第1回:最近応募が多いのはこんなエンジニア
読者の皆様、初めまして。
某外資系ITベンダの人事部で働く久利隆太(仮名)と申します。
採用に携わって早7年、主にエンジニアの中途採用を担当し、2~5月の繁忙期には新卒採用も手伝っています。今までに数百名のエンジニア、そして多くの学生ともお会いしてきましたので、このコラムの読者の方とも、もしかしたらどこかでお会いしたことがある方もいるかも知れません。
文系出身で、プログラムも組んだことのない私ですが、PG、SEからPL、PM、プリセールス、アーキテクト、コンサルタント等々、技術系の職種ばかり採用をしておりました。8年前に初めて「COBOL」という単語を聞いた時が懐かしく感じます。
わたしがここまでエンジニアの採用に関わっていたのには、理由があります。
それは、今までテクノロジが引き起こしてきたイノベーションに取りつかれたからです。わたしたちの生活を一変させたテクノロジ。ここまでITが日常生活にとってかけがえのないものになるとは思ってもいませんでした。
技術を知れば知るほど、自分には到底及ばない世界だと思いました。しかし、たとえ自分がエンジニアになれなくとも、イノベーションを受ける側から、今度はイノベーションを起こす側で仕事がしたいと思ったから、IT業界において一番重要で、かつ企業の経営戦略を担う採用業務に携わってきたのです。
今までも別の形で執筆をしてきましたが、こうして人事の立場から書くのは今回が初めてです。そんなわたしがここでコラムを書こうと思ったわけですが、下記2つが記事を書くきっかけとなりました。
1つは、人事からの情報発信が少ないこと。
転職やキャリアに関する記事は、社長や現場社員、もしくは人材紹介会社のキャリアコンサルタントの方々が多数書かれてあるのは皆様もよく目にすると思います。
しかし、採用する側の立場、つまり人事から情報が発信されているのを見たことありますか? 残念ながらわたしはほとんど見たことがありません。立場上、色々な問題があるため出せない事情がありますが、これが現状だと言えます。
もし、わたしから人事からの視点、特に採用側の視点が少しでもお伝えすることができれば、読者の皆様の転職はもちろん、キャリアを考える上でメリットは少なからずあると思って、コラムを書こうと思い立ちました。その中には、裏話やドラマが眠っているのです。
そして、もう1つは、自分の考えを形として残すこと。
日々直面する“事件”をそのまま記憶の片隅に残しておくのはもったいない。どこかで忘れてしまうかも知れません。この経験をいつか振り返るために、自分の備忘録としても活用したいと考えています。
世界恐慌以来の経済危機と呼ばれる昨今において、わたしのつぶやきが少しでも参考になればと思います。このコラムでは、それを少しずつ披露していきますので、これから何卒よろしくお願い致します。
■最近応募が多いのはこんなエンジニア
記念すべき第1回は「最近応募が多いのはこんなエンジニア」です。
1、2年前の好景気の頃の転職の動機としては、年収、社名が大きなウェイトを占めていたのですが、現在の応募者の転職意識にはだいぶ変化が見られます。不景気においては、企業側が候補者より優位になるとはいえ、本当に大変だなぁと他人事のようにつぶやいてしまいます。例を挙げて説明してみましょう。
- Change型
- Stay型
最近特に多いのはChange型。
米国のオバマ大統領の言葉ではないですが、この景気の影響もあって、望む望まないに関わらずChangeせざるを得ない状況になっている方もいます。具体的には、開発から運用へのシフトです。
IT投資意欲の減退に伴い、昨年夏くらいから新規開発案件は減っています。特にユーザー系、メーカー系システム子会社はその影響をもろに受け、親会社からの開発案件が減少しているのが現状です。そのため、当面新規開発案件がないこともあり、社内のリソースが最適化されていないので、より効果的に使うため、運用に回さざるを得ない企業が数多く存在します。中には、開発はやりません、と宣言した会社もあるくらいです。
長いスパンで見れば、運用を経験することは本人にとってもプラスになるはずですが、もう開発に戻れないのではという不安や、キャリアを考えたときにもう少し開発で学んでおきたいことがあるなどの理由で、転職という選択肢を取らざるを得ないのかも知れません。
そして、もう1つがStay型です。
アサインされるプロジェクトがなく、社内で勉強したり、Trainingを受けたり、Labに篭って検証したり、Webでテスト環境を作ってみたり、さらには有給をとってみたり……。一見するとプロジェクトの合間の有意義な時間に思えますが、これが2カ月、3カ月続くとどうでしょう? さすがにキャリアに不安を抱え、自身のモチベーションが続きません。机上で学んだ理論をいかに実践に出て試していくかがスキルアップのポイントになるので、この求人が非常に少ない時期においても、転職活動を行う方が増えているのです。
■まとめ
「Change」と「Stay」。
ともに共通することは、必ずしも自分の責任ではないということ。努力を怠ったから、キャリアを考えなかったから、早く転職しなかったから……ということではありません。だから、大変だなぁとつぶやいてしまうのです。
でも、この2つのケースの方を採用するか、と言われるとどうでしょう?
採用に至らないかもしれません。
転職の動機としては十分なのですが、今は(一部の例外を除いて)どこの企業においても求人数は決して多くありません。今は上記2つのケースに該当しない方が2、3名でも応募があれば、その方を優先して採用してしまうのは仕方ないでしょう。
というのも、Change型の場合、キャリアの幅を広げるためと割り切って、新しい技術やマネジメントを身につけることができるでしょう。焦りや不安は誰しも感じることなのですから、わたしは無理に転職してキャリアを傷付けることはお勧めしません。
そして、Stay型の場合、今までは「社外」でも通用するスキルを身につけることが、キャリアの王道とされていましたが、今後は「社内」においても市場価値の高いエンジニアになる必要が生じています。今一度、社内でニーズの高い技術やスキルについて見直す必要が出てきているのかも知れません。
厳しいようですが、これが今の現実ですね。
以上、外資系ITベンダ採用担当のつぶやきでした。
コメント
ああ
>上記2つのケースに該当しない方
具体的には?
インドリ
初めまして、フリーエンジニアのインドリです。
一つ質問があります。
貴方様はエンジニアとしての実務経験がないとの事ですが、ならば実力をどのようにして測定しているのでしょうか?
私は自分が知らない分野の専門家の実力は測れないと思うのですが、そうなればどこを見て採用/不採用を決めているのか非常に気になりました。
久利隆太
>ああさん
例えば開発者の場合だと、
現在も開発のプロジェクトに携わっているとか、
開発→開発のようにChangeしない人です。
社内でも引く手あまたの方ですね。
>インドリさん
採用の基準に関しては、次回以降のコラムで書きますが、
要点を説明させて頂きます。
実際の判断は、やはり専門家でなければ判断できませんので、
現場の面接官、つまり上司になる予定の方の判断になります。
人事はあくまでも、その現場の面接官が判断できるようにサポートすること、
そして、コンピテンシー等、技術以外の判断基準を提供します。