SalesforceがOracleを捨ててPostgreSQLに移行を計画中!?
噂レベルですが、ちょっと気になる動きがあったので紹介したいと思います。
2012年10月12日にPostgreSQL関連のメーリングリストに投稿されたエンジニア募集のメールが波紋を広げています。メールの差出人はSalesforce.comで採用担当責任者のMarcy Davis氏で、メールのタイトルには「今年5人のデータベース技術者を、来年には40~50人をSalesforce.comの大規模PostgreSQLプロジェクトのために募集中」とあったのです。求められる役割として「(同社の)コアとなるデータベースインフラの重要な部分を設計、実装できること」と書かれています。
このメールがキッカケとなって、SalesforceはバックエンドのデータベースインフラとしてOracleDBを捨てて、オープンソースのPostgreSQLに移行する計画ではないかという予測が各方面から出てきています。
あくまでも推測の範囲を出ないものばかりですが、あり得なくない話です。いきなり1年後に総取り換えをすることが可能とは思えませんし、顧客もそんな無茶は望まないでしょう。ただ、オプションとしてPostgreSQLの提供を開始して移行を促すというのはあり得るシナリオです。
●悪化する師弟関係が発端か
※以下、基調講演の話において、2011年のイベントと2012年のイベントを混同して書いてしまいました。ここ数年、2人の間で舌戦が繰り広げられているのは間違いありませんが、時系列的に無関係な話を連続して起こった出来事のように書いてしまいました。申し訳ありません。お詫びして訂正いたします。
PostgreSQL技術者募集のメールが飛んだのは10月12日の金曜日ですが、実は、その前日にSalesforce.comとオラクルの間で前代未聞のハプニングが起こっていました。
Oracle OpenWorld 2012で予定されていたSalesforce.com創業者でCEOのマーク・ベニオフ氏の基調講演が、前日になってオラクル側からドタキャンされたのです。健康問題などが理由で基調講演が1週間前になって急遽キャンセルになるというようなことはときどきありますが、前日に一方的にキャンセルというのは聞いたことがありません。当のベニオフ氏も驚いたようで、理由は分からないが残念だとTwitterでつぶやいています。
Salesforce.comのベニオフCEOは13年間オラクルに勤めた後に独立してSalesforce.comを創業しています。ベニオフ氏とオラクルのラリー・エリソンCEOは長らく師弟関係にありましたが、近年その関係はビミョーに悪化しているように見えます。少なくとも2人の間の舌戦は過熱気味でした。例えば、昨年に「クラウドと称して箱を売りつける、偽のクラウドに気をつけろ!」とベニオフ氏がオラクルに噛み付いたのに対して、今年はエリソン氏が「独自言語で囲い込んで、仮想化の分離もしておらず、キャパシティに制限もある、そっちがの方が偽のクラウドだろ!」とやり合ったとPublickeyが報じています。
The Registerが伝えるところによれば、オラクルのラリー・エリソン氏は、Salesfore.comは子会社のHerokuを通してPaaSではPostgreSQLを顧客に使わせておきながら、自分たちのSalesforce.comのクラウドの基盤にはOracleDBを使っている、これは「私には興味深いことに思える」と揶揄したといいます。客にPostgreSQLを使わせているのに自分たちは使ってないじゃないか、ということですね。後から買収した会社のことで揶揄するのもどうかと思いますが、「ドッグフーディングしていないじゃないか」というのは正論でもあります。
こうしたやり合いがあったにせよ、競合であるSalesforce.comのベニオフCEOに対して、オラクルは今年も基調講演という晴れ舞台を用意していました。では、なぜ土壇場でキャンセルしたのでしょうか? 実はラリー・エリソン氏が激怒したのではないかと思わせるレポートがあります。OpenWorldの展示ブースで、Salesforce.comは製品やソリューションの展示を一切せずに、チャリティ活動をしていたというのです。CRMSearch.comのデニス・ポンブリアント氏が伝えるところによると、その光景は異様で、まるでベニオフ氏がエリソン氏に対して「ほら、オレたちにはあんたが金儲けのためにやってるX-boxesなんて要らないんだよ。オレたちはもっと崇高な仕事をしてるんだ」と言わんばかりに思えたといいます(X-boxesと言ってるのはExadataのことでしょうね)。もしこれが本当なら、エリソンCEOが怒るのも無理はありません。つばぜり合いが一線を越えたのかもしれません。
もともと競合する面が強くなりつつあったSalesfore.comとオラクルという2社の“顔”が、とうとう正面衝突したと見ることもできそうです。もちろん衝突そのものはわれわれからは見えませんが、「基調講演のドタキャン」「OracleDBからPostgreSQLへの移行を匂わせる動き」は、2人の関係に衝突があったことを想像させます。
●ライセンス料よりもビジネスモデルの説得力として重要
ドタキャンされたことに逆切れ(?)したベニオフ氏が、「だったらオレたちはもうPostgreSQLで行こう」と考えて翌日さっそく行動に移したのかもしれません。直情径行型の思い付きは経営には良くないですが、もともとSalesforce.comがPostgreSQLを担ぐべき理由はあるように思えます。
Salesforce.comがPostgreSQLに移行すべき理由があるとしたら何でしょうか?
Salesforce.comほどの規模となれば、オラクルにとっても得意客でしょう。特別なライセンス料に基づく個別契約となっているでしょうが、それでもSalesfore.comはオラクルに相応のライセンス料を支払っているでしょう。OracleDBからPostgreSQLへ移行すれば、このライセンス料がなくなります。これは言うまでもなく利用料金の引き下げや、収益率向上、競争力の強化につながりますからSalesforce.comには好ましいことです。オープンソース界の2大RDBMSといえばMySQLとPostgreSQLですが、エンタープライズ方面では、PostgreSQLのほうが好まれる傾向にあります。そして、MySQLは今やオラクルに買収されていますから、Salesforce.comとしては選択肢はPostgreSQLしかありません。
OracleDBからPostgreSQLへの移行というシナリオは、ライセンス料というよりも、ソフトウェアテクノロジーによる革新を進める企業にとってのレーゾン・デートルに関わる話なのではないかと思います。ソフトウェアスタックのコア部分がブラックボックスとなったまま他社に握られているというのは、トヨタがエンジンを他社製品に頼るような話だからです。この点ではオラクルのエリソン氏の言い分に説得力を感じる顧客が多いことでしょう。「結局、オラクルのDBが基盤に必要なのだ。だったら、上から下までウチに任せない」ということです。これではSalesforce.comがマーケティング上、劣勢に立たされる可能性もあります。
上から下まで全てのソフトウェアを自社開発でまかなえる企業はマイクロソフトやグーグルぐらいしかないかもしれません。それでも近年のソフトウェア企業、とくにWeb系の企業の間では、OSやミドルウェアとしてオープンソース製品を採用して、基盤部分は協業しながら改善していくというモデルがうまく回り始めています。一連のNoSQL関連のプロダクトはその典型です。このオープンソースの流れが、やや遅れてエンタープライズで使えるRDBMSの世界にもやって来る、と見ることもできるのではないかと思います。
プロプライエタリなソフトウェアは中身が見えないブラックボックスであると同時に、その利用者が自ら手を入れることができないという制限があります。開発の方向性や優先順位付けの意思決定に関われるという意味でのオーナーシップもありません。成長したSalesforce.comが、自らのビジネスのコアとなるソフトウェアでプロプライエタリなソフトウェアを取り除きたいと考える理由は十分にありそうです。
Salesforce.comがPostgreSQLにガッツリと肩入れをして“エンタープライズグレード”となるのであれば、これはオープンソースコミュニティにとっては、非常に意義のあることだと思います。最近はNoSQLが注目を集めていてRDBMSはホットなトピックではないかもしれませんが、まだまだRDBMSを使うのが正解というプロジェクトのほうが圧倒的多数派でしょう。業務アプリならなおさらです。利便性の面でも、もともとPostgreSQLは扱えるデータ型が豊富で厳格ですし、最近のPostgreSQLはKVSの拡張やJSON型の採用など柔軟性も増していて、わざわざほかのミドルウェアを入れることはないのではないかと思えたりします(ちなみにこの辺は、QA@ITというサービスを担当していて感じたことです。QA@ITはHeroku上で稼働しているのですが、機能追加の実装方法を見るたびにPostgreSQLは素晴らしいなと思ったりしています。というような話は、PostgreSQLとMySQLはどちらかに明確な優位性がありますか、というの質問・回答にもまとまっています)。
Salesforce.comはOracleDBからPostgreSQLに移行する可能性があるでしょうか? 皆さんは、どう思われますか?