今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

155.【小説】ブラ転9

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初回:2021/6/9

 ブラ転とは...
 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略

1.例の件

 組織改革の社内掲示板が公開された翌日、大規模な人事異動情報が公開されていた。と言っても、カタログ販売事業部やOEM製品事業部に所属していた社員が、製品販売事業部に所属になったというだけの事で、状況は何も変わっていなかった。ただし、新しい役職欄がすべて空欄になっていた。
 最初に私(杉野さくら)が気づいたときには、数人がざわついていた程度だったが、それほど話題には上がらなかった。ただし、部長と課長は役職がなくなったため、どうすべきか迷っているような感じだったが、困るのは今まで『○○部長』とかご機嫌を取っていた人たちであり、これからはすべての社員を『さん付け』で呼ぶことになったからと言って、なかなか簡単に切り替えられそうにない様子だった。

 そうこうしているうちに、また、二代目が技術部に顔を出しに来た。

「二代目、おはようございます」

「杉野さん、おはよう。所で二代目と言う呼び方も『ヒイラギさん』に変えようか?」

「...そうですね。でも、社長もハルコお嬢様も『ヒイラギさん』になっちゃいますよ」

「じゃ、今まで通りでいいか」

 本当に、ここ最近の二代目は気さくと言うか話しやすくなったと思う。

「所で、例の件は考えてくれましたか?」

「えっと、専属エージェント契約の件ですか?」

「そうだよ」

「やっぱり、私には荷が...」

「まあまあ、そう結論を急がないで。まずは私の構想を聞いてくれないかな」

 乗り気じゃないという事じゃなく、よく判らなかったが、二代目がこれほど気にかけてくれているという事は、勝機があるという事じゃないかなと思えてきた。

「まず杉野さんには、専属エージェント契約を結んで欲しい」

「みんなビックリしますよ」

「まだまだ。そしてスカウトする技術者なんだけど、社史編纂室の早坂さんに声をかけて欲しいんだ」

「え?まあ、面識はありますし話したこともありますけど、いきなり声をかけるほどの仲じゃないですよ」

「いいんだよ。すでに話は付けてあるから。そしてもう一人、秘書部の山本さんもメンバーに入れて欲しいんだ」

「え?山本さんって、面識ありませんよ。それに秘書部の方をプロジェクトに参加させて何をしてもらうんですか?」

「そちらも話はついてるんだよ」

「やたら根回しが速いんですね」

「先行事例で成功すれば希望者も増えるし、そもそもの趣旨が判りやすいのではないかと思うんですよね」

「そんなもんなんですかね」

「そんなもんです」

2.早坂さんへのオファー

 私(二代目)が社史編纂室まで出かけて、早坂さんにオファーを出したのは、少し前の事だった。彼がこんな所でくすぶっているなんて非常にもったいない。技術レベルは折り紙付きだが、上司に対して反抗的、顧客に対しても遠慮なしだったから、誰も相手にしたがらなかった。逆に言えば、そこをクリアできればいいものが出来る...ハズだった。

「早坂さん。今日お伺いしたのは、新しい人事制度で活躍してもらいたくて...」

「へえ、私でも活躍できる...と。心を改めれば...とか?」

「いえ、今の性格のままでかまいません。ただし、若い女性の部下に付いて頂きます」

「ほう。私が若い女性の部下に付いて納得するとでも...」

「あなた、そういう事気にしないでしょ」

「ハハハハハ。なんだ、知ってたのか?」

「まあ、テストケースという事で、上手くいけば早坂さんは一躍引く手あまたですよ」

「あんまり働きたくないんだけどな~」

「労働時間で給料が決まるわけじゃないから、そんなに働かなくてもいいかも」

「じゃあ、私も専属エージェント契約を結べばいいんですね」

「いや、それはプロジェクトリーダーになる場合だけで、メンバーは既存の業務から、オファーを受けた条件の時間配分で給料を決めます。あなたの場合、現在の給料が、ほとんど基本給なので、100%の時間をプロジェクトに使ってもらえれば、確実に給料は増えますよ」

「判りました。とりあえず、その若い女性からのオファーを待てばいいんですよね」

「はい。その時はよろしくお願いします」

3.山本さんへのオファー

 私(二代目)が例の件でさくらと話を付けて秘書部に戻ってから、山本さんを捕まえた。さくらには、山本さんにも根回し済みだと言ったが、本当はまだ何も言ってなかった。しかし、山本さんなら必ずオファーを受けてくれる自信があった。

「山本さん、少しお話があります」

「何ですか?改まって」

「例の新組織の件で、協力してもらいたいことがあるんだ」

「ハルコお嬢様、えらい剣幕でしたよ。協力すると嫌がらせされるかも...」

「今は僕の情報を流す代わりに、仲良くしてもらってるって事か」

「そんなことはありません...けど」

「話を戻すと、技術部の杉野さくらさんが、専属エージェント契約を結んでプロジェクトリーダーとして活躍するんだけど、その手伝いをして欲しいんだ」

「二代目が無理やりそう仕向けたんですよね」

「まあ、そうだけど...」

「私も専属エージェント契約を結べと...」

「いや、君に私の秘書を辞められても困るから、20%だけあちらの仕事をしてもらいたいと思ってるんだ」

「20%?」

「役員は出社も在宅も関係ないけど、今後は週1回は在宅にしようと思って、その間のスケジュール調整は不要だから、週1回は僕の仕事はしなくていいよ。つまり、20%業務削減って事」

「その分、給料も減らされるんですか?」

「難しい計算式は経理部に依頼中だけど、今の給料から、ベーシックインカム制の基本給を引いた残りから、20%減額するけど、さくらのプロジェクトからのオファーで、それ以上の金額を受ければ、今より増やせると思うよ」

4.ベーシックインカム制

「ベーシックインカム制の基本給って、何ですか?」

「ああ、いきなり能力給にして『働かざる者食うべからず』にはしたくなかったんだ。逆に働かなくても、いや、働いていない期間でも生活に必要な給料を出そうと思って」

「じゃあ、働かなくても基本給はもらえるってこと?」

「まあ、ね。でも会社に来て働かないって結構大変だよ。それに自分で考えて仕事をするって結構楽しいし、売り上げが増えれば給料も増やせるから、みんな今より頑張るんじゃないかな」

「でも、部課長さんは、役職がなくなって給料が減っちゃうんでしょ」

「実はそうでもないんだ。彼らは新しい仕事を自分で取ってくるなんてことはできないけど、今携わっているプロジェクトから、利益率の高い仕事を伸ばして、低い仕事を清算していくだろうね。そのプロジェクトに今の社員が必要だけど、人数が集まらない可能性がある。だって、他にもプロジェクトが立つからね。そうなると少ない人数でより効率的に働く必要があり、利益率はさらに向上する。まあ、上手くいけばの話だけど」

「でも、みんな目先の利益にばかり気を取られて、長い目で見たプロジェクトが激減してしまいますよ」

「その為に、会社が提供するプロジェクトが必要なんだ」

「会社が提供するプロジェクト?」

「専属エージェント契約といっても、一定の利益を会社に還元してもらう。年貢みたいなもんだな。それで基本給も出せるんだけど、それ以上に、会社主導のプロジェクトをそこから捻出する。研究開発的なプロジェクトは会社主導で行い、メンバーを集める。そこで得られた研究成果は会社の資産として、未来のプロジェクトに還元する」

「そんなうまくいきますかね」

「さあ、ね。やって見ないと判らないよ。なので、さくらさんのプロジェクトを成功させたいので、ぜひ君の協力が頂きたいって事なんだよ」

「なんとなく判りました。とりあえずオファーを待てばいいですね」

「頼んだよ」

======= <<つづく>>=======


 登場人物
 主人公:クスノキ将司(マサシ)
     ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
     残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして...
 母(マサコ):クスノキ将司の母親
     母一人子一人でマサシを育てあげたシングルマザー
 婚約者:杉野さくら
     クスノキ将司の婚約者兼同僚

 社長兼会長:ヒイラギ冬彦
    1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
 兄:ヒイラギナツヒコ
    社長の長男。中学時代に引きこもりになり、それ以降表舞台に出てこない。
 姉:ヒイラギハルコ
    ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の
    社長からは弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
 二代目(弟):ヒイラギアキオ
    ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
    性格も社長に似ており、考えもブラックそのもの。
    ただし、この小説では残念ながら出てこない。
 ヒイラギ電機株式会社:
    従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
    大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
    社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。

スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』

 ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。

 P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
 早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。

 P子:「ついに専属エージェント契約の中身が明らかになったのね」
 早坂:「御大層な名前だけど、ね」
 P子:「こんなとこでベーシックインカム出すの?」
 早坂:「国家で出来ないなら企業で出来ないかの挑戦みたいだよ」
 P子:「でも架空のお話の中で、でしょ」
 早坂:「架空でも成立するかどうかの検証が必要だろうね」
 P子:「まあ、上手くいかないでしょうね」
 早坂:「否定的ですね」

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