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我がエンジニアライフに悔いなし? -第4話(前編)

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■深夜の決意

 もう疲れた。

 無謀な納期を深夜残業や徹夜の連続でなんとか乗り切ろうとしている。総合テストでバグが見つかると社長じきじきの罵声が飛ぶ。修復が夜遅くまでかかっても、「浦見のバグのせいだろ」と言われてしまっては残業代も請求できない。

 「このピンチを乗り越えるには浦見君のコーディング力に頼るしかないんだ。がんばってくれ」 と越後課長だけは僕を評価して応援してくれている。でもこれだけ作業量が多くてはもう間に合わない。体力も限界だ。この仕事を乗り越えたところで、また次の仕事でも同じようなことになるだろう。いつもそうだ。

 全部、鬼野社長が悪いんだ。利益のことしか考えていない。この会社、ブラックシステムでは社員は使い捨てだ。以前にアイスティー・メディアに常駐してた頃は、自称敏腕美人マネージャーがうるさかったけど、ここよりはずっとよかったなあ。

 もういやだ。だけど転職したってこんな僕を拾ってくれるのはどうせ同じような会社だろう。それに厳しい就活をやり直す体力も気力も残っていない。もう疲れた。楽になりたい。でも、鬼野社長は許せない。

■朝の騒ぎ

 ザワザワ!

 「なんなんだ、この人だかりは?」

 「誰かが5階の窓から飛び降りたらしいわ」

 「うちの会社で?! いったい誰が?」

 ザワザワ!

 「浦見君が飛び下りたらしいぞ」

 「鬼野社長の机に靴が脱いであったんだってばよ!」

 「鬼野社長は浦見君に特に厳しかったもの。恨まれるのも分かるわ」

 「鬼野社長、真っ青になってるナリ」

 フフフ。僕のことで大騒ぎになっているな。いつも真っ赤な顔で罵声を浴びせている赤鬼が、真っ青な青鬼になっていやがる。ざまあみろ。でもまだこれだけじゃないぞ。驚くのはこれからだ。


■拡散希望

 『鬼のブラック企業 その真相!』

 「うちの会社のことが週刊誌に出ているぞ」

 「鬼野社長のことが書いてあるわ」

 「浦見君がツイッターで暴露してたんだってばよ」

 「『鬼のブラック企業』という言葉のヒット数がすごいことになってるナリ」

 フフフ。僕がブラックシステムの内情を、ツイッターやSNSでばらまいておいたのさ。鬼野社長の実名入りで。『鬼のブラック企業』か。誰がつけたのか、この言葉。ずいぶん流行っているようだな。これで鬼野社長もおしまいさ。ざまあみろ!

 

■ブラック企業をなくせ

 「鬼野社長は退任するんだってばよ」

 「そりゃそうだろう。ネットやマスコミにあれだけ騒がれたんだし」

 「労働省の指導が入ったから、うちの会社の労働条件は良くなるナリか?」

 「そうね。でもそれ以前に会社が潰れないか心配だわ」

 フフフ。これは単に鬼野社長への恨みを晴らすだけじゃなかったんだ。この業界にブラックシステムのような会社はたくさんある。僕の自殺が騒ぎになったことでブラック起業撲滅のための運動がまた活発になるだろう。

 僕はたとえブラックシステムに入っていなかったとしても、いくら頑張ってもたいしたことはできなかっただろう。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのようなIT業界を変えるような業績なんてとても残せない。それならば、僕にできたことは何か? 命をかけてブラック企業撲滅のために社会に一石を投じること、それが僕ができたせめてものことだ。生きた証しだ。平凡なエンジニアライフを送るよりも、この方がまだ有意義ではないだろうか?

 (後編に続く)



■あとがき

 この話はフィクションです。実在する人物や会社とは関係ありません。また、良い子は決してマネしないでください。

 自殺にまで追い詰められた人が果たしてこんなことを考えるのだろうか? 疑問に感じるかもしれませんが、私は死んだ経験がないのでよく分かりません。ここはツッコまないでくださいね(笑)。

 

 そうそう、この子だわ。賽の河原で見かけたのは。

 あれ? 桜井桃子さんまだいたのか。第3話は終わったのに!

 

 「執筆裏話(1)」

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