ビジネス文書の基本(酒場の会話)
ぼー君:先生、しばらくです。暑いですね、お元気でしたか? まずは1杯。
ひげ先生:やあ、ありがとう(キュー)。生ビールがこたえられんね。
ぼー君:先生は定年でお辞めになる前は、わが社の社員教育をご担当でしたが、実は今月からわたしが教育を担当することになりました。
ひげ先生:(内心、こいつが担当とは世も末だと思いつつ)ああ、そうなのか、ぜひしっかりがんばってほしいな。直接のもうけにつながらないからと、教育予算を減らすといった未熟な経営がまかり通る世の中じゃからな。
ぼー君:先生相変わらずですね。ま、もう1杯いかがですか?
ひげ先生:(キュー)いやこたえられんね。
☆教育担当というお仕事とは?
ぼー君:教育担当ってなにをやればいいんでしょうか?
ひげ先生:そりゃもちろん、社員の教育の企画・開発・実施じゃな。
ぼー君:建て前ではなく、ぼくがどう振る舞えばいいかということですが。
ひげ先生:そりゃもちろん、社員の知識や技術のあるべき姿を考えて、足りないところを足してやればいいのじゃ。
ぼー君:そんなこと、わたしにできますかね? わたし自身足りないことだらけの人間ですよ。
ひげ先生:それが分かっているなら申し分ない。君の足りない部分をおぎなうようなことを考えればいい。
ぼー君:簡単にいいますね。うーん。教育の企画案を明日出さないといけないんですがどうしても書けないんです。
ひげ先生:ほー、それそれ。君の問題は「書けない」ことか。「書ける」ような研修をやればいいのじゃ。
☆書くこととは
ぼー君:そうですか? 書くことなんて小学生のころから作文でやってますけど。
ひげ先生:本当か?
ぼー君:じゃが(あー失礼しました先生の口癖が移ってしまった)、簡潔でありながら相手を説得できるような文章となるとなかなか書けませんね。
ひげ先生:そうだろう。なぜだか分かるか?
ぼー君:何とか頑張って、自分の言いたいことをまとめて書こうとするのですが、実際に相手に見せるとたいてい誤解されてしまいます。
ひげ先生:なるほど、問題は相手じゃな。自分の言いたいことを書こうとするのではなく、相手の読みたいことを書かないといけないな。
ぼー君:それはそうですが、なかなかうまくいきません。
☆ペルソナ法
ひげ先生:まず、読む人のことを知らないといけない。読む人の状況や要求や人となりを頭に入れて書くのじゃ。
ぼー君:なるほど、でも読み手のことが調べられないことや、読み手が不特定だったりすることがありますが……。l
ひげ先生:いいところをついておるな。そのためには「ペルソナ法」というのがある。
ぼー君:なんですか? それは。
ひげ先生:読む人をひとつ以上の類型(ペルソナ)と想定し、ペルソナの人となりや状況や要求を具体的に想定する。そうした上でペルソナに対して説得ができるような書き方をするのじゃ。
ぼー君:なんか面倒ですね。
ひげ先生:実際にやってみると簡単だし、その効果が大きいのでやる気になれるぞ。
ぼー君:そうですかね。実際に書いていこうとすると文章として意味が通らないことも多いですね。
☆「パラグラフ法」
ひげ先生:パラグラフ法というのがある。詳しくは木下是雄大先生の『理科系の作文技術』を読んでくれたまえ。
ぼー君:ぼくは文科系出身ですが。
ひげ先生:寝ぼけたことを言うのじゃない。そもそも文科系理科系という分け方をまかり通らせた日本の社会がまずいのじゃ。文学部出身でもすごいプログラム理論を作った先生もいるぞ。
ぼー君:まあ、まあ。それでパラグラフ法とはどういうことですか。
ひげ先生:われわれも作文を段落に分けるが、その段落が全体の論理を積み重ねる単位として有効に活用されているのが「パラグラフ」じゃ。パラグラフの最初の文は「主文」と呼ばれて、パラグラフ全体の主旨を述べているのじゃ。ほかにも「事実と意見を峻別せよ」とかすばらしい話が木下大先生の本には書かれておる。
ぼー君:そうですか。今度読んでみます。
ひげ先生:なんだと! お前の新人研修では、この本を教科書にしてわしが教えたのじゃ。忘れたのか。たわけもの。
ぼー君:へー、そうでしたか。すみません。そろそろお開きにしましょう。
ひげ先生:まだスペクトル法とかレビュー法とかたくさん話が残っておる。
ぼー君:それはまた今度うかがいます。おやすみなさい。