楽しく勉強するための『つまみぐい勉強法』
IT業界を楽しく生き抜くための「つまみぐい勉強法」 奥乃美、渋川よしき(著) 技術評論社 2010年5月 ISBN-10: 477414259X ISBN-13: 978-4774142593 1764円(税込み) |
■勉強は楽しく「つまみぐい」を
「勉強」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか。大変なもの? つらいもの? それとも、楽しいもの?
本書の冒頭、著者は「IT業界は楽しいところ」であると書いています。土日に仕事とは関係なく勉強会に出かける人がいたり、趣味でプログラムを作って公開している人がいたり、新しい技術を楽しんで学び続ける人がいたり……。彼らのような「楽しんでいる人たち」と同じように、あなたもIT業界で仕事をしているのならば、楽しんで勉強しなければ損だ――それが著者の考えです。
本書では極力「つらい勉強法」を排除し、「楽しい勉強法」のメソッドを数多く紹介しています。それらに共通する要素を包括的に表現したのが、「つまみぐい勉強法」です。
著者によれば、つまみぐい勉強法とは次の3つの価値から構成されます。
- えいやで、すぐ始める
- ほかの勉強へすばやくスイッチする
- 対象は変わっても、勉強自体は続ける
自分が楽しそうだなと思うものを、取りあえずつまみぐいしてみる。勉強がうまくいかなかったら、次の勉強をつまみぐいする。一見すると不真面目で、効果の上がらない勉強法に見えます。
著者は「勉強をする上でいちばんネックになるのは、『継続して勉強し続ける』ということ」であるといいます。楽しめれば、続けられるでしょう。楽しめなければ、続きません。つまみぐい勉強法の利点は、さまざまな勉強をつまみぐいし、スイッチしていくことによって、「自分にとって楽しめる、続けられる勉強の対象が見つけやすい」という点にあります。
このとき重要なのは、「途中でやめること」に罪悪感を持たないことです。うまくいかなかったのは、自分が悪いわけではなく、「自分に合わなかっただけ」です。ただし、勉強そのものをやめてしまっては意味がありません。勉強の対象はスイッチしていっても、勉強そのものは続けることによって、自分の引き出しを増やしたり、自分の勉強のゴールを見つけたりすることにつながります。
■勉強会の10 のメリットと落とし穴
本書の前半では実際の勉強法として、「守りの勉強法」と「攻めの勉強法」に分けて解説しています。「守り」は、新しい仕事が与えられたとき、それを乗り越えるための受け身の勉強法です。「攻め」は、自分が新たに学びたいことを積極的に学ぶための勉強法です。
後半では、特に「攻め」に有効な勉強法の1つ、勉強会のトピックを中心に、楽天の吉岡弘隆氏、永和システムマネジメントの懸田剛氏、シンプルアーキテクトの牛尾剛氏による座談会と、勉強会を活用した勉強法を解説しています。
勉強会のメリットは、さまざまなところで語られています。著者はUbuntu Linuxのコミュニティマネージャであるジョノ・ベーコン氏の「イベント運営の5つのメリット」に、さらに5項目を追加し、「勉強会の10のメリット」としてまとめています。
- ファミリーを作る
- 日常に変化を与える
- 方向性を正す
- リーダーシップを伸ばす
- 世の中の流れを知る
- 初心者レベルからロケットスタートする
- ストレスへの耐性を付ける
- 高い目標を発見する
- 自分のブランドを確立する
- 出版デビューのチャンスをつかむ
勉強会は有効な勉強法の1つですが、本書では「勉強会の落とし穴」についても言及しています。例えば、話を聞いていると、なんとなく分かった気分になるが、実は基礎的な知識が欠けていて、自分の実力にはつながっていなかった――ということが起こり得ます。
それを防ぐために、「攻め」の項では「自分で手を動かす」「ソースコードを読んで学ぶ」といった、独習の重要性が強調されています。独習と勉強会のバランスを取ることが、よき「つまみぐい」につながるのではないでしょうか。