ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

魔女の刻 (終) 大いなる遺産

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 秋が終わりに近づき、空気に冬の気配が感じられるようになった頃、Q-LIC は11 月末日をもって、地方創生ビジネス事業からの全面撤退を決定した、と発表した。一つの事業部が丸ごと解体され、200 人以上の社員が異動になり、そのうち何人かは見切りをつけてQ-LIC を去っていった。くぬぎ市との市政アドバイザリ契約も満了日を待たずして解消となり、Q-LIC は全ての人員と資産をくぬぎ市から移動させたのだった。まるで地方創生ビジネスがQ-LIC の社史において、忌まわしい黒歴史であったかのような性急さだった。
 ここまで急いだ理由は、ネット上で高まっていたQ-LIC 批判の熱が、必死の沈静化の試みもむなしく、リアルな世界に影響を及ぼし始めたためだ。
 白川ビデオによるQ-LIC への批判がようやく峠を越したと思われた9 月頃、YouTube やTwitter にQ-LIC の地方創生ビジネスの裏事情を暴露する映像や音声、文書やメモの画像が次々とアップされ始めた。匿名のアカウントが多かったが、なかには堂々と実名を出して批判している人もいて、そのこと自体がQ-LIC の影響力の低下を印象づけた。いずれも過去にQ-LIC とビジネスで関わりがあった人物ばかりで、システム開発関係者が多いのが特徴だった。ろくに要件定義も設計もしないまま、無茶なスケジュールでシステム会社に丸投げし、プログラマを酷使したという実例がいくつも明らかになった。見かけ上の工数を抑制するために勤務時間の不正調整を強要し、仕様追加を平気でねじこみ、下請け法など歯牙にもかけず買い叩いた挙げ句、スケジュールの遅延や、テストで発生した不具合は全てプログラマの責任にし、成果だけを全て持っていったのだ。これは世のプログラマたちの怒りを買った。大手SIer と下請け・孫請け会社の間ではよく見られることで、今さら珍しいことではない、という意見もあったが、IT 業界の場合はそれ以後の受注が見込めるために受け入れていることが多い。だが、以前、草場さんが言っていた通り、Q-LIC はソフトウェアエンジニアを取り替えのきく消耗品だとみなしていて、同じ下請け会社を二度使うことは、ほとんどなかったという事実も明らかになった。さらに、Q-LIC 社員が、下請け業者をあからさまに蔑視していたツイートも公開され、炎上した。

twitter.png天下のQさま @qqq-7878-sinsin 2時間
うちで使ってやってる下請けのクソプログラマが、クソ生意気に、クソ意見を垂れてきやがった。何様なんだろう。専門卒の底辺プログラマごときに意見されるの納得いかねぇんだよな。あいつらあそこ止まりだろ。人生行き止まり感ぱねえ。我K大ぞ? ムカついたから明日追加仕様大量投下してやんぞ。

 これは、Q-LIC のシステム部門に勤務する都内在住の20 代社員のツイートだ。このツイートが公開された直後にアカウントは削除されているが、時すでに遅く、氏名や住所、所属部門まで突き止められ、最終的には失職することになった。他にも、ツイート画像などの証拠はないが、
「年休を取ることを伝えたら理由付きの申請書を書かされた挙げ句に却下された」(30 代男性プログラマ)
「必要のない休日出勤を命じられランチと夕食を強要された」(20 代女性プログラマ)
「バグが出たときに詳細報告書を書かされ12 回もダメ出しされた。結果的にQ-LIC 担当者の仕様伝達洩れと発覚したが、それを指摘したら、確認しない方が悪い、と逆ギレされた」(20 代男性プログラマ)
「Excel のマクロで作ったチェックプログラムを、Java システムにそのまま組み込んで使うように命じられた。最終的にマクロ(読みにくい)を解析してJava に移植したが、Q-LIC 担当者は自分が主要ロジックを構築したと吹聴した」(30 代男性プログラマ)
「プロジェクトの途中で単価の安いベンダーに切り替えられお払い箱に。引き継ぎもろくにできずに追い出されたので、プロジェクトは火を噴いて9ヵ月延期になった。Q-LIC はうちの仕事が中途半端だったせいだと責任転嫁した」(40 代男性プログラマ)
「カットオーバーの数日前に、サマータイムが導入されたときのために準備はどうなってる、と訊かれた。何もしていないと答えたら、カットオーバーまでに対応しておけと命令された。できない理由を説明したが、オレのスマホでも時刻の訂正ぐらいすぐできる、数千万円の費用をかけたシステムでなぜできない、と怒られた」(30 代男性プログラマ)
など、当事者でなければ笑い話のような経験談が、主にTwitter で次々に投稿され、#Q-LICひどい話、というハッシュタグまで誕生して賑わった。
 この頃になって、ようやく紙や電波媒体のメディアが重い腰を上げた。まず「○○砲」などと呼ばれる週刊誌が「Q-LIC 図書館の闇を暴く」と題した記事を3 週連続で掲載し、他の週刊誌も競うように同種の記事を発表した。続いて、今やどのニュース番組にもある「ネットで話題になった○○」のコーナーなどで、短く取り上げられた後、プライムタイムのニュース番組で報じられた。おかげで、神奈川県の片隅にある小さな自治体、くぬぎ市は一気に全国にその名を知らしめることとなり、前市長がぶち上げたICT 先進都市構想も改めて掘り起こされ、おおむね批判で色づけされて紹介された。
 Q-LIC も手をこまねいていたわけではなかったが、逆風に散水すれば自分にかかるように、打った対策はことごとく裏目に出た。最初の打開策は、Q-LIC 仮想通貨取引所開設を大々的に発表したことだった。有名なアイドルユニットをイメージキャラクターに起用し、大手広告代理店が手がけたセンスのいいCM と首都圏の私鉄のほとんど全ての車内広告をジャックすることで期待感を高めた。サービスメニューも充実していたので、事前登録者はそれなりの人数に達したようだが、開設予定日の3 日前になって、金融庁からの認可が下りず、みなし仮想通貨交換業者として営業を開始することが判明した。評価は急落し、アイドルユニットはスポンサー契約を解除することになった。
 従来のレンタルビデオ事業が、急速に傾きかけている現在、Q-LIC が主力事業の一つに位置づけているのは映像配信サービスだったが、ここ数年は、同業他社のサービスに押され気味で加入者数が伸び悩んでいた。売りにしている新作映画の最速配信も、他の事業者との差がそれほどない、ということで不満が出ている。そこに地方創生ビジネス事業に対する悪評が噴出したことで、解約者の数が無視できなくなってきた。起死回生の策として、Q-LIC はオリジナルドラマの製作を発表した。映画並みの制作費をかけ、イケメン俳優を主役に据えた刑事物で、主役のバディ役にはイギリスでヒットした若手ラッパーが起用された。撮影風景の一部を毎日数分間配信する、という手法で利用者の興味を惹きつけたが、撮影が8 割ほど終わったところで、Q-LIC が望まない形で全国のメディアに取り上げられることになった。バディ役のラッパーが、六本木のクラブで未成年女性数名と飲酒の上、合法ドラッグを摂取している動画がアップされたのだ。立件はされなかったが、青少年保護条例違反の疑いも浮上した。ドラマ企画は中断し、Q-LIC 映像事業部の部長、課長、担当者など20 名ほどが責任を取って辞職した。損失は数億円ともいわれている。
 Q-LIC が地方創生ビジネス事業に乗り出すことになったのは、くぬぎ市の前市長が提唱したICT 先進都市構想がキッカケだ。小牟田前市長は、県知事選への出馬を断念した後、Q-LIC の子会社の代表取締役社長に就任したが、一企業に税金を利益誘導した上に天下りした、との批判が絶えず、ネット上では「そもそも小牟田氏は官僚としてもビジネスマンとしても並以下で、印象操作と誇大広告に長けているだけ」との評価が定着しつつあった。事実、小牟田氏のマーケティング会社は「地方自治体の集客率向上のプロフェッショナル」という売り文句で営業していたものの、目立った実績を上げられておらず、4 期連続の赤字決算で、Q-LIC からの資本注入によって何とか生きながらえていた。
 自尊感情の強い小牟田氏が、その評価に納得できなかったことは想像に難くない。何とか評価を覆そうと、高齢者向けのスマートフォン連動サービスや、空家マッチングビジネスなど、次々に新事業を立ち上げたが、どれも軌道に乗らず1 年から2 年で撤退している。いずれも発表は大々的に、撤退はひそかに、となるのが常だった。そして、つい最近、マイナンバーの流出問題に目をつけ、どこかの怪しげなベンダーが開発したという「シークレットフォント」なるシロモノを、Q-LIC の協力のもとで、地方自治体向けに販売を開始したのだった。
 この「シークレットフォント」がシーザー暗号以上のものではないことは、すでに多くのサイトで解説されているが、世の中にはネットを検索する手間すら惜しんだり、著名人のセールストークをそのまま信じ込む人が一定数存在している。どんな経緯を辿ったのか、岡山県の小さな自治体が「シークレットフォント」を導入したと発表したのは今年の2 月だった。導入を決めた首長は、小牟田氏の市長時代にくぬぎ市を視察に訪れ、その試みをFacebook で絶賛していた人だ。やはりQ-LIC 図書館を誘致することを宣言し、当時の小牟田市長と握手を交わしている写真を誇らしげにFacebook のトップに載せている。結局、Q-LIC 図書館誘致計画は市議会の猛反対で頓挫していたから、「シークレットフォント」導入は、その意趣返しだったのかもしれない。首長は総務費から費用を捻出する稟議を部下に上げさせ、自分が承認することで導入を実現したのだ。
 導入後、今度は小牟田氏が岡山県を訪問し、首長の英断を誉めそやした後、「自分の努力のおかげで多くの自治体で導入の話が着々と進んでいる」と自画自賛する文章をFacebook に上げた。だが、導入したことで漏洩対策を軽視したのか、147 人分の住民データの入ったUSB メモリを自治体職員が紛失したことが明るみに出たのが8 月。そして解読されないはずの「シークレットフォント」があっさり復号され、全員の個人情報がネット上に流出したのは9 月のことだった。
 それだけなら謝罪と賠償で事態を終息させることもできたかもしれないが、小牟田氏の大言壮語癖が首を絞めることになった。自身が仕組みを理解できてもいない技術を、どうしてそこまで盲信できたのかは謎だが、「シークレットフォント」に絶大の自信を持っていた小牟田氏は、第三者の手によって解読・復号されたときは、1 件あたり80 万円を補償する、と豪語していたのだ。
 無能な首長をリコールした後、くだんの自治体は、契約に基づいて補償金を小牟田氏の会社に請求した。80 万円×147 人分の補償金は9桁になる。それだけの現金は、小牟田氏のマーケティング会社になかったため、最終的にQ-LIC が責任を取る形で自治体に支払われ、Q-LIC の経営逼迫に一役買うことになった。
 この一件で、さすがのQ-LIC も、くぬぎ市で稼がせてもらった義理は果たした、と考えたらしい。ほどなく小牟田氏はマーケティング会社の代表取締役社長を解任され、その後、新たに別会社を立ち上げた。性懲りもなく地方自治体向けのビジネスを行っているらしいが、詳しい消息は不明だ。
 Q-LIC 問題の元凶ともいえる弓削さんもまた、ビジネスの第一線から急激に距離を取りつつあった。ネットには熱心な「弓削ウォッチャー」が何人かいて、弓削さんの動向を定期的に報告していたが、9 月中旬に驚くべきニュースが投稿された。東北の配送センター勤務だった弓削さんが、Q-LIC 本社に戻ったという内容だった。私も少し驚いたが、最初に誰もが思ったような、禊が終わって本社の要職に復帰、という話ではなく、どうやら配送センターで何らかの不祥事を起こしてしまったためらしい。Q-LIC が全力でもみ消したらしく詳細は明らかにならなかったが、このことが弓削さんの資産価値を一変させた。Q-LIC 内部にも弓削さんの手腕を高く評価する人は、まだ何人かいて、ほとぼりが冷めたころに本社で力を発揮してもらおう、との声もあったそうだが、今や何をしでかすかわからない要注意人物となってしまったのだ。目の届かないところで問題を起こされるより、手元においてコントロールすべきだ、と判断されたらしく、弓削さんは一旦、解雇された後、嘱託社員として再雇用され、以前の部下だった社員の下で雑用係のような仕事をしているそうだ。
 これらの炎上案件に、どこまで白川さんの手が入っていたのかは定かではない。今では数が少なくなってきた開発センターの古参メンバーは、全てを白川さんが操作していたとは考えていないようだ。エースシステム社員としては、あまりにも失うものが多すぎる、というのがその理由だ。公にされた証拠の中には、明らかに違法行為によらなければ得られない種類のものも多く、Q-LIC が告訴すれば刑事訴追の可能性もある。
 私はメンバーとの会話のときには口にしなかったが、心の中では、現在Q-LIC に向かって吹いている暴風の全てが、白川さんが計画したことであっても不思議ではないと考えていた。白川さんには様々な物証を収集する時間と、計画を練り上げる時間があったし、すでに失うものは何もないのだ。
 サードアイでのリーダーミーティングのとき、現状報告の流れで、私がそう話すと、同席していた黒野が恐れ入ったような顔で言った。
 「ウワサに違わずすごい人だったんだな、白川さんって」
 「全体最適化の魔女だからね」
 「まったく、敵に回さなくてよかったとつくづく思うよ」
 「回す可能性があったの?」
 私が笑いながら言うと、黒野は少し迷った後、表情を改めた。
 「もう言ってもいいだろうから言うが、実は去年、くぬぎ市の案件を受注した直後に、Q-LIC の子会社から接触があったんだ」
 「は?」
 「初耳だな」東海林さんも驚いたような顔になった。「どういうことだ」
 「簡単に言えば、うちが東風エンジニアリングさん経由ではなく、名倉スタッフサービスを通して、くぬぎ市案件に参加してくれないか、ということでしたね。うちに落ちる金額は大差ないですが、インセンティブとして色を付けるから、ってことで」
 「インセンティブって、どれぐらいだったんだ」
 「正規の契約金額の4 掛けです」
 東海林さんと私は顔を見合わせた。うちの会社も複数の元請けと付き合いがあり、同じ案件で複数から声がかかることもある。どの元請けにお世話になるかは、営業が判断し、最終的には社長が決めている。過去の例では、その判断材料はプログラマのモチベーションなどではなく、金額になることが多かった。
 「つまり、40% 増しの金額で参加してたかもしれなかったのか」東海林さんは苦笑した。「よく、そっちになびかなかったもんだな」
 「ぼくはいい話だと思って、そう社長に言ったんですがね」黒野は肩をすくめた。「もう東風エンジニアリングさんと契約交わした後だったから、今さら断るのは信用問題に関わる、と社長が判断したんですよ」
 私は思わずため息をついて、社長が常識的な価値観を持ち合わせていたことに深く感謝した。
 「危ないわねえ。目の前の小金に釣られてたら、今頃、うちの会社はなくなってたかもしれないのよ。マギ情報システムとか、FCC みなとシステムみたいに。わかってる?」
 「そのときは」黒野は口を尖らせた。「そんなことわからなかったんだから仕方ないだろう。武士は食わねど高楊枝、ってわけにはいかないんだ。多く払ってくれる方につくのは、営業判断として間違ってない。お前だっていつも言ってるじゃないか。自分たちの技術を安売りするなって」
 「川嶋が言ってるのは、そういうことじゃないだろ」東海林さんが顔をしかめた。「世の中には、うまい話なんてないってことだ」
 「肝に銘じておきます」黒野は形ばかり頭を下げ、私を見た。「ところで、川嶋にエースシステムから依頼が来てるぞ」
 「依頼?」
 「年明け早々に、くぬぎ市の二次開発が始まるだろう。学校と図書館、両方だ」
 「そうらしいわね」
 開発センターでも、エースシステム社員がその話をしているのが耳に入ってくる。二次開発の話が具体化したのは、白川さんの作り上げたシステムが、内外からの高い評価を受けているため、市議会からの信用度が高まったためだ。
 「引き続き、開発に参加してくれないかということだ。規模は大きくないが、単価はランクアップしてくれるってよ。月金のフルタイムだ。本当は東海林さんに是非、ってことだったんだが」
 「俺は来年からは無理だぞ」東海林さんは釘を刺した。「港北プラントさんにフルタイム常駐だからな」
 港北プラントは、K自動車の関連会社で工場機器の製造・販売を手がけている。以前から生産管理システムのリニューアルが開始されていて、東海林さんは今でも、くぬぎ市に行かない日はそちらに行っていた。すでに開発メンバーの主力要員となっていて、抜けることなどできるはずがなかった。
 「わかってますよ」黒野は残念そうに頷いた。「東海林さんならリーダーポジションで、と言われてるんですが、もう先約が決まっているからと断ってます」
 「で、仕方なくあたしってわけかい」私は言った。
 「川嶋のことも、高い評価をもらってるよ。そう拗ねるな」
 「拗ねてない。悪いけど、断って」
 「いい話だと思うんだがなあ」
 「くぬぎ市は、ちょっと通勤が遠いのよ」私は黒野に手のひらを向けた。「あたしは、車の運転、自信ないから。そもそも車ないしね」
 「教習所行けばいいじゃないか。ペーパードライバーコースとか」
 「気が進まないわね。それに、一度参加したら、今後もズルズルとくぬぎ市案件に関わり続けることになるでしょう。そろそろ別のこともやりたいしね。他の仕事がないわけじゃないんでしょ?」
 「まあ、いくつかはあるがな」
 「じゃ、そっちで進めて」私は立ち上がった。「頼んだわよ」
 黒野はまだ何か言いたそうだったが、私は構わず会議室を後にした。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 数日後、開発センターに出勤した私は、今枝さんに会議室に呼ばれた。
 「実は」今枝さんは前置きなしで切り出した。「もう知ってるかもしれないけど、ぼくは年明けから別の部門に異動することになってね。くぬぎ市案件からは離れるんだ」
 「そうですか」
 私は言葉少なく答えた。その話は、かなり前に内定していたようで、私たちプログラマの耳にも届いている。
 「で、川嶋さんは年内いっぱいで契約満了ってことなんだけど」今枝さんは私の表情を窺うように上目遣いで見た。「継続してもらうってわけにはいかんもんかねえ」
 精一杯に下手に出ているつもりらしいが、顔には何で自分がこんなことを、と言いたげな表情が浮かんでいる。私は内心苦笑したが口では神妙に答えた。
 「いえ、せっかくですが。東風エンジニアリングさんにも話したんですが、別の業務が決まってまして」
 「そうなんだ」今枝さんは目を泳がせた。「その......ぼくのこと、怒ってるわけじゃないよね?」
 「は?」
 「ほら、去年、ぼくがここに来たとき」今枝さんは、またちらりと私の表情を確認した。「いろいろあったじゃん。東海林さんと川嶋さんをクビにしたりとか......」
 「いえ」私は首を横に振った。「そんなことはもう。すっかり忘れていましたから」
 「そっか、よかった」今枝さんは頷き、あっさり私を解放した。「じゃ、残留の意志はなしってことだね。忙しいとこ、すまなかったね。戻っていいよ」
 私は立ち上がったが、ふと思いついて訊いた。
 「今枝さんの後任の方は、もう決まってるんですか?」
 「うーん、まだだね」今枝さんは困ったような顔で答えた。「実はぼくも聞いてないんだよ。困るよね。早めに引き継ぎとかしたいんだけどねえ」
 「そうですね。そのときは私も協力しますから」
 「助かるよ。あ、気が変わったらいつでもウェルカムだから」
 変わることはないと思います、という言葉を飲み込み、私は会議室を出た。
 自席に戻ると、チハルさんが近付いてきた。
 「やっぱり残ってくれって?」
 「そうなの」私は笑った。「断ったけどね」
 「あたしも川嶋さんに残って欲しいんですけどね」
 チハルさんはすでに来年以降も、引き続き開発センターに残ることが決まっている。チハルさんの勤務する株式会社エクスキュート・オンラインは、サードアイと同程度の規模の開発会社だが、3 年前に設立されたばかりで、経営陣がエースシステムとのパイプを維持したがっているそうだ。
 「ね、川嶋さん」チハルさんは私の耳元で囁いた。「もし草場さんがいたら、残る気になってました?」
 その問いは、私自身が何度も自分に問いかけたものだった。答えの方は出せたためしがないが。
 「仮定の質問には答えられません」私はわざと冷たい声を出した。
 「ま、そういうことにしときますか」チハルさんはクスクス笑った。「あ、キョウコさんとユミさんから、LINE 来てましたよね」
 「女子会やろうってやつね。私は火曜日と木曜日なら大丈夫だから」
 「じゃ、横浜駅付近でどっか探しておきますね。予算の上限は?」
 「4,000 円ぐらいかな」
 「了解です。決まったら連絡します」
 チハルさんは楽しそうに自分の席に戻っていった。私は常駐しての開発が多いが、幸運なことに、どの現場でも、大抵、気の合う友だちを見つけることができる。ここでは、チハルさんだ。もちろん草場さんとは、友だち以上の関係を築けたが、もう終わってしまったことで、つらい想い出でしかない。お互い、嫌いになって別れたわけではないから、なおさらだ。私は記憶を振り払って、仕事の準備を始めた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 12 月に入ると、今枝さんは異動の準備が忙しいのか、よく開発センターから姿を消していた。そろそろ後任が決まるはず、ということだったが、なぜか今枝さんも誰なのか知らないようだった。
 「早く決まってくれないかな」今枝さんは誰彼となく、こぼしていた。「引き継ぎあるんだけどな。全く、仕事遅いんだからさ」
 私たちは礼儀正しく同情してみせていたが、本当に同情すべきは、今枝さんが配属予定のプロジェクトの上司だ。今枝さんでなければわからない、ということは、このプロジェクトに限っていえば、ほとんどない。せいぜい管理者用のパスワードぐらいで、今となってはKNGSSS とKNGLBS の要件も、Vilocony の設定、主要なコンテナの仕様なども、プログラマたちの方が理解しているぐらいだ。今枝さんの引き継ぎ事項など、プリントアウト1 枚に収まるのではないだろうか。機能修正や追加、不具合のチケットも、今枝さんは機械的にアサインするだけで、詳細の確認やテストは、ほとんどプログラマの手で行われているのだ。
 12 月半ばの水曜日の午後、珍しく高杉さんが開発センターに現れ、全員をフリースペースに集合させた。
 「すでに承知の通り」高杉さんは平坦な声で告げた。「今枝は今月中で、このプロジェクトから外れることになっています。後任のプロジェクトリーダーの選定は難航していましたが、昨日、ようやく決定しました。今日は新PL を紹介します」
 高杉さんはコマンドルームに近づき、ID カードでドアを開けると中に入った。どうやら、すでにコマンドルームに新PL が来ていたらしい。コマンドルームには廊下側にもドアがあるから、そちらから先に入っていたのだろう。
 すぐにドアが開き、高杉さんが出てきた。その後に続いて姿を現した人物の顔を目にした途端、私は驚愕のあまりフリーズ状態に陥った。懐かしい顔、愛しい顔、忘れようとしていた顔が、そこにあった。
 「はじめまして」草場さんは以前と変わらない落ち着いた声で言った。「草場と申します」
 あちこちで驚きの声が上がった。古参メンバーたちだ。東海林さんもチハルさんも、ポカンと口を開けている。草場さんは、そんな私たちの顔を見て、楽しそうにニヤリと笑った。
 「とはいえ、何人かの方は、もう私のことをご存じですね。そうでない人のために言っておくと、5 月まで私はこのプロジェクトで、プログラマとして働いていました。今回、いろいろ縁があって、リーダーとして戻ってくることができました。以後、よろしくお願いします」
 拍手が沸き起こる。私はようやく衝撃から立ち直って、機械的に手を叩いた。チハルさんが寄ってきて私の肘を引いた。
 「川嶋さん」非難するような声だ。「知ってたんなら教えてくれてもよかったのに」
 「いやいや」私は草場さんから目を離せないまま答えた。「知らなかったの」
 「マジですか?」
 「本当だってば」
 「以上です」高杉さんが言った。「早速、今日から引き継ぎ等を始めてもらいます。では、二人とも、あとはお任せします」
 今枝さんと草場さんが一礼して見送る中、高杉さんは急ぎ足でドアに向かった。ドアを出る直前、高杉さんは振り返り、ほんの一瞬、私と視線を合わせた。私がそこに浮かぶ意味を読み取る前に、長身の上級SE は足早に去っていった。
 「それでは」草場さんは穏やかな声で言った。「後ほど、何人かの方に現状を確認したいと思います。会議室にお呼びしますので、呼ばれた方は、現在担当しているコンテナ等を説明してください。私はプログラマ上がりなので、ソースコードを見ながらの方が話が早いです。そのつもりでよろしく」
 一礼した草場さんは、今枝さんと会議室の方へ歩いていった。わざとのように、私と目を合わせようとしない。会議室のドアが閉まると、途端に大きなざわめきが発生した。
 「川嶋」東海林さんが驚きの抜けない顔で訊いた。「お前、本当に何も知らなかったのか?」
 「ええ」私は力なく答えた。「連絡さえしてなかったんですから」
 「そうか」東海林さんは頷いた。「まあ、確かに言いづらいかもな」
 不意に私の全身を強烈な感情が貫いた。喜びなのか怒りなのか、それ以外の何かなのか。私はその感情に突き動かされるままに行動し、気付いたときには会議室のドアをノックもせずに開いていた。
 草場さんと今枝さんは、向かい合わせに座り、タブレットを見ながら何かを話していた。私の突然の登場に今枝さんは驚愕して身体を浮かせたが、草場さんは顔色一つ変えようとしなかった。
 「ああ、川嶋さん」草場さんは平静な声で言った。「お久しぶりです。今枝さん、川嶋さんに確認したいことがあるので、少し外してもらっていいですか」
 「引き継ぎなら、ぼくも......」
 そう言いかけた今枝さんを、草場さんは少し強い口調で遮った。
 「プログラマ同士の話なので。すいません」
 今枝さんが渋々出て行くと、私は空いた椅子に座り、草場さんを見つめた。
 「どういうこと?」私は訊いた。「地方を回ってるんじゃなかったの?」
 「10 月まではそうしてた」草場さんは壁の方を見ながら答えた。「でも、もう飽きちゃってね。やっぱり僕は開発の現場が好きだってことに気付いたんだよ。で、どこか適当なプロジェクトに入れてもらえるように動いてたんだけど、ちょうど、今枝さんの後任をエース社内で探してたから立候補したんだ。前歴が前歴だし、そもそも、このプロジェクトはエース社内でも忌避されがちでね。エースは失敗を好まないから。他に何人か候補者もいたんだけど、案外、すんなり決まったよ。高杉さんも僕を推してくれたしね。先週まで、リーダー研修とか、住むところを探したりとかいろいろあって、やっと今、ここに座ってるってわけ」
 「どうして」私は囁くような声で言った。「どうして連絡くれなかったのよ。他に誰かできたの?」
 草場さんは小さくため息をついて、やっと私を見た。以前と変わらない優しい目だ。
 「最初の質問はね、本当にこのプロジェクトに戻れるという保証がなかったからなんだ。朝令暮改なんてエース社内じゃよくあることでね。僕も地方を回ってたときは、仙台に行く予定だったのが、前日の夜に鹿児島に変更になった、なんてザラにあったからね。正式な内示が降りたのは先週だった。それまではひっくり返される可能性が、常にあったんだよ。それから2 つ目の質問はノーだよ」
 私は大きく息を吐いた。草場さんの言葉を聞いている間、呼吸を止めていたのだ。
 「ひょっとして怒ってる?」
 「......こういうとき」私は力なく首を横に振りながら言った。「どんな顔するのが正解なのかわからないわ」
 「笑えばいいんじゃないかな」
 私は草場さんと目を合わせた。様々な感情が浮かんでは消え、残ったのは喜びだった。同じ表情を草場さんも浮かべている。自分の顔が歪むのがわかったが、笑っているのか泣いているのか定かではない。本音を言えば、今すぐトイレに駆け込んで、メイクを直したいところだ。
 「そういうことで、またよろしく。で、早速だけど、今夜、食事に付き合ってもらえるかな」
 「食事......」
 「そう、夕食」
 「......それって」鼻をすすりながら、私は訊いた。「新PL として、プログラマの私に開発センターの現状を聞き取り調査したい、ってことよね」
 「ああ、もちろん。これは業務命令だよ。場所はうちだ。新横浜にマンションを借りてる。メニューはウナギなんてどうかな。近くのスーパーで買ってね」
 「スーパーのウナギ?」私は思わず笑った。「ウナギはお店に限るって言ってなかったっけ?」
 「前はそうだったんだけどね。日本のウナギは絶滅寸前だってのに、スーパーのウナギが何トンも廃棄処分になってるって話を聞いてから、積極的に食べるようになったんだ。日本中を回ってるときも、あちこちで食べたよ。今のところベストは愛知県かな。蒸すんじゃなくて焼くんだけど、香ばしくて美味いんだ。あれを自宅で再現できないもんかと試行錯誤しててね。今のところ、成功しているとはいえない。優秀なプログラマの力を借りれば、あるいはうまくいくかもしれない」
 「業務命令?」
 「業務命令だ」
 「すっごい公私混同ね。そういうの、エースシステムの社内規程に反しないの?」
 「気にしない気にしない」草場さんは肩をすくめた。「みんなやってる。ああ、そうだ、ご飯は土鍋で炊くよ。こっちはかなり上達した」
 私は笑った。きっと会議室の外にまで届いただろうが、気にしなかった。
 「まあ、業務命令じゃ仕方がないわね。仕事が終わったら、LINE すればいいのかしら? LINE ID は変えてないわよね?」
 「前のままだよ。18 時ぐらいに下の駐車場で待ち合わせでいいかな」
 「そうね」本当は20 時ぐらいまで残業するつもりだったが、予定の作業は誰かに押しつけることに決めた。「それぐらいで大丈夫だと思う」
 「よかった。ぼくは一度うちに帰って、少しばかり準備してから戻ってくるから。掃除したり、米を水につけたり、いろいろね」
 「なるほど」私は頷いた。「若い女の長い髪の毛とか、イヤリングの忘れ物とか、いろいろヤバイものを始末するってことね」
 「まだ引っ越してきたばかりだよ。そういうヤバイものは入れてないから安心してもらっていい」
 「いろいろ経験を積んだみたいね」私は立ち上がった。「じゃ、私は仕事に戻らせてもらうわね。いくつかやることもできたし」
 「わかった。あ、今枝さんがそのへんにいたら、入ってもらってくれる?」
 「了解」
 会議室を出た私は、周囲を見回し、自席に戻っている今枝さんに近寄った。
 「すいません。終わりました」
 「あ、そ」今枝さんは立ち上がりながら私の顔を見た。「何の話だったの?」
 「プログラマ同士の話です」
 「ふーん」
 会議室に向かおうとした今枝さんを、私は呼び止めた。
 「あの、今枝さん」
 「なにか?」
 「あの話って、まだ有効ですか?」
 「何の話?」
 「来年以降も継続する話です」私は床を指した。「ここで」
 今枝さんの顔に驚きが浮かんだ。
 「ああ、うん、もちろん。気が変わったの?」
 「変わりました」
 「助かるよ。きっと草場さんも喜ぶんじゃないかな」
 それは間違いない。たった今、この目で確かめた。
 正式な手続きは、東風エンジニアリングを通すことを告げ、今枝さんは足取りも軽く会議室に消えていった。それを見送った私は、自席に戻りながら、これからやることをピックアップした。黒野に連絡すること、母親に連絡すること、教習所を探すこと、カーディーラーか中古車ショップを探すこと。チハルさんにも一緒に仕事ができることを伝えたい。
 これは白川さんの意志を守ることにもなる、と私は気付いた。白川さんは、若宮さんが目指したシステムの理想型を作り上げた。今枝さんではそれを維持しきれないだろう、と誰もが危惧していたが、このシステムを熟知している草場さんなら、よい形で発展させることができるだろう。私もその手助けができる。この業界、やりがいのある仕事、上に悩まされずにすむ仕事に就けるエンジニアは多くないが、どうやら私は、その両方に携わることができそうだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その年の5 月は、早くも夏の猛暑を予告するかのように蒸し暑い日々が続いていた。
 ある土曜日の午後、私はJR 鶴見駅を出て、鶴見区役所近くの住所に向かって歩いていた。車の運転にも何とか自信がついてきてはいたが、駅周辺の細かい道を走るのは少し怖かったので、徒歩での移動だ。
 プログラミング教育推進の高まりを受けて、サードアイでは他のIT ベンダーと協業する形で、横浜市内の数カ所で、学生向けのプログラミング教室を定期的に開催していた。うちでは細川くんが講師として月に2 回出ている。鶴見区の担当は別のベンダーだったが、講師予定だったプログラマが食中毒になってしまったとのことで、昨日の夜、うちにピンチヒッターの依頼があった。あいにく細川くんは休日出勤だったので、特に予定がなかった私が駆り出されることになった。子供向けのプログラミングというと、Viscuit や、Scratch などが使われることが多いようだが、私たちが教えているのは、もう少し実戦に即した内容で差別化を図ろう、ということでPython3 だ。四則演算や条件、ループなどの基本的な部分が多く、進捗度に応じてオブジェクト指向の概念に進む。
 教室は鶴見区の市民センターの一つで開催される。初めての場所なので、余裕を見て出てきたのだが、Google マップのナビに従って進んでいたら、あっさり到着してしまった。どこかで時間を潰すか、とも思ったが、暑いので早めに教室に入ることにした。
 市民センターの受付で来意を告げ、社員証を見せると、控え室に案内された。教室の隣の小部屋で、ティーサーバーと紙コップが用意されている。案内してくれた職員の女性は、担当者がすぐに来ますから、と言い置いて出て行った。私はティーサーバーから冷たいお茶を注ぎ、ありがたくいただきながら、タブレットを取り出して講習の内容をチェックした。今日の生徒は小学生から中学生までと幅広く、いずれも2 回目の受講。90 分の講習内容は、配列の操作からとなっている。四則演算と変数については、1 回目の受講で終わっているそうだ。
 頭の中で講習内容をシミュレートしていると、ノックの音が響いた。応えるとドアが開いて一人の男性が入ってくる。顔を上げた私は、そこに瀬端さんの姿を見出して、文字通り飛び上がった。
 「瀬端さん?」
 「え」瀬端さんも私に劣らず驚いている。「川嶋さんじゃないですか」
 しばらくの間、唖然と見つめあっていた私たちは、やがて我に返ると、それぞれパイプ椅子に腰を下ろした。
 「サードアイさんも、これに参加していたんですね」瀬端さんは笑いながら言った。「前回は違うベンダーの方でしたが」
 「今日は代打なんです。瀬端さんはどうして?」
 瀬端さんはニッコリ笑って、壁に目を向けた。壁の向こうは教室で、そろそろ生徒が入ってきているはずだ。微かに笑い声が聞こえてくる。
 「私がフリースクールで働いていることは前に話しましたね。隣にいるのは、うちの学校の生徒たちなんですよ。別のフリースクールも一緒に来てるので、小学生も混じっていますけどね」
 「そうだったんですか」
 私はお茶を勧めながら、納得して頷いた。まさか、こんな形で瀬端さんと再会するとは思っていなかった。
 「社会に出て役立つ勉強の一環として、プログラミングを取り入れてるんですが、経験がない私たちだと、なかなか体系的に教えるのが難しくて。ちょっと細かい部分を質問されると、もうお手上げですから。幸い、鶴見区の理解と協力を得られて助かりました。ところで、お元気でしたか?」
 私たちは互いの近況を簡単に報告し合った。私が今でもくぬぎ市の開発センターに通勤していて、新PL が草場さんになった、と知ると、瀬端さんは喜んでくれた。やはり、くぬぎ市のことは気になっていて、今枝さんのマネジメントには不安を抱いていたに違いない。
 どちらも白川さんのことは口にしなかった。訊いたものかどうか悩んでいると、瀬端さんは私の葛藤を見抜いたように微笑み、静かに立ち上がると、教室に通じるドアの前に移動した。
 「ちょっといいですか」
 そう言った瀬端さんはドアを細めに開け、私に見るように合図した。私は音を立てないようにドアの前に立つと教室内を覗き込んだ。
 12、3 人ほどの子供たちが、用意されたノートPC を前に座っている。小学生らしい男の子たちは、やかましく話していたが、中学生ぐらいの生徒たちは勝手にノートPC を操作しているか、講習資料らしいプリントアウトを読んでいた。
 「右端の一番後ろの席に女の子、いるでしょう」
 私はその子に目を向けた。茶色がかったショートボブで小顔の女の子だ。チェリーレッドのカットソーに、ディズニーキャラクターのネックレスを合わせている。前髪が長めで、少しうつむいているため、その表情はよくわからない。だが、私の視線が惹きつけられたのは彼女の左手だった。細い手首には大きすぎるメンズの時計。
 振り向いて瀬端さんを見る。瀬端さんは小さく頷いて囁いた。
 「沢渡レナです」
 私はもう一度、その女の子を見つめた。白川さんの面影を見出そうとしたが、残念ながら見つけられない。似ている部分といえば、ほっそりしていることぐらいだ。私はドアを静かに閉めてから瀬端さんに訊いた。
 「あの時計......」
 「白川さんの形見です」瀬端さんは頷いた。「私が預かり、レナに渡しました」
 「左手にしてますね」
 別に決まりがあるわけではないが、女性の場合、腕時計は右手につけることが多い。リューズが手首にあたるのを防ぐため、という理由を聞いたことがあるが、私自身はあまり気にせず、単なる習慣で右手にしている。白川さんも右手だった。
 「左の手首に」瀬端さんは目を伏せた。「ちょっとした傷があって。それを隠すためでもあるんです。そのことは触れないでもらえると助かります」
 私は頷き、椅子に戻った。そして、少し躊躇いはあったが、訊きたかった問いを口にした。
 「白川さんは......」
 「ええ、去年の冬に。Q-LIC が地方創生ビジネス事業撤退を発表した直後です。それだけはどうしても見届けたかったようです。最後は安らかでした。やるべきことをやりきった、そんな満足感ですかね。笑っていました」
 私は目を閉じ、最後にカフェレストランで会ったとき、白川さんが口にしていた言葉を思い出した。"私は自分の生が充実感の中で終わることを確信しています"。
 「彼女は」私はドアを指した。「白川さんがやっていたことを知ってるんですか」
 「細かい部分は知りませんが、おおよそは。実は、レナがこの教室への参加を希望したのも、白川さんの話を聞いた直後のことです。白川さんの仕事を少しでも理解したい、と思ったんでしょうね。エースシステムがSE 入門講座でも開いていたら、きっとそっちに行きたいって言ったと思いますよ」
 私は声を出さずに笑った。瀬端さんは時計を見て立ち上がった。
 「そろそろ時間ですね。私は教室に行っているので、定刻になったらお願いします」
 瀬端さんが出て行った後、私はしばらく目を閉じて、白川さんのことを想った。今、どこにいるにせよ、そこが安息の場所であることを願った。かなうなら、また一緒に仕事がしたかった。日吉駅のハンバーガーショップで一緒に飲み交わしたかった。
 祈りの言葉を知らない私は、代わりにチェーホフの戯曲の最後の部分を思い浮かべた。あのイマージョンコンテンツで「ワーニャ叔母さん」と呼びかけられていたのを聞いたあと、古い文庫本を買い求めて読んだのだ。

 ......その時、わたしたちの耳には、神さまの御使たちの声がひびいて、空一面きらきらしたダイヤモンドでいっぱいになる。そして私たちの見ている前で、この世の中の悪いものがみんな、私たちの悩みも苦しみも、残らずみんな、世界じゅうに満ち広がる神さまの大きなお慈悲の中に呑みこまれてしまうの。そこでやっと、私たちの生活は、まるでお母さまがやさしく撫でてくださるような、静かな、うっとりするような、ほんとに楽しいものになるのだわ。私、そう思うの、どうしてもそう思うの。お気の毒なワーニャ伯父さん、いけないわ、泣いてらっしゃるのね。あなたは一生涯、嬉しいことも楽しいことも、ついぞ知らずにいらしたのねえ。でも、もう少しよ、ワーニャ伯父さん、もう暫くの辛抱よ。やがて、息がつけるんだわ。ほっと息がつけるんだわ!

 ハンカチを出して少しこぼれた涙を拭き取ると、私は何とか笑顔を作った。これから顔を合わせるのは、未来に希望を抱く子供たちだ。この子たちが生きるのは、白川さんが、多くの犠牲を払って少しだけいい場所に変えた世界なのだ。私にできることは、この子たちにほんの少しの希望を与え、この世界が生きていく価値がある場所だと教えることだけだ。白川さんがいつもそうしていたように、笑顔で。
 私は深呼吸して立ち上がると、ドアを開けた。

(終)

 この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。本文中に登場する技術や製品は実在しないことがあります。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
 連載中、いただいた多くのコメントに深く感謝いたします。また、誤字脱字を指摘していただいた皆様、ありがとうございます。いつも多くてすみません。
 現実の出来事を題材にしたのは「鼠と竜のゲーム」に続いて2 回目ですが、いずれも元ネタになった企業や事件を批判する意図があるわけではありません。あくまでも、一個人の妄想、シミュレータ、思考実験だと考えていただければ幸いです。
 コメントの中でいただいた質問を、いくつか回答しておきます。
 ・モデルは○○社ですか?
  → そういうことはありません。もし似ていたとしたら、それは偶然です。
 ・15章で白川さんが「素手で」モニタを真っ二つにしたと思われている方が多いようですが、さすがに素手ではありません。たぶん、椅子か何か使ったんでしょう。
 ・KIDSライブラリの改修を白川さんが嫌がった本当の理由は?
  → これ、どこかで書こうと思って忘れていました。若宮さんが残したライブラリなので手をつけたくなかった、というのと、すでにセレモニーの日用の仕込みをしていたので、ライブラリ改修によって影響が出ることを避けたのです。

 もし回収し損ねている伏線とかあったら、ご指摘ください。

 章タイトルの出典です。

 ■魔女の刻
 アン・ライス著「魔女の刻」シリーズより。
 映画化もされた「ヴァンパイア」シリーズが有名ですが、個人的にはこちらのシリーズが好きです。ただ、シリーズ最終巻がまだ和訳されていません。徳間書店さん、ずっと待ってますよ。

 ■深夜勤務
 スティーヴン・キングの初期短編集「ナイトシフト」より。
 最近の熟成したキングも好きですが、ハズレのないB 級アイデアの宝庫のような初期短編集も大好きです。後半の「トウモロコシ畑の子供たち」と合わせてお奨めです。

 ■予兆
 黒沢清監督「散歩する侵略者」のスピンオフドラマより。

 ■トレーニングデイズ
 デンゼル・ワシントン主演「トレーニング デイ」より。共演はイーサン・ホーク。デンゼル・ワシントンの息詰まるような演技に最後まで目が離せません。

 ■明日の約束
 2017年秋クールにフジテレビ系で放映された、井上真央主演のドラマ。一人の生徒の自殺の謎を追うストーリー。井上真央さんが繊細な演技を見せてくれます。

 ■戦争の技術
 デイヴィッド・ウィングローヴ著「チョンクオ風雲録」シリーズの第3巻より。中国が世界を制覇した未来で繰り広げられる権力争いの物語。読んだときは、あまり現実感がなかったのですが、現在は現実そのものになりつつありますね。原題は「The Art of War」なので、大元は孫子の「兵法」でしょう。
 冒頭の「戦争というものは確かにあまりにもばかげたことであるが~」は、カフカの「ペスト」から引用しました。

 ■オーダーテイカーはなぜ嫌われる
 ジョン・ヴァーリイの短編「バービーはなぜ殺される」より。月面都市の警察官、アンナ・ルイーズ・バッハが登場する一連の短編の一つです。

 ■完璧な夏の日
 ラヴィ・ティドハー著「完璧な夏の日」より。アメコミに出てくるようなスーパーヒーローたちが実在していて、過去の大戦や現代のテロなどの裏で活躍していたら、という設定のSF ですが、派手さはなく、比較的あっさり進みます。

 ■スペインの雨は主に平地に降る
 オードリー・ヘップバーン主演の名作「マイ・フェア・レディ」の中の有名な台詞(というか歌詞)です。ヒロインの訛りを直すために何度も言わされる言葉です。英語だと「The rain in Spain stays mainly in the plain.」で、確かに言いづらい。

 ■影との戦い
  アーシュラ・K・ル=グウィンの「ゲド戦記」シリーズの第1 巻より。ル=グウィンは、惜しくも2018年の1月にお亡くなりになりました。

 ■監視機構
 ジェフ・ヴァンダミア著「サザーン・リーチ」シリーズの第2巻より。第1巻の「全滅領域」は「アナイアレイション -全滅領域-」としてナタリー・ポートマン主演で映画化されましたが、劇場公開されたのはアメリカだけで、他の国はNetflix での配信となりました。予告を見る限り、とても美しい映像のようですが、まだ未見です。

 ■10月はたそがれの国
 レイ・ブラッドベリの短編集より。ファンタジックな話よりも、どちらかといえばホラー寄りの話が多い短編集です。なお「10月はたそがれの国」という短編はありません。

 ■グリーンリーブス・ダウン
 クレイグ・トーマス著「ファイアフォックス・ダウン」より。イーストウッド主演で映画化された「ファイアフォックス」の続編です。

 ■血のバレンタイン
 80年代に流行したスプラッタホラー。TV 放映で見ました。アル・カポネが指揮した禁酒法時代のギャングの抗争も、同じ名前で呼ばれているようです。

 ■あなたが私にくれたもの
 1990年にヒットした、ジッタリン・ジン「プレゼント」の歌詞より。テンポのいい曲ですが、歌詞をよく聴くといろいろ謎が。

 ■機械の中の幽霊
 アーサー・ケストラー著「機械の中の幽霊」より。士郎正宗の漫画で存在を知って、当時、「ホロン革命」と一緒に高かったハードカバーで読みましたが、難解すぎました。引っ越しのときに売ってしまいましたが、今じゃ、プレミア付いてるんですね。手元に残しておけばよかった。

 ■たったひとつの冴えたやりかた
 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの短編より。初出のSFマガジンの解説に「物語が終わる前にハンカチが欲しくならなかったら、あなたは人間ではない」という意味の言葉が書いてあったのを憶えています。作者は泣きはしなかったですが、感動した話です。
 連作短編集の一編ですが、後にこの短編だけを切り出した本も出ています。

 ■大いなる遺産
 ディケンズ晩年の名作。翻訳は少し古い文体ですが、逆に味があっていいかも。イーサン・ホーク主演で映画化されています。グウィネス・パルトロウが色っぽくてよかったです。

 次回は未定ですが、「星野アツコのプログラミングなクリスマス」と同じ設定の長編か、高村ミスズものを考えています。

Comment(75)

コメント

通りすがり

いやー、楽しかったです。
最後、草場さん戻ってきてハッピーエンドでさらに良かった。
草場さんは大谷亮平さんに変換して毎週読んでいました。
楽しかったです、ありがとうございます。

20180813

お疲れ様です。いいラストでした。小説を読んで清々しくなれるのは本当に幸せです。ありがとうございました。

匿名

我K大ぞはさすがに草

にゃー

あかん。
朝から涙が止まらない。

リーベルGさん、お疲れさま、そしてありがとうございました。

匿名

リーベルGさん
ありがとうございました。
毎週月曜日の楽しみが、またしばらくお預けです。
次回作期待しています。

朝の通りすがり

大谷亮平はいいなぁ!
でもラスト明るくてよかった。
QLicの凋落の描かれ方はリアルでしたね。
魔女の残した魔法が効いて、みんな再スターきれてよかったな

通りすがりn

連載お疲れ様です。

>もし回収し損ねている伏線とかあったら、ご指摘ください。
鳩貝さんがQ-LICからの干渉を断ち切るために何をしたのかまだ明らかになってませんね。
個人的には次回作以降で鳩貝さんメインの話が出ると勝手に期待してるので、そこで回収してもらえればいいなと思っていますが。

エヴァ好き

いつも楽しみに読んでいました。なかなか小説は読みませんが、press enterは最初から愛読しています。次回作を楽しみにしています。草場さんと川嶋さんの会話はシンジとレイですね。

匿名

お疲れ様でした。
楽しかったです。

匿名

白川ビデオって結局どうなったんですか?

匿名

連載お疲れ様でした。
川嶋さん,草場さん,沢渡さん,みんな幸せになってくれるといいなぁ。

次回作も楽しみにしています。

匿名

連載お疲れ様でした。
毎週楽しく拝読させて頂きました。
SE的にはPLとPGに恋愛関係があるのはトラブルの元なんで嫌ですが(苦笑

匿名

約1年間の連載おつかれさまでした。
また月曜朝のお楽しみがない期間が続くのでさみしい( ;∀;)

さらっと入るセリフ好きです。
(エヴァネタは土曜のコラボ番組もあって偶然にしてもタイミング良すぎです笑)

>「星野アツコのプログラミングなクリスマス」と同じ設定の長編か、高村ミスズものを考えています。

どちらも楽しみです。前者ならば魔女降臨や若い子のチャンスあり?
クリスマスが長編なら、ミスズ短編にも期待したい\(^o^)/

SQL

ありがとうございました。
楽しく読ませてもらいました。
伏線の件もありがとうございました。
次回作も楽しみにしています。

コバヤシ

おもしろかったです!

MUUR

これは白川さんの意志を守ることにもなる
遺志??

車の運転にも何とか自信がついてきたはいたが、
自信がついてきてはいたが

素敵なラストでした。連載、長いことお疲れさまでした、ありがとうございました。毎週本当に楽しみに読ませていただきました。
これから章タイトル出典の本を読もうと思います。

BASS1

大団円が見ることができた喜びと、
物語が終わってしまった寂しさが同居しています。
しかし、いやぁ、面白かった。

お疲れ様でした。
また次回作期待しております。

匿名

連載お疲れ様でした。
次回作も楽しみにしていますので、鋭気を養ってから新作に打ち込んでください。
キリンよりも首を長くしてお待ちしてます。

P.S.
サマータイムなど時事ネタが入ってこれるのは、ほぼリアルタイムでのWeb連載ならではですね。

じぇいく

今回も楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。
月並みですが、この世界をほんの少しでも良いものに出来るよう、私もIT業界の端っこで頑張ります。

きゅういち

毎週月曜日の楽しみを与えてくださり、ありがとうございました。
もう次回作が楽しみでなりません。期待して待ちたいと思います。

一カ所だけ、意味は通じるのですが、違和感を持ったところがあります。(強調のための表現かもしれませんが。)
「お前、何も本当に知らなかったのか?」
 ↓
「お前、本当に何も知らなかったのか?」

atlan

レナが無事でいてくれて良かったです

aoix

ありがとうございました。

Q-LICのオリジナルドラマが出演俳優の問題行動のせいでこけたのはさすがにQ-LICに責任はなく、逆に賠償請求できそうな。これすらも白川さんがはめたものだとすると恐ろしい話ですが。

example

めちゃめちゃ楽しかったです、作者様 たいへん有難うございました。
仕事初め月曜日の楽しみがしばらく無くなり悲しいです。
次回作楽しみにしてます!

錯乱狂気

いやー、毎週楽しんでました。
次回作も早く読みたいです。

合法ドラッグは脱法ドラッグかなあ?
イギリスでは合法ならあってるのかな?

centumix

毎週楽しく読ませてもらいました。
白川さんはある意味で社会に有益な「無敵の人」になってましたね。

鳩貝スピンオフはいずれ読みたいです。

>回収し損ねている伏線
(2話)
>ゲートシステムの誤動作で無実の小学生が本の持ち去りの疑いをかけられたり
の無実の小学生=(12話)で初登場の保健室登校している矢野ユウト(中1)かなと思ってましたが、これ確か作中で種明かしはなかったはずです。
そう思った理由はもちろん、白川&瀬端がユウト少年にかなり配慮(接し方とかチャット機能の件とか)していたから。

「沢渡レナのナラティブ」を読んだ時は次は「矢野ユウトのナラティブ」が来るのかな?と予想してたのを思い出しました。

hir0

31話「ゼロ号テスト」の岩永氏の写真に対して、川嶋さんが何か引っかかるものがあったのは何だったのですか?
と書いて気づいた、白川さんと同じ腕時計を岩永氏が着けていたからか。
岩永さんの形見の腕時計を白川さん受け、レナさんへ継いだのですね

hir0

岩永氏じゃない、若宮氏だった

はな

なんかもうしっちゃかめっちゃかですね。
まあいいか。連載お疲れ様でした。

夢乃

連載お疲れさまでした。最後まで楽しく拝読しました。次回作も楽しみにしています。
 
それで、ですね、エンジニアライフとは無関係で申し訳ないのですけれど、永瀬理恵(字は当てた)の物語もですね、若気の至りなどと仰らずに、最後まで書き終えて戴けると嬉しいなぁ、と思っています。
(一読者のたわ言と受け流して戴いて構いませんけれど(-_-;)

リーベルG

MUURさん、きゅういちさん、ありがとうございます。
「意志」はそのままで。

goronyan

毎週月曜日8時の楽しみが終わってしまった。
また次の物語を楽しみにしています。

AC

毎回楽しみに見てました。
お疲れ様でした。

33話までの本当に白川が犯人なのかその動機は何なのかが明かさられるまでが個人的には好きな展開でした。
以降は結構茶番劇なやり取りが目に付くようになってしまって、失速している感じを受けました。

個人の感想としては川嶋に息子がいる設定邪魔だったと思います。
最終回では存在にすら触れられてないし。
息子の描写がほとんど無く、草場との男女の描写が多かったのが、2人がバカップルに見えてシラけることが多々ありました。
特に最終回のやりとりは会話の内容がクサ過ぎます。
ただ、全体的に草場、白川、川嶋の台詞とか見ていると会話のシーンは、クサいやりとりが多いなと思いました。
軽妙なやりとりを文章化するのは難しいんだなと感じます。

mori

毎週月曜日読むのを楽しみにしてました。
長編お疲れさまでした。次回作楽しみです。
テーマはAI?仮想通貨?

匿名

主人公周りの人たちの活躍するシーンが少なく、裏主人公の白川さんは思考が読みにくい超人だったので、過去作を「IT活劇」とすると今作は「IT推理劇」だったのかなという印象でした。天才は描写が難しいですね。説明しないと訳分からないし、喋らせすぎるとアホっぽいし。。。
ハッピーエンドの中のちょっとの痛み、寂寥感。いつものリーベルさん節、堪能させていただきました。次回作、楽しみに待っております。

kzht

まずは、お疲れ様でした。
今回のシリーズも楽しませていただきました。
また、楽しみにしています。

yuji

お疲れ様です!
これで、また月曜朝の楽しみがなくなってしまいます。

紙 or 電子の書籍化は、いつ頃になりますか!?
次回作も読みたいので、リーベルGさんにお布施したいです!
書籍化でなくてもいいので、リーベルGさんのモチベーションに繋がるような仕組みがあると、いいのかなと思いました。

物語で気になった部分ですが、白川ビデオに関して
* 弓削さんの飲み会の会話は、どうやって知ったのか
* 白川さんにVRを作る技術があったのか
が気になりました。
白川ビデオ関連は少しリアリティがないなーと思っているのですが、ツッコんではいけない部分ですかね。

匿名

復讐には意味があるね。と間違ったメッセージを受け取っている気もしますが、
IT畑にはいませんが面白かったです。

いろんな業界的な問題があるようですが、その解決の難しさみたいなものを感じます。
次回作期待しております。

foobar

> 復讐には意味があるね。と間違ったメッセージを受け取っている気もします

俺もそこは同感に思えた。白川の行いを知っているのであれば、最終的には今回の復讐劇を否定した上で、レナには大人になって欲しいところ。

白川がこういう最期を迎えたその背中を見て、もしレナが「無敵の人となればどんな問題も解決」だとか、「余命いくばくもなくなれば、その時は個人の信じる大義が社会秩序に優越することも許される」、みたいな事を誤って学習してしまったなら、おそらくレナは白川が望んでいたような幸せな人生を歩むことはできなくなるだろうし。
ただでさえレナは万引き誤認事件の件で、社会に恨みを募らせて無敵の人になりやすいであろう立ち位置にいるわけだし。

ただ、フリースクールに通っている描写を見る限り、レナは少なくとも白川の後を追って「殉教者」や「無敵の人」になろうとしてる、とは見られないところからすると、希望はあると信じたいな。

ウェルザ

まさかのエヴァ台詞がお出ましとは恐れいった
作者さんお疲れ様でした

連載お疲れ様でした!
楽しく読ませていただきました。
最後は大団円で終わったものの、始まりや過程を思うと、なかなか諸手を挙げて喜べない部分もあり、色々と考えさせられます。

細かいところですが、
瀬端さんが出て行った後、私はしばらく目を閉じて、白川さんのことを思った。
は、想う方が、より主人公の気持ちが伝わると思いました。
次回も楽しみしてますー

Buzzsaw

お疲れ様でした。
じんわりとしたハッピーエンドですね。私の脳内補完ではそう遠くない未来に、ミナっちとレナは
ハンバーガー屋さんに行くことになっています。
毎週月曜が楽しみで、中途半端な忙しさのときはよくこの物語のことをついつい考えていました。
これでやっと仕事に集中できます(?)。

匿名 

最初から最後まで白川さんの物語でしたね。
モニタ真っ二つの件は悪乗りして白川さんを人間凶器化していましたが、実際のところは「モニタ叩き割った」程度に捉えていました。
椅子を使ったかもしれないとはいえ、まさか本当に物理的に真っ二つになっていたとは……サムライ!

匿名

モニタ真っ二つの件と言い、椛山に轢かれてからの復帰の件と言い、白川の肉体的な頑強性がやたらと強調されたエピソードが多かったせいか、白川が致死性の病気に罹っていたってオチが、なかなか腑に落ちなかったのはここだけの話。
そういうところも手伝って、実を言うと、白川が本当に死んだのかどうか、半信半疑な読後感だな。白川の葬式のシーンだとか、瀬端が川嶋に白川の死亡診断書(もしくはカードサイズの遺影、位牌etc...)を見せるシーンがちょっと欲しかったかもしれん。そういう描写まで挟んだら、さすがに冗長&無粋かもしれないのは承知の上だが。

匿名

草場と再会するまで、このプロジェクトもう関わりたくないとか言ってたのに、再会したら秒で白川さんの意志を守ることになるとか言ってるの流石にヤバいでしょ。
そんなに大事な意志なら草場に再会しなくても気づいてやれよ。
作者も狙ってやってるんだろうけど歴代主人公の中で最高に気持ち悪い。

匿名

ゆうとも完全に持て余したよね
あんなに丸々作り直すならチャット機能は川嶋作らなくても良かったし
最後にメモ渡す役目入れてるところはご都合感が出すぎ
瀬端にやらせたほうが間違いないのに無理矢理出番を作った感じ

あと、環境復旧出来なくて朝まで待つしかない状況のシーンで高杉がいないのも腑に落ちなかった
現場にいてもいなくても過去作の本稼働前の対応見たら悪手でも何でも打つでしょ
でも、シリーズ跨ぐとキャラの性格変わるのは飛田もそうだったので仕方ないもんですかね

レイア

この上の匿名さん


捉え方は人それぞれだけど、ちょっと的はずれなのでは?


なにかがきっかけで、それまで気づいてなかったものに気付くってことないの?
最初から何でも気付けとか、変でしょ、その方が。


メモの件は瀬端さんだと、ゴタゴタで渡せないかもしれないから、ユウトに頼んだだけじゃないのかな。


高杉さんは、裏でいろいろ政治的なことを動いてたんだと思いますよ。そんな描写がある。性格代わったというより、出世して、現場のことは人に任せるようになったというだけなのでは。私は不自然に感じなかったけどな。

匿名

人それぞれだと思ってるなら黙ってろ

レイア

あなたは作品に意見を言った
私はあなたの感想に意見を言った
それだけ

自分は意見を言うけど、自分の意見に反論されるのは我慢できない
そういう人?


ああ、そういう市長、前にいましたね。

のり&はる

今更ですが、今枝氏は脳内で本村弁護士に演じていただきました。
リーベルG 様お疲れ様でした。
いつも素敵なお話ありがとうございます。

へなちょこ

連載お疲れさまでした。
毎週月曜日の楽しみがなくなって残念・・・。
次は是非ゾンビの続編をお願いします。

ヨシ

「永尾の件」って何話に出てましたっけ…

匿名

だったら人それぞれとか予防線張ってるんじゃねえよ

はるか

あまり珍妙な解釈で擁護されても、かえって作者が困ると思います。

> メモの件は瀬端さんだと、ゴタゴタで渡せないかもしれないから、ユウトに頼んだだけじゃないのかな。
> 高杉さんは、裏でいろいろ政治的なことを動いてたんだと思いますよ。そんな描写がある。性格代わったというより、出世して、現場のことは人に任せるようになったというだけなのでは。

匿名

>あと、環境復旧出来なくて朝まで待つしかない状況のシーンで高杉がいないのも腑に落ちなかった
>現場にいてもいなくても過去作の本稼働前の対応見たら悪手でも何でも打つでしょ
クリスマスの時のデモ環境の時も、白川はコマンドルームにこもって、原因調査とかやってたことから、必ずしも対応はみんな同じ場所で対応するわけではないし、
朝早くに草場起こして、セレモニーについて話ししてたし、川嶋視点で見当たらないところでなんかやってたんでしょ?

通りすがり

>匿名 2018/08/20 13:20
意見されたら急に喧嘩腰になるとかこいつDじゃね?

レイア

>匿名 2018/08/20 13:20

予防線て
よくそこまで他人の意見を悪意に変換できるものですね
人気のあるものに対してあえて批判するオレかっこいい、てやつ?


小説の中で全てが描写されるわけないでしょう
少しは行間読んだらどうでしょうか

ありがとうございました

次回とは申しませんので,今後も東海林さんとナルミン/ブラウンアイズをぜひ!

匿名D

呼んだ?

匿名

匿名D氏の人気に嫉妬。

匿名D

>意見されたら急に喧嘩腰になるとかこいつDじゃね?


俺は、小説は小説だ、行間を読めよ、と書き込んで叩かれたんだがね。


まったく、ネットの議論(笑 なんて、
ミミズ並みの条件反射を集めたものでしかないわ。

匿名

高杉さんのキャラがまともっぽくなちゃっいましたね。
(・Д・)

togusa

お盆休みから復帰して読み終わりました。
1年近く川島さんや白川さんと過ごしてきた日々が終わってしまったような寂しさです。
ほかの話もそうですがリーベルGさんの物語が面白いのは、技術的な細部がしっかりしているのに加えて、きちんと人間ドラマを描いているからですね。やはり人は人に感動したり共感したりするのであって技術にではないのですよね。
白川さんは無理としてもサードアイの人々とはまたいずれ再会したいものです。

togusa

「たったひとつの冴えたやりかた」(短編集じゃない方)をもっていたので確認してみたらCC-1って、主人公の女の子の宇宙船の名前でしたね。
こういう細かいネタ好きです(^^)

匿名

迷うところではあるが、ここはあえて白川が自らの死んだと装いながら、ライヘンバッハの滝に落ちたシャーロック・ホームズのように、奇跡の生還を遂げている可能性に、100ペリカ賭けてみたい。

> これは白川さんの意志を守ることにもなる

というフレーズが「遺志」の誤字ではないかと質問しているのに対し、

> 「意志」はそのままで。

と作者は答えてるあたり、何というか白川の死亡を確定的なものとして描写したくない、という意図を感じ取れたし。

匿名

スレ違いかもしれませんが、オペレーションMMのKindle版出てたんですね!
どこかでアナウンスされたのだとしたら、完全に見落としてました。

リーベルG

匿名さん>
>スレ違いかもしれませんが、オペレーションMMのKindle版出てたんですね!
>どこかでアナウンスされたのだとしたら、完全に見落としてました。

すいません。それ、Kindle のテスト用に作ったものです。作成から公開までの手順を知りたくて。
まさか気付く人がいるとは。
中身は、エンジニアライフ版そのままで、何も推敲もしてないので、もしお買い上げいただいていたらごめんなさい。
近々、中身をきちんと整えて更新したら、アナウンスする予定でした。

匿名

>シャーロック・ホームズのように
やっぱりバリツで真っ二つにしたんですね

ヨシ

「永尾の件」って何話に出てましたっけ…

匿名

ヨシさん
(26) 監視機構ですね。

匿名

>> 「意志」はそのままで。

> と作者は答えてるあたり、何というか白川の死亡を確定的なものとして描写したくない、という意図を感じ取れたし。

「白川さんは......」
「ええ、去年の冬に。・・・

とハッキリと書かれています。

意志、遺志の件は、
あの時点では主人公はまだ白川さんが亡くなったことを知らないため、
「意志」はそのままで、ということだと思いますよ。

2018/08/23 23:37 の匿名

2018/08/27 15:37 の匿名さん

いかにも、その辺は承知の上。
ただ、46話の白川との会話の時点で、川嶋はすでに白川の死期が近いことを知っていた、ということを考えれば、その時点で「遺志」という単語を使っても良いのでは、と思ってのこと。
順当に読むなら、「46話で白川の死期が近いことを悟りつつも、それでも白川の運命を呑み込み切れていない川嶋の心情」を描写する目的で、「意志」という単語の方をチョイスしたってところなんだろうけれど。

> 「ええ、去年の冬に。・・・
> とハッキリと書かれています。

深読みなのは分かってはいるものの、そこも、瀬端が「ええ、去年の冬に『亡くなりました』」などとまで断定形で言い切らず、語尾を濁しているのがというのが実は引っかかってる。
もちろんここも順当に読むなら、人の生き死にの話を言い切り形でするのは無粋だと判断した瀬端が語尾を濁した結果、と解釈すべきなんだろうが、更に続く文章でも、

> 最後は安らかでした。

とある。ここも、本当に瀬端が白川の死を看取っていたなら、「最後」ではなく「最期」とするのが妥当なのでは。

こういう風に、もし白川が本当に死亡していたとしたなら、ちょっと不自然に感じる描写があったと思ったので、ちょっと白川生存説を振ってみた次第。

匿名

作者を盲目的に信じて拡大解釈する人と断定の言葉が無いから死んでない説があるとかいう人
色んな人がいるね

匿名

亡くなりましたとは言ってないけど、時計に関してははっきりと「白川さんの形見です」とは言ってるんだから、亡くなったで正解なんじゃないの?

yemp

リーベルGさんの書くストーリーは本当に面白い。最高!
いつも楽しみにしています。
連載お疲れさまでした!

macchaka

ご無沙汰でやってきて、一気に読み終えました。
当初は業界あるある的な小説が続いてのに、ICTエンジニアが出てくる普通の物語になりましたね。専門用語が並ぶから普通じゃないか(笑
でもシリーズで初めて涙しましたし、白川さんの喪失感でモヤってます。素晴らしかったです。
あまりSFっぽいのは趣味が合わないもので、こういったノンフィクションっぽい話が読めると嬉しいです。

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