バラバラエンジニアのプロジェクトマネジメント(2) ~製品コンセプトと青写真~
なんだかんだとバタバタしており、前回から1カ月近く経ってしまいました……と言い訳がましく聞こえますが、ご容赦ください。
第2回は、開発メンバーがバラバラな開発部門をイメージしていただきながら、なぜ、そうなるのかを考えてみましょう。少し、脚色をしたところがありますが、実際の事例です。
■人は理屈通りには動かない
- 製品の全貌を誰もわからない
- 黙々と1人でハード、ソフトの開発を行い、コミュニケーションがない
- 自分の担当領域以外に関心を持たない
- いったんトラブルが起こると責任のなすり合いなどなど
やるべきこと、やらなくてはいけないことは山ほどあるのに、後ろ向きのトラブル対応などは誰もがやりたいものではありません。
なぜ、こういうことが起こるのか考えてみましょう。
よく、「目的を共有する」と言われます。「何のために?」の答えです。製品開発においては、この「何のために?」を実現するために、必要な機能を装備し、どの程度の性能が必要かを仕様書やスペックに落とし込むわけです。
同時に、ゴールイメージも共有します。いわゆる青写真です。青写真を描くだけでなく青写真そのものが、どんな青写真か・どうすれば青写真に到達できるのかを共有することも必要となります。
したがって、PM(プロジェクトマネージャ)たる者の主たる仕事の責務としては、メンバーを束ねることはもちろん、「目的と青写真を描いて共有する」ことは、プロジェクトの初期段階では特に大事な役割となります。
さて、話を戻して、それぞれがトラブル対応時に限らず、自分の立ち位置だけで話をしている状態は、自分の担当する部分の「目的」は自分なりに解釈できていても、この部分を組み込んだ全体の「ゴール(青写真)」を描けていないことがほとんどの原因です。
先輩や上司から「あーだ! こーだ!」と言われても、言われた本人の頭の中で、目的や全体の青写真が腑に落ちていないと、自分の解釈の中で思考ループは閉鎖してしまうので、動こうにも動けない。動いたとしても突拍子もない方向に動いてしまうわけです。
時に気をつけなければいけないことは、この目的と青写真の共有プロセスを省略してしまうPMの下の部下は気の毒なもので、「あいつは分かっていない」と不本意な烙印も押されてしまいます。
■自動車のエアバッグのセンサー
今や自動車にエアバッグの装着は当たり前になりましたが、かつては高級車の一部にしか装備されないものでした。
エアバッグの動作原理はいたってシンプルで、衝撃を加速度センサーにより、ハンドル内に装備したエアバッグを膨らませます。初期のものは高圧にパージした窒素ガスで一気に膨らませるものでしたが、今では火薬で着火し化学反応を利用したものがほとんどです。
預かっているのは人命なので、いかに短時間でエアバッグを膨らませるかもそうですが、どの程度の衝撃が加わった場合に、適切かつ瞬時に膨らませるかにかかっています。
その中で、加速度センサーはかなり小さなものですが、この部品は車がぶつかってからエアバッグを膨らませるまでのプロセスにおいて、最も初期に動作し、動作不良はゼロでなければならない部品でもあります。
そして、この部品は自動車メーカーで直接作っているのではなく、ほとんどがグループ企業や下請け企業が作っています。
ある時にA自動車の下請けで、この部品の製造に関わっているいる人から聞いた話では、「こんなちっぽけな部品でも不良があったら命に係わることだから絶対に手は抜けない」ということを聞きました。同じことをB自動車の下請けの工場で聞いたところ、「この部品が何に使われるかわからないけど、マニュアル通りに作っているよ」ということ。
どちらが目的(=人命を守るエアバッグの大事な部品)と青写真(=不良品を出さない)が、親会社だけでなく、末端の下請け企業まで浸透しているかわかるかと思います。
この違いが何か? ということが重要です。後にこのB社はエアバッグの動作不良で、同センサーを組み込んだ車はリコールが出され、相当額のリコール費用を要しました。
■丹精を込めて作ること
確かに、目の前で作っている部品が、最終的に何に組み込まれてどのような使い方をされるのかを、現場が知らなくともモノは作れます。しかし、「モノには魂が宿る」と昔から言われるように、実際の製品が使われている様子をイメージしながら作る人と、そうでない人の最終的な出来栄えには違いが出ます。いわゆる、「丹精を込めて作る」ということが希薄化しやすくなります。
機械で大量生産できるものでも、これは変わりません。最終的な品質チェックを行うのは人間です。
■エンドユーザー、顧客は誰だ?
エンドユーザーは誰なのか? たとえ、今、目の前にある部品が最終製品の形態になっていなくとも、徐々に部品がアセンブリされていく工程を通じて、製品は形作られていきます。
- いつ(どんな場面で)使われるのか?
- どこで使われるのか?
- どんな使われ方をするのか?
をイメージしながら、信頼性・安全性はどうなのか? 堅牢性・耐久性はどうなのか? 持ち運びする製品であれば可搬性はどうなのか? 使い勝手、操作性なども気にするはずです。
エンドユーザー、すなわち顧客は製品に対してお金を払うので、機能・性能はもちろん、価格も重要なポイントであり、設計者はコストと機能のバランスを取りながら製品ラインアップを考えるわけです。
顧客が見えていない、顧客を意識をしていないと、前回のハード・ソフト・メカがバラバラに好き勝手を言うように、自分たちの目線でしか物事が見えなくなります。
ソフトをハードに組み込んだ段階、単体から結合した段階、機構部品や電気部品を筐体に実装した段階で、あちこち問題が噴出します。
■製品コンセプトを共有していない怖さ
エンドユーザーを意識するのは開発の初期段階で、通常は製品コンセプトを練っている時期から、ハード・ソフト・メカなどの開発者がコンセプトを共有することが望ましいと言えます。
とある大手メーカーの中間管理職であり、今まで多くのプロジェクトを束ねてきたPMでもあるSさんは、自分とはかれこれ8年来のお付き合いですが、ことごとく、開発プロジェクトの成功要因は「製品コンセプトの共有」と言います。
かつて、この会社はコンセプトメイキングはベテラン社員で、今は事業部長クラスになっている人、たった一人の意見で決まってしまい、そのまま製品化会議にかけられて、開発メンバーはただ、決まったことを開発期間に合わせて設計や試作を行うだけです。
顧客や市場の本当のニーズを知ることなく、ある側面では開発に専念していればいいので、楽と言えば楽です。しかし、苦労して開発した製品がなかなかお客様には受け入れられないし、若手の人材も育たない。Planというプロセスを経ないで、Doからスタートするようなもので、彼ら現場の会話からは「お客様」「市場」という言葉が出てきたことはありませんでした。「企画部門が言っていたから」「海外のマーケティング部門から機能要件が出され、それにしたがって開発をした」などです。
「言われたとおりにやりました」ではダメで、
- なぜ、それをやる必要があるのか?
- どのように実現をするのか?
を徹底的にディスカッションし、製品コンセプトを練り上げていくプロセスが大事。この場をさまざまな利害関係者と一緒に共有することで、プロジェクトとしての一体感、チームワークが生まれ、協力体制と一人ひとりの他人事ではない自分事が醸成される。
これはSさんなりに、身に着けたメンバーへの動機づけの神髄のようです。今では、製品コンセプト以上に、若手の育成に注力をしており、メンバーは皆、開発部門でも、会話の中には「市場」「お客様」という言葉が出てくるようになったとのことです。
■青写真の原点は製品コンセプト
製品コンセプトは声の大きいベテラン社員だけで練っても、それが通用するか、ヒット製品になるかは、市場や顧客が決めるもので、作り手の理屈だけでは決して成り立ちません。
先のエアバッグの加速度センサーの会社のように、何に使われるか、正常に動作しなかった時の危険性もきちんと認識をしている。部品が実装されるエンドユーザーの身の安全を考えながら作る現場。
2つ目は、Sさんのように、製品コンセプトの構想初期段階から、開発メンバーをハード屋、ソフト屋という垣根なく関わらせる現場。以前に比べて、自分が・自部門がという主義主張や無責任・無関心もほとんどなくなりました。
いずれの場合も、製品開発のスタートであるコンセプトメイキングと、ゴールイメージであるお客様の使われ方をきちんと青写真として描いているからこそ、お客様に選ばれる製品となります。そして、これらの開発プロセスを通じて、実は人材育成をしていることに、後にSさんは気づきます。そして、大規模開発案件をまとめるPMの神髄だと気づいてきます。
次回は、そんなSさんが行う目からうろこの人材育成と、チームのまとめ方のお話をします。
コラムニスト:世古 雅人
コメント
中島光洋
すべておっしゃるとおりだと思いました。
まさに、XYZ分析、CATWOE分析、FMEA、コーチング手法の充足度だと思います。
ちなみに、コーチング手法は会議などの短期的なゴールのイメージも含みます。
参考)
コンセプトクリエーター 柴田陽子さんの本にはいろいろと重要な事が書いてあります。女性の視点の必要性を強く感じます。