「人と組織」という切り口で、経営と現場の課題解決についてカレンコンサルティングが分かりやすくお伝えしていきます。

バラバラエンジニアのプロジェクトマネジメント (1)

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 前回は自己紹介でした。場面は一転して開発現場になります。今日から数回にわたり、製品開発におけるチームビルディング、コミュニケーション、プロジェクトマネジメントについて、一緒に考えていきましょう。

■バラバラエンジニア集団……僕は猛獣使いじゃない!

 Aさんはメーカーのハードウェアエンジニアです。

 新卒で入社して早10年。ハードもソフトも一通り経験し、この度、次期新製品開発のプロジェクトマネージャ(以下、PM)に抜擢されました。製品規模が大きく、ハード・ソフト・メカの各部門だけでなく、ソフト開発の外注・協力会社も含めると総勢100名近くになる大プロジェクトです。

 表向きのAさんはやる気満々ですが、内心、不安もあります。開発の一担当者として携わっていた頃から、先輩社員のPMが何かと手を焼いていたのも目の当たりに見てきています。

 それはなぜかって?

 Aさん、やったとばかりに、よくぞ聞いてくれました……みな、自己主張が強く、言うことを聞かないバラバラエンジニア集団だから。

 心の中で叫びます――「僕は猛獣使いじゃない!」。

 ですが、もうプロジェクトは離陸寸前で逃げるわけにもいきません。せっかくのステップアップのチャンスかもしれません。

 あなたがAさんなら、どのようにこのプロジェクトを成功に導きますか?

■誰も製品の全貌を理解していない

 次期新製品は、1年後の商品化がすでに決まっています。製品そのものは、現在、自社ラインアップ機種のハイエンド版です。マーケティング部門からの要求には膨大な機能要求が溢れんばかりですが、技術的には目新しいことを導入しなくとも実現できそうです。

 とはいえ、製品機能が大幅に増えた割には開発期間が短いこともあり、ハードもソフトも大人数を投入せざるを得ません。それぞれの担当者は自分が開発するボードや、ソフトモジュールは役割分担としてはわかっています。

 しかし、Aさんが問題視していることは、誰も製品の全貌なんて分かっちゃいないってことです。わからないだけはなく、自分の担当部分以外には関心を示さないという姿勢も気がかりです。

 Aさん自身、昔を振り返りました。

 以前は製品規模も小さかったため、仕事の任される範囲も広くて、自然に製品の全貌は見えてきたのになぁ。今はどうしてこうなってしまったんだろうと考えてみても、今すぐに明確な答えは出てきそうにありません。

■開発前から失敗が目に見えている

 そう言えば、先輩PMも言っていたなあ……。

 「個別のボード単位、モジュール単位では機能はちゃんと実現し、性能も出ているのに、いつも結合してからあちこち不具合が見つかる」

 「皆、決していい加減に仕事をしているわけでもなく、自己主張は強いものの、そこそこ優秀だよ」

 「プライドも高い。職人みたいなもので、個人プレーばかりでチームプレーにならないんだよ」

 早くも、今回のプロジェクトも同じ落とし穴にはまりそうな予感がします。

 先輩はどうやって、チームとして彼らをまとめたんだろう? 知りたい。

 Aさんの興味は、専門のハード、ソフト以上に、人や組織にシフトしてきました。

■開発にコミュニケーションが要らなくなった?

 製品規模が大きいから1人ひとりの担当は細分化される――素直に考えれば当たり前の話です。

 今や、ハード設計やある程度、仕様が決まれば設計段階で、PC上でそこそこシミュレーションができてしまいます。それでも、事前に実験や試作回路を作製して検証する人もいますが、数そのものは全体として少なくなってきています。

 著者自身がハードウェア設計者として、回路設計に長年従事していたのでわかるのですが、いくらシミュレーションを入念に行っても、実装状態で予期せぬ動作をすることは珍しくありません。その時に、バラックであれ、試作で手作りのボードをつついていると、「おー、なんか面白そうなことやってるじゃん!」と声をかけてくれる先輩や上司がいたものです。

 指を近づけると静電容量が変化して、観測波形に歪が生じるものや、高速デジタル回路では、うまい具合に波形がなまり誤動作がなくなったりすることがあります。シミュレーションや計算上では決して予測できない現象を通じて、上司と部下の間では「教える・教わる」の関係もありましたが、間違いなく、この場ではコミュニケーションが取れていました。

 ところが、昨今の開発現場を見ると、皆、黙々と端末に向かっているだけ。聞こえてくるのは、キーボードのチャカチャカ音、マウスのコチンというクリック音だけ。

 ソフト開発はもっと顕著で、組込みソフト、アプリ開発も、向っているのは端末だけで人ではありません。

 このようにハード開発、ソフト開発ともに、隣の人と話をしなくとも開発はできるようになりました。これはITの恩恵ではありますが、開発をする際にコミュニケーションがいらなくなってきています

 それに、もともとエンジニアという職種を選ぶ人の中には、コミュニケーションを得意としない人がいます。1人で黙々とできるからいいんだ! と言う人もいるくらいです。

 さて、どうやら試作機ができあがり、ハードウェアのボード単体では調整が終わり、最初のソフトのデバッグに取り掛かったようです。どうも、険悪なムードです。

■担当部分以外は興味なし、責任のなすり合い

ソフト屋:「ハードが悪いんじゃないの?、うちらはちゃんとやってるし……」

ハード屋:「何言ってるの? これ、ハード仕様書どおりの動きじゃないじゃん!」

ソフト屋:「ハードの仕様書で、こんな分厚いのを見せられても、僕ら分かんないよ。それに……」

ハード屋:「それに?」

ソフト屋:「ハードのことを言われても僕らの専門はソフト。まして、表示部分は外注が作ったから分かんないし、少なくとも僕じゃないですからね!」

ハード屋:「だって、そっちからソフト仕様書を書いて、外注に出したんじゃないの? まったく、ハードが分からないからって威張らないでほしいな」

 (そこへ、メカ屋がちょこっと割り込み)

メカ屋:「このパッケージ、寸法違ってない? 筐体に入りきらないでぶつかっちゃうよ……」

ハード屋:「マジ? なんでそうなるんだよう。まったく、どいつもこいつも……」

(延々と続く)

 ハードが悪い、ソフトが悪い。

 うちはちゃんとやっている、外注に投げたからうちは知らない。

 関心もない。

 Aさんは悩みます。

 ハード、ソフト、メカとそれぞれ自分だけの立ち位置で話をしている。

 「お客様」という言葉が誰からも出てこない。それに、仕様書で細かく取り決めていたはずなのに、なぜ、こんな問題が今になって出てくるんだ?

 このようなこと、皆さんの会社、職場を振り返ってみていかがでしょうか?

 次回は、人と組織の話を混ぜながら、エンドユーザーや製品コンセプトのお話をしていきます。

 コラムニスト:世古 雅人

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