もしあの人がITを使ったら -第二話 かぐや姫(前編)
■鬼退治情報
「あ、鬼ちゃん。あたし、かぐや。明日くらいにそっちにもと横綱が鬼退治に行くと思うから気を付けてね。まあ、もと横綱と言っても大晦日に野獣に連敗したし、鬼ちゃんなら負けることはないだろうけど。一応気を付けてね。じゃあねぇ」
また鬼退治か。このごろやけに多いなあ。なぜだろう? それになんでかぐやちゃんが鬼退治の情報を知っているんだろうか? きっと俺に気があるから親身になっていろいろ調べてくれているんだろう。俺が妻子持ちだって知ってるはずなのに。モテる鬼は辛いよ。それにしてもa社の携帯は鬼ヶ島までつながるようになったから便利だなあ。
先週鬼退治に来た剣士は強かった。腹巻を巻いて、海賊狩りをやってるとか言ってたな。俺は海賊じゃないってのに。口にまで刀をくわえて「三刀流奥義、鬼斬り!」って攻撃をしてきたときは死ぬかと思った。なんとか逃げて得意の「鬼ごっこ」に持ち込んだ。そして島の裏の樹海に逃げ込んで巻いてやった。あの剣士は方向音痴だから一生樹海から出て来られないだろう。
でも強いヤツと戦うのはもうゴメンだ。今度は横綱か。事前策をとっておこう。
「おーい、オニオンとオニギリ。港からの一本道の途中に落とし穴を掘っておけ。横綱が入れるくらい大きい穴を」
「はーい、パパ」
これからは情報社会だ。敵の情報を素早く仕入れた方が勝つのさ。かぐやちゃんの愛の情報伝達があれば俺は負けることはないのさ!
■プロポーズの条件
またプロポーズしに男が来たわ。この前はもと横綱、先週は海賊狩りの剣士。今日は誰よ、忙しいわね。私、かぐや姫が有村架純に似てかわいすぎるからいけないのかしら。美しすぎるのは罪なことだわ。
なにこの男、桃太郎って。貢ぎ物は吉備団子だけ? 常識知らずね。私を誰だと思っているの。金の団子でも持って来なさいよ。それに桃から生まれた?はぁ? 頭おかしいんじゃないの。顔は松田翔太に似てイケメンなのに残念。まあ、私も竹から生まれたんだけどネ。面倒だからまた鬼ちゃんに片付けてもらおうっと。鬼ちゃんはこういうときに便利よね。バカだから鬼退治情報を親切に教えてくれていると思ってるし。
「条件があります。もし私のために鬼ヶ島に行って鬼の財宝を取って来ることができましたら、桃太郎様のプロポーズをお受けいたします」
■桃太郎の作戦
さて、どうやって鬼を退治しようか。当初の計画では狼とゴリラと鷹を雇って強力なチームにするつもりだった。けれど契約金が吉備団子しかなかったから犬と猿とキジしか雇えなかった。ずいぶんスペックが落ちた。せめてバナナがあればゴリラを雇えたのだけど。
でも、剣術と空手を習っておいてよかった。もっともウチは貧乏で「道場に通いたい」なんてお爺ちゃんとお婆ちゃんには頼めないから通信教育で習ったんだけど。3D画像のビデオ教材で鍛えたから実戦でも大丈夫なはずだ。
とにかくまずは敵の様子を偵察しよう。
「ゴホッ、ゴホッ」
「おい、キジ、大丈夫か? わ、すごい熱だ。おまえ、鳥インフルエンザじゃないのか。困ったなあ。鬼ヶ島に偵察に行ってもらおうと思ったのに」
「桃太郎さん、代わりに私が行くですワン」
「おお、犬よ、ありがとう。では頼むぞ」
■鬼ヶ島に偵察
やっと鬼ヶ島に上陸できた。犬かきで海を渡るのは大変だったワン。あれ? 大きな穴がある。落とし穴か。誰か大きい人が落ちているぞ。気を付けなきゃワン。
ここが鬼屋敷だワン。ここに隠れて様子をうかがおう。
「誰だっ、そこに隠れた白いヤツは? もしや横綱か。白いってことは白鵬?」
しまった。鬼に見つかったワン。
「なんだ犬か。何しに来た」
「わ、ワンたくし、決して怪しい者ではございません」
「犬がしゃべった時点で怪しいゾ。まさかお前も鬼退治に来たのか? ならば『鬼甘いしるこ』の具にして食ってやろう」
まずい。ワンりょくではかなわないし。なんとかごまかさなきゃ。でもどうしようか?
(後編に続く)
■あとがき
この話はフィクションです。実在する人物やCMとは関係ありません。第一話とも関係ありません。
あけましておめでとうございます。今年もこんな感じでプチ小説やコラムを書いていこうと思ってますのでよろしくお願いします。さて、この犬はどうなってしまうのでしょうか?