アナタもワタシも宇宙人
こんにちは。
最近インドから日本に来た技術者が、床屋に行きたいと言ってきました。異国で床屋に行くのは勇気がいるものです。キミはサムライスピリットがあるから、床屋に行ったら「チョンマゲにしてください」と頼むのだよと教えてあげましたが、いつも冗談ばかり言うわたしのことはスルーでした……。
……さて、インドのオフショアIT企業に勤めて得た新たな感覚があります。
それは「アナタもワタシも宇宙人」。
■宇宙人って??
立派なSEになるための大事なスキルとして、「コミュニケーションスキル」がよく挙げられます。顧客の要件をしっかりと把握するスキル、そしてチームに正確に伝え、要件を満たすモノを作るために必要なスキルとして捉えられていると思います。
このスキル、オフショア開発ではもっと基本的な部分からスキルとして始まります。オフショア開発は言語が日本とは異なることが大きな壁と言われます。わたしもこの会社に入るまではそう思っており、英語ができればコミュニケーションが取れて作業が上手くいくだろうと考えていました。しかし、これはまったく甘い考えだと気づかされました。英語というお互いが理解できる言語を使っているとしても、お互いをまったく理解できないことが毎日のように起きるからです。
当初、自分が話す英語が問題なのだと思っていましたが、日本に来ているインド人が英語で話をしても同じように相手は理解してくれません。言葉や文化ではなく、もっと次元が違う、根本的なところが異なっていると感じるのです。言語が同じなら通じるだろうと思っていたわたしにとって、この大きなコミュニケーション・ギャップは、アナタもワタシも宇宙人のようだねと思うほどだったのです。
■コミュニケーションギャップの原因とは
では、何が理解を阻む原因なのでしょうか。
それは恐らく、経験と思い込みです。経験はフレームワークのようなものだそうです。人間は一度経験したことを過去の経験と照らし合わせ、過去の似た経験に当てはめて考えます。これによって理解を早くしたり、作業を早く終わらせることができるのです。
一方、思い込みは自分が理解した内容が正しいと信じきることです。「自分の経験に照らし合わせて理解しちゃった~♪」と思い込むことで、もうわたしの言葉は聞き入れられません。これがオフショア開発のように人と人が離れて会話をしている場合に顕著に障害となって現れるのだと思います。
日本の同じ現場で働いている場合、この思い込みを拭い去るのは比較的容易です。相手が自分の話を聞いているか相手の目を見て確認することができますし、その場で紙に絵を描いて説明することも容易です。しかしインドにいる相手と電話だけで話をしていると、この作業は一気に難しくなります。ネットミーティング(あれ? このソフト、最近なくなりました?)のようにファイルをPC画面上で共有できるツールを使って資料や図を共有できても、相手が自分の話を聞いているか感じることはとても難しいのです。
今まで、要件に対する理解の差が大きく、プロジェクト期間半ばまでオフショアに要件を説明し続け、時間がなくなって品質が落ちるというプロジェクトが何度かありました。雑誌などで紹介されているオフショア開発の事例でも、当初考えていたシステムとまったく違うモノができあがってきたという話を聞きます。インドの人には技術力が高い人もいますし、顧客に対してとても従順です。言葉や図などで丁寧に説明し、質問して理解度を確認するという地道なプロセスがオフショア開発ではとても大切です。
ここで、わたしの経験からインドオフショア開発でのコミュニケーション方法をリストアップしてみます。まずは伝わりにくい方法は……
★メールで伝えたい内容を書いて説明する
メールはとても手軽な手段ですが軽くみられがちです。また情報が複数のメールに分散してしまう可能性があるので管理が大変です。
★電話で資料なしで説明する
手っ取り早い方法ですが、電話での会話を議事録に書いてもらい、後で理解を確認しないと不安になります。
★ドキュメントを作成して、メールで添付して送付するだけ
これはほぼ伝わっていない可能性が高いです。添付ファイルを開いてすらいない可能性もあります。
★ドキュメントを作成して、電話で内容を説明
ドキュメントを送って知らんぷりよりは良いですが、相手からの質問が少ない場合は理解していないことが多いです。電話の後に理解した内容を議事録などに書いてもらいましょう。
一方、上記の方法よりも伝わりやすいのは……
★ドキュメントを作成して、ネットミーティングのようなもので説明
電話だけで説明するよりも確実です。このほうがその場で相手から質問が出やすいです。
★インドから技術者を日本に呼んで、面と向かって説明する
これはいい方法です。しかし、その技術者がインドでチームメンバに正しく伝えたかが不安になるのでインドに持ち帰ってから確認は必要です。日本へ呼ぶコストもかかります。
★日本の技術者がインドに行って、面と向かって説明する
はて、この方法、一度も試したことがありません。想像するにいい方法ですね……インド出張の負担がありそうですが、インド人を日本へ連れてくるよりもコストは安くなりますし、チーム全体に説明することもできます。
■おわりに
話し相手の過去に経験したことをすべて知るのは不可能です。同じ言葉を使っても、経験などでコミュニケーション・ギャップが発生すると思うと、なんだかもう日本人を含む周りの人すべてが宇宙人に思えてしまいます。アナタはワタシにとっての宇宙人ですし、ワタシもアナタにとっての宇宙人。最近は家族でさえも宇宙人に見えてきました。妻と娘なんてまさに宇宙人です。この仕事での経験を活かして家族の中でも相手のことを想ったコミュニケーションをとっていかないといけないなと思うのでした。