採用担当の立場から、エンジニアのキャリアをつぶやきます。

第4回:買い手市場は転職のタイミングか!?

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 皆様、こんにちは。久利隆太です。

 今日のコラムは、経済に色々と動きが出てきたこともあり、いつものつぶやきとは異なり、少しだけ真面目なトーンでお話させていただきたいと思います。少し長めの文章となってますが、今回も最後までよろしくお願いします。

 さて、先日、政府から「景気底打ち」が宣言されました。

 まぁ大げさな表現ではありますが、2009年1~3月を底として、製造業を中心として在庫調整と生産の回復が進んでいるとのこと。その結果、7カ月ぶりに「悪化」の表現が削除され、月例報告では2カ月連続で上方修正されたとのことです。

 個人的には、まだまだその実感はないものの、確かに最悪期は脱したという気はしています。特に、エコカー減税とハイブリッドカーで需要を伸ばしてきた自動車業界や、住宅ローン減税や価格下落を背景にして、住宅販売に回復の兆しが見られる不動産業界においては、その傾向がより強いと感じています。

 私はこの機会に、自動車購入を真剣に考えています。特に、ハイブリッドカー。なぜハイブリッド? と言われても、明確な理由を持っているわけではないのですが、今はハイブリッドに釘付けです。

 なぜなら、様々な減税もあり、ローンを組むにも金利が下がっている。値引きも今までとは比べ物にならないくらい大きなもので、かなり「お買得」だからです。もし資金的に余裕さえあれば(これが1番大事なポイントなのですが)、この機会により安くて、そしていいものが買える可能性が非常に高くなっていると言えるでしょう。皆様の中にも、この減税をきっかけにして、自動車や不動産の購入を考えた方もいるのではないでしょうか。

 つまり、この話の言いたいところは、「買い手」がかなり有利だということです。もちろん、資金に余裕があればという前提条件付きの話ではあります……。ですが、値引き交渉など、売り手の足元を見た、買い手有利の状況は理解いただけると思います。

 これはあくまでも一般生活での話ですが、転職の話に当てはめてみるとどうでしょう? 

■需供バランスの崩れ

 景気悪化の煽りを受けて、多くの会社が採用を控えています。

 控えているだけならまだしも、リストラで人員削減を行い、さらには昇給や昇格もなく、ボーナスもまともに支払うことができないで、優秀な人材さえも流出してしまう。まさに本末転倒な状況が、今の市場で起こっている現実です。

 そのため、景気が良かった頃には想像もつかなかったほどの活況な転職市場状況となっており、企業側の完全な買い手市場となっております。人材紹介会社の登録者は増加傾向で、求人広告も以前に比べて応募者数が圧倒的に多いのです。

 しかし、肝心の企業の採用意欲が落ちているため、需要と供給のバランスが著しく崩れています。6月に発表された4月の有効求人倍率は0.46倍。つまり、1つの求人枠に2人以上で取り合っているということです。これは1999年以来10年ぶりのことで、数年前に1倍であったとは到底思えない数字です。

 しかし、こんな状況下でも採用を行っている会社はあります。

 業績は決して良いものではなく、資金的に余裕があるわけではありません。それでも、優秀な人材の採用こそが、企業をV字回復させると信じて、投資として人材の採用を行っている会社です。

 実際に、求人数の激減により求人広告のコストは以前に比べてずっと下がっており、人材紹介会社の成功報酬も下がっています。前述の通り、転職市場には優秀な人材があふれており、このタイミングであれば少ない投資で大きなリターン(優秀な人材、そして優秀なTalent)を獲得するチャンスといっても過言ではないのです。

■同じ年齢、同じスキル、同じ経験…

 ただし、求職者側は気をつけなければなりません。今は企業側の完全な「買い手」市場であるため、求職者側は不利な立場になってしまうこともあります。

 前述の通り、転職市場は活況を迎えているため、特に、大手企業においては応募が殺到しております(職種によっては、前年比10倍とも言われます)。企業は、その多数の応募者の中から選ぶことができるのです。ですから、人手不足で「転職=年収UP」が当たり前だった数年前までと、明らかに状況が違うことを理解して下さい。

 例えば、(実際にここまで同じことはまずありませんが……)同じ年齢、同じスキル、同じ経験を持った年収550万の方の例を見てみましょう。

面接官 「希望年収はどのくらいですか?」

Aさん 「現状以上の600万」 

Bさん 「同程度の550万」

Cさん 「多少下がった500万円」

 あなたならAさん、Bさん、Cさんの誰を選ぶでしょうか。

 私なら、まずAさんは選ぶことはありません。業務内容がわからないので、一概には判断できませんが、仮に600万の仕事であっても、550万、500万でやってくれるという人がいるのです。であるならば、無理に高いコストを払う必要はありません。

 しかし、BさんとCさんは難しいところです。

 コスト的に考えればCさんなのですが、簡単には決めることができません。なぜなら、いくら面接で今よりも低い年収で納得していただいたとしても、入社後にそのモチベーションが保てるかどうか非常に疑問だからです。Cさんは1~2年くらいと思っていても、元の年収に戻るまで、どのくらいかかるか保証ができないとなると……。

 採用は、入社したら終わりではなく、入社した後どう活躍するかまでみなければなりません。ですから、採用の段階で将来的なイメージまで行わなければならないのです。

 今回の3人も、求職者側の「売り手」であれば、Aさんの希望は間違っておらず、給与交渉としては絶妙な金額だと思います。しかし、企業側の「買い手」であれば、Bさん、Cさんのような希望年収が好まれる傾向にあり、企業がどうしても有利なのです。

■それでも優秀な社員を採用したい!

 では、このタイミングは転職すべきではないのでしょうか?

 そうとも言い切れません。

 それは、この景気悪化のタイミングで、積極的に優秀な人材を採用しようとしている会社は、これから必ず伸びてくるからです。その企業を見極める絶好のチャンスであるともいえます。

 逆に、社員を取り換えの効くただのコストとしてとらえる入れ替わりの激しい会社は、どこかで必ず淘汰されます。

企業の経営戦略を実現する上で重要なものは、人材です。優秀な社員さえ雇えば何とかなるという経営者は論外ですが、厳しい時こそチャンスととらえ、成長への投資をいかにできるかがポイントなのではないかと思います。

 最後に誤解がないように補足をしますが、不景気の時には低い年収が良いというわけではありません。優秀な人材は、今でも引く手あまたで年収の大幅アップも実現しています。

 つまり、営業であればお客様と案件を持ってこれるような、エンジニアであればその技術力が取り換えの効かないものであるような、大きな価値を見いだせる人であれば、景気なんて関係がないわけです。

 まだそこまでなっていないなら、まずは目指しましょう。

景気の波は、今回に限ったことではなく、また将来やってきますからね。

では、また次回お会いしましょう。

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