【プロセスコンサルティング】変革のレバレッジのかけ方とプロセスマネジメント

2012/06/15 11:59:40

  •  関東も梅雨入りになりましたね。ジメジメの季節ですが、組織は風通しを良くしていきたいものです。

 前回『組織とは不安定であればあるほど、発展と成長を遂げる』とお話しました。意図的な“ゆらぎ状態”を作り出すことにほかなりません。

 変革の必要性は、「現状を変えなければならない」という「適度な危機感と緊張感」が組織内に行き渡ってことから感じるものです。

■「2・6・2の法則」~すべての人は変えられない~

 「組織を変える」ことの解釈は、人それぞれ異なります。

【浅い解釈】

  • 上司が変わること
  • 組織の役割が変わること
  • 組織(部門)の名称が変わること など

 ただし、ここでいう「組織が変わる」ことは、下記のとおりです。

【深い解釈】

  • 意思決定のやり方が変わる
  • コミュニケーションのとり方が変わる
  • 人と人の向き合い方が変わる など

 その結果、「仕事のやり方が変わる」。このような状態となることを「組織が変わる」ということです。「1人1人が、どう変わるか」ということがお分かりになるでしょう。

 一般に、組織には「2・6・2の法則」が当てはまります。何かを変えようとしたときに、積極的に自分事として受け止めて動く人が2割、様子を見ている人が6割、ちっとも動かない人が残りの2割ということです。

■変革レバレッジは2割にかける

 図1をご覧ください。

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 組織に属するすべての人を変えることはできないので、組織を変えるためのレバレッジは、まずは積極的な2割にかけます。その際に、この2割の中にも温度差があるので、「何を・どう変えるか?」という、グランドデザインをきっちりと行い、ぶれない軸を定めることが重要です。

 さて、この2割の人材が、すぐに変革リーダーとなるかと言うと、実はそう単純にはいきません。多くは、自分以外の誰かから、「言われる・指示を出される」ことに慣れきっています。加えて、長年、染み付いた「組織の見えないタガ」が個々人の行動を縛っています。すなわち、「思い込みの枠を外す」ことが重要です。

 無意識の間に染み付いているこれら「暗黙の常識」やルールを時代が変わっても、かたくなに守り続けることほど無駄なものはありません。

■「やらざるを得ない環境」と「人から与えてもらわない気付き」

 この時に、2割の人材が変革と自分は関係ないとならないように、そう、当事者にするためには、「関連性を明示すること」と「自分で見出す」という2つが揃わないと、うまくいきません。

 この2つを言い変えると、「自分が困るプロセス」と「気付きのプロセス」となり、変革のプロセスコンサルティングでは、この2つのプロセスを変革シナリオを作るときに、入れ込んでおかなければなりません。

■2割を真の変革リーダーへ

 自らが当事者となった変革リーダーは、最初の「2・6・2の法則」の"はじめの2割"よりも、強力な動きを行うようになります。同時に、残りの6割をキャッチアップするために、こっそりセーフティネットを張れるような動きを取るようになります。

■変革のプロセスマネジメント

 図2をご覧ください。

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 冒頭、書いたように「不安定な状態」の組織には、競争原理が働きやすくなります。安定的な組織のように、のんびりとあぐらをかいているわけではないからです。このサイクルをくるくると回すことで、変革の下地は徐々に組織文化として根付くようになっていきます。

 この領域は難しいので、次回は具体例を挙げてお伝えしていきます。

 コラムニスト:カレンコンサルティング 世古 雅人

意識改革と組織変革のプロセスデザイン

2012/05/07 11:30:15

 前回のコラム(2012年1月)からだいぶ、時間が開いてしまいました。

 それから今まで何をしていたかと言うと、決してサボっていたわけではありません。多少、仕事が立て込んでいたこともありますが、2月以降、新たに連載記事(文末参照)が増えたこともあり、時間が取れずでした。

 そんなブランクはさておき、今回は「組織変革のプロセスデザイン」についてお話します。本読者に多いであろうITエンジニアの方も上級SEやPMなど経験を積むにつれて、メンバーへの動機づけや、さまざまな調整業務が入ってくることでしょう。

 今回お話しすることは、我々のような業務やプロセス系コンサルタントだけでなく、組織や人を動かし変革を促すプロセスをどう設計するかの基礎の領域です。この分野は、学術的には幅も広く奥も深いので、全貌をお伝えすることは至難の業なので、大まかな流れをつかんでいただければ十分かと思います。組織という言葉が何度も出てきますが、プロジェクトのメンバー、自部門の同僚をイメージしてもらうと分かりやすいでしょう。

■イマイチ分からない……「意識改革」

 組織は個の集まりで、個は個人です。一般には組織を変えるためには、まずは個人からとなりがちです。言い換えれば、個人が変われば組織が変わるという理屈です。

 したがって、「まずは個人の意識改革が必要だ!」と企業や組織の中では叫ばれます。それでいて、実のところは「意識改革って具体的にどうすればいいの?」「意識が変わり、何がどう変わるのか?」と現場はほとんどわかっていないことも少なくありません。

 それに、「意識改革が必要だ」と声高々に叫んでいる人に対して、「意識改革が必要なのはアンタだよ……」と思っている部下やメンバーも多いのではないでしょうか?

■意識改革と組織風土改革は違う

 図1をご覧ください。意識改革と組織改革の違いについて示しています。

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 この図では「組織風土改革」と書いているように、働きかけをする対象が「個人を取り巻く環境」と書いていることにご注意ください。それぞれの違いは図中をご覧ください。

 意識改革は「しないよりもしたほうがいい」ことですが、おおよそアプローチとしては、「○×しなければならない」というような危機感をあおるような類です。

 「やばいなぁ、何とかしなくちゃ!」という前向きの意識に変わることと、「意識を変えろ!」と言われるほど、具体的に何をどう変えれば良いのかわからない。“意識を変えたくとも変えられない”こともある後者に対して、危機感をあおっても逆効果です。

 組織風土改革では、"変えたくても変えられない"要因を取り除くことから始めます。この要因は、個人の価値観・人間同士の牽制関係・自発性などです。

 意識改革と組織風土改革の違いがイメージできたでしょうか?

■変革は電子レンジの“解凍”?

 組織への働きかけは実にセンシティブです。組織が硬直化していればなおさらです。

 硬直化した組織においては、一気に変革を行おうとすると拒絶反応が出て、組織は壊れてしまいます。しかし、ほったらかしのままで組織が変わることはなかなかないので、外から刺激を与えてやることが必要となります。

 図2をご覧ください。組織変革の3つのステップを示しています。

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 第1段階では、「変革の必要性の認識」を与えます。これが外からの刺激であるキッカケになります。この時、若干の危機感を入れる場合もありますが、メンバーに若手が多い時には、危機感よりも将来展望などの希望を持たせたほうが良いでしょう。

 この第1段階を「解凍」と呼びます。あたかも電子レンジで食品を解凍するようですが、この最初のステップが肝心なのです。

■わざと組織を不安定にする

 解凍段階で外から与えた刺激、すなわち、「変革の必要性」のキッカケによって、組織は意図的に発生させた“ゆらぎ状態”になります。この状態は組織としては“不安定状態”です。

 一般的な組織論では、不安定な組織ほど発展・成長を遂げます。わかりやすく言えば、できあがってしまった組織と異なり、不安定な組織は不完全でもあるので、組織自身に伸びしろがあるからです。ここに自発性の芽が生まれ、先の組織風土改革で述べた「関係性」の環境が整うと、新しいことにチャレンジをする第2段階、第3段階へと進んでいきます。

 今回は詳細は割愛しますが、次回以降に少し具体的なお話をします。

■次回予告

 「変革のレバレッジ」とどのようにかけるか? をお伝えします。

■おまけ

(1)アイティメディア 「EE Times Japan」(2012年4月~連載中)

 「いまどきエンジニアの育て方」

(2)月刊総務オンライン(2012年2月~連載中)

 「業績に効果が出る新しい組織風土改革の進め方」

(3)技術評論社 「gihyo.jp」(2011年6月~連載中)

 「無関心な現場で始める業務改善」

コラムニスト:世古 雅人

“女子経営者”から見た技術屋さんの問題を見る目 「何の目を持って見ていますか? ~虫の目、鳥の目、魚の目~」

2012/01/20 12:00:00

 今回は、わたくし渡邊清香から見た技術屋さんとそれ以外の人との思考の違いについて感じていることをお話ししたいと思います。

 私自身は自己紹介で述べたように経済学部出身ですが、業務のモデリングUMLを用いながら、製造業の方々や開発部門、技術屋さんと接する機会が多くあります。

「理系の人は、1つつまづくと先に進めない。文系の人は、はじめに大枠をざっくりとつかむ」と聞くことがあります。

 したがって、双方が一緒に問題解決など何か1つのことに取り組むときには足踏みをしてしまうところが異なります。

 理系出身の人が多いロジカルな思考を持つ人は、「ここがなぜこうなるんだろう。ここを解決しないと先に進んでもだめだな」と自分の世界に入り込んでしまい、周りが見えなくなってしまうこともあるでしょう。

 一方、文系や芸術出身でロジカル的思想があまり強くない人からすると、「なんでこんなところで止まるんだ。後から、じっくり考えればいいじゃないか。とにかく今は先に進みたいのに」と感じてしまうこともあるでしょう。

 職場において、このような違いを感じることは、お互い意外なストレスだったりします。

■あなたの今までの勉強スタイルは?

 よく自分で答えを見つけ出したい人っていますよね。

 この傾向が強く持っているのは理系出身者、つまりロジカルな思考を身につけている人に多いと思います。

 理由は簡単。今までの学習スタイルは、答えが必ず1つあり、自分の思考回路で導き出してきたからです。

 これに対し、直観やイマジネーションが強い人の多くは文系やクリエイティブの出身が多く、これらには答えが複数あります。受け手の感性や自分の考えによって答えが異なる分野であるため、答えを見つけ出すというよりも1つの結論を導き出す学習スタイルだと思います。

 この学習スタイルが問題を解決する際の考え方にも大きく影響し、まったく異なるアプローチで問題解決を展開していきます。

 ロジカルな思考を身につけている人の目を「虫の目」とするならば、直観やイマジネーションを大切にする人を「鳥の目」。そして、両者を合わせて全体の流れを見ていくことを「魚の目」ということができるのではないでしょうか。

 以降はこの「3つの目」と関連付けて話を進めていきたいと思います。

■問題を解決する手段は一つか?

 今、目の前で起きている現象に問題が生じ、解決策を考えなくてはならないとします。
このとき、あなたならどこから手をつけますか?

 多くの人は、今起きている現状を調べることから着手すると思います。そして、現状を整理し、問題の原因を突き止めます。次には、それらの因果関係を考え、原因を解決するための対策とそれを実行するまでの計画を作成するでしょう。

 ここまでで、気をつけなくてはならないことがあります。

 それは今起きている問題と原因、解決策が必ずしも1対1ではないということです。

■「虫の目」で問題から原因を導き出す

 ロジカルな思考を持っている人には1つ1つ理解を深め、着実に先に進めていくことは難しいことではありません。むしろ当たり前の考え方でしょう。しかし、直観やイマジネーションが強い人からすると、1つ1つを着実に理解、解明していく「虫の目」を持つことは難しく感じてしまいます。

 しかし、1つ1つの問題を理解し、その原因を突き止めることが真の原因を突き止めることができます。同時に、このような「虫の目」を持っていないと全体を把握する「鳥の目」も間違ったものとなってしまいます。

■「鳥の目」で原因から解決策を導き出す

 洗い出された原因から解決策を考えだすのは、全体を把握しているのとしていないとでは大きく変わってくると思います。ここでいう“全体”とは問題が起きている環境のことを言います。決して、問題や原因のことではありません。問題を起こしている、原因を解決する人や職場のことを言います。

 問題を引き起こしている原因をいくら正しく導き出したとしても、その原因をつぶしていく環境を把握していないと実行不可能な解決策を打ち出してしまいます。

 また、「虫の目」だけでは、部分最適の解決策しか講じることができません。環境を把握し、全体最適を目指すためには「鳥の目」が必要となります。

■「魚の目」で解決策から実行計画を作成する

 解決策を打ち出し、実行していくための計画を作成していく際には、「魚の目」が必要となります。問題と原因、全体を把握した上で考えた解決策をどう実行していくか。環境によって異なる流れに乗せることが重要となってきます。

 ここの流れとは業務の流れを指します。業務の流れを把握するためには、1つ1つを理解する「虫の目」をもつロジカルな思考はもちろん、視野が広い「鳥の目」をもつ直観やイマジネーションも必要となります。なぜならば、業務がどのように流れているのか把握するためには、業務フローを形成しているプロセスと全体フローをきちんと理解していなければならないからです。こうした「魚の目」を持ち、流れに合う実行計画を作成していくことではじめて問題を解決するための実行計画を作り上げることができます。

■事実は1つ。持っている、見ている「目」は多様

 人によって問題解決の思考回路は大きく異なります。緊急度や優先順位が高い問題解決を実行しているときには、自分との異なる思考回路に疑問や苛立ちを覚えてしまうこともあります。そのようなときには、ここで書いたような「自分は今、何の目を持っているのか」、また「相手は何の目を持って見ているのか」を考えてみてはいかがでしょうか。

 「問題解決を見ている」という事実は1つでも、人が持っている目や見ている目はいろいろあります。このことを双方が理解することで、今までにない新たな解決策や考え方が生まれてくると思います。なによりも、自分自身がストレスを感じることなく仕事に向き合うことができるのではないでしょうか。

コラムニスト:渡邊清香

バラバラエンジニアのプロジェクトマネジメント(3) ~プロジェクトは生き物!開発期間・費用を半分にしたSさん~

2011/12/26 11:16:12

 今年も残すところ、あと僅かとなりました。来年もよろしくお願いいたします。

 前回、開発に関わるメンバーで「製品コンセプトから青写真」をきちんと共有することが大事であるとお話をしました。

 自動車のエアバッグの加速度センサーを例に、たったちっぽけな部品1つをとっても、何に使われるのか、正常に動作しなかったら命に関わることだと考えながら、設計をする・組み立てることがいかに重要であることなのか、エンドユーザーを常に意識ながら、丹精込めて作り上げることが「モノには魂が宿る」と言われる所以でもあります。

 ハード屋、ソフト屋、メカ屋のやたら自己主張が強く、プロジェクトとしてもバラバラでまとまりがなく開発もいつも遅れ気味だったチームを、プロジェクトリーダーとして見事にチームをまとめあげて、いち早く製品を市場に投入し成功を収めた。そのSさんが何をやったのかを、今回はご紹介します。

■開発期間、開発費用ともに半分でやれ!

 「製品コンセプトの共有が大事」と今も言い続けるSさんは、メーカーの開発部門の管理職です。自らもまだ第一線で設計業務に携わっています。部下育成にも熱心で、仕事の後も部下を誘って、大好きな日本酒を飲みながら、部下の良き相談相手になることもしばしばです。

 Sさんの部門が開発する製品規模は年を追うごとに大きくなってきました。ハードのスペックだけではなく実装ソフトの高機能化、機構部品の高信頼・高耐久性化など、理由はさまざまです。
 加えて、市場の競争はより激化し、マーケットニーズを素早くキャッチし、タイムリーに市場に製品を投入することが求められます。おのずと開発期間の短縮化は必須です。

 このSさんが新たに開発のプロジェクトリーダーを務める新製品プロジェクトに最初に課せられた命題は、「従来1年かかっていた開発期間を6カ月で行え!」というものでした。

■常識的に考えると「できるわけがない」

 よく、ソフトウェア開発の工数見積で「○人月」という考えを頭に描いてしまうと、同じ開発規模として、開発期間が半分でやれとなると単純に、「2倍の人が必要です」となります。Sさんも最初は倍の開発リソースが必要だなと考え、経営層に掛け合いましたが、返事は開発期間短縮だけではなく、「開発費も削減で従来の半分で行うように!」と、余計なおまけまでもらってきてしまいました。したがって、メンバーの追加もあり得ないとのこと。

 開発会議ではこんな予定ではなかったのになと思いながら、今回のプロジェクトが「開発期間、開発費用ともに半分」とプロジェクトメンバーに伝えたら、大ブーイングが起こるだろうと予想していました。なにしろ、昨今の不景気の影響もあり、開発現場には時間短縮のあおりで残業規制がかかっています。時間短縮であっても、仕事が減るわけではないので、サービス残業をしながらしのぎを削ってきたわけなので。

 「開発期間が半分の6カ月に、人は今のままで増えない、費用は半分で実現する」

 現場はすんなりと受け入れてくれるでしょうか?

 受け入れてくれたとして、はたして実現できるのかも心配です。

■プロジェクトは生き物である

 このSさんは、製品開発に必要なスキルや知識は当然、重視します。しかし、最も重要視するのは「人」であり「チーム」です。若手の育成、チームとしての成果を大事にする人です。

 Sさんの口癖は「プロジェクトは生き物だ。プロジェクトを構成する人により、どうにでも変わりゆく性質を持っている」です。長年、多くの難題プロジェクトに関わりながらも成功に導いてきたSさんの言葉だけに、シンプルな言葉の中に秘められた何か大切なものがあるようです。

 人が大事なことは、言われなくてもわかっているよ!と言う読者のかたも多いことでしょう。しかし、人を大事に丁寧に扱ったからといって、十分に能力を発揮し、素晴らしい製品を作ってくれるかどうかとなると、そんな単純なものではないはずです。

 生き物には息吹きがあるように、Sさんがこのプロジェクトにどのように魂を入れていったのかをお話します。

■最初は主義主張ばかり

 もともと、Sさんの開発部門は主にソフトウェア設計部隊で、そのほとんどが組込みです。他にハード設計を行う部門と、メカ・駆動系の設計を行う部門があります。わかりやすくするために、「ソフト屋」「ハード屋」「メカ屋」と呼びます。

 プロジェクトの総勢は外注の協力会社を入れると50名近くになるものです。皆、それぞれ一癖も二癖もある連中です。全体の打合せにおいても、自部門の主義主張ばかりで、これまでも建設的なディスカッションができた例がありません。

 「そんな仕様じゃできないよ」「だから、相談しているのに、そんな言い方をするならいいよ」と、普段からお互いに仲が良くないので、開発期間は半分・費用も半分ということを話したら、火に油を注ぐようなもので、その怒りの矛先は全部、Sさん自身に向かうことも予想していました。

■ビジョンを作り「軸を共有」

 なんとなく先が思いやられそうなSさんですが、最初に行ったことがプロジェクトビジョンを作ることから始めました。

 なぜ、この製品が必要かをプロジェクトの核となるメンバーだけで決めるのではなく、全員で決めるというやり方を取りました。当然、最初は自部門の主義主張が強いメンバーばかりなので、そうすんなりとはいきません。まして、メンバーも50名近くいます。

 そこでSさんが行ったこと。まずはチームづくりを最優先し、このプロジェクトで何を目指すのか、1人ひとりの思いを語ってもらい共有しました。

 これは当社でもよく似たやり方を行いますが、「軸を共有する」ということに他なりません。軸がぶれたら、都度、仕切り直しが必要となるので半年で開発を終えることなど到底無理だとSさんは考えたからです。

 「ぶれない軸を作る」ことは、軸が共有できていれば、開発途中で問題が発生したり迷いが生じても、「最初はこうだったよね!」と原点の立ち位置に戻ることができます。

 このプロジェクトビジョンはプロジェクトが終了するまで、模造紙に書いて、開発現場の壁に張っておきました。

■コンセプトづくりに徹底的に時間をかける

 次に取りかかったことは、製品コンセプトを作ることです。

 今まではマーケッティング部門からの要求をそのまま鵜呑みにして、いきなり製品に搭載する機能を決めて、仕様も決めていました。

 したがって、開発部門としては技術者の冥利で、ついついオーバースペックのものを作ってしまったり、お客様がほとんど使いもしない機能を盛り込んでしまったりすることも少なくありませんでした。結果、開発工数やコストもかさみます。

 Sさんが過去の開発事例を丹念に調べてわかったことは、開発日程に遅れが生じる要因は、基本的な仕様のミス解釈や出来・不出来ではなく、オーバースペックや過剰機能によるものが原因でした。

 要は、Sさんは開発者がお客様や市場のニーズを、自分自身で咀嚼し切れていないということを問題視し、核をきちんと固めるために製品コンセプトを、開発者自らで作ることに徹底的に時間をかけることにしました。

 誰かが作った、上から落ちてきた製品コンセプトではなく、自分たちで考えた製品コンセプトをまとめあげるプロセスに時間をかけ、開発プロセスの中に挿入することで、先のプロジェクトビジョンである「軸」はより強固なものとなるわけです。

■コンセプトづくりを通じたイノベーションを生む仕掛け

 コンセプトづくりも先のビジョンと同じで、全員で行います。

 表現も自分たちの言葉が少しでも生のまま残るようにします。こうすることで、「あれ、僕の言ったところ」「私が考えたもの」と、人のものではなく自分のものとして受け止めることもできるようになります。

 少し話が飛びますが、イノベーション(革新)とは急に生まれるものではありません。また、たった1人の天才が生み出すものでもありません。そして、たった1人でイノベーションを実行できることもありません。

 仲間が必要で、仲間のコミットメントを得ながらリーダーがまとめあげて実行していくものです。そこには「腹に落ちるプロセス=納得するプロセス」が必須です。

 Sさんはコンセプトづくりを通じて、納得するプロセスを作り出すことを行っていたわけです。他人事ではなく、自分たちのプロジェクトであるという動機づけをしたことに他なりません。

■プロセスを共有することの一体感

 先のビジョンづくりとコンセプトづくり。この時間に実に2カ月近くを費やしました。周りからすれば、いつもみんなで集まって何かやっているなと思いながら、なかなかプロジェクトが進展している様子でもないしと思っていました。同時に、どうせ半年で開発なんて、できっこないじゃんと決めつけている人も、メンバー以外にいたかもしれません。

 ここでポイントとなることは、先のビジョンやコンセプトはSさんからメンバーに落としたものではないことです。自分たちがどうしたいか?を考えて、作り上げるプロセスをメンバーで共有しているということです。

 この理屈は単純です。人は決定事項を告げられて、「はいそうですか」と素直に受け入れられるものではありません。きちんと途中の過程にも参画し、見聞きしながら、そこに少しでも自分の言葉や考えが反映されていると、強力な動機づけとなります

 皆さんも学生時代に学園祭や体育祭などで、クラスみんなで1つの目標に向かって、何かを製作したり、放課後遅くまでクラスメイトと一緒に時間を過ごしたかたもあることでしょう。その時にどんな効果があったかを思い出してみてください。 出来上がった時の達成感も一際でしょうし、取りかかった後では「一体感」がより強くなったという経験をお持ちの方もいることでしょう。

 このようにプロセスを共有することは、組織論で言うところの「チームビルディング」の1つの方法論です。当社も「プロセス共有型コンサルティング」とうたっていますが、現場の参画意識やモチベーションを高める、当事者意識を醸成するためには、プロセスを共有するということはとても重要です。「やらされ感」もほとんど発生しなくなります。

■急がば回れ!

 かなり遠回りをする開発プロジェクトのように見えますが、、具体的な課題がある中で、常識的に行ったら絶対にできそうにない、今回の開発の例で言えば、開発期間が間に合わない開発費用もオーバーしてしまうという時など、場面によらず高い効果を出します。これは我々の経験則からも全く同じことが言えます。

 こちらも理屈はシンプルです。最初から仲たがいしている者同士で、一緒に仕事をしてもトラぶるのは目に見えています。プロセスを共有し、作り上げるという共同作業を通じて一体感を作り出す。別の見方をすれば、Sさんはプロジェクトをダシに使って、組織づくりと人づくりもしていたわけです。

 「急がば回れ」という諺がありますが、開発期間が短く急いでいる時だからこそ、省略してはいけないプロセスであると我々もSさんも考えています。

■開発コスト、コミュニケーションの見える化

 もう1つ、開発コストの半減もテーマです。

 何をやったかと言うと、開発コストの見える化です。表計算ソフトでカッコ良く作ったものではなく、かなりアナログ的な手法で、模造紙と付箋紙の世界です。

 製品構造はこう、そこにはこんな機能があり、この機能を実現するためにはいくらかかっているか?「機能 vs.スト」チャートのようなものを作り、それがお客様や市場が要求するレベルに達しているか、技術者の思い込みでオーバースペックになっていないかなどを徹底的にディスカッションします。

 この行為を通じて、積極的なコミュニケーションも図ることができます。最初は仲が悪かった部門同士でも、この頃になるとハード屋だけで実現できない要求機能は、ソフト屋とも仕様書を作る前に相談しながら進めるという、今までの開発手法とは違う動きが出始めます。そこにメカ屋が加わることもあります。

 細かなことは割愛しますが、部門間を行き来するものは図面や仕様書だけでは、無機質ですよね? モノはできるかもしれないですが、何かトラブルが発生した時には「うちは正しい、そっちが悪い」となるわけですから、最初から総動員しておけばいいわけです。トラブルシューティングの時間も極端に短くなります。 

■過去最速、最低開発費で実現

 これら、さまざまな仕掛けを行いながら、Sさんがリーダーを務める製品は、過去最速、最低の開発費で商品化を実現しました。

 現在、この製品は競合他社の追従を許さずダントツ1位となっています。

 開発に関わるメンバーも達成感が高いことはもちろん、誇れる製品開発に携わることができたと言っています。社内の他部門の開発部門からは、このプロジェクトがなぜ成功したのかを学ぼうと、Sさんに聞きに来ます。

■プロジェクトを生かすも殺すもあなた次第

 最初はバラバラのエンジニア集団を、新製品開発プロジェクトで見事に1つにまとめあげたSさん。技術も面白いですが、人と組織は明確な正解がないので面白いですねと話していました。

 「プロジェクトは生き物」だと言っていたSさん。 実際には、本コラムでは書き切れないほどの、小さな仕掛けをあちこちに仕掛けています。

 バラバラエンジニアのプロジェクトマネジメント。プロジェクトという生き物を活かすも殺すもあなた次第です。人は理屈では動かず、共感・共鳴して始めて動く。強制力では決して良いものはできないという教訓でもあります。

 さて、次回は2012年1月の予定です。良い年末年始をお迎えください。

コラムニスト:株式会社カレンコンサルティング 世古 雅人

バラバラエンジニアのプロジェクトマネジメント(2) ~製品コンセプトと青写真~

2011/11/04 11:17:44

 なんだかんだとバタバタしており、前回から1カ月近く経ってしまいました……と言い訳がましく聞こえますが、ご容赦ください。

 第2回は、開発メンバーがバラバラな開発部門をイメージしていただきながら、なぜ、そうなるのかを考えてみましょう。少し、脚色をしたところがありますが、実際の事例です。

■人は理屈通りには動かない

  • 製品の全貌を誰もわからない
  • 黙々と1人でハード、ソフトの開発を行い、コミュニケーションがない
  • 自分の担当領域以外に関心を持たない
  • いったんトラブルが起こると責任のなすり合いなどなど

 やるべきこと、やらなくてはいけないことは山ほどあるのに、後ろ向きのトラブル対応などは誰もがやりたいものではありません。

 なぜ、こういうことが起こるのか考えてみましょう。

 よく、「目的を共有する」と言われます。「何のために?」の答えです。製品開発においては、この「何のために?」を実現するために、必要な機能を装備し、どの程度の性能が必要かを仕様書やスペックに落とし込むわけです。

 同時に、ゴールイメージも共有します。いわゆる青写真です。青写真を描くだけでなく青写真そのものが、どんな青写真か・どうすれば青写真に到達できるのかを共有することも必要となります。

 したがって、PM(プロジェクトマネージャ)たる者の主たる仕事の責務としては、メンバーを束ねることはもちろん、「目的と青写真を描いて共有する」ことは、プロジェクトの初期段階では特に大事な役割となります。

 さて、話を戻して、それぞれがトラブル対応時に限らず、自分の立ち位置だけで話をしている状態は、自分の担当する部分の「目的」は自分なりに解釈できていても、この部分を組み込んだ全体の「ゴール(青写真)」を描けていないことがほとんどの原因です。

 先輩や上司から「あーだ! こーだ!」と言われても、言われた本人の頭の中で、目的や全体の青写真が腑に落ちていないと、自分の解釈の中で思考ループは閉鎖してしまうので、動こうにも動けない。動いたとしても突拍子もない方向に動いてしまうわけです。

 時に気をつけなければいけないことは、この目的と青写真の共有プロセスを省略してしまうPMの下の部下は気の毒なもので、「あいつは分かっていない」と不本意な烙印も押されてしまいます。

■自動車のエアバッグのセンサー

 今や自動車にエアバッグの装着は当たり前になりましたが、かつては高級車の一部にしか装備されないものでした。

 エアバッグの動作原理はいたってシンプルで、衝撃を加速度センサーにより、ハンドル内に装備したエアバッグを膨らませます。初期のものは高圧にパージした窒素ガスで一気に膨らませるものでしたが、今では火薬で着火し化学反応を利用したものがほとんどです。

 預かっているのは人命なので、いかに短時間でエアバッグを膨らませるかもそうですが、どの程度の衝撃が加わった場合に、適切かつ瞬時に膨らませるかにかかっています。

 その中で、加速度センサーはかなり小さなものですが、この部品は車がぶつかってからエアバッグを膨らませるまでのプロセスにおいて、最も初期に動作し、動作不良はゼロでなければならない部品でもあります。

 そして、この部品は自動車メーカーで直接作っているのではなく、ほとんどがグループ企業や下請け企業が作っています。

 ある時にA自動車の下請けで、この部品の製造に関わっているいる人から聞いた話では、「こんなちっぽけな部品でも不良があったら命に係わることだから絶対に手は抜けない」ということを聞きました。同じことをB自動車の下請けの工場で聞いたところ、「この部品が何に使われるかわからないけど、マニュアル通りに作っているよ」ということ。

 どちらが目的(=人命を守るエアバッグの大事な部品)と青写真(=不良品を出さない)が、親会社だけでなく、末端の下請け企業まで浸透しているかわかるかと思います。

 この違いが何か? ということが重要です。後にこのB社はエアバッグの動作不良で、同センサーを組み込んだ車はリコールが出され、相当額のリコール費用を要しました。

■丹精を込めて作ること

 確かに、目の前で作っている部品が、最終的に何に組み込まれてどのような使い方をされるのかを、現場が知らなくともモノは作れます。しかし、「モノには魂が宿る」と昔から言われるように、実際の製品が使われている様子をイメージしながら作る人と、そうでない人の最終的な出来栄えには違いが出ます。いわゆる、「丹精を込めて作る」ということが希薄化しやすくなります。

 機械で大量生産できるものでも、これは変わりません。最終的な品質チェックを行うのは人間です。

■エンドユーザー、顧客は誰だ?

 エンドユーザーは誰なのか? たとえ、今、目の前にある部品が最終製品の形態になっていなくとも、徐々に部品がアセンブリされていく工程を通じて、製品は形作られていきます。

  • いつ(どんな場面で)使われるのか?
  • どこで使われるのか?
  • どんな使われ方をするのか?

をイメージしながら、信頼性・安全性はどうなのか? 堅牢性・耐久性はどうなのか? 持ち運びする製品であれば可搬性はどうなのか? 使い勝手、操作性なども気にするはずです。

 エンドユーザー、すなわち顧客は製品に対してお金を払うので、機能・性能はもちろん、価格も重要なポイントであり、設計者はコストと機能のバランスを取りながら製品ラインアップを考えるわけです。

 顧客が見えていない、顧客を意識をしていないと、前回のハード・ソフト・メカがバラバラに好き勝手を言うように、自分たちの目線でしか物事が見えなくなります。

 ソフトをハードに組み込んだ段階、単体から結合した段階、機構部品や電気部品を筐体に実装した段階で、あちこち問題が噴出します。

■製品コンセプトを共有していない怖さ

 エンドユーザーを意識するのは開発の初期段階で、通常は製品コンセプトを練っている時期から、ハード・ソフト・メカなどの開発者がコンセプトを共有することが望ましいと言えます。

 とある大手メーカーの中間管理職であり、今まで多くのプロジェクトを束ねてきたPMでもあるSさんは、自分とはかれこれ8年来のお付き合いですが、ことごとく、開発プロジェクトの成功要因は「製品コンセプトの共有」と言います。

 かつて、この会社はコンセプトメイキングはベテラン社員で、今は事業部長クラスになっている人、たった一人の意見で決まってしまい、そのまま製品化会議にかけられて、開発メンバーはただ、決まったことを開発期間に合わせて設計や試作を行うだけです。

 顧客や市場の本当のニーズを知ることなく、ある側面では開発に専念していればいいので、楽と言えば楽です。しかし、苦労して開発した製品がなかなかお客様には受け入れられないし、若手の人材も育たない。Planというプロセスを経ないで、Doからスタートするようなもので、彼ら現場の会話からは「お客様」「市場」という言葉が出てきたことはありませんでした。「企画部門が言っていたから」「海外のマーケティング部門から機能要件が出され、それにしたがって開発をした」などです。

 「言われたとおりにやりました」ではダメで、

  • なぜ、それをやる必要があるのか?
  • どのように実現をするのか?

を徹底的にディスカッションし、製品コンセプトを練り上げていくプロセスが大事。この場をさまざまな利害関係者と一緒に共有することで、プロジェクトとしての一体感、チームワークが生まれ、協力体制と一人ひとりの他人事ではない自分事が醸成される。

 これはSさんなりに、身に着けたメンバーへの動機づけの神髄のようです。今では、製品コンセプト以上に、若手の育成に注力をしており、メンバーは皆、開発部門でも、会話の中には「市場」「お客様」という言葉が出てくるようになったとのことです。

■青写真の原点は製品コンセプト

 製品コンセプトは声の大きいベテラン社員だけで練っても、それが通用するか、ヒット製品になるかは、市場や顧客が決めるもので、作り手の理屈だけでは決して成り立ちません。

 先のエアバッグの加速度センサーの会社のように、何に使われるか、正常に動作しなかった時の危険性もきちんと認識をしている。部品が実装されるエンドユーザーの身の安全を考えながら作る現場。

 2つ目は、Sさんのように、製品コンセプトの構想初期段階から、開発メンバーをハード屋、ソフト屋という垣根なく関わらせる現場。以前に比べて、自分が・自部門がという主義主張や無責任・無関心もほとんどなくなりました。

 いずれの場合も、製品開発のスタートであるコンセプトメイキングと、ゴールイメージであるお客様の使われ方をきちんと青写真として描いているからこそ、お客様に選ばれる製品となります。そして、これらの開発プロセスを通じて、実は人材育成をしていることに、後にSさんは気づきます。そして、大規模開発案件をまとめるPMの神髄だと気づいてきます。

 次回は、そんなSさんが行う目からうろこの人材育成と、チームのまとめ方のお話をします。

コラムニスト:世古 雅人

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コラムニスト プロフィール

カレンコンサルティング
世古雅人&渡邊清香
株式会社カレンコンサルティング
代表取締役、取締役
開発・技術から組織・人事まで、「やらせ・やらされの改革」ではなく社員の主体性を引出していく、現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルで進めていきます。
著書「上流モデリングによる業務改善手法入門」(技術評論社)

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