[小説] Close To The Edge(3)禍福倚伏(かふくいふく)
有意義だったデータセンターでの打ち合わせを終え、リョウタと二人で、遅めの昼食を取ることにした。
看板に惹かれ、飛び込みで入ったお店で出会った、黒色に近い、衝撃的な太麺の焼きそばは、口に入ってからは予想外にまろやかで、充実感とともに、胃を満たしていった。
番茶を口に含み、一息ついた時のことだった。
店の中の携帯電話が一斉に、ティロン、ティロンと不快な音を出し始めた。
緊急地震速報だ。記載されている予測震源地は東京都。
東京都? 東京都心?
一瞬悪寒を覚えるも、すぐに我に返り、とっさに身構える。数秒経った頃、店の外を、大型のダンプカーが通ったかのような揺れが、小刻みに起こったかと思うと、次の瞬間、ぐらっと大きく揺れた。揺れは一分ほどだっただろうか。大きく、長い揺れではあったが、店の中は、一部のどんぶりが、床に落ちただけだった。
思ったほどでもなかったな、と思った後、震源はどこだ、と考え始めたとき、先ほどの悪寒が蘇ってきた。
やはり震源地は東京都と出ていた。首都直下型か?
テレビをつけ、NHKを選曲すると、そこにはスタジオが映し出されていた。少し上ずった声の、白髪の男性アナウンサーが、大きな地震が発生したことを伝え、落ち着いた行動を促していた。
スタジオにはつながるのか。少なくとも、一瞬で壊滅するような地震ではなかったようだ。
ほんの少し、胸をなでおろしたところ、入ってきた震度速報に、千代田区を始めとした多くの区で五強と表示されていた。
この様子だと、大惨事が予想されている首都直下型ではなさそうだ。
それでも、電話は繋がらないだろうな、と思いながら、電子メールとSNSで、港区にあるオフィスにいるメンバーに状況を尋ねてみることにした。
日本の建築物の耐震基準なら、震度五強では壊滅的な被害にはならない。大丈夫だ。
焦燥感を抑え、返信を待つ。五分、十分、十五分……。返信はない。
テレビを見る限りは、大規模な倒壊や火事等の発生は伝えていない。ただ、局地的には分からない。
電話を掛けてみる。やはり繋がらない。
もう少し待とう。
強くなる焦燥感を紛らわすため、SNSを見ると、衝撃的な文字が飛び込んできた。
<【拡散希望】港区○○で大規模な火災が発生している模様【拡散希望】>