プログラマが家事について知るべき97のこと

2010/12/20 17:35:00

 ご無沙汰しております。kwappaです。今年も残りがだいぶ少なくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。わたしは毎日家事ばっかりしております。

■ 推薦図書

 さて、本題の前に、1冊本を紹介させていただきます。先週、『プログラマが知るべき97のこと』という本が発売になりました。プログラマとして生きていくために知るべきことを、現役のプログラマが短いエッセイにまとめたものが97本(+日本版10本)収録されています。

 縁あって、わたしもご献本いただいたので読んだのですが、とてもいい本でした。書評を「晴読雨読@エンジニアライフ」で公開しましたので、ぜひご覧ください。そして、感想を語り合おうぜ! 暑苦しく!


■ お礼と前置き

 前回告知させていただいた「GLT×とべとべ×DevLOVE LT祭り ~5分でセカイを凌駕せよ!!~」は、おかげさまで大盛況のうちに幕を下ろすことができました。@ITからも金武さんが取材に来てくださり、レポートが公開されています。

 当日は予想以上の盛り上がりで、特に懇親会の飛び入りLT大会は30人以上のエントリーがありました。かなりの数の方が「初めてのLT」を経験してくれたことは、主催者の1人としてとてもうれしく、そして誇らしい事実です。本当にありがとうございました。

● 予期せぬ出来事

 ところが「LT祭り」の真っ最中、妻からメールが入りました。ちょっと不調なので病院に行く、とのこと。妊娠中ですので「ちょっと不調」じゃ済まないだろう! と慌てて連絡したら、なんと「切迫早産と診断された」というじゃありませんか。

 心底驚いたのですが、よくよく話を聞いてみると「やることは家に帰って寝るしかない」とのこと。それならまぁ……ということで、イベントはそのまま続けて参加していました。そして、その翌日から、わたしの生活は大きく変わることになりました。

● 介護生活のはじまり

 切迫早産とは「早産になりそうな状態」のことです。深刻さにはずいぶん段階がありますが、とにかく安静にしていることが重要。食事とトイレ以外はほぼ寝たきりでいるべし! とのことなので、妻には「寝てるのが仕事だから」と言い渡し、家事の一切をわたしがやることにしたのでした。

 1人暮らしは2年ほど経験しましたので、一通りの家事はこなせます。趣味と実益を兼ねているので、料理をすることは好きです。けれども、「家に寝てる人がいる」という状況は、1人暮らしよりだいぶ大変でした。

 というのも、1人なら面倒くさくなったら外食するなり飲みに行くなりすれば済んでしまいますが、今回はそうもいきません。なるべく手軽に食べられて、極端に栄養が偏らないようなメニューを、毎日3食分作り置きしておく、というのは結構大変でした。

 料理以外にも最低限の掃除と洗濯はしなければなりません。作業量が増えて時間が圧迫されてきたとき、エンジニア的には何をするべきか? もちろん、徹底的な効率化です。

■ プログラマが家事について知るべき97のこと

 ということでやっと本題。今回は、日々エンジニアとしてのキャリアで培った知識や発想をもとに、家事の効率アップについて書いてみようと思います。

● デザインパターンを活用する

 蓄積したノウハウをパターンとして分類し、適切なときに再利用する。これは、プログラミングにおいても料理においても有効なスキルです。パターンを身に付けておくことで、迷う時間をなくし、適切な素材選定を行い、少ない労力でバリエーションを増やすことができます。

 わたしが一番よく使うのは「鶏肉と野菜のスープ」パターンです。簡単にレシピを書いてみると……

  1. 鶏手羽元はフライパンで焼き色を付ける
  2. ショウガ(皮とかはじっこ)・長ネギ(青いところ)と一緒に圧力鍋に入れ、10~15分加圧する
  3. ざっくり切った野菜を入れ、ひたひたになるまで水を足す
  4. 洋風にするならコンソメ、和風にするなら顆粒のかつおだしを入れる
  5. 塩・胡椒で味を整えながら、野菜が柔らかくなるまで煮る

 これだけ。分量も野菜の種類もテキトーな料理ですが、以下のような利点があります。

  • 材料の受け入れ幅が広い……鶏肉は手羽元を使うのが基本ですが、それ以外の部位でも、また鶏以外の肉でも作れます。野菜はたいていどんなものを入れても馴染んでくれるので、季節や価格に合わせて柔軟な選択ができます。キャベツや白菜など葉もの、タマネギ、ジャガイモやニンジンなどの根菜、シメジやエノキなどのキノコ類。たくさん入れて、日ごろの野菜不足を解消するのもいいでしょう。
  • 手順が単純で明快……基本的には「鶏肉を圧力鍋で加熱する」「一口大に切った野菜を入れて煮込む」「味付け」の3プロセスで完成です。単純化されたプロセスはミスを生みにくい、という利点があります。
  • アレンジしやすい……基礎になる味付け(塩・胡椒によるシンプルなもの)ができるようになれば、アレンジによってバリエーションを増やし、「飽きられる」という不具合を避けられます。トマト水煮缶、カレー粉、味噌、ナンプラーなど、特徴的(そして支配的)な味付けをすることで、同じ材料・レシピでも違った料理だと感じさせられます。

● リターンに見合うコストをかける

 システム開発において、何でも抱え込んで内製するにはリソースが足りない場合もあるでしょう。逆に、すべてアウトソーシングで賄うのはコストの面で厳しい場合もあるでしょう。

 つまり、許された予算と期間の中で、リターンが最大となるようにコストをかける(=投資する)べきなのです。

 具体的にいくつか書いてみると……

  • クリーニング屋を活用する……ワイシャツを洗濯してアイロンをかける、というのは結構手間ひまが要求される作業です。クリーニング屋に出すのはコストに対して時間のリターンがかなり大きいと言えるでしょう。幸い、いまの職場は服装自由なので助かっていますが。
  • 送料を払う……最近はネット通販でありとあらゆるものが買えるようになり、ネットスーパーの普及で生鮮食料品も買えるようになりました。買い物に費やす時間を考えると、通販の送料というのは払うべき価値があるコストである、と言えそうです。
  • 道具に投資する……道具にコストを掛けることで、時間的にも気分的にも大きなリターンが得られる場合があります。これについては後述します。

 掛けられる時間とお金をバランスよく使い、最大の効率が得られるようにする。エンジニアならではの発想と能力が生かせる場面ではないでしょうか。

● 道具をケチらない

 効率よく作業をするためには、使いやすい道具が欠かせません。プログラマの場合、キーボードやマウスなどのインプットデバイスだったり、エディタやIDEなどの開発環境が「道具」に当たるでしょう。わたしはEmacsと東プレ製キーボード以外では仕事をする気力も能率もダウンしてしまいます。

 家事においても道具は重要です。わが家の家事を効率化してくれたいくつかの道具をご紹介しましょう。

  • 食器洗い機……いきなり大物ですが、これは家事の効率化に絶大な威力を発揮します。料理してもそれを食べても、あとからあとから出てくる洗い物を効率的に片付けてくれるうえに、最近の製品は手で洗うより省エネ・節水になる場合もあります。初期投資は必要ですが、そのコストはすぐに償却できるでしょう。
  • 洗濯用品……洗濯も結構大変な作業です。干していて「ハンガーが足りない」「洗濯バサミが足りない」といった事態は非常にやる気を削ぐので、これらの道具は潤沢に揃えておきましょう。わが家には「引っぱリンガー」というふざけた名前の物干しグッズがありますが、これも洗濯物を取り込む作業の省力化に貢献してるので、オススメの一品です。
  • レンタルモップ……掃除はまず「始める」ことに大きな心理的障壁がある、と個人的には思っています。そこで、あえて有料のレンタルモップを契約してしまう、というマインドハックはいかがでしょうか。お金払っちゃった! 明日交換に来ちゃう! という外部制約が、モップを手に取って掃除をするきっかけになる……かもしれません。もちろん、自発的に掃除を開始できるメンタルの強さを身につけるのが目標なのですが。

■ まとめ プログラマ vs 家事

 結局、妻は1週間自宅で安静にしていたのが奏功し、翌週から仕事に復帰していきました。その後の経過もそれほど悪くないまま、今月の上旬から産休に入っています。もちろん重労働はできませんので、いまでもわたしが大半の家事を引き受けています。

 家事をしていてもう1つ思ったのが、「完ぺきを求めすぎない」ということ。これもシステム開発に通じるものがあるな……と、なんとなくニヤッとしてしまいました。ソフトウェアも家事も、パレートの法則どおり「20%の時間で80%の完成度が得られる」ことが多いようです。

● 今日のwifehacks

  • エンジニアならではのスキルで家事を省力化しよう
  • リターンを考え適切な投資をしよう
  • 家事をすることでwifeの「ご機嫌メーター」を回復しよう

 年末は大掃除のタスクを割り振られてげんなりすることもあるでしょう。エンジニアならではのスキルを生かして、ポジティブに「Housekeeping Hacks」をしてみませんか?

■ Links

「108番目のきのこを生やすのはあなただ! 『プログラマが知るべき97のこと』」

「意外と簡単に世界は変わる」——いまこそ圧倒的なLTについて語ろう − @IT自分戦略研究所

Amazon.co.jp: プログラマが知るべき97のこと


両親学級から知る、社交性の重要さと訓練方法

2010/11/01 18:00:00

 皆さん、こんにちは。またしてもご無沙汰のkwappaです。遅筆コラムニストにもかかわらず、先日開催された「エンジニアライフ2周年パーティー LT大会2010秋 in TOKYO」に参加し、LTまでさせていただきました。諸事情により途中で失礼したのですが、コラムニストの皆さんに実際にお会いできたのはとても貴重な体験でした。今度は関西で第2回があるようですので、お近くのコラムニストの方はぜひ参加してみてください。

■ 告知

 11/6(土)、オラクル青山センターにて勉強会を開催します。テーマは「LT」(Lightning Talk)。今回は「DevLOVE」「GLT」、そして「とべとべ」の3コミュニティで共同開催します。

11月6日 GLT×とべとべ×DevLOVE LT祭り ~5分でセカイを凌駕せよ!!~(東京都)

 IT系の勉強会・カンファレンスで行われることが多い「LT」について学び、体験する午後です。達人によるワークショップから飛び入り大歓迎のLT大会まで、幅広いプログラムを用意しています。「人前で話したことなんかないよ……」という初心者の方にこそ体験していただきたいイベントですので、ぜひ皆さんご参加ください! お申し込みはこちらから。お待ちしています!

■ 両親学級での出来事

 さて、本題。先日ヨメに連れられて「両親学級」というものに参加してきました。

 「両親学級」とは、出産を控えた母親(と父親)を対象に、お産までの流れや心構え、沐浴(もくよく)のさせ方などを教えてくれる集まりです。自治体が主催するものと産院が主催するものがあるようで、今回参加したのは産院主催のものでした。

 開催されたのは、会社員にとって貴重な日曜日の午後。しかも、今回のクラスは有料(1人1000円だったらしい)。よっぽど有意義じゃないとタダじゃおかないぞ……ぐらいの気持ちにもなろうというものです。そのため、ヨメとはかなり深刻な衝突をしたのですが、今回の本題とは無関係なので触れません。

  • [wifehack]:妊娠中のヨメに道理が通じると思うな

● 急募:社交性

 両親学級の内容についても、詳細には触れません。思ったより無駄な時間ではなかったけれども、なんとも効率が悪いものだなぁ……という感想を持ちました。

 プログラムは、主にワークショップ形式で進みました。ほかの参加者夫婦と同じテーブルに着き、テーマに沿って課題に取り組んだり、ディスカッションをしたりします。

 つまり、見知らぬご夫婦と会話をし、話し合って結論をまとめ、しかもグループごとに発表をしなければならないのです。ああ、なんという社交性を要求するのでしょうか……。貴重な休日の午後を費やし、しかも見知らぬ人と会話するとか。わたしのようなコミュニケーション力の低いエンジニアにとっては、大変な試練の場となりました。

● 非コミュの嘆きと挫折、そして克服

 この話をすると「えー」と言われることが多いのですが、わたしは社交性が非常に低く、見知らぬ人と会話をするのは大の苦手です。話し掛けていただけるならまだしも、こちらから話し掛けたり議論をまとめたり、それを発表するとか、なんという無理難題なのでしょうか。

 それでもまぁなんとか、社会的生命の危機を迎えることもなく、2時間半のクラスを乗り切ることができたのでした。いわゆる「非コミュ」のわたしがそんな局面を切り抜けられた理由は、勉強会に参加していたからに違いありません。

■ 勉強会がくれたもの

 はじめて勉強会に参加すると、大体周りは知らない人だらけです。せっかく外の世界を知るために参加しているのに、交流しないなんて損失です。「勉強会に勉強しにくるヤツは素人」という名言もあることですし、初対面の人ともどんどん会話をしたいものです。

 そして、勉強会においては「スピーカーをすると後で話し掛けてもらえる」という傾向があります。隣に座って黙っていた人より、何か話した人に興味を持つのは当たり前ですね。

● LTでスピーカーデビューしよう

 勉強会で何か話すのに、一番手っ取り早いのが「LT」(Lightning Talks:詳細はこちら)です。たった5分間の発表ですから、失敗しても最悪5分ガマンすればおしまい。話す方にも聞く方にもデメリットはありません。そして、LTで話すだけでも立派な「スピーカー」ですから、あとで話し掛けられる確率もぐんとアップします。

 えっ、LTのやり方が分からない? それならちょうど、LT初心者のための勉強会がありますよ! 11/6(土)、日本オラクルで開催されます。

■ まとめ

 はいすみません、このエントリは1本まるごと告知記事でした。

 でも、勉強会でLTしてきた経験が、両親学級を乗り切る原動力になったのは本当です。勉強会ではたくさんのものが得られる、ということはいろんなところでお話ししていますが、その1つとして「コミュニケーションの訓練になる」ということの実例となった一件でした。

 エンジニアとして充実した仕事をするためにも、突然降り掛かる「両親学級」のような無理難題を克服するためにも、まずはLTでスピーカーデビューしてみませんか? 得られるものがたくさんあることは、わたしが保証します。

● 今日のまとめ

  • 勉強会に参加することはコミュニケーションの訓練になる
  • スピーカーになることには大きなメリットがある
  • LTはスピーカーデビューに最適である

■ Links

11月6日 GLT×とべとべ×DevLOVE LT祭り ~5分でセカイを凌駕せよ!!~(東京都)

Shibuya Perl Mongers : What are Lightning Talks?

長くて脱線しがちな師匠への謝辞

2010/07/26 16:45:00

 こんにちは。kwappaです。今日は「エンジニアライフ時事争論」のお題である「尊敬しているプロフェッショナル」についてお話します。またしても「wifehacksはどこいった?」という内容になるかと思いますが、気にせず寛大におつきあいいただければと思います。

■長い前置き

 最近翻訳・出版された、「アプレンティスシップ・パターン—徒弟制度に学ぶ熟練技術者の技と心得」という本があります。

● 「アプレンティス」? 「パターン」?

 アプレンティスシップとは、中世ヨーロッパで職人が技能を身につけるために普及した「徒弟制度」のことを言います。「アプレンティス(徒弟)」は「熟練職人」のもとで修行を積み、やがて「ジャーニーマン」として巣立ち、さらに技能を磨きながら「熟練職人」になることを目指す、という制度です。

 この本ではプログラマを「ソフトウェア職人」と見なし、「徒弟制度」の中から現代のソフトウェア開発の現場において、プログラマが成長するために必要な「パターン」を定義しています。

 ここでの「パターン」とは「デザインパターン」で使われるのと同じ意味で、よい行いや手法、設計方針などに名前をつけて分類し、意思疎通と再利用を容易にしよう、という試みです。もともとはクリストファー・アレグザンダーという建築家が、建築の分野で提唱した「パタン・ランゲージ」という概念をベースにしています。

●すべての徒弟たちへ、すべての師匠たちへ

 おおまかかつ乱暴に内容をまとめると、だいたいこんな感じになります。「パターン」のあたりは意識して学ぼうと努めてはいますが、まだまだ浅学ですので間違いなどありましたらツッコミをいただけると助かります。

 わたしは「徒弟」と言うにはずいぶん歳を食ってしまいましたが、それでもこの本に巡り会えてよかったと思っています。そして、実際に「徒弟」だったころに巡り会えなかったのが悔しい思いもあります。若いプログラマの皆さんには大変役に立つ、手に取ってほしい1冊です。ちょっと翻訳が固くて読みづらいという欠点がありますので、読書会かなんかを開いてみるのもいいかもしれません。

■長い長い前置き

 さて、続いても本のお話。今月の「時事争論」に書けばいいような内容ですが、気にせず先に進めます。

 「情熱プログラマー ソフトウェア開発者の幸せな生き方」という本があります。「My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド」という本の改訂改題第2版で、第1版よりずいぶんポジティブな色が強くなっています。

●「師匠」~あなたがわたしにくれたもの~

 タイトル通り、プログラマが仕事をするにあたって持っておくべき「情熱」についての短いエッセイをまとめた、大変アツい本です。わたしもそのアツさにすっかり浮かされて、「情熱プログラマー読書会」という勉強会を開催してしまいました。

 その勉強会で、わたしが話したプレゼンのタイトルがそのものずばり「師匠」。「情熱プログラマー」の第13節「師匠を探す(Find a Mentor)」と第14節「師匠になる(Be a Mentor)」をモチーフに、ゲームプログラマ時代から現在までの師弟関係について話しました。

 スライドと動画はblogにまとめてあるので、興味のある方はぜひご覧ください。

■尊敬するプロ、あなたの名は「師匠」

 さてやっと本題にたどり着きました。語りたいのは「師匠」と「徒弟制度」、そして「プロフェッショナル」について。

 プレゼンの中でも紹介した、わたしの「師匠」。わたしが現在職業を「プログラマ」と名乗れるのは、どう控えめに見積もっても彼のおかげです。ですので、今回「エンジニアライフ時事争論」のお題が「尊敬しているプロフェッショナル」と聞いたときも、真っ先に彼のことを思い出しました。そして、プレゼンでは語り切れなかった彼の話を書こうと心に決めたのです。

●わたしの師匠

 先ほどからずっと書いている、わたしの「師匠」にあたる人は、わたしが20世紀末から21世紀にかけてのべ8年ちょっと勤務した会社の社長で、そしてチーフプログラマです。たいへん厳しい人で、とてもデキる人で、かなりハチャメチャな人。

・厳しい師匠

 LTでもお話しましたが、プログラミングに関してはとても厳しい人でした。CVSのコミットログを見ては、「kwappaさんの書いたコードは信用ならん」と厳しいチェックが入る日々。時にはわたしが書いた処理の原型すらとどめないことさえあり、その度に涙で枕を濡らす日々を送ったのでした。

 しかし、これには大変な手間がかかるのですね。もちろんプロダクトコードの質を担保するのはチーフプログラマとして不可欠な仕事です。しかし、「なぜダメなのか、どう書けばいいのか」というチェックは、育成をしようという明確な意志がなければできるものではありません。わたしが師匠的な立場になってやっと、それが実感できました。

 もちろん師匠の真意がどこにあったかは分かりません。直接聞いたことないし。ですが、わたしにとっては最初の「師匠」であり、仕事の基礎を叩き込んでくれたことに深く感謝しています。直接言ったことないけど。

・デキる師匠

 実は師匠の年齢は、わたしとそれほど離れていません。ですが経験の幅と深さ、そしてなんでも「形にする」実装力については今でも感嘆します。

 PC-98時代の同人ゲーム、DOSのデバイスドライバ、組み込み、Windows、そしてコンソール(家庭用ゲーム機)。ゲームエンジンからフルスクラッチする大きなプロジェクトを進めながら、一点ものの試作機を作ったり。今考えると無節操な仕事の請けっぷりだなーと苦笑したりもするのですが、そんな経験をさせてくれたことにも感謝しています。

 特に「ハードウェアがわかるソフト屋」というところに影響を受けています。試作機に必要なセンサを買い行き、2人でアキバ中の在庫を枯渇させた、なんてのもいい思い出です。

 プログラマという仕事の幅広さを見せてくれたことにも感謝しています。直接言ったことないけど。

・ハチャメチャな師匠

 仕事を離れると、飲み友だちとしても交流がありました。わたしもたいがい酒好きですが、師匠と比べるとそれこそ「徒弟」もいいところです。職場と師匠宅が近かった(同じビルの違うフロアだった)ので、半分住み込んでるみたいな状態の時期もあり、夜な夜な働いたり飲んだり遊んだりしていました。

 当然というかなんというか、いろんな武勇伝があります。少しネタにさせていただきますね、師匠。

  • 【それは肉じゃない事件】
    焼肉と日本酒が大好きで、野菜と魚が大嫌いな師匠。「カルビと黒牛があれば生きていける」と豪語していました。よく行く焼肉屋で、カルビとロース以外の肉を食べる姿はほとんど見たことがありません。ハラミうまいですよ? と勧めても「それは肉じゃない」「赤くない肉を食べる気持ちは理解できない」とバッサリ。そのぶん味へのこだわりは強くて、一時期はずっと大久保界隈の焼肉屋エリアをクローリングしていました。
  • 【めがねめがね事件】
    ある朝傷だらけで出社してきて、「眼鏡を買いにいく」と言い出しました。前夜は確か一緒に飲んで、わたしは電車で帰宅したんでした。聞いてみると「3次会に行くとき転んだ」とか。手にしていた眼鏡はまっぷたつ。幸い手や腕、指にけがはありませんでしたが……。師匠は「おねーさんのいる店に行くこと」については教えてくれませんでしたが、それは結果的によかったのかもしれません。
  • 【リモート録画事件】
    国内 / 海外問わず「ドラマ」が大好きな師匠。地上波の恋愛ドラマからCS放送の海外ドラマまで、毎クール週に10本以上はチェックしていました。当然予約録画は重なるし、野球のシーズンは延長による時間変更も発生する。インテリジェントなHDDレコーダが普及する前の時代に、どう対応したかというと……
    • ビデオデッキ(3台) / CSチューナーの出力をPCのキャプチャカードに入力
    • 学習リモコンをUSB接続、デバイスドライバとコントロールアプリを書いて、ビデオデッキ / CSチューナーをコントロールできるようにする
    • そのPCにVNC経由でログイン、職場からすべてコントロール
    今あるもの / できることを活かして、自分でなんとかする姿勢というのは大きな糧になった…のかもしれません。

 今思い出すとかなり過酷な仕事でしたが、それでも楽しく過ごしていたのは、やっぱり師匠のおかげのような気がします。直接言ったことないけど。

■長くて脱線しがちな師匠への謝辞

 わたしにとって最初の「尊敬するプロフェッショナル」である「師匠」について、長々と語ってきました。いろいろ楽しかったりつらかったりの思い出が蘇って、最終的には感謝の気持ちに落ち着きました。ああ良かった。

 前述したとおり、わたしは師匠の影響を強く受けてここまでやってきました。仕事への取り組み方やプログラミングの基礎から、ソースコードの癖まで。たとえば、Cをはじめとする中括弧とセミコロンの言語で、文末のセミコロンの前にブランクを置く癖。これは、そのあと巡り会ったどのプログラマに言っても不思議な顔をされます。

 師匠とわたしの関係は、ご紹介した2冊の本を読むことで初めて「アプレンティスシップ・パターン」だったのだな、と意識できました。

●良き指導者を見つける (Find Mentors)

 「アプレンティスシップ・パターン」 p.84より。

 よい指導者を見つけ、彼らから指導を乞うことは重要です。身近にいなかったらOSSコミュニティなどで探してみましょう。そしてあなた自身の成長のためにも、あなたより経験が浅いアプレンティスがいたら、積極的に指導を行いましょう。要約するとこんな内容のパターンです。

●師匠を探す (Find a Mentor) / 師匠になる (Be a Mentor)

 「情熱プログラマー」にも、同じような趣旨の記述があります。師匠から学ぶこと、そして師匠として振る舞うことによって学ぶことは、どちらもソフトウェア職人として成長するために、とても大事なことです。

 そして、LTのポイントに使った「師匠エコシステム」という言葉をもう一度書いておきます。

 師匠に受けた恩を、直接師匠に返すことはなかなか難しいことです。ならば、あなたが「師匠」になり、次の「徒弟」を育てることで恩を返し、なおかつ「師匠になることで得られる学び」を循環しよう、という考え方が「師匠エコシステム」です。

●師匠に感謝する (Thank to a Mentor)

 どちらの本にも「職場などで師匠となる人物を探すのは難しい。身近にいなかったらコミュニティなどで探し、指導を仰いでみよう。意外と断られないものだよ」との記述があります。わたしの経験の中からも、職場という環境で「師匠」という役目を果たしている人を見ることはあまりありませんでした。

 今のわたしは、コミュニティに飛び込んだり勉強会を開催することができるようになりました。しかし、20世紀のわたしにそんな度胸はなかったように思います。ですので、20世紀に師匠と巡り会うことができたのは大変幸運だったのだな、と、今回のコラムを書くことで改めて実感しました。

 師匠、ありがとうございました。

■まとめ

 案の定「wifehacks」は出てきませんでしたがまぁ気にしないことにしましょう。今日のまとめは……

  • 「師匠」を見つけましょう。身近にいなければ探しましょう
  • 「師匠」になりましょう。師匠に恩返しはできないので、次の弟子に恩を返しましょう
  • 「師匠」と巡り会えるのは幸運なことです。感謝しましょう

●Links

 【study2study】情熱プログラマー読書会【とべとべ】を開催する: Kwappa開発室
http://kwappa.txt-nifty.com/blog/2010/04/study2study-208.html

我が家の「ググるな危険」

2010/07/07 16:58:00

 みなさんこんにちは。kwappaです。蒸し暑い日々が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。わたしは汗っかきなので、毎日常にしっとりしています。このまま沼に帰れそうな気がします。印旛沼あたりで見かけたら、どうかそっとしておいてください。

■告知

 わかりづらい前置きはさておいて、久しぶりに勉強会の告知をさせていただきます。

 7月17日(土)、わたしが主催する「とべとべ」と、日本電子専門学校の「電設部」が共同で勉強会を開催します。題して「勉強会夏祭り2010」。テキストプロトコルから雇用保険まで、いつにもまして幅広いラインナップでお送りする予定です。

 お申し込みはこちらから。皆様のご参加をお待ちしております!

■インターネットに潜む危険

 以前、エンジニアライフでは「ググるな危険」という記事が大変注目を集めました。印象的な記事でしたので、私も記憶に残っています。

 要旨を少し引用してみます。

 普通、「パラメータはコンフィグファイルに記述」という仕様を「パラメータをWindowsのレジストリに書き込む」とは解釈しません。

 けれど、Google検索はそれを結びつけてしまいました。Googleはちっとも悪くないんですが……。

 聞いてみたところ、新人はレジストリについて、半日悩んでいたそうです。

 「もっと早くに聞きにこようよ」というと、「仕事をしてたんでジャマしちゃ悪いかと思って」といわれました。(後略)

プログラマで、生きている: ググるな危険

 自分で調べたり試行錯誤してみること、先輩や経験者に聞いてみること、どちらも成長には重要な要素です。なかなか難しいことですが、バランスを考えながら日々の仕事や勉強に取り組みたいものです。

■病は検索エンジンから……?

 ところで、成長にも勉強にもまったく関係のない、もうひとつの「ググるな危険」があるのをご存じでしょうか。

 「グーグル症」と呼ばれる症状があります。

 大元の記事(英文)にはアクセスできないので、スラッシュドット・ジャパンで紹介された翻訳を少し引用します。

 現代の医師達が直面する新しい症例といえば「症状をググって誤った自己診断をする」という「Google 症」だそうだ。

 現代では気になる症状をググり、奇病や重病にかかったと思いこんだり誤った情報を得たりする人が絶えないという。一概には言えないのだが、自己診断をする患者の多くが大した病気ではないことが多いとのこと。

「Google 症」と闘う医師たち - スラッシュドット・ジャパン

 ググることによってどんどん悪い方向に考えが向いてしまう。ありもしない病気じゃないかと過剰に心配する。そんな現象を名付けたもののようですね。

 ネットの情報は、極端な論調に注目が集まる傾向があります。滅多に発生しない最悪のレアケースが、ググったらトップに出てくる。自分のケースと比較したり、自分の未来に重ね合わせて不安な気持ちになったり。健康の問題に限らず、こんな経験をしたことがある方は意外と多いのではないでしょうか。

■我が家に迫る危険

 前回の記事のあと、妻も見事「グーグル症」を発症しました。年齢から「高齢出産」に分類されるため不安に思ったのでしょう。いろいろ検索しては、画面いっぱいにヒットする記事に恐れおののく日々が続きました。

 「それはグーグル症というんだよ」と説明すると、その時は納得します。しかししばらくすると、またなにやら検索しては悲嘆にくれる。聞いてみると、気にすまい気にすまいと意識すればするほど、ふとした空き時間に検索してしまうのだそうです。ついカサブタを触ってしまう、そんな心境なのでしょうか。

 しばらく我が家では、妻がパソコンやiPhoneをいじっているのを見かけるたびに「ググるな危険!」と叫ぶようにしていました。だいぶご近所には迷惑だったと思いますが、時間の経過とともに少しずつ落ち着きを取り戻すことができたのでした。

■まとめ

 いまや、ないと生活に困るグーグル。しかし、依存が過ぎるとなかなかやっかいなことになるようです。

  • 調べ物は方針を決めて。費やす時間も決めておくとなお良い
  • 検索結果が正しいとは限らない。嘘を嘘と見抜く力を養おう
  • 過剰にググると危険

 節度を守った検索で、Happy (wife) Hackingを!

■Links

【とべとべ】勉強会夏祭り2010【電設部】 : ATND

プログラマで、生きている: ググるな危険

「Google 症」と闘う医師たち  - スラッシュドット・ジャパン

長い長い5月のできごと

2010/06/18 17:00:00

 皆さまお久しぶりです。kwappaです。個人的にバタバタしていて、すっかりご無沙汰してしまいました。エンジニアライフでもいろいろあったようですね。個人的には、コミュニティ活動仲間の野口おおすけさんがコラムニスト仲間になっていたことに驚きました。

■経過報告

 5か月ほどご無沙汰していたあいだに、何があったかというと……

●転職しました

 このコラムでも神様だの職務経歴書だのいろいろ書いてきましたが、その経験を遺憾なく発揮して(?)、転職をしました。

 過去の転職活動は人材紹介会社を使い、エージェントが選んだ求人にたくさん応募する、というフローで転職活動をしていました。前回の転職については過去のコラムに少し書きましたが、書類審査に応募するのが10~30社、その中からいくつか面接に進み、最後に1~2社から内定をいただく、という感じでした。

 ところが、今回エントリしたのはたった1社。いろんな可能性が平行して進んでいたのでエージェントを使わず、会社のWebサイトの「中途採用フォーム」から応募しました。それが採用につながったのですから、人生ってわからないものですね。

 今回の転職には、ほかにもいろいろいままでにない経験がありましたので、機会がありましたらじっくり書いてみようと思います。

●子どもができました

 ……と言っても、ご対面するのはあと30週ぐらい先のことですが。順調にいけば、来年の1月ごろ正式に「父親」になる予定です。

 さらっと書きましたが、いまだにだいぶ動揺しています。ちゃんと自分がオトナである実感すらあまりないのに、あと数カ月すると人の親になるなんて。あははは。

 妻の状態がそういうことですので、いままで以上にケアが必要になります。やがて子どもがお出ましになると、強力な時間泥棒が増えることになります。仕事と家庭とコミュニティをどう共存させていくか、wifehackコラムニストとしては腕の見せどころですね! ご期待ください……全然自信はありませんが。

 ちなみに子どもができた徴候を確認したのが、現職の内定をいただいた3日後というタイミングでした。一気に環境が激変したことにも戸惑っていますが、順番が逆にならなくて本当によかった。逆だったら、焦りや戸惑いが増幅されていたでしょうから。

■ということで

 わたしを取り巻く環境が大きく変わりましたので、コラムニスト業にも心機一転して取り組もうと思います。気長におつきあいいただければ幸いです。

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