ソーシャルサービスが作り出す「人との繋がり」
■「ネットビジネスの勝者」を観て
先日、ディスカバリーチャンネルで放映されていた「ネットビジネスの勝者:音楽ダウンロード」という番組を観ました。
番組の主旨は、以下のとおりです。
- 現在、世の中に多数存在するソーシャルサービスの原型は「音楽はネットで自由にやりとりできる」という考え方を広めたNapsterが作り出した
- Napsterの閉鎖以降、Digg、Flickr、craigslist、YouTubeなどユーザーが主役となるサービスが次々と生まれた
- これらのソーシャルサービスによって、Webは本来の双方向性を取り戻しつつある
たしかに、Napsterには「双方向コミュニケーション」「コミュニティ」といった現在のソーシャルサービスに多く見られる特徴が存在しています。Napsterをソーシャルサービスの源泉と捉えるのは、非常に面白い視点だと思いました。
■Twitterが示した新しい「人との繋がり」
Napsterが登場した1999年以降の10年間に成長したサービスには、ソーシャル性が不可欠な要素となっている――この事実が示しているのは、人がインターネットに求めているのは「人との繋がり」であるということです。
Diggはニュース、Flickrは写真、YouTubeは動画。これら代表的なソーシャルサービスは独自のコンテンツを利用して、人と人との繋がりを支援しています。これまでに様々なソーシャルサービスが「人と繋がる」方法を示してきましたが、なかでもユニークな「人との繋がり」をインターネット上に表現したサービスが、マイクロブログサービス「Twitter」です。
Twitterとは、「What are you doing? (いまなにしてる?)」というコンセプトを掲げスタートしたサービスで、現在コアなインターネットユーザーを中心に熱狂的な支持を得ています。Twitterでは投稿可能な字数(140文字)が制限されているため、日常の些細な出来事のように気軽に書けるコンテンツが投稿される傾向にあります。また、コンテンツの量が制限されているため、携帯から簡単に投稿・参照できることも気軽な投稿を促進する要因となっています。
わたしも、最近は身の回りに起きた出来事をリアルタイムでTwitterに投稿する機会が増えてきました。そして、Twitterのヒットはフォローという、ちょっとゆるめのソーシャル機能の存在抜きには語れません。フォローとは、ほかのユーザーの投稿内容を自分専用の画面で閲覧するための機能です。多数のユーザーをフォローすると、いろんなユーザーの脈絡のない投稿で画面が埋まるのがTwitterの特徴です。ただし、フォローしたユーザーの何気ない一言が胸に入ってきたり、その一言に返信することでコミュニケーションが発生することがあります。そんなフォローを利用した「たまに繋がる、ゆるい関係」がTwitterでの人間関係であり、Twitterのユニークさを示す要素となっています。
Twitterが画期的だったのは、短い文章を投稿するブログプラットフォームである「マイクロブログ」という概念をソーシャルサービスとして表現したところにあります。既存のWebで扱っていなかったコンテンツ「日常生活における一言・つぶやき」を保管する場所を提供し、そのつぶやきをほかのユーザーとライトに共有できたことが、Twitterの成功の要因でしょう。
Twitter(マイクロブログ)の競合としては、ブログやチャットが挙げられますが、
- ブログほど投稿がめんどうくさくなく、たった一言でも投稿することが許される文化がある
- チャットほどPCに張り付いている必要はないが、ほぼリアルタイムでつぶやきを共有することが可能
という独自の特徴を持ったTwitterがブログやチャットの間隙を突いて、現在のインターネット社会に適応したことは興味深い事例といえます。「つぶやき」というコンテンツを使って、ゆるい「人との繋がり」を実現したTwitterの成功事例からは、いまのインターネット社会が「近すぎず遠すぎない」――そんな微妙なユーザー同士の距離感を求めていたのではないかということが推測されます。
■ソーシャルサービスにおける心理的距離
Twitterのようなソーシャルサービスによって形成される「人との繋がり」。その繋がりの強度は、ソーシャルサービスの設計・機能によって設定されるユーザー同士の心理的距離に比例します。心理的距離が遠ければユーザー同士の繋がりは弱まり、逆に心理的距離が接近していればユーザー同士の繋がりは強まります。たとえば、以下のような機能があればあるほど、そのサービスはユーザー同士の心理的距離が近く「人との繋がり」を感じやすい、Stickyな(ユーザーを惹きつける粘着性のある)サービスであるといえます。
- お気に入り機能/フォロー機能
- メッセージ機能
- あしあと機能
- 評価機能
数多くのソーシャルサービスが、上記のような機能を実装していますが、これらの機能は、サービス内で行われるユーザー同士のコミュニケーションに多大な影響を与えます。これらの機能がユーザーの行動を制限・促進することで、サービス内の社会が形成されているといっても過言ではありません。ソーシャルサービスの提供者は、そのサービスのコンセプトに応じて、ユーザー同士の心理的距離を決める必要があります。ユーザー同士の心理的距離を規定するソーシャルサービスの設計は、そのさじ加減が非常に難しいものです。現在、わたしもソーシャル機能を持った企業向けのサービスを開発していますが、ユーザー同士の距離を決める設計部分で苦戦しています。
■これからのソーシャルサービス
この10年間、インターネットサービスはソーシャル化に傾倒し、サービス内での「人との繋がり」を強化してきました。そのことにより、インターネットのなかであっても、リアルな社会と同じように友好的な人間関係を構築できる人たちが増え、人間関係の在り方が少しづつ変化してきたように思います。リアルな人間関係とインターネット上の人間関係とが相互に影響し合う――それが現代のインターネット社会に生きる人が持つ人間関係です。リアルな社会の人間関係が様々な形に変化していくように、インターネット上の人間関係を作り出すソーシャルサービスも変化し、多様化することは当然の流れです。ユーザー同士の心理的距離、また人との繋がり方には無数のパターンが存在するため、現在のソーシャルサービスブームが終焉することは当分ないだろうと考えています。
しかし、そんな次々と誕生するであろうソーシャルサービスも、その時代に合った「人との繋がり」を提供しないことには、インターネット上で生存し続けることができません。わたしたちの日常をストリーミングするサービスが生き残るのか、リアルタイム性を高めたサービスが生き残るのか、匿名性を高めたサービスが生き残るのか。それは誰にも分かりませんが、「それを決定するのはインターネット社会と、そこにいるわたしたちなんだ」ということは強い確信を持って断言したいと思います。
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