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続・ビジネス文書の基本(河岸を変えた酒場の会話)

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ひげ先生:やあ、ぼー君、待っておったよ。

ぼー君:えっ!? 先生、まだいたんですか?

ひげ先生:おお。トイレに行っていたんじゃ。次に行こう。まだ話が残っておる。

ぼー君:(#さっき支払いの前にいなくなって、むかついた反面、このまま別れるのもいいかと思っていたのに)そ、そうですね。では、今度は日本酒ですかね。

....

ぼー君:ま、1杯。

ひげ先生:(キュー)いや、やはり酒は日本酒にかぎるな。きみもやらんか?

ぼー君:明日までに企画書を書かないといけないので、少しだけですよ(キュー)。

☆スペクトル法

ぼー君:さっき先生がおっしゃっていた、スペクトル法ってなんですか? 聞いたことがありません。

ひげ先生:そうだろう。わしも人に言うのは初めてじゃ。

ぼー君:そんな、でたらめ言わないでください。

ひげ先生:ま、そう言わないで。会社を辞めて暇なので、昔やっていた物理学を手がかりにして天文学をかじり始めたんじゃ。まず不思議だったのが、遠い恒星、少なくとも1.5億キロ以上離れていて実際にはサンプルが手に入らない恒星の構成成分が、なぜ分かるのかということじゃ。

ぼー君:そんなこと、ITとかビジネスには無関係じゃないですか。

ひげ先生:もちろんじゃ。しかし、物事をまじめに考えるのが重要という意味では、学問の世界もビジネスの世界も変わりはない。世の中をひっぱるエンジニアは、広く知識を求めるものじゃ。わしの場合は単なる興味にすぎないがな。

 そこで恒星の話だが、恒星から来た光のスペクトル、つまりどのような波長帯の電磁波がやってきているかを調べる。その情報と、既知の物質のスペクトルを比べて、一致するものがあるかどうかを調べるわけじゃ。すると、恒星本体や恒星大気の成分が分かる。

 この考え方を、文章を作成する前や、客先や上司の要望の取材・分析に応用する。

ぼー君:ふーん。

ひげ先生:客先は当然、当面やってほしいことを言う。この内容を分析して要求項目にするわけじゃ。これは、恒星の本体から来る明るいスペクトル成分に相当する。これを自分の既得の知識と比べて、このようなことを言っておるな、と書き留めるわけじゃ。

ぼー君:当たり前のことですね。

ひげ先生:そうじゃ。ここは基本的なことだが、おろそかにされている。

 次に客先が言わない成分も知る必要があろう。恒星で言うと、暗いスペクトル成分じゃ。なぜ暗いかと言うと、恒星大気によって吸収されて、こちらには届かないからじゃ。これは、客先にとっては「当たり前すぎて言う必要がないと思って口に出さない要求」にあたる。これらの情報は、推測や取材によって明るみに出す必要があるな。

ぼー君:なるほど。そういうことは現場ではよくある話ですね。

ひげ先生:スペクトル法では、もっと気を付けるべき点も指摘できるのじゃ。

 恒星から来る電磁波のスペクトルは、地球の大気に吸収されて一部しか地上には届かん。これは、無知なエンジニアが、客先からのさまざま情報に気付かないことに相当する。実はここがもっともやっかいな部分じゃろう。

ぼー君:経験を積ませればいいですよ。

ひげ先生:そのとおりだが、経験できない仕事をたくさんこなさなければならんのが、エンジニアと違うか。

 経験を積ませ、かつ未経験の仕事に直面したら全知全能を働かせて未知の恒星の挙動を知ろうと努力し、知りえた情報を分析して仮説を作って検証する。文章はそのための論理を組み立てる重要な武器じゃ。

ぼー君:うーむ。スペクトル法というのはそんな意味ですか。

☆レビュー法

ぼー君:そういえば、「レビュー法」というのもおっしゃってましたね。

ひげ先生:うむ。ちと酔ってきた。レビュー法とは要するに、いったん書いた文章をペルソナ(前回コラム参照)の立場で客観的に検証することじゃ。文章の良し悪しは、「てにをは」だけではなく、論理が通っているか否かに大きく左右される。ここのテクニックは『理科系の作文技術』(これも前回コラム参照)に詳しい。もう少し言うと、論理を上手に相手に飲み込ませるメタファーの吟味も重要じゃ。もう一杯飲もう(キュー)。

☆文章表現には心意気が重要

ぼー君:先生、もうべろんべろんじゃないですか。

ひげ先生:何を言うか。文章作成の要諦を言ってみよ。

ぼー君:えーと、「スペクトル」と「レビュー」と、そうそう、前の酒場でうかがった「ペルソナ」と「パラグラフ」ですね。

ひげ先生:お前よく覚えてたな。わしは思い出せなかった。

ぼー君:困りますね。

ひげ先生:それらも大事だがもっと重要なことがある。文章を書くエンジニアの心意気だ。文章にはそれを書く者の考え方が如実に現れる。客や上司は、それを敏感に感じるもんじゃ。嫌々ながら書いている文章には何の魅力もない。つまり、読んでもらえない。心意気があればそれは文章を通じて伝わる。メタファーだ論理だ表現だというのは皆手段にすぎん。お前に必要なのは社員教育にかける心意気じゃ。うーむ。ぐー。

ぼー君:あれ、先生! 困ったな、寝ちゃったよ。

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