高速バス
わたしは、神戸で学生時代を送っていた。時々東京に行くときには、新幹線で行くお金がないこともあって、よく深夜の高速バスを利用したものだ。しかし、当時の夜行バスはすし詰め状態。バスの中でなど寝られたものではなく、着いたころにはぐったりになっているのが普通だった。しかし、若いということはすばらしい。一晩ぐらい寝られなくとも、次の日は元気いっぱい。片道5000円程度で行くことができる東京は魅力的だった。
ところで、鉄道網が発達していない発展途上国の旅行では、コーチつまりバスを使うことが多い。数年前のブッタガヤやナーランダなどの仏教遺跡をめぐる旅行や、アジャンタやエローラの石窟群めぐりの旅行では、深夜バスを多用した。数年前といえば、わたしはすでに若くない。朝、目的地に着いた後はぐったりとなっており、その日はホテルで寝ているような旅行になってしまった。夜行バスを利用するのは、日程の節約のためというよりは、それしか移動の手段がないから、あるいは一番便利だからだ。ところで、インドの夜行バスには、寝台バスがある。バスの中に2段ベッドがずらっと並んだバスだ。これは、結構よかった。
さらに、シンガポールからの一番身近な大都市である、マレーシアのクアラルンプール。そこに行くとき、一番便利なのはやはりバスになる。マレー鉄道もあるが、便利さといえば、どうしてもバスに軍配があがる。シンガポール・クアラルンプール間の高速バス路線は、競争が激しいのだろう。かなり安い。40シンガポールドル、つまり2500円ぐらいで、超豪華な席の夜行バスが利用できる。何が豪華かといえば、席のサイズは横に3席程度。つまり、飛行機ではビジネスクラスのサイズだ。さらに、前の座席の背もたれにはテレビが着いており、テレビを観賞できるようにもなっている。
さて、日本やヨーロッパの旅行では、稠密(ちゅうみつ)な鉄道網が発達しているから、普通は移動には鉄道を使う。夜行でも、クシェット(寝台列車)なら移動しながら、ぐっすり眠ることができる。また、東京・大阪間やロンドン・パリ間程度の距離なら、日本には新幹線、ヨーロッパにはTGVなどの高速鉄道もある。
ところが、先日日本に帰国したとき、わたしは東京から大阪への移動に、深夜の高速バスを利用した。目的は、日程の節約のためだった。というのは、金曜の夜に仕事を終えて、日曜の朝には成田空港からシンガポールに帰らなければならなかったのだが、その日程で大阪に帰省するためには、夜行バスを使うしかなかったのだ。金曜の夜に東京を出発。土曜の朝に大阪に到着。実家で土曜1日を過ごした後、その夜、再び夜行バスで東京に戻り、そのまま成田空港発に行って、日曜の朝のフライトでシンガポールに帰る、という強行軍をすることにした。
普通なら、JRの深夜バスを使うところだが、なにげなくインターネットサーフィンしていて見つけたのが、WILLER EXPRESSというバス業者。「駄目もと」でということで、この業者を利用することにした。予約サイトの使い勝手が、JRのものと比較して格段に良く、『もしかしたら?』とうかがわせるものがあった。
WILLER EXPRESSの東京ターミナルは、新宿西口の新宿住友ビル1階にあった。行ってみてびっくり。ホテルのロビーかと思われるような、豪華なターミナルがそこにはあった。チェックインは、予約番号を機械に入力。空港のフライト情報掲示板ならぬ、バス出発時間掲示版などもあり、JRの高速バス乗り場とまったく違う雰囲気だ。制服を来た女性のスタッフや、男性のマネージャらしい人が実に丁寧に客を誘導してくれる。そして一番驚いたのは、外国人の乗客が多いことだ。乗客の10分の1ぐらいは、外国人だったかと思う。掲示板の英語表示がないことや、スタッフに英語が分かる人がいないことは少し問題かと思ったが、これはすごいことだと思った。しかしいま、この文章を書きながらWILLER EXPRESSのホームページを見ているが、そうなるのもうなずける。しっかりと、英語、韓国語、そして中国語のページが準備されているのだ。
外国人が、どういう経由でWILLER EXPRESSを見つけたのかは分からないが、わたしのようにインターネットで見つけた人も多いだろう。先にも書いたが、発展途上国の旅行において、主な移動手段はバスである。決して鉄道ではない。彼らにとって、バスで日本を旅行することは、極めて自然なことだろう。「日本を安く旅行する」「バスだ」「検索だ」といったノリで検索して見つけたのかもしれない。
東京から大阪の移動に使用したバスは、プレミアムクラスだった。横に3席で、飛行機でいえば、ビジネスクラスぐらいの席の大きさ。思ったよりずっと快適な夜行バスの旅行で、ぐっすりと眠っている間に、大阪に着けた。
さらに、土曜の夜の大阪から東京への移動は、一段豪華なビジネスクラスを使った。隣の席との間に敷居があり、リクライニングもかなり倒せるもので、これは本当に快適だった。
今回はやむにやまれぬ理由で高速バスを利用したわけだが、今回の体験で、日本国内の旅行でバスを使うのも悪くない、と思うようになった。今後、バスを使う頻度が多くなりそうだ。