[小説] Close To The Edge(4)当機立断(とうきりつだん)
「なんだ……、これ。本当か……」
ショッキングな情報を伝える文字列は、かなりのダメージを自分に与えた。
これは、自分が思っている以上に、大変な事態になっているのかもしれない。
体中の血流が、一気に逆上していくようだった。動悸が激しくなり、汗が噴き出て、めまいがする。目の前が暗くなり、ふらっとしかけた時、リョウタに肩を支えられた。
ありがとう、と答えようとするも、うまく声が出せない。それでも振り絞ろうともがいていたところ、背中を強く叩かれた。
「しっかりしろ、お前らしくない! よく見ろ、そのSNSの投稿、画像も、リンクも、何も付いてないじゃねえか!」
はっとした。確かにそうだ。
リョウタの一喝で我に返った僕は、その情報の詳細を確認し始めた。似たような情報はたくさんあるが、どの情報も画像が付いていない。たまに画像付きもあるが、どう見ても今の東京ではなさそうな画像ばかりだ。さらに、『NHK倒壊!』というショッキングな投稿も散見されるが、テレビでは、NHKのスタジオから中継が続いている。
「ガセ、が混じっているな」
「おそらくそうだろう。実際にはボヤとかはあるかもしれないが、明らかに愉快犯も混ざっている」
「……、こうしちゃいられない! おばちゃん、お金置いておくよ。釣りはいらない」
まだ支払っていなかった昼食代をテーブルに置き、僕は一目散に走り始めた。
「おい、どこに行くんだ!」
リョウタの質問には、手でついてこい、とゼスチャで返し、全速力で駆けていった。
*
「ここは、データセンターじゃねえか。どういうつもりだ?」
五分ほど走り、僕たちは元のデータセンターに戻ってきた。
「テレビでは大規模な被害は起こっていないように見えるが、SNSでは大災害が起こっているような投稿が相次いでいる。そして、電話網は物理的な問題なのか、混雑のためなのか、東京方面では全く繋がらない。となると、このままでは不用意なパニックが起こるかもしれない」
「パニック?」
「テレビは大災害を隠している、と考え、電話をしまくったり、現地に駆け付けて安否確認しようとしたりする行動が増えてくる可能性だよ」
「それはそうだけど……、何をするんだ?」
「それはな……、アドホックネットワークだよ――」