いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

クレーム対応とAI

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機械は人を説得できるか

AIの話を聞いていると、接客分野なんかで活用できるなんて話をちらほら聞く。どこぞの会社が、ディープラーニング云々を活用して、電話での問い合わせに的確な返答ができるようになるとか、そういうソリューションを開発しているとか。東京の某博物館で、人間そっくりのアンドロイドが展示されていたりする。

人によってAIをどう捉えるかは差があるように思うが、一定数、人間の代わりに使うものという認識があるようだ。昔の漫画なんかでも、ロボットが人間の代わりに仕事をしているような描写もあるが、ちょうどあの感覚でAIを見ているのだろう。AIが発展すれば、誰もが納得できる答えを弾き出してくれる・・・なんて思ってる人もいるようだ。

だが、AIがどんなに発展してもそんなことは無いと断言したい。コンピュータがはじき出した答で人が説得できるだろうか。そして、人が納得するだろうか。AIがどんなに賢くなっても、納得できる返答は納得できるし、納得できないものは納得できない。ここら辺は、ある程度はAIで代用できるが、そこを超えたら人がやってもAIがやっても変わらなくなると思う。

どんなに優秀なAIが登場しようと、話を聞かない人を説得することはできない。AIによるコミュニケーションを研究してる人が、このことをどう考えているか知りたいところだ。話を聞かない人を選別して、きっちり「失せろ」と意思表示をするAIであれば有用かもしれない。人が直接言いにくいことをキッチリ言ってくれるのであれば、精神的な負担の軽減が見込める。

人間という抑止力

古来、人類は話を聞かない人にどう対応してきたのか。答は簡単だ。話して分からない人はぶん殴って黙らせていた。少し文明が進んでくると、ある種の取り決めのようなもので対応するようになった。決め事なり、約束だったり、人と人との間で交わす取り決めで解決するようになった。

決め事や約束事が通用するのは、相手が人間だからこそ成り立つと考えている。変なことを言えば相手に変に思われるし、程度によっては何らかの不利益が発生する。人を傷つける発言をすれば、最悪、ぶん殴られる。それが当然のことと認識されているからこそ、人は何を発言すべきかを考える。

相手が人間だと思えばある程度暴言を自重するかもしれないが、相手がAIならどうだろうか。一定数、自重しない人が発生すると思われる。末端に人間がいるインターネットでさえ、匿名性を傘に恥をはばからず暴言をまき散らす人がいる。AIが普及すれば、こういう人間の汚い部分があらわになってしまうのではないだろうか。

そんなことで、AIにクレーム対応をやらせると、むしろクレームがエスカレートすると私は考える。一切を覆い隠さずに発言できるが故に、クレームに勢いが付いてしまう。知らぬ間に炎上してしまい、対応に奔走することになるかもしれない。この見解がどれ程的を射ているかは分からないが、人間がクレームを対応するというのは抑止力としては大きいと思う。

問われるのは手法

クレームの対応となると、AIがやろうと人がやろうと、重要になるのは判断基準だ。クレームを言う人を黙らせたいのか、情報を聞き出したいのか、なだめすかしたいのか。また、クレームを入れる人をどのような人と判断するのか。人間が対応するにせよ、AIが対応するにせよ、この線引きは人間が決めるしかない。

AIでの問い合わせシステムで苦情処理を実装するとしたら、ここら辺で要件定義が混沌として破綻しそうだと思う。複雑なアルゴリズムで人の顔色をうかがう日本人には、苦情処理の要件をまとめるのは難しい。要件定義に関わったエンジニアは、関係者の様々な主張に押しつぶされて苦労しそうだ。

実際、クレーマーを振り分けるアルゴリズムは簡単だ。人を傷つける表現や、蔑む表現を抽出すれば簡単に振り分けられる。だが、そういう明確な敵意を持った人に「失せろ、ボケ!」と言う勇気があるだろうか。明確に敵意を持つ人を切り捨てる勇気の無い人では、一生苦情処理の要件をまとめることはできない。ただ、断ることを恐怖して迷い続けるだけだ。

どんなに優秀な技術者がいようとも、AIが進歩しようとも、決断力の欠けた人の要件はまとめられない。また、実現不能なファンタジーを形にすることもできない。目の前の現実を見据えて、着実に取捨選択しなければシステムは完成しないのだ。AIの可能性を語るより、目の前の現実を見据えて要件に落とし込むのが先だ。

AIが変えるコミュニケーション

問い合わせを人間が対応した場合と、AIが対応した場合では、得られる結果はかなり違うものになると思う。人間が対応する方が、感情的なアプローチに対しては強い。逆に、AIで対応した方が多くのデータが取れることが見込める。どちらに重きを置くかは、それぞれの判断によるところだろう。

個人的には、両方が存在する方が相互作用で進化できると思っている。AIで得たデータを元に分析して、人が対応に活かす。そこで得たノウハウをAIにフィードバックしていくと、すごくよい結果がえられるのではないだろうか。ちょうど、お互いに欠けたところを補いある関係になると思う。

また、AIが普及することで人間の思考にも変化を及ぼすと思う。AIに過剰な要望を突きつけて暴走する人も一定数でると思うが、うまく活用して欲しい情報をうまく引き出すノウハウを構築する人も多くでてくるだろう。イメージとしては、Googleのような検索エンジンの性能が上がることで、多くの情報にアクセスできるようになるイメージだ。

私がAIの発展に希望するのは、対応の自動化による利便性ではない。人のコミュニケーションのアルゴリズムが可視化されて、より円滑なコミュニケーションができるノウハウが構築されることだ。IT技術に便利さや利益追求を求める時代はそろそろ終わって欲しい。IT技術には、自分たちが考えるためのデータの収集という役割を担って欲しい。あくまで進化すべきは人間だ。

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