シリコンバレーで現役デバッガやってます。

BUG033 - 「若者よ、自分の決めた道を信じて突き進め」なんて時代はもう終わった

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 こんにちわ。エル紙です。私はカレンダー通りですが、エンジニアライフな皆様、GWはいかがおすごしでしょうか。

 じつはこんど、日本からシリコンバレーに出張で来ている後輩のK君(仮)と会うことになりました。K君はまだ卒業して就職してまだ間もないのですが、私に比べればとてつもなく優秀な青年です。せっかくのチャンスにできれば何か先輩として何か彼の心に響く一言をと思いましたが、なかなか格好いい一言が決められずいろいろ考えたあげく、結局、これだけは絶対に言いたくない!と言う一言を残しておくことにしました。

 それはタイトルの通りですが、「若者よ、自分の決めた道を信じて突き進め」、実は私、こういうのが大嫌いで、これだけは絶対に言いたくありません。

 スポーツ選手とか、アーティストとか、ノーベル賞級の研究者とか、凡人より抜きん出た才能があればそれは言えるかもしれませんが、普通のエンジニアにとってたった一つの可能性に人生を全てかけるということは、実は確率的に割のいい勝負とは言えません。確かに私の周りでも今流行りの人工知能とかFintechとかいった分野でバリバリ働いている人はいますが、必ずしも昔からそれだけをやってきたわけではありません。むしろ日の当たらない頃からコツコツ勉強してきたことがたまたま当たってラッキー!と言えます。

 例えば競馬で言えば、ある日のひとつのレースの単勝に自分の全財産をかけるとか、そういう作戦は当たればいいですが、確率的には非常にハイリスク・ハイリターンなギャンブルといえます。人生トータルでプラスを狙うのであれば、むしろあらゆる可能性に薄く広く同時並行的にかける方が最終的にプラスになる確率は少しですが高くなるのは当然です。

 資産運用の世界であれば、ポートフォリオバランスと呼ばれるもので、株式と債券と貯金に分散するとか、外貨と日本円に分散するとか、リスクを分散することこそが最終的に地味にプラスを狙える最も効率的な王道だと言われます。

 そして自分の人生であれば、人生のキャリアパスを時間的、地理的にリスク分散してあらゆる可能性にそれぞれかけておくというのが、予測が難しい現代では無難な方法であるといえます。「自分の決めた道」を「信じて突き進む」というのは、言うのはカッコイイですが、特に他人の巨額の資産を預かるファンドマネージャにはありえないリスクで、ましてやエンジニアが一回しか無い自分のエンジニア人生をかけてしまうのはあまりにもリスクが高すぎます。

 短期的には現状の仕事が忙しくても、時間軸、つまり中期的に3年とか5年後くらいには次の時代に備えて先を読んで需要が生まれそうな分野の学習を先回りしておくとか、その後10年や20年経ったらどうなのかということも考えて人生設計をする。また、地理的、つまり今は東京で働いていてたとしても、何らかの理由で東京で行き詰まった時に備えて実家の地方ももし帰って働くとしたらどんな働き方ができるのか、常に同時並行的にいつも意識しながら自分の中長期的なキャリアプランを考えてリスクに備えておくということが予測が難しいこれからの時代には重要になるのではないかと思います。

 昔のようにネットのない時代はすべての情報はテレビや紙媒体で集める必要がありました。その頃は本当にその情報が正しいものかどうか調べる方法はほとんどありませんでした。それに対して現在はネット上の情報がふんだんにいつでもあふれていますから、少々時間をとって検索すれば、ほどほどの正確な情報を誰でも簡単に得ることができます。

 私がまだ中高生の頃、日曜日にJRの水道橋駅や丸の内線の後楽園駅を降りると、歩道に「マル秘情報!」とか書いた怪しいのぼりを持ったおじさんがたくさんいました。ネットの無い頃はカネを払ってでも他人より少しでも有利な情報を得て勝負に勝つことが作戦だったかもしれませんが、もはやネットで誰でも同じ情報がタダで瞬時に得られるのですからそんな平和な時代は終わったのだと思います。もう平成も終わりです。ネット時代ではそこはもう競争するラインではないのです。競争は上へ行けば行くほどきつくなるのです。これからの時代は「突き進む」のではなく、時代に合わせて柔軟に身をかわせる生き方のほうが求められるのではないのかと思います。

 さて、K君のエンジニア人生は年金が見えてきた私に比べればまだまだ長い長い道のりです。この先、何がどうなるかまったく予想もつきませんが、なんとか後悔のないエンジニアライフを送って年金までたどりついてもらいたいものです。

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