@IT編集部の西村賢がRuby/Rails関連を中心に書いています。

Rails開発はスタートアップよりも受託の規模が大?

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 Ruby on Rails界のセレブの1人、Gregg Pollackさんが来日していて、少しだけ会って話すことができました。Railsの公式サイトにあるRails3の解説動画や、オンラインでRuby on Railsが学べる「Rails for Zombies」など、解説動画コンテンツで有名な「Railsアクティビスト」と呼ばれる人です。アップルの「I'm a Mac. And, I'm a PC...」というCMのパロディーで、JavaやPHPとRailsを比較した一連の動画(賛否両論激しい動画シリーズです)でも有名です。Greggさんは、4月20日に東京のクックパッドで開催されたTokyo Rubyist Meetupに参加していました。4月22日、23日とシンガポールで開催された「RedDotRubyConf」で講演するためにフロリダから東京で乗り継いで向かう途中でした。

 私はGreggさんの動画のファンですが、実は何をやって生計を立てているのか、よく知りませんでした。それで、実際に会うことができたので聞いてみました。

 ちょっと驚きだったのですが、Greggさんはフロリダ州のオーランドでEnvy Labsという会社を興して、職種的にはRailsのコンサルティングと受託開発のセールスエンジニアをやっているというのですね。つまり日本でいえば、SIerです。「社長自ら営業」という種類のです。そういわれてみればEnvy Labsのページには電話番号が掲載されていて、SaaSやPaaSの専業という企業とは違う感じがします。現在20人ほど社員がいて、10人強がRuby開発者、3人がデザイナ。ただ会社といっても組織っぽいところはあまりなく、みんな自主的に働く社風だということです。

 私がちょっと意外そうにしているのを見て、Greggさんは「欧米のRailsエンジニア=スタートアップ=世界を変える自社サービス」とか「Rails著名人=Railsフレームワークを、ごりごりハックする人」というのは良くある誤解だといいます。37signalsのイメージで誤解しがちだけど、クライアントの要求に応えるのもアート。楽しいことだよ、と。今はEnvy Labsの社員が自分の好きなRubyで仕事をしてハッピーであるという環境を作り出して維持できていて、それに満足している、こうしてRails関連のイベントで旅行に出たりできるのが楽しいよ、という話でした。

 オープンソース関連の活動については、自分はRailsの開発に参加できるほどスマートじゃないんだよと謙遜しつつ、映像コンテンツによる貢献が自分にとってのオープンソースなんだとも言います。そして、書籍などと異なり、映像コンテンツは製作コストとパブリケーションのバランスが良いのだとも、Greggさんは指摘していました。専門書籍は1冊書き上げる労力が大きい割には売れる部数は少なく、実入りが少ないもの。このため多くの人は本を書くのはパブリケーションや実績作りと割り切るものですが、映像系コンテンツはそのバランスが良いのだという話でした。

 そうそう、通常書籍はあまり儲からないものですが、Greggさんによれば、オンラインで無償のRailsチュートリアルコンテンツを出して、その同一コンテンツを書籍やPDFとしても販売するという変わった戦略を取ったMichael Heartlさんは、15万ドル(1200万円)ほどの収益になっているという話でした。英語圏だからこその数字かもしれませんが、広く読まれる、広く見られるコンテンツ、ということの意味は小さくなさそうですね。

ライフスタイル・アントレプレナーも多い?

 37signalsのDHHはRuby on Railsをオープンソースとして世に出していますが、それはあくまでも副産物。自分(たち)に必要だから作っただけで、本業は中小規模向けの有償コラボレーションWebアプリの提供です。多くのファンを掴んでいて、非常に儲かっているといいます。先日もDHHが特注スーパーカーを発注したということが、実しやかに噂となって流れていました。

 DHHは、あちこちで講演するたびに、こんなことを言っています(例えばこの動画)。

 メディアのバイアスによって、WebスタートアップといえばFacebookとかTwitterばかりに目が行きがちだけど、ユーザーが何億人いようとビジネス規模とは直接は関係がないんだ。むしろ儲かっている会社というのは、社名なんか宣伝もしないし、有名になりたいなんてことも思っていない。

 何でも無償のWebはおかしい。みんな分かってない。ちゃんと対価を払ってもらえるサービスで人を幸せにするという何百年も続いてきたビジネスの基本方程式を実践することで、良いビジネスが築けるし、Webアプリもそうするべきだ。せっかく育てたサービスを売り抜けて金持ちになるために起業するなんてバカげている。どうして地元で愛されるイタリアンレストランのように、ちゃんと年間数億円の売り上げを出してファン層をつかむビジネスをWebアプリとして構築しないんだ。起業した会社を売るのが幸せなのか? 継続できる自分のビジネスを持ったほうがいいじゃないか。

 “ミリオンダラービジネス”というと大きく感じるかもしれないけど、計算して見れば分かること。2000人のリピーターに月40ドル払ってもらえれば、それで年商1億円(ミリオンダラー)。

 実際、37signalsのWebサービスは、プロジェクトマネジメントの「Basecamp」、コンタクト情報管理の「Highrise」、グループ内共有ツール「Backpack」、チャットツール「Campfire」と4つありますが、どれも30日間の無料お試しサービスこそあるものの、月額12ドルから99ドルの有償サービスです。フリーミアムなどということは言いません。いや、Ruby on Railsがフリーで、それによって得た知名度によって自社サービスのファンを掴んでいる、と見ることも可能だとは思いますが。

 37signalsのように、少人数で推定数億円規模の売り上げではないにしろ、1人か2人で良いWebビジネスを築き、継続してサービスを提供するようなものを、最近は「ライフスタイル・アントレプレナーシップ」などと呼んだりしますよね。ちょっとネガティブな意味で使われる言葉という印象もありますが。ともあれ、成長がすべてではないし、みんながみんなFacebookにならなくても良くて、むしろ目指すべきはFortune500ではなく、Fortun500万だろうと、DHHは言います。確かにちょっといいレストランチェーン程度なら、500万はなくても、かなりの数あるでしょう。

 いずれにしても、Rails界で一番声がデカいDHHが、自社サービスでお金を稼ぐということを喧伝しているので、誤解が広がっているのではないかというのがGreggさんの指摘かと思います。受託開発も市場は大きいし、システム化するべき業務というのは多くある、Railsもそういうケースで使われる、と。なんだか当たり前の話ですけどね。

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