もしあの人がITを使ったら -第四話 クレオパトラ
■クレオパトラの悩み
エジプトは勢力が衰えた。このままではローマ帝国に滅ぼされてしまう。私はエジプトのもと女王としてエジプトを救いたい。ローマで一番の権力者、カエサルに取り入ればエジプトを救えるかもしれない。でもどうやって?
私がもっと美人だったら、もしこのぺしゃんこの鼻がもっと高かったら、カエサルを誘惑できるのに。カエサルは私より30以上も年上のじいさんだけど、エジプトのためなら我慢するのに。
■鼻を高くする秘策
「おーっほっほ。お困りのようですな」
「誰だ、おまえは。何かおかしな格好をしているな。まるで2000年後の未来から来たような服装ね。怪しい奴め」
「いえいえ、決して怪しい者ではございません。私は東洋のジパングから来た者です。私ならクレオパトラ様のお役に立てると思ってやってまいりました」
「ジパングから? あ、分かったわ。T須クリニックのT須先生ね。美容整形で私の鼻を高くしてくれるのね。そうなったら『世界にひとつだけの鼻』でオリコン1位に、いや、世界一の美女になれるわ」
「いえいえ、私は医者ではございません」
「分かったわ。喪黒福造ね。私の心のスキマを埋めてくれるのね」
「いえいえ、笑ゥせぇるすまんではございません。私はアべ・カーンというエンジニアです」
「分かったわ。ローマにテルマエを作ったエンジニアね。噂は聞いているわ。お風呂で血行を良くして鼻を高くしてくれるのね」
「いえいえ、アべ・ヒロシではございません。私はITエンジニアでございます。美容整形や風呂作りはできませんが、クレオパトラ様の鼻を高く見せることならできます」
「いったいどうやって?」
「実は、かくかくしかじか・・・・・・」
「なるほど。やってみようかしら」
■美女に弱い男たち
「カエサル様。エジプトのクレオパトラもと女王から動画付きメールが届きました」
「動画付きメールってなんじゃ?」
「本来はインターネットを経由して届く電子メールなのですが、なにしろローマ時代ですから、使者が馬に乗ってこのタブレット端末を持って来ましたっ」
「タブレット端末? これか。あ、絵が動いた。
おお、これがクレオパトラか。鼻ぺちゃでブサイクだという噂はウソだったのか。こんな美人だったとは。エジプトを攻めるのは中止だ。クレオパトラを妃にするぞ」
6年後
「アントニウス様。エジプトのクレオパトラもと女王から動画付きメールが届きました」
「動画付きメールってなんじゃ?」
「本来はインターネットを経由して届く電子メールなのですが、なにしろローマ時代ですから、使者が馬に乗ってこのタブレット端末を持って来ましたっ」
「タブレット端末? これか。あ、絵が動いた。
おお、これがクレオパトラか。噂以上の美人だ。エジプトを攻めるのは中止だ。バツ1でも構わない。クレオパトラを妃にするぞ」
■クレオパトラの次の策略
あのときはうまくいったわ。画像に加工して鼻を高くした動画を見せたらカエサルは私に一目惚れした。あのイメージを焼き付けておけば普段はターバンで鼻を隠していたからバレなかった。
そしてカエサルが亡くなったあとも同じ手でアントニウスを恋に堕とすことができた。でも最近では、アントニウスの権力は落ちてきたわ。あの人はもうダメね。次はオクタウィアヌスに乗り換えようかしら。彼が一番の権力者だもの。でも彼は強敵だわ。できるかしら?
「おーっほっほ。お困りのようですな」
「あ、喪黒福造。じゃなかった。アべ・カーン」
「クレオパトラ様、動画加工システムはもうすぐサポート切れになります。この機会にバージョンアップすれば、より美しい顔に加工されますよ。見積書はこちらになります」
「高いわね。喪黒福造なら『お金は一切いただきません』って言ってくれるのに・・・・・・」
■バージョンアップの罠
おかしいわね。オクタウィアヌスに動画メールを送ったのに、なかなか言い寄って来ないわ。
「クレオパトラ様。オクタウィアヌスの領地のフリーマーケットで、この落書きされたタブレット端末が売られていました」
「私が送ったタブレット端末ね。落書きって? 何て書いてあるのかしら?」
これがクレオパトラ?!美女だと聞いていたが、天狗女だったとは。ワロタ。
「はぁ? あっ、なによこれっ、私の動画。鼻高すぎっ。これじゃあ天狗の鼻よっ。この動画加工システムは不良品だわ。アべ・カーンめ。サポート切れだと脅しておいて不具合がある新バージョンを買わせるとは。けしからん! これが21世紀のソフトウェアの商売のやり方なのかっ」
クレオパトラがオクタウィアヌスを色仕掛けで堕とすことができなかったのは、これが原因だったのです。そして身の危険を感じたアべ・カーンは、日本に逃げ帰ったようです。
第四話 完
■あとがき
この話はフィクションです。また、第三話とは関係ありません。さらには、番外編の作者の壁画は このクレオパトラの話と全く関係ありません。
エジプトの女王だったクレオパトラは絶世の美女で、ローマ帝国の権力者だったカエサルとアントニウスを美貌で堕としたとされています。しかし、実際のところはそれほど美女でもなかったそうです。賢くてローマ人と通訳なしで話すこともでき、話や接客が上手だったので、カエサルとアントニウスは虜になったというのが真実のようです。
たまに、何人もの男と結婚して保険金殺人をした女性がニュースになることがあります。犯人の女性は美人ではないのにどうして? と首をかしげてしまうことが多かったりします。絶世の美女よりも、ちょっと鼻が低い方が、今も昔も男たちは安心してコロッと騙されてしまうのかもしれません。
次回で最終話になります。
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