エンジニアの少女
ひどくスケジュールが押しているプロジェクトでした。
工程が押しており、すっかりみんなの気持ちが暗くなり、
もう夜 ―― 今年さいごの進捗報告だったはずのプロジェクトの夜でした。
このデスマーチになりかけている中、一人のあわれな少女(27才)が皆の前で進捗報告をすることになっていました。
オシャレは何もせず、髪の毛は傷んでボサボサなのがわかります。 家を出るときには髪の毛をセットしていたんです。
ええ、確かにセットをしていたんです。
ですが何日かの徹夜続きで家に帰れる時間がほとんどなく誰が見ても疲れきった顔をしていました。
少女(27才)がだいぶ遅れ気味の進捗を報告したあと、この現場でプロジェクトマネージャをしている初老の男性が
嫌味そうな声でこう言いました。
「君のチームが一番進んでいなのをまず自覚しているのか。このままだとこのプロジェクトは失敗してしまうよ」
大勢の前で恥を欠かすようにさらにこう言います。
「まず大体何だねこのコードは。汚くてほかの人が読んでも全く分からないじゃないか。
自分さえ読めればいいと思ってるのかね。こんな汚いコードを書くから婚期が遠のくんだよ」
初老に近いプロジェクト統括マネージャーを兼務している上位会社の部長が嫌味たらしく言いました。
これにはさすがに少女(27歳)も婚期は関係ないじゃないかとイラっとしましたが、黙って謝りました。
「ちょっと部長。それはセクハラですよ」
会議に参加しているほかの経由会社のプロジェクトメンバーも愛想笑いで答えます。
今の世の中、コンプライアンスがうるさいとは知っていますが、この部長の機嫌を損ねると自分にも飛び火が来るかもしれないからか
この会議の中で一番立場の弱い少女を攻撃して保身に走ろうとしています。
フォローをするわけじゃないですが、この案件は統合案件で他銀行との政治的なパワーバランスであまりにも複雑化しすぎた
システムが原因であって少女のコードは決して見にくいものではないと私は思いますよ。おっと話がそれましたね。
「とにかくこの進捗状況だと全然間に合ってないわけなんだよ。分かってるのか。もし間に合わなかったら
どう責任を取ってくれると言うのかわかるかね。君個人の問題じゃないんだ。もう会社として責任を取る羽目になるんだよ」
この朝のミーティンが少女は苦痛で仕方ありませんでした。
周りは年上が多くろくにサポートをしてくれる先輩もいないため少女がその責を一身に受けることになるのです。
ここ最近少女はずっと謝ってばかりでした。
確かに遅れているのは事実です。ミーティングが終わったあとチームに戻り、作業を再開することになりました。
ですが、このチームの中で少女が扱う言語が一番出来ておりほかの人の進捗も捗々しくなく、結果として少女のタスクが増えていきます。
いつもどおり夜の9時まで作業をしていたのですが、皆少女を置いて帰り支度をするようになりました。
「もう帰っちゃうんですか?」少女が聞くと
「いやー連日働き詰めでもうちょっと今日は早く帰ろうかなと」言う男や
「僕この言語が苦手でoopsを見るとウープスとなって僕はこれ以上分からないので帰らせてもらいます」とつまらない冗談を言って帰ろうとするBPに少女はイラつきを覚えます。
何故こんな人員を入れたのかと自社の営業を責めたかったのですが、
もうアサインされた以上また新しく面談を入れて人を探すのも手間です。何しろ人件費を削減されているからか
優秀な人材が入ってこないのです。以前も遅刻が多いBPに直接クレームを出したのですが、改善がほとんど見られず退場してもらいました。
ですが、その分負荷がますます少女の細い肩にかかっていくのです。
まだ大学を出たばかりの頃は周りが気を使って早めに返してもらえましたが
少女はもう5年目でそろそろリーダーのポジションを任されることが多く最近は誰よりも遅く残るようになってきました。
別にこのことに関しては不満はありません。何しろ少女がやりたかったことをやれるようになってきたのですから。
ただあまりにも責任が重くたまにひどく億劫になっていました。
周りが帰り始め残っているのは数える程しかいなくなりませんでした。
ですが工程では今日やらないといけないことの半分も終わっていません。また徹夜をする羽目になるのでしょう。
12時を越えようという時でしょうか。周りも人がめっきり少なくなった時少女はタバコでも吸いに行こうとパソコンにロックをかけ
喫煙所へと向かいました。
出口の近くに掛けてある真っ赤なコートを引っ掛けるように肩にかけ少女は屋外の喫煙所へと向かいました。
少女がタバコを吸うなんておかしいじゃないかと目くじらを立てる方もいらっしゃるかもしれませんが、少女だって
タバコを吸いたいときくらいあってもいいじゃないですか。それに少女は気づいてませんが今日は聖夜なんですから。
外に出ると冷気が少女の頬をなでます。
空を見上げると雪が降っていました。
ひらひらと舞い降りる雪が少女の長くて金色の髪を覆いました。
その髪は首のまわりに美しくカールして下がっています。寒そうにコートを抱え込むように着込んでトボトボと歩いています。
傍から見たら少女はクリスマスなのに仕事をしていることで憂鬱に見えるでしょう。
そしてその物憂げな表情が少女の魅力を彩ってるように見えるかもしれません。
でももちろん、少女はそんなことなんか考えていません。
考えていることはプロジェクトの進捗状況と詰まったコードのことです。
今回のプロジェクトは少女が常々関わりたいと思っていた内容で、会社もまた少女に期待をかけているのが分かるのです。
ですが実際は怒られてばかりで正直少女はこのプロジェクトは自分には力不足だから降りようかとばかり最近は考え始めていました。
最近の嫌煙の時代のせいか周りをぐるりと囲んだ透明なガラスの中で
少女は長年吸っているヴァージニアスリムのメンソールを取り出しました。
ライターを切らしていたのでマッチを何度かこすりすきま風で消えないように手で囲むようにしながらタバコに火をつけました。
白い煙がゆっくりと線を作るように宙に消えていきます。
「そういえば今日はクリスマスか」
時計を見ると今日でクリスマスになったことが分かりました。
昔はクリスマスと言えば特別な感情で過ごしていましたが、働くようになってめっきり記念日とか気にすることが減ってきました。
一本目のタバコを灰皿に入れ、もう一つマッチで火をつけたとき、
少女は学生の頃彼氏と一緒に過ごしたことを思い出しました。
あの頃の少女は仕事に情熱をかけて働きたいと思っていました。
そして彼氏は少女と結婚を前提に付き合いたいから家庭に残って欲しいとそのことでたびたび喧嘩になっていました。
結局別れることになりましたが、卒業し働き始めてからだんだん増えていく責任と仕事の量に少女は少しうんざりしてきました。
あの頃の彼氏の言うことを素直に聞いておけば良かったのかなと思ったのは、その彼氏が風の噂で結婚をしたと聞いてからです。
昔を思い出そうとするとどうしてもいい思い出だけじゃなく、むしろあの時の決断は正しかったのかと考えてしまいます。
マッチの火が消えて、またもう一度マッチを付け直します。
今日はライターを忘れたのもありますが、前の彼氏がよくマッチでタバコに火をつけて吸っていたのを見て少女も真似をするようになったから、
昔のことを思い出したのでしょうか
普段はこんなセンチメンタルな気持ちになることは少ないのですが自分ひとり誰もいないビルに残って残業をしていると何か考えなくてもいいことばかり
頭に浮かんできます。
外を見るとビルにはまだ光がついています。その光景は外から見れば綺麗なイルミネーションの一角を担っているでしょう。
少女もこれまで幾度となく夜景を見てきましたが、実際は中で働いている人が働いている姿なのです。
カップル達があそこの夜景綺麗と言っているあいだも中で誰かが働いているのです。
ふと少女は読んだ本の内容を思い出しました。
タイトルはマッチ売りの少女です。
あまり詳しく覚えてませんが、懸命にマッチを売ろうとする少女がいますが誰も買ってくれません。
最終的に売り物とならなくなったマッチをこするたびに、今までの幸せな思い出が走馬灯のように浮かんで消えていったという話です。
今は少女もそれに似たようなセンチメンタルな気分になりそうになっていました。
夜街中を歩くとビルに点々とつく明かりは労働でまだ残っている人が、自分の時間と体力を削って光らせているのです。
働く前はそのことに気づきませんでした。
ですが今はどういう意味かありありとわかるようになりました。
タバコを口にいれ吹かすでもなくぼーっとビルの入口を見ていると3人くらいの男が転がり出すように出てきました。
「もう三日も家に帰れてないんだ。さすがに帰らせてくれ!」そう男は悲痛混じりに叫んでいました。
「はは、三日が何だい僕は五日も帰れてないんだぞ。それくらいで弱音を吐いてどうする」
「僕なんか1週間はこのビルにいるぞ。君の力がないとこのスケジュールは回らないんだ。ほら早く戻って仕事をしようか」
数に勝てないからか「助けてくれ!この案件は人を殺すつもりだ!誰か!」そう叫ぶも半ば強引にビルの入口に戻されていきました。
直接の面識はありませんが、確か以前喫煙室で雑談を聞いたところ彼らも銀行の統合案件に関わっているそうです。
山猫銀行と少女も知っている大手の銀行で要件定義がコロコロ変わることで有名で何人も退職に追いやったいわくつきの案件でした。
さっきまで感傷に浸っていた少女もくわえていたタバコを灰皿に押しつぶし「サボってないで仕事に戻りますか」とため息混じりに言いました。
皆何かしら苦労をして仕事をしているので愚痴ばかり言っても仕方ありません。
びゅーびゅーと吹く風にコートを揺らせながらあまり戻りたくありませんが作業場に戻ることにしました。
眠気覚ましのエネルギードリンクを飲みながら端末を立ち上げます。
「あの口うるさいプロマネが来る前に昨日レビューで指摘を受けたところを直さないと」
少女はまたパソコンを前ににらめっこをすることにしました。
ですが、コードはさっぱり通りません。
そうこうしていくうちに時計の針がどんどんお辞儀をしていき時間だけが経ってきました。
先ほどコンビニで買ったモンスターエナジーはとっくに効果を失ってしまい、少女は良くないことだと思いながら意識が
遠ざかる前にせめて分からないところだけまとめて聞こうとノートに文字を最後に残しました。
次の日あの口うるさいプロマネが開発室に入ってきました。
1番乗りとは言いませんが、他のプロパーの人が何人か来ておりいつ終わるのか分からない
プロジェクトにとりかかっています。
席に向かう途中、少女の席を見ると端末を前にうつ伏せになって寝ている少女を見つけました。
以前監査で入ってきた銀行の社員から勤怠の管理について、また人前で寝ている姿はどうなのかと軽くクレームが入ったのを思いだし、これも
あとでチクチク言うネタにでもしようと思いながら少女を起こそうとしたところ1冊のノートが開きっぱなしになっているのを見つけました。
別に盗み見るつもりはありませんでしたが、プロマネはふと少女の字を見ていくうちにノートを取り上げ、じっと見ていました。
そして少女の端末を開き、カチャカチャと軽快にタイピングを行いました。まるで何かを思い出すかのようにゆっくりと打ち込みます。
チャイムが鳴りました。
はっと飛び起きるように少女が顔を上げるともう始業時間になっています。
周りを見ると席には少女のチームのメンバーが揃っています。
「朝ミーティングの時間ですよ。何時まで昨日は残ってたんです?」
昨日はさっさと少女を置き去りにして帰ったBPが脳天気に話しかけました。
いつもならこの能天気さにイラっとさせられることが多いですが、少女は昨日に比べて進捗が全然進んでいないことに顔を青ざめて
ミーティングに参加する前に端末を見ました。
すると昨日は薄れていく意識の中でエラーばかり出していたプログラムが綺麗に書き換えられていたじゃないですか。
「少女君。朝ミーティングだから資料持って早くいつものとこに集まって」
そういうプロマネの声は気のせいかいつもより少し優しそうに聞こえました。
「あ、はい。今行きます」
慌てて昨日遅れていた進捗の資料を何とか見せれるレベルに作成したものを持って行きました。
「もうみんな集まってるから早く来なさい」
そう話すプロマネはふと少女が慌てて資料を集めているところを見ると、デジャブを覚えました。
この案件は実は何年も前に今はプロマネとして偉そうにしているおじさんが
かけだしの頃若手の頃先輩に怒鳴られ怒られ書いたコードと全く同じ場所だったのでプロマネはちょっとだけ昔を思い出して手伝ったのです。
クリスマスが終わった日は皆少しだけ心が穏やかになります。
普通はプロマネもこんなことをしませんが、何故かこの日に限っては手伝ってしまいました。
きっとこれもクリスマスの奇跡なのかしらとロマンチックなことを最後に書こうと思いましたが、奇跡というものはなく、せわしなく流れていく
日常の中で皆一生懸命働いているうちに忘れてしまうものですから。
クリスマスに書こうと思ったらこんな時期にまで伸びてしまいました。
コメント
a2c
少女(27)に違和感が・・・
匿名
エンジニアの割には客観性・論理性に欠け、文系の割には文章が上手くない(脱字あり・モバイラーに多い読点の無さが目立つ)。
プロジェクトをうまく切り盛りできない理由がなんとなく、分かる気がする。
匿名
少女?のだらだらグチノート。こんなんアップするなよ。
「自分のせいじゃない、周囲のせい」とか言うヤツの言い分はだいたい間違い。
匿名
文章は確かに読みにくいなぁと感じる部分はあるけど面白いと思うよ、頑張って欲しいわ