クラウドコンピューティングは売り物ではありません(その2)
こんにちは。野村です。
前回に引き続き、コラム「クラウドコンピューティングは売り物ではありません」の続きです。
■ クラウドコンピューティングは売り物ではありません
前回のコラムでは、以下のように言われたら、あなたならどう回答しますか? までご説明しました。
「IT関連の雑誌を読んだが、クラウドコンピューティングがよいらしい。ぜひ、クラウドコンピューティングなるものを売ってくれないか?」
人それぞれ回答のしかたがあると思います。
ソフトウェアベンダの営業であれば、いわゆるSaaSのシステムのカタログを持ってくるかもしれません。データセンターのサービスに詳しい人であれば、HWのプラットフォームサービスを紹介するかもしれません。場合によっては、Google App EngineやForce.comといったシステム開発・運用環境を売りものとして提示するのが最適なのかもしれません。
ここで、わたしの回答は、以下のとおりです。
「クラウドコンピューティングは売り物ではありません。なので、売ることはできません」
つまり、わたしの理解は、クラウドコンピューティングとは、あくまでも概念というか、考え方のようなものであるということです。
■ クライアント/サーバは、概念です
たとえていうならば、前回のコラムで紹介した「クライアント/サーバ」のような概念であるという理解が正しいと考えます。
クライアント/サーバとの比較で考えるとよいかもしれません。
クライアント/サーバという概念でくくることができる主な要素は以下でしょう(カッコ内は、ホスト集中処理との比較)。
- クライアント側データ処理(ダム端末では端末側は表示以外の処理はしない)
- いわゆるGUI(ダム端末では文字だけのCUI)
- TCP/IPネットワーク(SNAに代表されるホスト系ネットワーク)
- データベースとしてRDBMS(階層型データベースが主流)
- OSとしてUNIXに代表されるオープンシステム(ホスト系OS)
などなど。他にも考慮すべき要素があるでしょうし、時代や考え方で異論がある方もいらっしゃると思いますが。
ただ、上記のような新技術(あくまでも当時。今となっては古臭いですが)がある時期に一気に台頭した。一気に台頭したことによって発生したパラダイムシフトの動きが、クライアント/サーバであったわけです。
ですので、たとえば、クライアント/サーバの構成要素であるRDBMSを売ってくれ、といわれれば、Oracleなどの商品がありうるわけです。しかし、クライアント/サーバそのものを売ってくれ、といわれても、「売り物ではありません」としかいいようがないわけです。
■ クラウドコンピューティングも、概念です
同様に、クラウドコンピューティングという概念でくくることのできる主な要素は、以下ではないでしょうか。
- SaaS型アプリの台頭
- サーバ仮想化技術の発展(正確には「成熟」というべきか)
- いわゆるブロードバンド時代の到来
- Google、Amazonなどの企業への資源(ヒト・モノ・カネ)の集積
わたしの思うに、上記の点が最大の要素かと思います。
上記よりも、AjaxなどのWebブラウザ側での処理を可能とする言語・プラットフォームを入れたいという方もいるでしょう。
いやいや、クラウドコンピューティングは雲の向こうで動くシステムの意味だからSaaSと同義でしょ、という意見も聞いたことがあります。SaaSとASPの違いを論じるべき、という方もいらっしゃるでしょう。などなど。
いろんな議論がなされ、いろんなヒトがいろんなコトを言っているのが現状ではないでしょうか。
そんな中で、わたしの意見。
クラウドコンピューティングは現代のIT業界におけるパラダイムシフトを表現する、概念を表す言葉です。ですから、「クラウドコンピューティングは売り物ではない」のです。
■ 当コラム「クラウドコンピューティング日記」での定義
わたしはこのような考えを持っているので、当コラム「クラウドコンピューティング日記」では、SaaSもさることながら、仮想化技術やGoogle、Amazonをはじめとするクラウド時代の代表的な企業の戦略なども取り上げていきます。
クラウドコンピューティング=SaaSという考えの方にはちょっと違和感があるかもしれませんが、ご理解いただければ、と思います。
わたしの考えは、「クラウドコンピューティングは売り物ではありません」ですから。
どちらかというと、「クラウドコンピューティングを売ってください」といわれて、「はい、どうぞSaaSアプリです!」といって提示するのは、間違いではないですが、ちょっと違うと思うわけです。
哺乳類を売ってください、といわれて、犬を提示するような感覚でしょうかね。理論上間違いはないのですが、違和感があるというか……。
なんだか長々としたコラムとなってきたので、このへんで終わりにします。わたしの意図をご理解いただければ、ありがたいです。それでは、また次回お会いしましょう。