『へんな数式美術館』を脳内探索してみた
へんな数式美術館 世界を表すミョーな数式の数々 竹内薫(著) 技術評論社 2008年7月 ISBN-10: 4774135569 ISBN-13: 978-4774135564 1659円(税込) |
本書は、サイエンスライター竹内薫氏が、氏の専門である物理学とやや近いと思われる「数学の数式」について書いたものである。
コンセプトは「世の中には、実におかしな数式が跋扈(ばっこ)している。そんな面白い数式を料理し、鑑賞する」。ううむ、知的好奇心がそそられる。
※余談だが、竹内氏はJ-WAVEの情報番組「JAM THE WORLD」の金曜担当ナビゲーターとしてもおなじみで、会社帰りによく聞いている。彼のソフトな語り口は、仕事で疲れた頭を癒してくれる。また、最近では経済学者 高橋洋一氏との共著など、幅広く活動している。
■知的好奇心をくすぐる「美術館」を探索する
さて、章立てを見てみよう。書名が美術「館」だから、章でなくて分館だ。
- 第1分館:物理と数学館
- 第2分館:数と数学館
- 第3分館:いろいろ図形館
- 第4分館:無限の不思議館
物理の数式が第一というのは竹内氏の専門だからかと邪推する。やはり説明しやすいのだろう。有名な自然体系式のc=1などがあるからね。
それぞれの項目は互いに独立しているので、興味があるところから読み始めて構わない。とは言っても、他のものと関連がある数式があったりもするので、その際は前後の項目を見返せばよい。
■ボナッチの息子、フィボナッチの数列
再帰でおなじみのフィボナッチ数列の項。
Fn+2 = Fn+1 + Fn ただし、F0=0,F1=1
これはフィボナッチ(ボナッチの息子を意味するとのこと)が考えた「1番(つがい)のウサギが、生まれてから2カ月後から、毎月1番のウサギを生む。1年後にウサギは何番になる?」という問題を表す式だ。この由来は知らなかった。というか、何でこんな命題を考えたのかがそもそも不思議。書籍の中で、竹内氏も「いろいろ調べたが分からない」と述べている。
「本当にそうかな」と思い、6項目までを試算してみた。確かに、番の数がフィボナッチ数列の6項目である13になっている。
フィボナッチ数列の一般項を表す式に、黄金比である1+√5が現れる。黄金比の項目もあるので第三分館の「黄金比」の項をめくってみてもよい。
随所に散りばめられたコラムが、息抜きとして面白い。数学者の生きさまについて書いたものが多い。三次方程式の解の公式のカルダノが残した「ギャンブルをまったくしないことが、ギャンブラーにとっての最大の利益」という名言は興味深い。理論から来たのか? 実践からか? さて。
■感覚的に「?」な式
眺めていて腑に落ちないのが、第4分館「さかさまのp進数」の式。
-1=…99999
確かに、等比級数の和の公式、
1/1-x=1+x+xの2乗+xの3乗+……
から導かれるのは分かる。が、感覚的にどうも腑に落ちない。まるで、狐につままれた気分。理屈は分かるのだが……。
■まとめ
繰り返しになるが、本書はどこから読み始めてもよい。最初から読んで、きっちりしっかり理解しようと思うと、分からない部分があった途端に挫折する。「そのうち分かる」くらいのつもりで読むといい。
第4分館のε-δ(イプシロン-デルタ)法などは、懐かしかった。極限といったらこれだ。竹内氏も苦しめられたのが分かる(詳しくは、「ロビンソンの無限小数」の項を参照)。
本書にはあとがきがない。館長である竹内氏が、どんなふうにまとめるかが楽しみだったので、残念だ(拡散しすぎてまとめようがなかったのか?)。
本書は、ビジネスロジックを考えまくって疲れたエンジニアの、よい気分転換になるだろう。あるいは、本書を読んでさらに頭を疲れさせて、「睡眠リセット」するにもいいかも?
(『30過ぎで5社目でした。』コラムニスト けいいちっく)