「分からない」と分かる力
昨日は、判断する力について考えました。
状況を理解し、選択肢を考え、決断し、その結果を振り返る。その繰り返しによって、判断する力は少しずつ育っていきます。
けれど、その前には大切な力があります。
自分が、何を分かっていないのかに気づく力です。
今日は、「分からない」と分かることの意味について考えてみます。
何でも一人で判断できることが、自立なのでしょうか
私たちは、「自立」という言葉を、一人でできることだと考えがちです。
誰にも聞かず、自分で考える。
迷わず決める。
問題が起きても、自分で解決する。
もちろん、自分で考えることは大切です。
けれど、すべてを自分だけで判断できる人は、本当にいるのでしょうか。
私たちの知識や経験には限界があります。
十分な情報がないこともあります。
経験したことのない問題に直面することもあります。
時間が足りず、確認できないこともあります。
それでも答えを出そうとすると、私たちは「分からない」部分を、分かったつもりで埋めてしまうかもしれません。
自立とは、何でも一人でできることではないのだと思います。
自分でできることと、自分だけではできないことを見分ける。
そして、必要なときに適切な力を借りる。
それも、自立の一つの姿ではないでしょうか。
「分からない」と言うのは、少し怖いことです
「分かりません」と言うのは、簡単ではありません。
能力がないと思われるかもしれません。
準備不足だと責められるかもしれません。
こんなことも知らないのかと、笑われるかもしれません。
そのため、分からなくても、私たちは何かを答えようとします。
特に、立場が上がるほど、「分からない」と言いにくくなることがあります。
判断を求められている場面で、判断を保留することにも勇気がいります。
けれど、分からないまま急いで答えを出すことが、本当に責任ある行動なのでしょうか。
「今の情報だけでは判断できません」
「この部分は、私の専門ではありません」
「決める前に、もう少し確認する必要があります」
そう伝えることは、判断から逃げることではありません。
不確かなまま進み、判断を誤った方向へ向かわせないために、いったん立ち止まることです。
「分からない」と言うことは、判断を放棄することではなく、判断を守ることなのだと思います。
AIが答えると、「分かった気持ち」になります
AIは、どのような質問にも、自信があるように答えてくれます。
文章は整っていて、説明も分かりやすく、もっともらしく見えます。
そのため、私たちは「答えを得たこと」と「自分が理解したこと」を混同してしまうことがあります。
けれど、AIの答えには間違いが含まれているかもしれません。
前提が違うかもしれません。
情報が古いかもしれません。
重要な状況が伝わっていないかもしれません。
そもそも、私たちの質問の仕方が適切ではないかもしれません。
問題は、AIが間違えることだけではありません。
人間が、何を確認すればよいのか分からないまま、その答えを受け入れてしまうことです。
AIを疑うということは、すべてを否定することではありません。
「これは本当に、自分の状況に当てはまるのでしょうか」
「どのような根拠に基づいているのでしょうか」
「反対の見方はないのでしょうか」
「誰かに確認する必要はないでしょうか」
そう問い直すことです。
AIが答えを出したあとにも、自分のなかに小さな疑問を残しておく。
その疑問が、考えることを続けるための入口になるのだと思います。
助けを求めることも、判断の一部です
自分だけでは判断できないと気づいたら、次に必要なのは、適切な人に助けを求めることです。
けれど、ただ誰かに答えを求めればよいわけではありません。
何が分からないのでしょうか。
どこまで自分で確認したのでしょうか。
どのような危険が考えられるのでしょうか。
誰に相談するのが適切なのでしょうか。
それを整理することも、判断の一部です。
例えば、不審なメールの添付ファイルを開いてしまったとします。
「何も起きていないようだから、大丈夫かもしれない」
そう考えて一人で抱え込んでいる時間が、被害を広げることがあります。
この場面で、「何が起きたのか分かりませんが、少しおかしい気がします」と早く伝えることは、知識不足の告白ではありません。
被害を抑えるための、大切な初動です。
サイバーセキュリティに限らず、仕事では、問題を完全に理解してからでなければ相談できないと思いがちです。
けれど、本当に必要なのは、すべてを説明できることではありません。
分からないことがあると気づき、その違和感を早く共有することです。
助けを求めることは、自分の判断を誰かに丸投げすることでもありません。
自分の限界を認識し、よりよい判断をするために、ほかの人の知識や経験を借りることです。
一人でできることを増やすだけでなく、必要なときに誰とつながればよいかを知っている。
それも、人間の強さではないでしょうか。
AIは、限界に気づく手助けができるでしょうか
AIがすぐに答えを与え続けると、私たちは自分で考える前に、その答えへ飛びついてしまうかもしれません。
では、AIが答えを出す前に、こんな問いを返してくれたらどうでしょうか。
「判断に必要な情報はそろっていますか」
「まだ確認できていないことは何ですか」
「この判断は、誰に影響しますか」
「専門家へ相談したほうがよい部分はありませんか」
このようなAIであれば、人間の代わりにすべてを決めるのではなく、人間が自分の限界に気づくのを助けられるかもしれません。
分からない部分を明らかにし、必要な人や情報につなぐこともできるかもしれません。
私が考えているコーチング型AIは、何でも知っている先生ではありません。
問いを一緒に整理し、まだ分かっていない部分を見つけ、次に取るべき行動を考えるところまで伴走してくれる存在です。
AIが答えを増やすだけでなく、人間が自分の「分からなさ」に気づくのを助ける。
そこに、これからのAIの大切な役割があるのではないでしょうか。
「分からない」は、判断の終わりではありません
「分からない」と分かることは、そこで考えることをやめることではありません。
むしろ、そこから次の行動が始まります。
もう少し調べます。
判断を少し待ちます。
別の見方を探します。
専門家に相談します。
誰かと一緒に考えます。
「分からない」は、判断の終わりではありません。
よりよい判断へ進むための入口です。
すべてを一人で判断できることが、自立なのではありません。
自分の限界に気づき、不確かなときには立ち止まり、必要な人の力を借りる。
そして、AIが出した答えについても、もう一度問い直してみる。
「分からない」と言えることは、判断を手放すことではありません。
間違った方向へ急いで進まないために、判断を守る力です。
それも、AI時代に人間が持ち続けたい、大切な力なのだと思います。
けれど、どれだけ考え、誰かの力を借りても、失敗を完全になくすことはできません。
判断を間違えることもあります。
事故が起きることもあります。
では、そのとき、人間にはどのような力が必要なのでしょうか。
次回は、
失敗しても戻り、そこから学ぶ力とは何でしょうか。
という問いについて考えてみたいと思います。
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