問題発見と問題解決のプロセス (1):「思考力ゼロ人材の生産」
カレンコンサルティングの世古です。ほぼ3年ぶりとなりますが、あらためてコラムを再開しますので、よろしくお願いいたします。
今回より、数回に分けて、「問題発見と問題解決のプロセス」について書きます。コラム中断のあった3年の間に、国や行政のプロジェクトで地方製造業の事業創出・雇用創造に2年半かかわってきました。今も継続して製造業関連の仕事をしているところもあります。その間、現場において、「こんなやり方をいつまでやっているんだ?」という問題解決や人材育成の場面に遭遇してきました。正直、これは自分にとって、ちょっとしたカルチャーショックでした。
■あり得ん...新入社員が現場の問題を100個解決した!?
あるメーカーでの出来事。なんでも、製造現場のカイゼン系の研修において、付箋紙と模造紙を使って現場の問題解決をしたとのこと。参加者の半数以上が今年入社したばかりの新入社員で、まだわずか入社2か月目。
カイゼンコンサルタントのA氏。「いやぁ、新入社員でもたいしたものですねぇ。何しろ、数時間で問題が100個出て、その解決策まで出てきたんですからね。すぐに問題解決に取り組み、既にいくつも解決しましたよ!」と、研修の効果を得意気に話す姿に正直、呆れてしまった。
新入社員が研修をやることに文句はないし、何か研修で得るものがあれば、それはそれでよいことだ。入社2か月目の新入社員が短時間で100個の問題を発見して、それを解決したことに対して疑問が多い。常識的に考えて、「実務をほとんど知らない新入社員が解決できる問題を放置していた企業が問題である」とも言えなくもない。しかしそれ以上に、出てきた解決策が「頭を使わなくても解決できるような代物ばかりだったこと」と、それを"ヨシ"とするA氏のやり方が、考えることができない人材を育てていると感じたからだ。
■「指導」の行き過ぎが生む「思考力ゼロ人材」の大量生産
地方と首都圏、大手と中小――それは一概に比較はできないものの、企業間競争の激しさ、優秀な人材の獲得しやすさ、問題解決に至るまでのスピードは明らかに差がある。
製造業の現場においては、"管理者"や"監督者"という言葉を聞くことが多く、これは例えば、開発や設計部門におけるハードウェアやソフトウェアのエンジニアが日常的にはさほど耳にしない言葉でしょう。その多くはPM(プロジェクトマネージャー)やPL(プロジェクトリーダー)だったり、課長以上は"管理職"という認識が強いはずだ。
また、製造現場では、特に「指導」という言葉も多く飛び交う。「あいつの指導はBさん担当だ」とか、トラブルが発生した際には「再発しないように指導します」と。
考えてみればよい。ずっと指導され続けたら、どうなるか?
スポーツの一流選手、アスリートとはわけが違う。彼ら・彼女らは指導はされるが、それは一方通行の指導ではなく、選手らに「考えさせる双方向の指導」である。そして、この指導者を"コーチ"と呼び、"ティーチャー(先生)"とは呼ばない。
とかく、「部下育成には指導が大事」が製造現場であまかり通っているが、この「指導」こそが「思考力ゼロ人材」を大量生産する元凶以外のなにものでもないと考えている。
■「学ぶこと」と「教えること」の違い
下図を見てほしい。この元となった記事は、アイティメディア社のEE Times Japanにて2012年から1年半連載した『いまどきエンジニアの育て方』がベースとなり、2016年に出版となった同名タイトルの本で用いているものだ。
4象限のうち、右上の「要求知識、非定型業務比率が高い領域」がエンジニアの仕事領域だ。ここでは「学ぶ」ことが求められる。そのためには自分自身の頭で「考える」ことが欠かせない。
これと対極的になる領域が左下だ。製造系職種の多くが該当する。特に単純労働で作業者(ワーカー)のエリアで飛び交うのが、前述した「指導」であり、ここで重視される人材育成方法が「教える」ことであり、新入社員や若手は「教わる」こととなる。
もちろん、最初はどんな仕事であれども「教わること」から始まるが、自分が驚いたのは、ワーカー領域の問題発見・問題解決力が極度に低いことだ。その原因の1つとなっているものが、先のカイゼンコンサルタントのA氏のような存在であり、問題発見をしたらすぐに問題解決にもっていこうとする。
そう...もう賢明な皆さんはお気づきのことでしょう。
学ぶ(learn)ということは、自らの意志が入るということ。
教える(teach)・教わるは、先生と生徒の関係である。ずっと「指導」をしていたら、生徒は先生を超えることは絶対にできない。
■問題発見から問題解決へ...と、その前に
もう1つ、下図を見ていただきたいのだが、先のA氏が行った問題発見と問題解決はまさにこの図である。
同様に、製造現場で日常化している人材育成や問題解決の基本は、「指導」であり「教える」ことだ。だから、若手の連中は1人で問題解決できないときの言い訳として、「そんなの教わってない」と堂々と言う。それを聞いたベテランが、「少しは自分で考えろ!」と突っぱねるのならまだマシだ。しかり、馬鹿丁寧に「教えてあげる」と問題解決はできるかもしれないが、教わった側の問題解決力はちっとも上がらないのは当然である。これを2年目、3年目とずっと繰り返していると、会社の中はそれこそ、「思考力ゼロ人材」だらけになってしまう。
「思考力ゼロ人材」を生まないために、また、今回は製造現場を例に挙げたが、何も製造現場だけに限ったことではなく、他部門でも当てはまることだ。
第2回以降では、問題発見から問題解決にいたるまでのプロセスで、何が重要かということをお話しよう。
コラムニスト:株式会社カレンコンサルティング / 世古雅人