オラクルがオープンに深い思い入れ!? えっ!? と驚いた話
Ruby on Rails関連イベントの帰り道、会場としてご提供いただいた東京・青山にある日本オラクルのビルを振り返りつつ見上げながら、Rubyエンジニアたちはため息を尽きました。「どうやったら、こんなビルが建つぐらい儲かるんだろうね……」。確かに、ため息が出るほど立派なビルです。
もう1つ、私の耳に残った言葉は、「でも、RailsのプロジェクトでOracle DBなんて誰も使わないよね」というものです。顧客から指定でもない限り、RailsによるWeb開発ではオープンソースのプロダクトを使うことがほとんどだと言います。オープンソース界隈の開発者の多くは、オラクルのことを遠い存在に感じているかもしれません。むしろ、オラクルのプロダクトや企業文化は、オープンソースと相容れないという風に思っている人も多いのではないでしょうか。私は別にリーナス・トーバルズのようにオープンソースだけが唯一正しいソフトウェアの作り方だというつもりはありませんが、2つの異なる大陸だ、というぐらいに距離があるように思います。ちょうど、ソフトウェア開発の世界にも全く性質の異なる5つの世界が存在するのだと、2002年にジョエル・スポルスキーが指摘した(Five Worlds)のと似た話で、特に大規模エンタープライズは、オープンソースとは違う大陸なのかなという風に思えます(そこに大きな橋を架けているレッドハットのような企業もありますが)。だからこそ、サン・マイクロシステムズがオラクルに買収されるというニュースが流れたとき、「初恋のあの娘も、ついにお金に困って金持ちに嫁ぐのか……。良い人だといいんだけど」という、ちょっと暗い空気がオープンソース界に流れたのだと思います。サンも昔からオープンソースに親和的だったということはありませんが、そこはオラクルとは比較にならないと思います。買収発表直後のJavaOne会場で、当時サンのオープンソース関連の戦略を担当していたサイモン・フィップスを捕まえて、あの製品やこの製品は、これからどうなるんだと私は詰め寄りました。彼は、それは自分にも分からないけど、やれること(GPL化など)はやったから大丈夫だ、と悲しそうな笑みを浮かべたのを思い出します。
さて、そういう認識で「躍進 日本オラクル 全社最適化戦略」(岩淵明男著、出版文化社)という本を読んで驚きました。
日本オラクルの社員はオープンということに対して、深い思い入れがある、という一節があるんです。オーマイゴッド! 私は仰天しました。ちょっと待ってくれよ、と。オラクルがオープン!? えっ!?
でも、1970年代後半に「ソフトウェアの時代が来る!」といって、当時メインフレームのおまけでしかなかったソフトウェアを主製品として起業したラリー・エリソンの慧眼を思うと、なるほどなと思えるのでした。富士通でKシリーズというオフコンに携わっていた中堅エンジニアが、あるとき雑誌を読んでいてUnixやC、TCP/IPという自分たちとあまりに違う技術の話ばかりしているのに不安を覚えていたとき、このオラクルのオープン戦略に感銘を覚えて転職したという話も、時代背景を考えると納得です。Oracle DBは特定ハードウェアではなく、いろんな計算機で動かすことができ、それは1970年代には特異なことだったというわけです。
しかし時代は流れて、Jenkinsフォーク事件や、買収後のMySQLの騒動、あるいはAndroidを巡るGoogleとの訴訟沙汰を見ていると、「オラクルのオープン戦略」などと言われても、「えっ!?」という感じです。初期のオラクルが掲げた“オープン”は、あまりにも当たり前になってしまって、今ではオープンソース、オープンイノベーション、オープンコラボレーションと、適当な造語の1つもしたくなるぐらいに、IT業界はもっといろいろとオープンな世界になっています。オラクルはオープンだったのでしょうし、それは今も変わってないと思います。ただ、“オープン”の概念は相対的なもので時代とともに変わるものですよね。
歴史は繰り返すのかもしれません。
Oracle DBは、1970年代後半に限界が見えつつあったネットワーク型や階層型のデータベースに対して、エドガー・F・コッド博士が論文として発表したRDBMSを実装した先駆けでした。この辺り、1970年代の10年間に起こった初期のRDBMSの実装の歴史がどうだったか、その後のRDBMS市場でオラクルが勝ち残った理由が何だったのか、それは私にはよく分かりません。ただ、登場時のOracle DBが技術的にも戦略的にも革新的だったのは間違いないことでしょう。
30年前のオラクルの革新性を、2011年に置き換えてみれば、私はMongoDBの10gen社になるだろうと思います。10genはRDMBSがボトルネックとなり得る、特に大規模なWebサービスという領域において、カラム指向でスキーマレスというNoSQLを最初からOSSで実装しています。そして商用サポートやトレーニング、コンサルというオープンソース時代のビジネスモデルを掲げています。地図で確認して驚いたのですが、10genは何とOracle本社の隣といっていい立地です。
オラクルでは近年、DB製品のライセンスの売り上げ比率は落ち続けています。それはRDBMSがOSSとしてコモディティ化した一方、Oracle DBがロケット・サイエンスの高コスト製品を指向してしまったことが背景にあると思います。かつてオラクルは、DBによる「オペレーショナル・エクセレンス」を標榜してITを社会へ普及させました。現在は、「マネジメント・エクセレンス」を標榜し、一連の激しい企業買収を通してBIやCRMにフォーカスを移しつつあります。Webの急速な普及によって、各種NoSQLが解決しようとしているような新しい技術領域が登場しているとはいえ、RDBMSと、その上に作り込むビジネスアプリケーションによる社会貢献は、実際まだ始まったばかりなのかもしれません。
私には米オラクル黎明期の話が新鮮だったと同時に、歴史上、同じ構図が繰り返し現れているのが興味深く思えました。HTML5、Amazon EC2、Ruby、Node.js、NoSQL、Hadoop、iPhone、jQuery Mobile、Facebookアプリ……、全然自分が日々触れているものとは違う技術の話ばかりがメディアに溢れているのに、果たして自分はこのままでいいのだろうか。そんなふうに感じている中堅エンジニアの方はいませんか。その姿は、当時売れていたにも関わらず、オフコンのKシリーズに疑問を感じてオラクルに転職したエンジニアの姿と重なるように、私には思われるのです。
コメント
K96
Sorry, if I misunderstood you and/or your article.
But if you install Oracle DB, you can easily understand how OSSs are important and essential even to Oracle.
As for my experience, patches are provided by Perl, enterprise manager uses Java, Tomcat? Apache ..
And also Oracle announced commercial support to Hudson-ci.
@see http://wiki.hudson-ci.org/display/HUDSON/Commercial+Support
And of course, Sun/Java has been transferred to Oracle.
I hope sincerely their contribution to OSS and all people...
Regards, K96
西村賢
K96-san,
Using OSS or even possessing OSS products through company aquisition doesn't necessarily mean the company is pro-oss. I have yet to hear the same kind of contribution that Microsoft has done to the jQuery community for example. Hudson community escaped from Oracle due to the brand name issue, and forked the project to start new one named Jenkins. Google this: kawaguchi, jenkins, hudson. It's a shame that they had to fork it. Yes, OSS might be essential to Oracle, but is Oracle essential for OSS community/products? I'm not sure about that. Java platform is a gem. So, lots of people voice their concerns. Why? Oracle doesn't have a stellar track record of getting along with OSS products.
K96
西村-san, sorry for my late reply.
I FULLY AGREE WITH YOU. I didn't and won't forgive nor support Oracle for ever...
Just before my RSS happened to find this your blog, I had been on Jenkins site, creating, commenting and updating some bug reports and wiki pages.
However, now let's back to my home language: 大阪弁(not so コテコテ版)
もちろんオラクルさんにも,オープンということに対して、深い思い入れがある方はいたはるやろ.でも企業としては?
もちろん企業としてはオープンに積極的である必要はないんやけど…
でもやっぱ,このあたりいかにも疑わしいのは,OクルはんとMSはん?
また日本の大部分の企業も,read-only, use-only はん?
そのうち日本お断りとかになるかも…
なお老婆心ながら,@IT さんとしてはスポンサーの?悪口はあまり言わんほうがええかも… それとも皆で好き勝手ゆうて,おもいっきり盛り上がりましょか?
ではまた
西村賢
オープンというのは相対的なものですし、これが正解だというのは言いづらいと思います。Oracleが標榜するマネジメント・エクセレセンスには説得力もありますし、IT産業として社会的に重要で非常に大きな貢献だと思いますから、私はOracleを批判だけしているつもりはありません。ただ、ソフトウェア企業として「オープン」ということの認識について、特にOSS界とズレがあるのではないかという点に違和感を感じたのでした。