「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

『Being Geek』――スペシャリストかPMか? 望むキャリア戦略を実現する

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Being Geek ギークであり続けるためのキャリア戦略

Michael Lopp (著)
夏目大 (翻訳)
オライリージャパン
2011年6月
ISBN-10: 4873114993
ISBN-13: 978-4873114996
2415円(税込)

■ギークであり続けるためのキャリア論

 私は、今年転職して4月から新しい会社で働いています。刺激的な毎日を過ごすことができ、転職は正解だと思っています。しかし、現状に満足しているせいか、将来の自分の姿を思い描けなくなっていることに気付きました。

 そんな折に本書を知り、今後のキャリアプランを考えるきっかけにしようと思いました。

■4テーマ、40章という幅広い内容

 本書は、エンジニアのキャリア戦略にまつわるさまざまな内容を扱っています。テーマは大きく分けて4つ、「キャリアの形成」「マネジメント」「日々の仕事に必要なスキル」「変化」という構成です。

 各テーマはさらに細かい章に分かれていて、全40章とかなりのボリュームです。エンジニアがマネージャに転身する場合の注意点や心掛けたいこと、転職、コミュニケーションのコツなど、まさに「キャリア形成」に関わることは幅広く網羅しています。

 とはいえ、各章はそれほど長くないため、気軽に読めます。気になる章、自分にとって必要だと思う章から読み進められるのも、本書の良いところだと思います。

 これだけの量を扱っているので、エンジニアなら何かしら気になる章があると思います。私の場合、40章のうちで気になった章、役に立つと思った章が10章もありました。

  • キャリアのための行動(第1章)
  • 大切なことは3つ(第2章)
  • 転職にあたって考えるべきこと(第3章)
  • 企業文化(第8章)
  • 不可能を可能に(第13章)
  • トリクルリスト(第24章)
  • 無意味なこと(第28章)
  • 転職先の選択(第35章)
  • マネージャとコミュニケーション(第37章)
  • 不安な将来(第40章)

 特に、今の仕事において役立ったのは「マネージャとコミュニケーション」(第37章)でした。エンジニアとしての仕事を買われてマネージャに昇進した人がいるとします。しかし、エンジニアの仕事とマネージャの仕事は質がまったく異なるため、エンジニアとして優れていたとしても、マネージャの仕事がうまくできるとは限りません。37章では、マネージャに昇進するエンジニアが持つべき心構えをまとめています。

  • 部内、部外の人たちとのコミュニケーションの「ハブ」になる必要がある
  • ある人から聴いた話を別の人にする場合、そのまま伝えるのではなく、伝える人に合わせて「抽象化」と「フィルタリング」が必要になる
  • 同様に、部署ごとに違う「方言」を自由に操れる必要がある
  • 自分が見た「混沌としたドラマ(錯綜する情報)」を要約して部下に伝える
  • 変化球(予測不能な事態)にも冷静に対応する
  • NOというときははっきりNOという。YESの場合も同様
  • 自分がしてきた仕事、自分が学んだ事を部下が行えるようにする(スケーリング)

 現在、私自身がプロジェクトマネージャに近い仕事を求められているため、37章のエッセンスは今後の仕事を進めていく上でとても参考になりました。

■キャリアに対する漠然とした不安がある人のために

 また、最終章「不安な将来」も印象に残りました。今の仕事には満足していますが、それでも「将来のキャリアについて考えないと……」と不安に思うことが何度かあったためです。

 おそらく多くの人が感じたことがあるであろう、「転職したい」と漠然と思う理由について、著者は「データが多すぎるから」と分析しています。

 共に働く人々の人となり、チームや会社の文化、人が集まるところでの駆け引き――こうした膨大なデータに囲まれながら人は仕事をしていると、人は「転職したいなあ」と考えるのだそうです。一方、人の脳は自分の価値観に合わせて重要だと思うものを選び出し、解釈を加えます。そのため、自分にとって心地よい意見ばかりを抽出して「この会社は自分にとって居心地がいいんだ」と思ってしまう場合もあります。

 ですが、人が成長するためには「混乱」「葛藤」が必要だと、著者は説きます。時には失敗することや、自分に異議を唱える人が近くいること、毎週なにかを学ぶことが大事なのだそうです。

 私はこの章を読んで、自分1人だけが悩んでいるのではない、「不安を感じるのは誰でもあることなんだ」と安心することができました。

■実践的なアドバイスを求める人のために

 他にも、興味深いアドバイスがいくつもありました。企業文化を知ること、企業文化の変化に合わせた行動を取ることの重要性(第8章)や、「トリクルリスト」という、ToDoリストとは違った長期的なタスクリストの作り方(第24章)などがある一方で、「時には何もせず、何も生み出さず、何も生産的なことは考えないという時間が必要」(第28章)というメッセージがあったりと、大変興味深いです。

 また、実際に「転職をしよう」と決意した人は、第3章や第35章を読むとよいでしょう。

 転職をする前に、「なぜ転職をしたいのか」をもう一度考えなおすこと、実際に転職をする際に重視すべき基準が述べられています。

 本書は、「技術者たるもの、こうあるべきだ」という自己啓発的な要素は薄いかもしれませんが、日頃の心構えやキャリアに対する考え方というよりも、より実践的な面で非常に勉強なる本です。

■どんなキャリアプランにも必要な「コミュニケーション」

 本書を読んでいて、「コミュニケーションがいかに大切なものか」をつくづく実感しました。マネージャになる、エンジニアとしてスペシャリストを目指す、どんなキャリアを築くにしても、キャリアアップを図るには、仕事の成果を充分に評価してもらうことが必要です。そのためには上司とのコミュニケーションがポイントになってきます(本書ではさまざまな性格の上司とどう仕事していくべきかについても書かれていて、参考になります)。

 自分のキャリアを自分が思うように築き、かつ相応に評価してもらうためにも、コミュニケーション力を身に付ける必要性を改めて感じました。

『It’s Party Time!』 コラムニスト あずk)

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