僕はこうやって英語を勉強した
私は今、50歳。中年の大学生を卒業して、次の仕事をシンガポールで探すが、年齢の壁がどうやらあるらしく、苦労している。そう、年寄りのITエンジニアの求人が減っていくのは日本だけの傾向ではなく、ここ、シンガポールにも確実に存在する。多分、アジアの特徴だと思う。ITエンジニア、特に実際に実装をやるようなITエンジニアは、誰かの下につくのが普通。アジアの組織のボスは、やはり年上の部下を持ちたくないと思う傾向が強いわけで、どうしても年下のエンジニアを選びがちになる。
僕は、イギリスやアメリカで働いたことがある。欧米でも、年が高いプログラマは仕事を見つけにくい傾向が少しはあるだろうが、やはり能力重視が普通で、アジアほど年が高いエンジニアが仕事を見つけにくくなる傾向はないと思う。
私がイギリスやアメリカで働いていたときはプログラマ職でなかったが、テクサポのバリバリの現役のエンジニア、つまりマネージャでない人で、50歳以上の人がかなりいた。またイギリス人のITエンジニアが多く受講しているインドのITトレーニングに行ったときに気付いたが、そこでも、受講者の多くは私より年上ぐらいの人だった(当時私は45歳)。極めつけは、60歳のイタリア人もいた。
これ以上書くとボヤキになるので、ここまでにして、今回書こうと思ったのは、そういうことではなく、私の英語の勉強暦。前にもそのような内容を書いているので、今回はもっと詳しく書く。
今の時代、英語を勉強しようと思ったら、特にリスニングの材料は、YouTubeの動画やiTunesなどのPodcastまで、山のようにある。さらに、トーキングの場所も、フィリピン人を講師にした安価なオンライン英会話がどうやらブレークしたようで、選り取りみどり。
英語を勉強したい人にとっては、夢のような環境になっているわけだが、そうなったのは多分、すべてインターネットの普及のおかげ。僕自身がインターネットを使い始めたのは1995年ごろで、当時イギリスに駐在していたが、近くのパソコンショップで4~5万円もしたモデムを買って『ピーヒャララ』(*1)から入ったが、日本でインターネットを常時接続で使うことが普通になったのは、多分Yahoo! BBからだから、おそらく2002年ぐらいから。つまり、まだ10年ぐらいの歴史しかない。
この10年、日本の英語学習の環境の様変わりを見ると、隔世の感がある。今まで、日本人は先進国のなかで一番英語が下手ということで有名だったが、10年前に中学生になった人、つまり当時、英語を習い始めた日本人が、現在、大学を卒業する時期に来ているわけで、そろそろ汚名の返上の時期がやってきているのかもしれない。楽天など、ついに、社内での日本語が厳禁になったらしい。
僕が真剣に英語を勉強しようと思った時期は、大学生のころの1983年ぐらい。当然インターネットはない。トーキングの場所は皆無。リスニングも、少なからずのお金を出して、テープやCDが買うしかなかった。実は今でもあることに驚いたのだが、 ヒアリングマラソンと称して、毎月テープが送られている教材を、高いお金を出して受講してみたり、イングリッシュアドベンチャーなるものがあって、シドニーシェルダンの英語のミステリー小説をオーソンウエルズが読んだテープ集を買ってみたりした。
それより少し後のころだろうか、テレビで音声多重放送が始まって、これでニュースを英語で聞けると喜んだのも覚えている。そんな中でも多分、一番効果があったかと思うのは、ソニーの短波ラジオを購入して、BBC国際放送と、VOA(Voice of America)などの短波放送を聞いていたこと。大学までは関西だったので、関東にしかないFENは聞けなかった。関東に就職した後、FENを時々聞いたが、FENはやはり駐留米軍向けの放送で、スラングだらけの早口アメリカ英語で、結局ついていけなかった。
英語の実践的勉強法としてよく読んだのが、松本道弘さんという、海外留学せずに英語の同時通訳者になった人が書いた本。調べると、松本道弘さんは、今では70歳を超えているのに今でも現役らしく、ブログなどを書いている様子。
彼の推奨するやり方はいろいろあったが、基本はまず、インプットを増やすこと。英語を話すにも、話す内容がなければ意味がないと主張。とにかく多読を薦めた。欧米の高級誌が、よくNewsweekやNew York Timesを読むように薦めていた。ただし、学生だった僕は、薄っぺらい雑誌なのにもかかわらず、500円以上した雑誌をあまり買えなかった。しかし、就職して少し自由になるお金が増えたころは、Japan Timesなどの英文の新聞を読んだ。
学生のころ、ペーパーバックを買って読もうとしたこともあったが、ついに最後まで読めるものはなかった。そのころの英語力では、知らない単語が多すぎて読みきれなかった。しかし、25歳になってイギリスに駐在したころ、会議や電話で聞く英語が分からず、克服はやはりより多くの英語に接するしかないと、英語のペーパーバックの多読に走った。初めて最後まで読みきれたペーパーバックは、確かシドニー・シェルダンだったと思う。最後まで読めたときは、結構感動したのを覚えている。
しかし、松本道弘さんのアドバイスで一番大きかったのはシャドースピーキングだった。何をやるかというと、日常、車に運転していたり、電車に乗ってたりして、なにもやることがないが頭を使える時間を利用して、とにかくなんでもいいので、思い浮かぶことをすべて頭の中で英語にしてみるのだ。この時しっかりとした文章の英語にする努力をすることが大切。実際に口ずさんでもいいかもしれないが、車を1人で運転しているときならいいが、電車の中では変人と思われるので、頭のなかで閉じておくほうがいいだろう。
実は最近、脳について少し興味があり、いろいろと本を読んでいる。ヒトの頭には1000兆のニューロンがあり、そのそれぞれのニューロンは平均1万個の他のニューロンとつながっている。脳の働き、記憶や論理の能力などすべては、この接続それぞれに付加されているウエイトで実現されている。そして、このウエイトを調整していく過程が学習になる。学習は1回で最適のウエイトに達することはなく、複数回の学習で少しずつ最適になっていくものらしい。
つまり、何かを学習するに際して、繰り返しの効果は非常に高いということだ。繰り返し同じことを頭にさせることで、ニューロン間の接続のウエイトを最適化していくのだ。
何を言いたいかというと、語学の学習成果は、その外国語にふれている時間、つまり練習する時間に相関するということだ。忙しい人が英語に触れる時間を増やす一番簡単な方法は、頭が空いている時間を、英語の練習にあてることで、このシャドースピーキングはそれに最適。何しろ、車を運転していても、電車に乗っていてもできるのだから。
ということで、今英語を勉強している方は、今の恵まれた環境におぼれることなく、空いた時間をうまく利用して、24時間を最適に利用して勉強されることを薦めます。多分、1日30分のオンライン英会話で英語を勉強するだけでは、あまり能力の向上は見られないのではないでしょうか。とにかく1日のうちのできるだけ長い時間を、自分の頭を英語漬けにさせる努力が必要だと思う。そしてそのための工夫をいろいろとやってみることが大切だと思う。
(*1) 『ピーヒャララ』 この意味が分からない人がまさかいないと思うが、もしいたら、周りの先輩に聞いてください。