です。

生島さんのコラム拝見しました。

言われる通り、私にはハングリーさが欠けていたかもしれませんね。
代打で使ってもらえたら喜んで打席に向うのがプロなのかもしれません。
ただ、欲を言えばバットくらいは持たせてほしかったです(笑)。
(これも言い訳っぽいかもしれませんね...)

これからもコラム頑張って下さい!
今後とも宜しくお願い致します。

高田 さん、おはようございます。

結局そんな状態でもがんばり抜いたのですから、立派なことだと思います。
ほとんどの人は、単に苦しんだだけで終わりますから。

どうせ苦しむなら苦しんだ以上のリターンを求めたら良いのに、リターンは金だけじゃないのに、それしか見ない人が多いから……。

saki1208

saki1208です。

全く同感です。
自分の裁量のみでこなせる仕事だけやっていてもスキルの向上は望めません。
少し無理しないとこなせないくらいの仕事を続けないと技術者としても人と
しても向上できないと思います。

最近、そんな仕事してないなぁ。orz

saki1208 さん、ども。

フリーでやっていたとき、同じようにフリーの人たちで将来を考えている
人たちは、稼げる仕事は「技術の切売」と言ってたものです。

3年稼いだら(まだ稼げても)「1年は技術習得のため未経験の案件に」って
自ら地雷を踏みに行ってました。

オヤジ臭たっぷりに言ってみれば、
若者の言葉は「自分の将来は会社が守るべき」って聞こえてならない。
それって、社畜まっしぐらの考え方なんですけどね。

九十九

はじめまして、本コラム興味深く読ませて頂きました。
が、これは何とも温い意見と言わざるを得ません。

ブラックな企業というのは実在します。
そしてそれは決して少数ではないという点を良く御理解下さい。
リスクを負うのは会社の方が重い。
果たして本当にそうでしょうか?

経歴を上乗せして仕事をさせてみて
駄目だった。これは使い物にならないと解雇される。
リトライのチャンスなどそもそも存在しない場合も
十分にあり得ます。事実そういう方を数名存じています。

その結果残るのは仕事を短期で解雇されたという経歴上の汚点と
再就職に向けての心理的な重荷だけです。
実績のないプロ野球選手が代打で出た。相手はエース。
なるほど、確かに凡退するのが目に見えていますし
チャンスを掴めば一躍ヒーローです。
では凡退したら解雇。と言う背景が有ったら如何でしょう。
監督は猛烈に責められますが選手は翌日からニートです。
これでもハングリー精神が足りないと仰られるでしょうか。

例えばその様な例に当たる人間は
10人に1人程度だったとしても、10人に1人は確実に当たるのです。
勿論物事には正の面と負の面が有るのは当然。
正の面を注視した方がポジティブにもなれますし人生楽しいです。
ですが、だからと言ってネガティブに考える人間は負け組
と云う表現は些か賛同出来かねます。
最悪を想定して最善を尽くす事が悪いとは私には思えません。

御間違え無き様にお願いしたいものですが
下駄を履いての仕事は「リスク」と「リターン」のある
言わば博打です。ギャンブルにも好き嫌いが有るのと同じで
堅実な人間ほどこの様な博打は嫌うでしょう。
この不景気であれば尚更です。

現在の若い人達はハングリー精神が欠けているのではなく
単に堅実安定指向が強くなっていると考えるべきです。
そして博打は勝てば大きいけれど負けても大きい。
日本人である事は能力ではありませんが、
相対的に余所より多くの物を持っていると言う事ではあります。
持つ者が持たざる者より失う事を恐れるのは
別段何も不思議ではないと思いますが、如何でしょう。

九十九さん、コメントありがとうございます。

日本人はいろんなものを持っています。
そして、日本人は小さい頃から「良い大学を出ればリスクの少ない人生を歩める可能性が高い」ことは、ある程度知らされているほど、教育水準も高いです。

もちろん、良い大学だけがファクタではないですけど、やっぱり良い大学をそれなりの成績で卒業した人は、この世の中でもそれなりにリスクの少ない人生を送っています。
そういう生き方は否定していません。

東大卒なら下駄を履く必要もないじゃないですか。

逆に、下駄を履かないといけないのなら、その時点で何かが足りないのです。
その何かが足りない、身の丈にあった生き方をすることを否定しているわけでもないです。

ただ、ハングリーに上を狙わない人は、下駄を履いてでも追い越してやろうと襲ってきている海外の人たちに負けてしまう。気づいていない人が多いけれど、日本人というだけでかなり高い下駄を履いてるのですよ。
ってことが言いたかったのです。

ちなみに、私は日本が大好きでかなり右よりの人間ですから、外国をことさらにほめるつもりはないし、日本人が多くのリソースを持っていることを否定するつもりはなく、守り通したいと思っています。

負けちゃっても、それが自分の身の丈だからと納得して生きれればよいのですけれどね。

歳をとってから、下駄を履いていたことに気づかずにこけたら大怪我するし、立ち上がれないから、こけるなら早いうちかと思います。

繰り返しますが、リスクのないように受験勉強をがんばるのも、身の丈にあった生き方をするのも、否定しているわけではないのです。

下駄を履かせた側は、「相手がそれを望んでいる」と思っています。
皆さんは高望みはしていないけれど、面接で「高望みをしません、適当に生きれたら良いです」なんていう人はないからね。

ちなみに私は高校しか出てないし、卒業してすぐから5年もフリーターをしてたし、リアルに給食費が払えないほど貧乏でしたけどね(笑)
それで、人生が終わるわけじゃないです。
しかし、過去にサボっていた分、利子をつけて努力しないといけないので大変です。

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