エンジニアの言い分 -第3話
■ワーキングママの言い分
ふぅー。やっと百合ちゃんが寝付いたわ。「博多の華」でも飲もうっと。
今日は大変だった。レビュー中に保育園から電話がかかってきて、百合ちゃんが高熱を出したって。
慌てて電車に乗ったら事故で止まるし、病院は混んでて待たされるし。
「六代さんまた早退? 娘がいるとたいへんねえ。タスクをこなすどころじゃないものねぇ」
って寿福マネージャに嫌みを言われちゃったわ。なによあの女。タスクの進捗ばかり気にして。プロジェクトの進捗が計画通りにならないのは全部私のせいだって言うの? あの人の机上の計画が実情に合ってないからいけないんじゃないの。そもそも無謀なスケジュールなのよ。誰かのコラムじゃないけど、WBSなんか書いてるから仕事できねーんだ、って言ってやりたいわ。
私だって悪いと思ってるのよ。でも仕方がないじゃないの。百合ちゃんの面倒は誰がみるのよ。旦那がヒマな家とか、両親が近くに済んでいる家なら楽でしょうよ。でもウチの場合は全部私が一人でやってるんだから。こんなにがんばっているのよ。
Needか?Wantか?っていう話がどこかに書いてあったけど、百合ちゃんを育てるというNeedをこなしながらITエンジニアの仕事がしたいというWantを実現しようとしてるんだから。偉いと思わない?
会社だってグローバルとかワークライフバランスを推奨している。フルタイムで働けなかったり残業ができない人がいても、そこをなんとかするのがプロジェクトマネージャの仕事よ。そうよそうよ。そのためにマネージャ職があるのよ。私はちっとも悪くない。
「ピンポーン!」
あ、旦那が帰ってきた。いつも忙しいのが片づいたころに帰ってくる。使えないんだから、まったく(怒)!
■キャリアウーマンの言い分
「マスター、鍛高譚を頂戴!」
六代さんの、「すいません、娘の百合が熱を出しちゃって」を、今まで何度聞かされたことかしら。明日だって来るかどうかわからない。小さい子がいるから仕方ないとはいえ、実際にスケジュールを調整しなきゃいけない私はたいへんよ。
だいたい六代さんは旦那がいるでしょ。分担すればいいじゃないの。いつもいつも女性が子どもの面倒をみるっていうのはおかしいわ。
会社も表向きではグローバルだ、ダイバーシティだとか言って外向けにはいい顔をして、訳ありのフルタイムで働けないような人まで採用してくる。だけどその対策は何にもしてくれないじゃないの。結局は私たち現場のマネージャが苦労してるのよねえ。
青鹿毛部長にしたって、プロジェクト管理書を出せとかリスク管理シートを作れとかPMBOKに準拠しろとか、形式的なことにうるさいだけ。役に立つ手助けをしてくれたことなんてないわ。現場のことを知ろうともしていない。今度リスク管理シートに「百合ちゃんが熱を出す」って書いてやろうかしら。それが現場の実情よ。
そういえば「PMBOKなんかやってるから仕事ができねーんだ」ってコラムがあったわ。青鹿毛部長に読ませてやりたい。
あーやだ!もっと飲もう!
「マスター、釈云麦をロックで頂戴!」
でも私だって、もし5年前、シリコンバレーに残ってジャックと一緒になっていたら。今ごろ私はダニエル絹子になって子どももいたかもしれない。六代さんのようになっていた可能性だってある。
エルカミノリアルは今日もバグだらけを読むとシリコンバレーを思い出すわ。あのころはよかったなあ・・・・・・
■あとがき
この話はフィクションです。実在する人物とは関係がありませんが、実在するコラムとは関係があるかもしれません(笑)。
コメント
ksiroi
これ系の問題としては六代さんの味方をしたいなー
会社に属しているのは当人だけだけど、会社が見るべきは当人だけじゃないと僕は思うんだ。
そんな今日は休肝日。おくさんが入れてくれた紅茶が非常に美味しいー。
abekkan
> ksiroiさん
コメントありがとうございます。
家族のことも考慮してくれる会社がいいですよね。
会社側もたいへんだとは思いますが。