もしあの人がITを使ったら -第五話 豊臣秀吉
「一夜で城ができた? そんなバカな。あっ、ホンマや!」
■一夜城で小田原征伐
「た、大変です! 目の前の山の上に一夜のうちに城ができました」
「そんなバカな。今は戦国時代だ。まだエイプリルフールなんてないんだぞ。って、あっ、ホンマや!」
「豊臣秀吉の軍があの城から攻め込んで来るようです。どうしましょう?」
それは超ヤバい。この北条氏もこれまでか。豊臣秀吉に屈服するしかないのか……。
いや、待てよ。この話の筆者はabekkanだ。どうせハッタリだろう。山にプロジェクションマッピングで城を投影しましたとかいうネタに違いない。
「騙されるな! あの城は偽物だ。絵に描いた城のようなものだ。攻めろ。叩き潰してしまえっ」
「うおおー」ドドドドドド!
バタッ、バタッ。
「ダメです。本物の城です。中から兵が出てきて射られました」
なにぃ。ハッタリではなかったのか。まいった!
■1週間前、却下されたシステム提案
「秀吉さま、この図をご覧ください。このように、山の斜面にお城の画像を投影することで急に城が建ったように見せかけます」
「城の絵を描くようなものだろ。そんな子ども騙しが通用するわけがなかろう」
「いえいえ、子ども騙しのレベルではありません。プロジェクションマッピングという21世紀のIT技術を使いますから本物そっくりです。立体感を持たせたり画像を動かして兵が動くように見せることもできます。音声も出せますので、きっと北条氏も腰を抜かすことでしょう」
「ダメじゃダメじゃ。プロジェクションマッピングだかなんだか知らんが、そんなハッタリで天下統一ができるかっ。もっとマシな企画書を持って来い。いいか安倍勘、明日の朝までにだ。できなかったらお前の会社も征伐してしまうぞ」
ひえぇ~。秀吉さんは厳しいなあ。21世紀の世界から持って来たプロジェクションマッピングのシステムを売って儲けようと思ったらこれだ。秀吉さんはいい人かと思っていたのに下請けには厳しいなあ。プロジェクションマッピングがダメとなると、どうしよう? そもそも一晩で城を建てろなんて。ここまで無理な納期を強要するクライアントは21世紀にもいないぞ。
■翌朝、一夜漬けで考えた改善策
「秀吉さま、一夜城の案ができました。まずはこの、21世紀で撮ってきた写真をご覧ください」
「ほぉ? これが21世紀の城か。ずいぶん小さいのう」
「いえいえ、これは城ではございません。あくまも参考写真です。このように、プラスチックの部品を作っておいて現場でネジで止めるだけなら短時間で城の設置が可能です。それに軽いので山の上に運ぶのにも時間がかかりません。この方法で城を建ててはいかがでしょうか」
「よし、いいだろう。これなら実際に北条氏に攻め込める。でも、私は構わないが、これだと『もしあの人がITを使ったら』にならないから、筆者が困るのではないか?」
「ご心配していただき、ありがとうございます。でも大丈夫です。城の部品はデジタル図面をもとに3Dプリンターで作ったという話にしておきますからw」
第五話 完
■あとがき
この話はフィクションです。また、第4話とはあまり関係ありません。
豊臣秀吉が一夜で城を建てたという「一夜城」の話は有名です。一夜で建てたと言われる城は2つあります。その一つが小田原征伐のために建てられた石垣山城です。実際には一夜で建てたのではなく、木に隠れた場所に建ててから回りの木を伐採することで一夜でできたように見せかけたそうです。城とシステムは一夜にして成らず。良い子は、良いクライアントは、一晩で作れとか言ってはいけません。
年末の第一話から五話にわたって小説を書きました。いかがだったでしょうか? 次週からまじめな(?)コラムに戻します。またネタを思い付いたら小説を書くかもしれません。
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