Day 3 サイバー判断力との出会い
Day 3 サイバー判断力との出会い
~Cyber Judgment~
ガートナーのリサーチをいつから使い始めたのか。
正確な時期はもう思い出せません。けれど、この業界で経験を重ねる中で、ガートナーは常に私にとって「信頼できる判断の羅針盤」のような存在でした。新しい製品やサービスの導入を検討する際、戦略的なプロジェクトを立ち上げる際には、必ずガートナーのリサーチを参照し、市場の動向やベストプラクティスを確認する。それが、いつしか私の仕事のリズムとなっていました。
また、ガートナー・カンファレンスにも定期的に参加し、世界の潮流や業界の進むべき方向性を肌で感じ取ることを心がけています。ガートナーは、テクノロジー、ビジネス戦略、そしてサイバーセキュリティ分野において最も権威のあるグローバルリサーチ&アドバイザリー企業の一つです。世界各国のリーダーや専門家が一堂に会し、未来を形づくるための貴重な知見を共有する場でもあります。
数年前、そんなガートナーのカンファレンスにロンドンで参加していた時、私の考え方を根底から変える一つの概念と出会いました。
それが「Cyber Judgment(サイバー判断力)」でした。
その瞬間、長年漠然と探し求めていた答えにようやく辿り着いたという実感がありました。単なる「セキュリティ意識の向上」という従来のアプローチを超えて、人間の本質的な能力そのものを強化するための具体的な道筋。それこそが、この「サイバー判断力」という概念の核心だったのです。
ガートナーの定義によれば、サイバー判断力とは、個人が自律的にサイバーリスクを評価し、その時々の状況に応じてリスクを適切に考慮した意思決定を行う能力のことです。
この能力は、私たちが日常的に行っている道路横断の判断プロセスに非常によく似ています。横断歩道に立つたびに、私たちは車の流れや交通状況を瞬時に観察し、「今この瞬間に渡ることが安全かどうか」を直感的に判断します。そして、このような判断を何度も繰り返すうちに、それは意識的な思考を必要としない「当然の感覚」として、習慣的な判断力へと昇華していくのです。

まさにこのプロセスこそが、サイバーセキュリティにおいても重要な意味を持つと私は思ったのです。
- 意識(Awareness)から理解(Understanding)へ、そして真の判断(Judgment)へ
- 単にルールに従う受動的な段階から、状況を的確に見極める批判的思考力への転換
- 画一的なコンプライアンス遵守から、個人の判断力に基づく安全文化の構築へ
ガートナーが提唱する「Cyber Judgment」は、まさにこのような根本的な変革を、私たち個人と組織の両レベルで実現するための包括的な概念なのです。教育で終わらせるのではなく、日々の現場で「自分で判断する力」を磨き続けること。サイバーの世界で本当に頼れるのは、結局のところ私たち自身の判断力なのだと、あの日私は深く確信しました。
※本コラムは、サイバーセキュリティにおける人間要素の限界と、新たなアプローチの必要性を問いかけるシリーズの第3回です。次回は"サイバー判断力"とはを探っていきます。
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Cyber Judgement
A few years ago, while attending a Gartner conference, I encountered a term that would reshape my entire perspective: "cyber judgment." The concept struck me immediately--this was the answer I had been searching for all along--a way to move beyond awareness and truly strengthen the human element in cybersecurity.
According to Gartner, cyber judgment is an individual's ability to autonomously assess cybersecurity risks and make context-aware, risk-informed decisions in their daily work. It's comparable to crossing a road: each time we cross, we assess the risk and decide whether it's safe. After countless repetitions, it becomes second nature.
The key is moving from awareness to understanding and then to judgement, rule-following to critical thinking, from compliance to judgment.
References
https://www.gartner.com