株式会社D・F・Sに在籍するキャリアコンサルタント。CDA(Career Development Advisor)の資格を取得し、希望を叶えるキャリア構築の支援をモットーとしている。

面接の場でITエンジニアに必要なコミュニケーション能力って何?

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 突然ですが、ITエンジニア(コンサルタント職などを除く)にとって、面接で最も重要視されている「コミュニケーション能力」って一体何だと思いますか?

 わたしが企業の採用担当の方にお会いして求人内容をヒアリングする際、必ず「採用候補者に求めるヒューマンスキルは何ですか?」と訪ねるようにしているのですが、必ず出てくる言葉は「コミュニケーション能力」です。

 「コミュニケーション能力」は本来、「他者とコミュニケーションを上手に図ることができる能力」を意味しており、意思の疎通が明確に成立しているかどうか、が重要です。決して「明るくはきはきと回答することができる」能力のことでもなければ、「自己主張(自己PR)が上手に言える」能力のことでもありません。ましてや「お酒を酌み交わして親睦を図ることができる」能力のことではないわけですので、「どんなコミュニケーション能力が必要ですか?」をお聞きするのですが、なかなか具体的な回答をいただけないのが実情で、はっきりと選考ポイントを意識している会社は非常に少ないようです。

 それでは面接を受ける側はどうでしょうか。良く言われるのが「コミュニケーション能力」≒「プレゼンテーション能力」という考え方です。面接マニュアル本にも必ずといっていいほど書かれています。しかし、ITコンサルタントなど一部の職種においては「プレゼンテーション能力」は最も重要な評価ポイントだと思いますが、一般的なITエンジニアの仕事に於いては、高度な「プレゼンテーション能力」を問われる場面はほとんどありません。

 わたしがキャリアコンサルタントとして活動した11年間での経験則によると、仕事で使用しない能力を面接の場で問われることは極めて稀です。つまりITエンジニアにとって一番大切な「コミュニケーション能力」が面接の場では最重要視されます。わたしはその能力は「ヒアリング能力」だと考えます。 

 「プレゼンテーション能力」に自信がないので、一生懸命予想される質問に対しての回答を考えて準備すればする程、その内容を伝えることばかりに神経を使ってしまい、相手の話には”うわの空”という場面を数多く見てきました。こういった場合の多くは、「プレゼンテーション能力」を問われている訳ではありませんでした。

 ここで注意していただきたいのは、「自分の考えを正確に伝える能力」=「プレゼンテーション能力」ではないということです。コミュニケーションは意思の疎通が重要ですから、当然話を聞いたらそれに回答しなければコミュニケーションは成り立ちませんので、この場で使用している「ヒアリング能力」とは、「自分の考えを正確に伝える能力」を含んでいます。

 ITエンジニアとは本来、技術力と豊富な知識、そして経験が必要とされ、その蓄積された能力を総合的に発揮して、問題を解決していく仕事であり、相手が発信する情報を受容し、入手した情報を過去の経験や自分が持っている知識に基づいて整理し、相手が抱えている問題を解決する方法を提案する仕事でもあります。

 相手の話を漏らさず聞こうというその姿勢が、誠意ある態度へとつながり、顧客からの信頼度も増していく。さらにはプロジェクトチーム内でのコミュニケーションも円滑になり、意思の疎通に誤りがないので、必然的に高いクオリティのパフォーマンスが提供できるようになる、この能力の有無を面接官は見極めようとしています。

 話は突然変わりますが、体調が悪くて病院に行ったとき、いくら権威と知識があっても、患者の話もろくに聞かずに病気を特定して、機械的に処置してしまう「お医者さん」に遭遇したら、貴方は「信頼して身を任せよう」と思いますか?

 口下手だけど、病状の説明を一生懸命聞いてくれて、治療方法について親切に説明してくれる「お医者さん」の方が信頼できると感じませんか?

 わたしは先日お腹が痛くて病院に行ったのですが、症状を少し説明しただけで「ウイルス性の風邪ですね。お薬を出しておきます。」と言われてしまいました。そして「今その病気が流行している」という説明を聞かされました。でも、わたしが聞きたいのは流行の話ではありません。自分自身の病状から病名を特定できるほどの説明はしておりませんので、正直安心感を得ることができませんでした。

 ITエンジニアは顧客にとって、問題を解決してくれるビジネスの「お医者さん」だと思います。ですから、面接において「プレゼンテーション能力」を気にする必要はありません。説明がたどたどしくても、「相手が求めていることは何か」「相手の言っていることは何か」を聞き漏らさないように一生懸命聞いて、誠意を持って応えることが本当にできているのであれば、結果は自ずとついてきます。

 面接が苦手だと思っているITエンジニアの皆様、まずは相手の話の内容を全霊を持って理解するように集中して話を聞き、誠心誠意、正確な回答を親身になって回答する、「ヒアリング能力」を身につけてください。これは才能は必要ありません。誰にでも努力次第で得られる能力です。

 わたしが転職支援をさせていただくエンジニアの方には、書類選考が通過して面接に進まれた際、希望者に「プレ面接」を実施しております。本番の面接と同じことを事前に演習してみることで、どのように「ヒアリング能力」を発揮すればよいのかという問題点を浮き彫りにしてアドバイスをさせていただいております。これでもう面接が苦手だと心配することはありませんよ。

Comment(7)

コメント

ken

聞かれたことに答えられればいいと思うのですが?
面接官は何を期待されているのでしょうか?
逆にコミュニケーション抜群で入社された方が、
どのような活躍をされているのか事例を紹介し、
本人の動画を公開するとか、
何かこちらに示していただけるほうが有意義だと思います。

(株)ポチ

ヒアリング能力と聞くと、「相手の問いを理解し、回答する能力」ではなく「相手の問いだけでは表しきれない、真の問いを出させるために逆に問いかけ聞き出せる能力」のように考えていました。

面接でそこまでの場面に出くわすとはあまり思えませんが、いわゆる実業務において「要件ヒアリング」などに代表される「ヒアリング能力」ってそういうことですよね。(50聞いたら50の理解と50の提案・改善を出せる能力=100の結果)

Jitta

> 体調が悪くて病院に行ったとき・・・
 私の場合、コミュニティで多くの質問を見てきましたが、返答するのに満足できる説明がされていないものも、多くあります。しかし、質問する側は、「それで十分」と思っているようです。見慣れてくると、それでもほぼ適切な回答が返せるようになります。
 医者も、同じではないでしょうか。吐き気がする。下痢気味。風邪症候群のような症状。最初の患者なら、もう少し症状を聞くでしょう。10人からの患者が来るようになると、これらの症状だけで「嘔吐下痢症」を疑えます。また、患者自身が説明する症状だけで判断しようとすると、患者が説明できることは、医者にとって足りていないでしょう。実際には医者は、腸の音を聞いて、のどの腫れを見ているはずです。これらは、患者本人が説明できることではありません。

 白状すると。子どもを最初に連れて行ったときは、同じように思いました。しかし、10年繰り返すと、この季節に熱を伴うおう吐で「これは...」と思うようになりました。

 ところで、ここで「医者」なのは、技術者なのでしょうか。それとも、会社側なのでしょうか。技術者ということでまとめてありますが、私には、会社側のように思われます。営業活動であれば、技術者が医者に例えられると思いますが。医者である会社側が、自分のところで処置できるかどうかを判断するために、患者である技術者に症状を尋ねている、とも言えるのではないでしょうか。

キャリアの優しい止まり木

kenさん、(株)ポチさん、Jitta さん
投稿していただきましてありがとうございました。
お返事が遅くなってしまいまして申し訳ありません。

kenさんへ
ご指摘ありがとうございます。今後の参考にさせて下さい。

ご指摘いただいた内容の方が確かに有意義なのですが
本人の動画などを公開するのは個人情報の観点からも
なかなか難しくって申し訳ありません。

キャリアコンサルタントとして、直接お会いさせて
いただく際にはなるべくご質問いただいたような内容に
ついてお話しようと思います。
具体的に転職をお考えになった際にはぜひご連絡ください。

それと面接官は何を期待しているのかと言いますと
語弊を恐れずに極端に言いますと
「質問者が求めている回答」だと思います。

質問者が「こういった内容について答えて欲しい」と
考えていることについて、確実に回答することは
意外に難しいものです。

例えば「好きな食べ物は何ですか?」と聞かれた際
素材(林檎、牡蠣、牛肉など)を答えるべきなのか
料理名(すき焼、グラタン、刺身など)を答えるべきなのか
それまでの会話によって違ってくる筈です。

(株)ポチさんへ
ヒアリング能力を「相手の問いを理解し、回答する能力」と
定義してしまうのは、確かに乱暴だと思います。
通常は「(株)ポチさん」が言われる内容の方が正しいですね。
「面接の場で必要なヒアリング能力」として捉えていただいた方が
良いのかもしれません。

Jittaさんへ
「医者がどちら側なのか?」ということについては
あまり意識して書いていなかったのですが、指摘いただくと
確かにその通りですね。

このコラム上では、「面接される側」を意識して書いたのですが
実際のビジネスの場となりますと、様々なケースが
考えられると思います。


今後もなるべく投稿していただいた内容については
返信を書きたいと思いますので、今後とも
よろしくお願い申し上げます。

Mizu

「ヒアリング能力」とは相手の伝えたい事を聞き取る能力の事だと思っていました。
記事の中にヒアリングについて「正確な回答を親身になって回答する、「ヒアリング能力」を身につけてください。」とあるのですが、ヒアリング能力に回答する力は含まれていない気がしますが・・・・。私だけの意見でしょうか?

後、「相手の話の内容を全霊を持って理解するように集中して話を聞き、」とありますが、それは聞く態度の事を言っているのでは無いでしょうか?確かに聞く態度も重要ですが、間違って理解していたら意味が無いと思います。相手の話を正確に聞くと言う事も同じぐらい重要で、正確に聞くと言う部分が抜けていると思います。

キャリアの優しい止まり木

Mizuさん
投稿ありがとうございます

おっしゃる通り、通常の日本語であれば「ヒアリング能力」に「回答する」能力は含まれないと思います。

今回は協調するために、国語的には間違っていると思いますが、敢えて記載させていただきました。

それがかえってわかりにくくしてしまったかもしれません。

これからは注意して執筆したいと思います。
ありがとうございました。

キャリアの優しい止まり木

誤字がありましたので、掲載し直させて頂きました。

Mizuさん
投稿ありがとうございます

おっしゃる通り、通常の日本語であれば「ヒアリング能力」に「回答する」能力は含まれないと思います。

今回は強調するために、日本語的には間違っていると思いますが、敢えて記載させていただきました。

それがかえってわかりにくくしてしまったかもしれません。

これからは注意して執筆したいと思います。
ありがとうございました。

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