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IT人材に意識して欲しい7つのこと

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 ごぶさたしています。前回のコラムからかなり間が空いてしまいましたが、コラムを再開したいと思います。今後のコラムではもう少し定期的に投稿ができるよう、これまでよりもカジュアルな形の情報発信を心がけたいと思っています。

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■ IT人材に意識して欲しい7つのこと

 わたしはこれまで事業側、デリバリー側の双方でシステムエンジニア、コンサルタントとして従事し、昨年起業しました。現在の会社を含め、計5つの会社でいろいろな立場で仕事をしてきました。“会社や立場が変わって初めて見えること・分かること”はとても多く、自分の大切な資産となっています。

 今回はわたしがこれまでいろいろな方と仕事をしながら感じた中で、最近特にIT人材に意識して欲しいことを「IT人材に意識して欲しい7つのこと」というテーマでまとめてみました。

 1つ目は、「レスポンス(返事)の遅さは機会損失や信頼低下につながる」です。以前のコラムの中でも取り上げ、ここ数カ月の仕事の中でもあらためて強く感じたことの1つです。

 特に相手との信頼関係をこれから築いていく、という段階で、レスポンスの遅さは致命的です。実際に最近あったエピソードとしては、サービス内容自体は魅力的だったにもかかわらず、担当者のレスポンスの遅さがその会社に対する不信感となり、サービス利用を見送ったケースがありました。

 すでに信頼関係を構築している間柄でも、障害対応時やプロジェクトの要所など、“ここぞというときのレスポンスが遅い”と急激な信頼低下につながります。この感覚はクライアントと接する機会が多い人程あると思うのですが、クライアントとの接点が少ない人は、あまり意識をしていない傾向が見受けられるので注意が必要です。

 また、よく見受けられるのは“相手のことを考えてはいるが、レスポンスはしていない”というケースです。自分自身は相手のことを考えて一生懸命仕事をしているのですが、返事をなかなかしないために “レスポンスが遅い人”という印象を相手に与えてしまい、損をしている人は多い気がします。

 “結果を早く相手に見せる”ことも大切ですが、「自分が相手の立場だったらどう思うか?」を常に考えて相手に今どういう状態なのかを伝える(=レスポンスする)ことで“プロセスを見える化する”ことも同じくらい大切です

 2つ目は「“技術的に正しい=お客さまにとって最善”ではない」です。専門スキルばかりを中心にスキルアップをしていくと、どうしても傾向として「技術的に正しいからこうすべき」という発想になりがちです。わたしも過去を振り返るとそんな時期がありました。

 大抵のお客さまは「目的を達成するために最適な方法を選択してくれれば、技術は何でもいい」と思っています。ここでポイントになってくるのが、“最適な方法”という言葉に対するIT人材とお客さまとの解釈の違いです。具体例を挙げてみましょう。

  • IT人材の解釈(例):(技術的に)最適な方法、(論理的に)最適な方法
  • お客さまの解釈(例):(自社にとって)最適な方法、(コスト的に)最適な方法

 わたしが過去に経験したのは、ある技術者が“(技術的に)最適な方法”を選択してプロジェクトを進めた結果、不利益をもたらしてしまったケースです。お客さまの運用メンバーのスキルが不足していたために十分な運用ができない状況となりました。この場合の正しい選択肢は“(お客さまの運用メンバーにとって)最適な方法”でした。つまり、高度ではなく、枯れた技術でもよかったのです。

 わたしは技術や製品・サービスを選択するIT人材には、“その技術や製品・サービスを選択することでお客さま(または自社)にどのようなメリットがあるのかを説明する義務と責任がある”と思っています。また、お客さまにどのようなメリット/デメリットがあるのかを説明した上で、認識の齟齬がない形で合意形成できるコミュニケーション能力もあわせて必要だと思います。

 3つ目は、「能動的な行動や発言から、仕事や昇進の機会が生まれる」です。これはわたしがコンサルタントになって強く感じたことの1つです。

 コンサルタントの世界では能動的に行動ができない人、自らの強みを積極的に発信できない人は仕事になりません。ひとたび会議やミーティングに参加したら一番の下っ端であっても、何らかの発言をしましょう。そうしないと不要な人材と判断され、どんどん仕事をする機会が減ってしまいます。

 一方で積極的に発言をする人は、お客さまとの会議や社内ミーティングでの発言でどんどん新しい仕事や昇進の機会を得ていきます。もちろん、発言の内容や成果物の質も大事です。しかし、能動的に行動する人は多少アウトプットが不足していても、積極性を買われて登用されるケースの方が多いと感じます。

 わたし自身の経験を振り返っても、新しい仕事や昇進のきっかけとなったのは、ミーティングでの発言やお客さまや上司・同僚とのなにげない会話からでした。

 IT人材に限らず、実力を持ちながら控えめな人は多いと思いますが、控えめであることはキャリアアップをしていくという点では大きなリスクになるということも知っておきましょう。できることや考え方を積極的に情報発信することで、無駄なまわり道をすることなく新たなステージで仕事ができる可能性が高まります。それが会社や市場からみた人材価値を上げるのです。

 4つ目は、「専門領域以外のことに視野を広げて積極的に吸収する」です。これもわたしがコンサルタントになって強く感じたことの1つです。IT人材の場合は少なくとも30歳以降は専門スキル、ヒューマン系スキル、視点・考え方のバランスが偏っているとお客さまに対して本当の意味でいい仕事はできないですし、より上のステージやポジションに到達できないと思います。

 わたしの場合、エンジニア時代は技術スキルの習得や向上に没頭していたので、今思うと30歳くらいまではスキルバランスが偏っていました。転職してコンサルタントとして働き始めて自分のスキルバランスの悪さにがく然とし、そこからはそれまで欠けていたヒューマン系スキルや視点・考え方に重点をおいて、スキルアップに取り組んでいきました。

 結果、視野が大きく広がりました。都市計画の視点で情報システムのあるべき姿を考え、お客さまの課題に対してテクノロジーをどう活かすかという、現在の仕事のスタイルに大きく転換できました。

 また、異業種の著名人の話を数多く聞きに行ったことも、視野を広げるのに非常に役立ちました。自分とまったく関係のない業界の方の話を聞くのは非常に楽しく、“新たな気付き”や“自分が考えていたことの棚卸し”などにつながり、収穫は大きかったです。

 IT人材にとって、専門スキルの上昇はとても重要です。しかし専門スキルを最大限に活かすためには、ヒューマン系スキルや情報システムを利用するお客さまの考え方や視点、経営層やマネジメント層の考え方や視点、異業種の人達の考え方や視点なども、経験や年齢に応じて仕事の中に取り入れていくことが必要です(図1)。

図1:専門スキルを活かすために視野を広げる領域

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 5つ目は、「ステークホルダー視点、逆算思考で物事を考える」です。いろいろなプロジェクトを経験してきて感じるのは、ステークホルダー(利害関係者)の視点や逆算思考で物事を考えて行動する人が意外と少ない、ということです。

 プロジェクトは、さまざまなステークホルダーや自社のメンバーと一体になってゴールに向かっていくものなので、当然ながら相手に何か依頼をするときには、相手の視点に立って物事を考えることが求められるはずなのですが、「自分の都合 > 相手の都合」という優先順位でコミュニケーションを取っている人が非常に多い気がします。

 特に、スケジューリングや共同作業の事前確認などで、ギリギリにコミュニケーションを取ってくるケースがよく見受けられます。相手の立場、作業依頼内容に応じた常識的なリードタイム、全体スケジュールへの影響などを勘案する。そうすればおのずと相手に確認すべきタイミングや自分が仕事をしなければならないタイミングは分かると思うのですが、そこまで考えてコミュニケーションが取れる人は少ないように思います。

 ステークホルダー視点や逆算思考を仕事に取り入れることは、お客さまやステークホルダーとの良好な関係を築きます。また、自らも効率よく集中して仕事に取り組めるwin-winの関係を作り出します。

 6つ目は、「トラブルを回避するためのエビデンス(証拠)を残す」です。わたしがコンサルタントに転身して最初によく耳にしたのが、“エビデンス(証拠)は取ったか”というフレーズでした。

 わたしはIT系のプロジェクトを、リスクのかたまりのようなものだと思っています。さまざまな要求事項(要求リスク)、適用する技術(技術リスク)、体制・要員の質(要員リスク)、複数のステークホルダー(政治リスク)など常にリスク管理をしてプロジェクトを推進しなければ、期待されるQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)は実現できません。

 プロジェクトを進めていく中でよく耳にするのは「いった/いわない」、「そういう認識ではなかった」というフレーズで、これがプロジェクトのQCDに大きく影響します。特に大企業相手のプロジェクトの場合、ちょっとしたコミュニケーションのすれ違いでもプロジェクト全体への影響が甚大になります。

 そこで必要になるのが“エビデンス(証拠)を取る”ことです。電話ではなくメールや文書など記録として残る形で合意形成をしておくのは、非常に簡単なようでいて、忙しいとおろそかになりがち。そして証拠を残さなかったがために、後に大きなトラブルにつながることは、決して珍しくありません。

 「いった/いわない」という話になったときに“電話で確認した”、“口頭で確認した”というのは確認したことにはなりません。記録として残る形で合意形成をしておかなかったことに問題があると思います。

 “エビデンス(証拠)を取る”は基本的なことかもしれません。しかし労を惜しまずに徹底することでプロジェクトを認識の齟齬なく円滑に推進し、自社にとって余計な不利益を生まない、という大きな役割を果たします。

 7つ目は、「仕事のスタイルは常に進化・変化させる」です。仕事のスタイルは、一般的には、ポジションが変わる、職種が変わる、会社が変わることで変化します。しかし、環境の変化に委ねるという受動的なスタンスでは、中長期的に自分のやりたい仕事ができなくなるリスクがあります

 会社や市場では、年齢・経験に応じて想定している仕事のステージというものがあります。

 最初は「個人で成果を出す」というステージからスタートするので、専門スキルを中心にスキルアップをしていけば成果は出せますが、20代後半くらいから経験・実績に応じて活動領域や責任範囲が広がり出し、「チームで成果を出す」、「プロジェクトで成果を出す」、「部門で成果を出す」といったことを段階的に求められるようになります(図2)。

図2:仕事のステージ(例)

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 仕事のステージが変わると、要求されるスキルや評価基準も変化をしていきます。専門スキルよりもマネジメントスキルやビジネススキルの比重が高くなるので、必然的に仕事のスタイルの変化が求められます。このときにスキルバランスが偏りすぎていると大変苦労します。30代前半でコンサルタントに転身したときのわたしがまさにそうで、スキルバランスを適正化するのに1~2年かかった記憶があります。

 わたしには定期的に情報交換をしている人材コンサルタントがいるのですが、以前その方から「40歳でやりたい仕事は30歳から準備をしないと実現できない」とアドバイスを受けたことがあり、その後のキャリアプランを考える上でとても参考になりました。

 例えば、40歳で事業会社のCIOになるというゴール設定をすると、そこから逆算して35歳、30歳の段階でそれぞれ到達すべきポジションと経験・実績、籍を置くべき会社が明確になります。そうすると、次のステップにむけ、自分は今何をすべきかがより具体的に見えてきます。

 30歳以降、自分の目指す最終的なゴールへと到達する。そのためには、自分の描いた5年後、10年後のキャリアプランに対して今の状況はどうなのか、年齢・経験に応じた世の中の水準と比べて今の自分の市場価値はどの位置にあるのか、などを常に意識をしながら、仕事のスタイルを日々進化・変化させていくことが必要だと思います。

■まとめ

 今回はここ半年ほどの中であらためて感じたことを中心に、「IT人材に意識して欲しい7つのこと」をまとめてみました(図3)。

 今回まとめてみて感じたのは、いくら高い専門スキルがあってもそれを最大限に活かすためのヒューマン系スキルや視点・考え方が伴わなければ、ビジネスに貢献する情報システムの提供や、お客さまに満足いただけるサービスの提供は難しいということです。

 専門スキルと併せてヒューマン系スキルや視点・考え方を、年齢・経験相応にともにスキルアップしていくことが、“お客さまを感動させるIT人材”になるための早道なのだと感じました。

図3:IT人材に意識して欲しい7つのこと

C4_jobstage_2

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コメント

第3バイオリン

猪目さん

コラムニストの第3バイオリンです。

>専門領域以外のことに視野を広げて積極的に吸収する

少し前に「実務にすぐ役立たなくても、自分がやりたいことを勉強するか、
それとも、実務にすぐに役立つことを勉強すべきか」と、かなり悩んだ時期がありました。

もっと言ってしまえば「勉強したことは実務に必ず役立てなくてはならない」と思って
「じゃあ、勉強したことが役立たないようでは、勉強したことは無意味になるのか」と、身動きがとれない状態になってました。

今は「とにかくやりたいことを勉強しよう。実務に結びつくかどうかは後からついてくるだろう」という気持ちでいます。
猪目さんのコラムを読んで、今はその気持ちを持っていろいろなことを勉強していこうと決めました。

本当に一番いいのは、実務にすぐ役立つことと、自分がやりたいこと、
両方を勉強することですよね。なかなか思い通りにはいきませんが(苦笑)。

>「40歳でやりたい仕事は30歳から準備をしないと実現できない」
では、そろそろ準備を始めないといけませんね。
(一応、まだ20代ですが)

自分がこの先何になるのか、どういう心構えでエンジニアとして、またひとりの人間として生きていくのか、
それが決まるのは30歳前後だと私も思います。

今の私は、自分が何になるのか、とても楽しみです。

猪目大輔

第3バイオリンさん

コメントありがとうございます。
猪目です。

今回のコラムが多少なりともお役に立てたようで、とても嬉しいですね。

第3バイオリンさんはまだ20代とのことなので、色々なことを吸収して
いってほしいと思います。これは僕自身の経験からもはっきりと言える
ことですが、どんなにITからかけ離れた分野のことであっても吸収した
ことは必ずどこかで役に立ちます。

第3バイオリンさんが今後にむけて色々と吸収をしていく上で参考になりそう
なものとして、ロバート・カッツ教授の「カッツ曲線」が浮かびました。

「カッツ曲線」は組織の中で階層が上がるにつれて求められる能力の種類や
バランスが示されていて、5年後、10年後の自分の姿を考える上で1つの
参考にはなると思います。

あとは経営者やマネジメント層、さまざまな業界の第一人者と呼ばれる人達の
話を数多く聞く機会をつくることは確実に今後のプラスになるはずです。

僕の場合は一時期、慶応MCCの「夕学五十講」という定例講演会を聞きに行って
いましたが、さまざまな業界の第一人者の話はとても参考になりました。

第3バイオリンさんの5年後、10年後を楽しみにしています。

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