@IT編集部の西村賢がRuby/Rails関連を中心に書いています。

“パッチモンスター”、RubyのなかださんもHeroku社員に!

»

 Salesforce.comの創業者でCEOであるマーク・ベニオフ氏は、Heroku買収に際してRuby開発コミュニティを支援していくと表明していましたが、その言葉には全く誇張がなかったようです。

Benioffmatz

 すでにRubyの生みの親である、まつもとゆきひろさんをHerokuがRubyチーフアーキテクトとして迎え入れたことは発表済みですが、もう1人、CRuby開発のキーパーソンの1人、なかだのぶよし(中田伸悦)さんも、すでに7月に入ってからセールスフォース日本法人の正社員として入社済みであることを、ご本人に確認しました。

 週末に行われたRubyKaigi 2011の基調講演の中でも、まつもとさんが、なかださんのHeroku入りを明らかにしました。スクリーンになかださんの写真が大写しにされると、会場からどっと拍手が沸き起こりました。

 懇親会でご本人にお話を伺ったところ、ありがとうと言われて悪い気はしないけど、自分のようなコミッタなんかに注目が集まるのっていいことなのかな……、と非常に謙虚な感想を漏らしていました。「ただ好きなことをやっててさ。そりゃ家族も食べさせていけて嬉しいけど、何だかね……」と、あくまで恐縮モードでした。

 CRuby界ではつとに著名ななかださんですが、一歩外へ出ると、ほとんど知られていないと思います。Ruby界にはまつもとさん以外にも“知られざるハッカー”が、たくさんいるのです。

まつもと氏を凌ぐ貢献数のパッチモンスター

 私が初めてなかださんにお会いしたのは、2年半ほど前。春の風が吹き抜ける隅田川沿いの桜の木の下でした。地域RubyコミュニティのAsakusa.rbのお花見に、グデングデンに酔っぱらい、気持よさそうに寝っ転がっているオジサンがいました。

 好奇心から初めてRuby関連コミュニティのイベントに参加しただけの私には、まさかその人が「パッチモンスター」の異名を取る凄腕ハッカーであるとは想像も付きませんでした。

 なかださんは、誰よりも多くのパッチ(Rubyのソースコードに対する改善)を量産し、Ruby開発コミュニティの中で知らぬ人がいないほどのRuby開発のコアメンバーの1人だったのです。遠藤侑介氏がプロットしているRubyへのコミット数のグラフによると、16年に及ぶRuby開発の中盤ぐらいから、なかださんのコミットがものすごい勢いで伸びていて、トータルのコミット数では、なんとまつもとさんを抜いてしまっていることが分かります。パッチモンスターと呼ばれるゆえんです。緑がまつもとさん、そして最近その緑を超えた赤い線が、なかださんのトータルのコミット数です。

Ranking

 以前こんなとがありました。

 Rubyの開発者数人がフェース・ツー・フェイスで技術的な議論をしていたときのことです。なかださんは、「きみらさ、パッチも見ずに、よくそんなことが議論ができるねー」と言いました。具体性がなくて空論だよというほどの批判ではなく、やんわりとした皮肉だったのだと思います。さっさとコードを書いて試してみろよ、という意味だったのだと思います。

Nakada_2
なかだのぶよし(中田伸悦)さん

 なかださんは、Ruby関連のミートアップにふらりとやってくると、かばんからにゅっと焼酎のビンを取り出すほどの酒豪です。この議論のときもプラスチックカップになみなみと注いだ焼酎をペットボトルのお茶で割りながら飲んでいたように思います。で、腕まくりをして30分ほど経ったときです。「ほら、こんな感じで書いてみたよ」と言ってパッチを1つ、作り終わっていました。知っている人は知っていることですが、「Rubyの半分は焼酎でできています」というのがあながち完全なジョークとも言い切れないのではないかと私は疑っています(なかださん、本当にお身体に気を付けて)

 なかださんは酒豪であると同時に、「さすらいのコミッタ」とでも言うべき人です。定職があって安定しているという感じではありません。腕をかわれてエンジニア色の強いベンチャー企業に勤めたり、研究プロジェクトに参加したりということはあっても、いずれも短期間。Ruby界隈では、冗談めかして「Rubyコミッタ兼主夫」などと言われがちです。バックパッカーのような身軽な出で立ちでミートアップに表れ、ネットカフェを目指して夜の街へ消えていく……。そして、どこからともなくパッチが大量にメーリングリストに投げられる。そんななかださんを見ていて、私は常々どうしてこのような人がもっと報われないのだろうか、と感じていました。Rubyは、Railsの普及もあって、それなりに大きな市場を支える技術となっています。そのRuby開発で最も生産的な人物の1人が主夫。

 そういうことですから、なかださんがセールスフォースへ正社員として迎えられたことは大変素晴らしいことだと思います。聞けば、これまで通りRubyの開発に尽力することが仕事であって、六本木の日本法人オフィスへ出社することとか、何か報告することなどという義務は、今のところないそうです。経済的にも十分に報われるという話です。Herokuは世界的にも有数のRubyのヘビーユーザーなので、何か技術的に困ったことがあれば相談しやすいパイプとなるということはあるかもしれませんし、それはまつもとさんやなかださんにとって、むしろ望ましいことなのでしょう。しかし、それによって紐付きになるという話でもないようです。事実上、これはHeroku(セールスフォース)によるOSSコミュニティへのお返しです。

 OSSコミュニティは、企業によるこうしたコミュニティ支援を、じっと目を凝らして見つめていると思います。ですから、これは援助側にとって良いマーケティングともなるでしょう。元々Rails開発者の多くはHerokuが好きだと思いますが、ますますHerokuが好きになることでしょう。さて、CRubyを支えるコア開発者のうち、まつもとさんとなかださんの2人がHerokuに参加した形ですが、今後もまだ少し、この流れが続きそうな気配です。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する