攻撃に対して「ハックされにくい人間」に

AIは、先生ではなく稽古の相手になれるでしょうか

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このシリーズでは、人間に残したい力を、どう育てればよいのかを考えてきました。

人間にパッチを当てることはできません。

知識を与えるだけでも、混乱のなかで行動できるようになるとは限りません。

人間は疲れます。焦ります。誰かを信じます。怖くなります。そして、間違えます。

その弱さをなくすのではなく、弱さに気づき、迷ったときに判断の型へ戻ってくる。

そのためには、一度きりの教育ではなく、繰り返す「お稽古」が必要なのではないか。

ここまで手探りで考えてきて、Human Hardeningについて、私なりの答えが少し見えてきたように思います。

今日は、その答えをいったん言葉にしてみます。

AIが正解を教え続けたら

AIは、優れた先生になれるかもしれません。

質問すれば、すぐに答えてくれます。
間違いを指摘してくれます。
正しい手順を示してくれます。

けれど、AIが毎回答えを教え、人間がそれに従うだけなら、人間の判断力は育つのでしょうか。

正解は分かっても、なぜそれが正解なのかを考えないかもしれません。

AIがいないときには、どこで立ち止まればよいのか分からないかもしれません。

AIが正しい答えを出せることと、人間が判断できるようになることは、同じではありません。

では、AIが先生ではなく、「稽古の相手」になったらどうでしょうか。

AIと、判断の型を稽古する

AIは、実際に起こりそうな状況を提示できます。

「上司を名乗る人から、至急の送金を求められました」

「顧客情報を送ったあとで、宛先が違うことに気づきました」

「セキュリティ警告が出ました。しかし、業務を止めれば大きな損失が発生します」

そこですぐに正解を教えるのではなく、問いを返します。

  • 今、何に気づきましたか

  • どのような感情が、判断に影響していますか

  • まだ分かっていないことは何ですか

  • どこで一度、止まれますか

  • 誰に助けを求めますか

  • その決断の理由を説明できますか

  • 想定と違う結果になったら、どう戻りますか

人間は、問いに答えながら自分の状態に気づきます。

焦っていたことに気づくかもしれません。

分かっていないことを、分かったつもりになっていたと気づくかもしれません。

判断の理由を言葉にしようとして、考えていなかった影響を発見するかもしれません。

そして、失敗しても、もう一度やり直せます。

AIは、正解を採点するだけの先生ではありません。

気づき、止まり、確かめ、助けを求め、行動し、振り返る。

その型を、何度でも練習するための相手になれるのではないでしょうか。

AIがいなくても、問いが残る

AIと稽古する目的は、AIに聞けば正解できる人をつくることではありません。

最終的には、AIが問いを返さなくても、自分で問いを立てられるようになることです。

今、自分は焦っていないでしょうか。
何か見落としていないでしょうか。
まだ分かっていないことは何でしょうか。
ここは一度、止まるべきではないでしょうか。
自分だけで決めず、誰かに相談したほうがよくないでしょうか。

AIと繰り返した問いが、少しずつ自分のなかの問いになります。

AIを使っているときだけ、正しく行動できるのではありません。

AIが離れたあとにも、その人のなかに判断の型が残ります。

以前より少し早く違和感に気づきます。

迷ったときに、戻る場所を思い出します。

自分で判断できないときには、助けを求めます。

そして失敗しても、振り返り、次の判断へつなげます。

よい支援とは、その瞬間だけ人間を強く見せるものではありません。
支援が離れたあとにも、人間のなかに何かを残すものです。

私なりのHuman Hardening

ここまで考えてきて、Human Hardeningについて、今の私なりの答えを置いてみたいと思います。

Human Hardeningとは、人間を硬くしたり、弱さを修正したりすることではありません。
人間が自分の弱さに気づき、攻撃や混乱のなかで一度立ち止まり、判断の型へ戻り、必要な支援を受け、経験から学べるようにする、継続的なお稽古です。

人間を、間違えないスーパーヒューマンにするのではありません。

人間の弱さに、次々とパッチを当てることでもありません。

弱さを抱えた人間が、それでも気づき、判断し、失敗したら戻ってこられるようにする。

硬さではなく、しなやかさを育てます。

そのために育てたい力は、大きく二つにまとめられるのではないかと思います。

サイバー判断力

サイバー判断力とは、いつも正解する力ではありません。

  • 違和感に気づく

  • 一度立ち止まる

  • 状況を理解する

  • 分かっていないことを認識する

  • 判断の理由を説明する

  • 適切な相手へ助けを求める

  • 最後の決断を引き受ける

不確実な状況のなかでも、考える場所へ戻ってこられる力です。

サイバー回復力

サイバー回復力とは、決して失敗しない力ではありません。

  • 間違いを隠さず伝える

  • 混乱のなかで、次の行動を選ぶ

  • 必要な支援を受け入れる

  • 失敗から戻る

  • 経験を言葉にする

  • 学びを次の判断へつなげる

倒れないことではなく、倒れたあとにも、学びを持って戻ってこられる力です。

サイバー判断力とサイバー回復力。

この二つを、知識ではなく、型と稽古によって育てていく。

それが、私の考えるHuman Hardeningです。

まだ仮の答えです。

考え続ければ、変わるかもしれません。

けれど、次の問いへ進むための足場にはなりそうです。

育ったことを、どう確かめるのでしょうか

第1シリーズでは、「人間に何を残すのか」を探りました。

第2シリーズでは、その力を「どう育てるのか」を考えました。

では、次は何でしょうか。

稽古を続けた人が、不審なメールを一度見抜いたとします。

それだけで、判断力が育ったと言えるのでしょうか。

事故が起きなかったとします。

それはHuman Hardeningの効果なのでしょうか。それとも、たまたま何も起きなかっただけなのでしょうか。

以前より早く相談できるようになったこと。
自分の判断理由を説明できるようになったこと。
失敗を隠さず報告できたこと。
混乱から戻る時間が短くなったこと。
経験を次の判断へ生かせるようになったこと。

こうした変化を、どうすれば確かめられるのでしょうか。

そして、それを個人の成長だけでなく、組織にとっての価値としてどう説明すればよいのでしょうか。

人間に残す力を考えました。

その力を育てる方法を考えました。

次は、育った力をどう測り、どう価値として示すのかを探っていきます。

問いは、一直線に進むのではなく、循環しているように思います。

人間に何を残すのでしょうか。
その力をどう育てるのでしょうか。
育ったことを、どう確かめるのでしょうか。
その変化を、組織や社会の価値としてどう示すのでしょうか。

測ろうとすれば、また「何を残したいのか」という最初の問いに戻るかもしれません。

けれど、同じ場所に戻るわけではありません。

一周するたびに、問いが少し深くなります。

次のシリーズでは、この問いから始めたいと思います。

人間に残った力は、測ることができるのでしょうか。

そして、その力が人と組織を守る価値を、数字や言葉で示すことはできるのでしょうか。

次も、私なりに問いながら、手探りで考えてみたいと思います。

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