「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

常識とルールを上手に捨てる方法―― 『20歳のときに知っておきたかったこと』

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Book3_4 20歳のときに知っておきたかったこと ――スタンフォード大学集中講義

ティナ・シーリグ(著)、高遠 裕子(訳)
阪急コミュニケーションズ
2010年3月
ISBN-10:4484101017
ISBN-13:978-4484101019
1470円(税込み)

言い訳は無意味、専門的に言えばたわ言である(p.193)

■予想しうる道から外れ、常識を疑え。そこから道は開ける

 著者が20歳のときに知っておきたかったことは何か。それは「自分自身に許可を与えること」である。

 著者は、スタンフォード大学で起業家精神を教えている教授だ。彼女の授業を受講する学生たちは「手元の5ドルを2時間でできる限り増やせ」といった課題を与えられ、頭をひねりながら解決策を模索する。

 「常識」や「ルール」にとらわれていては、よいアイデアは生まれない。予想しうる道から外れ、常識を疑い、人生は不確実性に満ちているということを確信したとき、イノベーションは生まれる、と著者は説いている。

 「常識を疑う許可、世の中を新鮮な目で見る許可、実験する許可、失敗する許可、自分自身で進路を描く許可、そして自分自身の限界を試す許可を、あなた自身に与えてほしい」(p.206)

 著者は、これまでイノベーションを起こした人々の具体的なエピソードを紹介しながら、「頭にある思考の枠組み」を外す思考法を紹介している。成功例ばかりというきらいはあるが、役に立つ考え方は多い。以下に記した本書のメッセージから、エンジニアにとって特に役立つと思われる個所をいくつか紹介する。

  • ピンチはチャンスである(第2章)
  • ルールは破るためにある(第3章)
  • 機が熟すことなどない(第4章)
  • 早く、何度も失敗する(第5章)
  • キャリアパスを考えるのは無用(第6章)
  • 開かれた心を持ち、楽観的な人は幸運を呼び込む(第7章)
  • 自分に何かをしてくれた人には必ず感謝を示す(第8章)
  • 及第点に満足せず、常に最高を目指す(第9章)

■人に許可を求めるな、許しを請え

 グーグルの共同創業者 ラリー・ペイジは、「できないことなどない、と呑んでかかることで、決まりきった枠からはみ出よう」と、プレゼンテーションで説いたという。

 世の中には「自分のやりたいことを誰かに許可されるのを待っている人たち」「自分自身で許可する人たち」という、2種類の人間がいる。常識は捨てるためにあり、ルールは破るためにある。ルールは何も分からない人にとっては行動の指針となるが、思考の幅を制限することにもなりかねない。著者は有名なフ レーズを引用する。「許可を求めるな、許しを請え」。

 例えば、「南極でビキニを売る」プロジェクトを担当することになったとしよう。「そんなことできるわけない」といって逃げることは許されない。すると担当者は発想を捨てて、頭をひねる。授業中、このアイデアの実現方法を考えたチームは、ダイエット志望者を南極に連れて行くツアーを考案した。南極の過酷な旅に耐え抜けば、ビキニを着られる体型になっている=ビキニが売れると考えたのだ。

 アイデアを生む際に必要なのは、万能な「アイデアマン」ではなく「これはいけるかもしれない」と考えることである。ブレインストーミングで最もやっかいなのは「そんなことができるわけがない」と頭から決めてかかる人々だ。どんなに最悪そうなアイデアでも、使いものになる可能性を秘めているのである。

■早く、何度も失敗せよ

 アップルの創業者 スティーブ・ジョブズは、30歳の誕生日を迎えた矢先にアップルを追い出された。すべてを賭けていた仕事を失った彼は、人生最大の失敗に落ち込み、シリコンバレーを去ることすら考えたという。だが、結果的に人生最悪の出来事は、人生最良の出来事に変わった。手ひどく失敗したことによってジョブズは自由になり、その後ピクサーを創業してアップルに戻ることになる。

 ジョブズの話から分かるのは、「キャリアは予測不能である」ということだ。多くの人は、「成長は右肩上がりでなければいけない」「時間が経つにつれて堅実に成功していかなければならない」と感じている。しかし、そんなことはありえない。人生は本質的に不確実なものだ。成功するときもあれば失敗するときもある。どれほど偉大な人間であっても、それは変わらない。

 「何度も失敗せよ」と、著者は主張する。なぜなら、成功と失敗は一定の比率で起きるからだ。失敗が多ければ、その分だけ成功する回数も増える。

 失敗は学習プロセスにつきものだ。もし失敗していないとすれば、それは十分にリスクを取らず、十分に挑戦していないからである。「成功はしたいけれど、失敗はしたくない」という都合のいい考えはさっさと捨てて、進んで失敗を受け入れて挑戦せよ、と著者は説いている。

(金武明日香 @IT自分戦略研究所)
Comment(4)

コメント

みながわけんじ

学生のころ友達から「モテる奴ほど、たくさんフラれている」という話を聞いている。それに似ている。

最近のIT不況の影響で資格取得がブームになっているが、若いエンジニアが常識論に染まっていくのを実は私は恐れているのだ。

我々管理職もIT統制の関係でどうしてもルールを破るメンバーは罰せなければいけない状況になっている。

かつてのシステム界では許されたことが、だんだん許されなくなっていくのを感じる今日この頃です。

生島さんが、私の炎上コラムについて、「一般的に否と考えられていることを主張すると炎上する」と書かれていましたが、それを思い出します。彼から「炎上」の言葉をもらうのは最高のほめ言葉ですが・・・

ほまらら

こういう無責任なコラムには腹が立ちますね。

経験は最良の教師である。ただし授業料が高すぎる。
と申します。
挑戦ってのは、そう何度もできるものじゃないです。
失敗してもすぐ立ち直れるような安いチャレンジなら好きにすればいいですが、
全力投入した挑戦が失敗に終わった時のダメージは半端ないです。
そもそも、その失敗の尻拭いを誰がするんですか。
黙ってやるなど言語道断。一発で信用失って、再チャレンジのチャンスは永久にパーです。
挑戦するなら、失敗した時は転職を覚悟してするべきです。
私も、失敗するなら新人の内と思って無茶した時期もありましたが、
所詮は仕事を最後まで完遂する能力もノウハウもなく、失敗を未然に防ぐ手立てもなく、ダメージを最小限に抑える処世も知らぬ若造、
スタート地点でダイナミックに挫折して、見事信用を失いましたとも。
そもそも、一人前に仕事もこなせない新人が独断専行して何をしようってんですか。
後に残ったのは、『あいつは勝手な事をして失敗するやつだ』『細かく管理しとかないと何しでかすか判らん』というレッテルだけ。
職場に居場所も生き甲斐もなくなり、精神をやっちゃって逃げるように退職し、立ち直るまで1年間無職。

私は、ある程度の老獪さを身につけるまで挑戦なんてするもんじゃないと思いますね。
ジョブズは30歳だったから良かったんです。二十歳の子供はホウレンソウをしっかりして先輩に学ぶ事に専念するべきです。
それでもやりたいならご自由に。
ただし、それで何かあっても煽った人は何も助けちゃくれませんよ。

金武@IT自分戦略研究所

みながわさん

>学生のころ友達から「モテる奴ほど、たくさんフラれている」という話を聞いている。それに似ている。

同じ例が、本書でも出ていました。
自由な発想を持っていろいろ挑戦することが、イノベーションにつながるという考え方ですね。
アメリカは、ベンチャー企業を支援する仕組みが日本よりも整っているため、挑戦と失敗ができるのだと思います。

挑戦するには、個人の意識も必要ですが、同時に仕組みも必要だと感じます。
両方があってこそ、イノベーションは生まれるのではないでしょうか。

金武@IT自分戦略研究所

>ほまらら様

ご意見ありがとうございます。
おっしゃるとおり、挑戦においては、失敗をリカバリーする仕組みが重要です。
著者はアメリカ在住のため、日本よりもベンチャーを支援する仕組みなどが整っていると思われる環境下においての話です。
日本では、アメリカのようにはいかないところも多々あることと思います。

コラムにも書いてあるとおり、本書はあくまで「成功事例」を集めたものです。
多くの「語られなかった失敗事例」を念頭に置いて、本書は読んだ方がいいかもしれません。

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