攻撃に対して「ハックされにくい人間」に

Day 1「ハックされにくい」人間を目指すということ

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サイバー判断力によるヒューマン・ハードニング

~「ハックされにくい」人間を目指して~

コラムシリーズ 概要

私たちはいま、テクノロジーなしでは生きられない時代を生きています。 けれども、その便利さの裏で、私たちの"人としての判断力"が、静かに試されています。AIや巧妙な攻撃が進化する中で、最も狙われやすいのは技術ではなく、人間そのものです。

では、どうすれば「ハックされにくい」人になれるのか?

その鍵となるのが、ガートナーが生み出したサイバー判断力(Cyber Judgment)という概念です。

このシリーズでは、「人間のサイバー判断力」を心理学・神経科学・行動科学の視点からひも解きながら、実際の生活や仕事の中で"強く・しなやかに・だまされにくく生きる力"を育てる方法を探っていきます。

【第1章:導入なぜ今、"人間"を強くするのか】

Day 1「ハックされにくい」人間を目指すということ

「ヒューマン・ハードニング(Human Hardening)と呼ばれる概念があります。この用語は、もともとITセキュリティの世界で使われる「システム・ハードニング(System Hardening)」から着想を得ています。システム・ハードニングとは、コンピュータシステムやネットワークから不要な機能を削除し、脆弱性を減らし、攻撃に対する防御力を高めるプロセスを指します。同様に、ヒューマン・ハードニングとは、人間という「システム」を攻撃から守るために、認知的・感情的・行動的な脆弱性を減らし、回復力、レジリエンスを高めることを意味します。

今日、AIは技術的脆弱性と人的脆弱性の両方を、かつてないほどの洗練度とスピードで悪用できるようになっています。生成AIは、数秒で自然な文章を作成し、特定の個人になりすましたメールを大量に送信できます。ディープフェイク技術は、実在する人物の声や顔を完璧に再現し、信頼できる人物からのメッセージだと錯覚させます。さらに、AIは膨大なデータから個人の行動パターンや心理的傾向を分析し、最も騙されやすい瞬間を狙って攻撃を仕掛けることさえ可能になっています。

では、このような急速に変化するデジタル世界において、私たちはどのように自分自身を守ることができるのでしょうか?

一つの答えは、防御のためにAIを活用することです。例えば、AIが新たな技術的脆弱性を悪用するマルウェアを作成できるなら、私たちもAIを使って、それらの脆弱性が悪用される前に検知し、対策を開発することができます。AIがディープフェイクを作成して人々を欺くことができるなら、私たちもAIを使って、そのような欺瞞を認識し対応するよう人々を訓練することができます。実際、AIを活用した脅威検知システムや、フィッシング対策ツール、ディープフェイク検出技術などは日々進化しています。

しかし、AIツールに頼る前に、基盤、つまり人間そのものを強化しなければなりません

どんなに優れたセキュリティツールも、それを使う人間が脆弱であれば意味がありません。警告を無視してしまう、焦って確認を怠る、「自分だけは大丈夫」と過信する。こうした人間の弱点は、技術だけでは解決できないのです。

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ヒューマン・ハードニングとは、人々を悪用されにくくすることを意味します。これは、人間を無敵の存在にするということではありません。私たちは感情を持ち、時には疲れ、ストレスを感じ、判断を誤る生き物です。しかし、簡単なターゲットにならないだけの回復力(レジリエンス)と意識(アウェアネス)を持つことは可能です。

それは、たとえば:

  • 緊急性を煽るメールに対して、一呼吸置いて確認する習慣
  • 感情的になっている時こそ、重要な判断を保留する知恵
  • 「これは本当に信頼できる情報か?」と立ち止まって考える思考習慣
  • 自分の認知バイアスや判断の癖を理解し、それを補正する力

人間を完全防弾にすることは決してできないかもしれませんが、精神的、感情的、行動的にハッキングされにくくすることはできます。それは、攻撃者が「このターゲットは手間がかかりすぎる」と諦めるほどの防御力を、私たち一人ひとりが身につけることを意味します。

このコラムシリーズでは、私たち自身をどのように強化できるのかを、具体的かつ実践的に探求し、議論し、提案していきたいと思います。

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Today, AI can exploit both technical and human vulnerabilities with unprecedented sophistication and speed. So, the question is, how can we protect ourselves in such a fast-paced digital world?

One answer is to leverage AI for defense. For example, if AI can write malware to exploit emerging technical vulnerabilities, we can also use AI to detect those vulnerabilities and develop countermeasures before they are exploited. If AI can create deepfakes to deceive people, we can also use AI to train individuals to recognize and respond to such deception.

But before we rely on AI tools, we must strengthen the foundation, humans themselves.

Human hardening means making people more difficult to exploit, not invulnerable, but resilient and aware enough to avoid becoming easy targets.

We may never make humans bulletproof, but we can make it harder to hack -- mentally, emotionally, and behaviorally.

In this new series, I want to explore, discuss and propose how we can harden ourselves?

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